1.辞典関連
『英和工学辞典』(明治41年11月発行)が、土木工学分野では最初の用語辞典と言われておりますが、この中には、bedrock、rock bedという言葉が見当たらず、当然ながら岩盤という言葉もでてきておりません。
しかし、大正15年10月発行の同書第17版では、rockの項に、bed r.とあり、「床岩、岩磐」と訳語があります。(盤ではなく磐となっています)同書には、増補改訂第八版(大正5年6月)の緒言がついており、この中では、明治41年から5千語増やした、との記述があります。ただし奥付の発行年月を見ると、大正14年6月8日増補第16版発行となっており、このときに用語を増やした可能性もあり得ますので、上記の語が掲載されたのは大正5年から大正14年のいずれかの時期というところです。
また昭和5年10月には上記の改訂版として土木学会用語調査会編集のものが発行されており、こちらにはbedの項に、B. -rockとして、「岩盤」が掲載されています。
上記用語調査会では英独仏3ヶ国語及び定義を付けた2,170語の『土木工学用語集』を昭和11年11月に発行しておりますが、こちらでは、
「床岩(ショウガン)bed rock Grundfels roche(f) de fondation 基礎地盤を構成する岩石」
となっており、岩盤の言葉が消えています。
一方、日本工学会(土木学会他有力学協会が会員)では大正12年の常用漢字表、常用漢字略字表など日本語表記の簡易化の動きを受け、用語統一調査委員会を昭和6年に発足し、昭和8年に応用力学関係用語250語、昭和14年9月に3,793語を工学共通用語集として発表したとあります。
(この版は土木図書館には所蔵していないので確認ができません)
これを受けて土木学会用語調査常置委員会(昭和11年12月)では、上記を盛り込んだ『新英和工学辞典』を昭和16年6月に発行。これには「b. rock 床岩、基岩、基礎岩盤」との記載があります。
なお、昭和29年3月に『学術用語集 土木工学編』が文部省委嘱により土木学会から発行されています。
こちらでは、
rock-bed 岩盤
bed-rock 基岩、基礎岩盤
と分けて使われています。
2.岩盤分類関連
『岩盤分類とその適用』吉中龍之進他編著土木工学社刊(h1.7)によれば、「岩盤を工学的な特徴で観察し、工学的な用語で記載することが重要であるという認識は、トンネル工事の経験から生まれた。ある現場での貴重な経験を他の現場で活用するためには、岩盤の特徴付けが必要である。これが一定の体系をなして1940年代の中頃、岩盤分類の形式を整えた。トンネルに続いてコンクリートダムの大型化が進むとともに、ダム基礎の耐荷力を判定するための岩盤分類が1960年代の前半に生まれた」
(同書、第2章1節まえがき p9)
また、
「岩盤を工学的な見地から記載することが重要であることを説いたのは、偉大な地盤工学者のテルツァギ(karl Terzaghi, 1883-1963)である。彼は、アルプス地方の鉄道トンネル工事に参加した経験から、トンネル掘削や鋼製支保も設計には事前の地質調査、特に岩盤が持つ欠陥に関する情報を求める調査が重要であることを力説した。」
(同書、第2章2節岩盤分類のはじまり-1945~1960年の頃- p9)とあります。
3.トンネル関連
「土木100選」にある、トンネル関係の書籍を見てみると、
たとえば、
『高等土木工学第7巻 隧道工学』瀧山興s.6, p10に「岩盤磐」の文字が見え、『トンネル』平山復二郎s18, p11に「岩盤」の文字が見えます。
また、学会誌の検索で「田辺朔郎」で引くと、
例えば
海底隧道に関する報告 田辺 朔郎 5-6(T8.12) p1281-1293
http://61.199.33.80/Image_DB/report/05-06/05-6-11207.pdfのp129に「岩盤」の文字が見えます。
とりあえず、こちらで見た範囲ではこの程度ですが、『土木学会誌』の大正~昭和前期のトンネル関係の論文を追っかけてみると、当時の文献上での使われ方がわかるのではないでしょうか。
(上記のサイトに全文掲載しています)
また、明治期に関しては、まもなく、『工学会誌 土木編』(明治14~大正10)をアップしますので、こちらで見ていただけると、使われ方あるいは誰が最初に使ったか(訳したか)ということも検証できるかと思います。