会期:2016年8月11日(木)~9月25日(日)
古来より日本人は、万物に霊性を求め、「この世のものではないもの」を感じ取ろうとしてきました。それらは、生身の人間を超えた能力や異なる外見を持つものとされ、恐怖や畏怖(いふ)の対象として、さまざまな姿に描かれています。
伊藤晴雨(せいう)は、明治15年に浅草に生まれ、向島に育ち、本所で奉公人生活を送るうち、芝居小屋に出入りして看板絵描きとなりました。25歳で新聞社に入社し、講談や小説の挿絵、演劇評を担当して評判を得、挿絵画家として認められました。時代考証や風俗研究を行うかたわら、30代半ば頃から責め絵を描くようになると、その名は一気に広まり、昭和36年に78歳で没するまで多様な制作を続けました。
本展で展示する伊藤晴雨が描いた幽霊画は、落語家五代目柳家小さん(1915-2002)の手元に残された画幅です。山岡鉄舟ゆかりの禅寺で三遊亭圓朝の幽霊画コレクションでも名高い谷中・全生庵(ぜんしょうあん)に寄贈され、五代目柳家小さんコレクションと呼ばれています。歌舞伎や落語でおなじみの怪談の一場面、よく知られた妖怪などが、のびやかな線で描かれており、舞台芸術や演芸界とも関わりの深かった晴雨ならではの作品です。同時に、「この世のものではないもの」を描くことによって成し得た、晴雨の芸術的世界観の現れとも言えるでしょう。
職業画家として研鑽を積み、多種多様の作品を手がけた伊藤晴雨は、「最後の浮世絵師」と称されることもあります。物語の一瞬を切り取り、時代背景まで忠実に描き出そうとした晴雨。本展では、五代目柳家小さんコレクション幽霊画幅を中心に、緻密な時代考証研究による江戸風俗図などを展示し、その観察眼と筆力に迫ります。
また、特設コーナー「幽霊が美しい―スタジオジブリ鈴木敏夫の眼―」では、柳家小さんコレクションの複製画を、和室をイメージした空間に展示(三幅ずつ/途中展示替えあり)。スタジオジブリ鈴木プロデューサーによるコメントもお楽しみいただけます。
http://www.edo-tokyo-museum.or.jp/s-exhibition/project/11852/%e4%bc%8a%e8%97%a4%e6%99%b4%e9%9b%a8-%e5%b9%bd%e9%9c%8a%e7%94%bb/(最終アクセス日:2020年3月13日)