レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2012/04/04
- 登録日時
- 2012/06/16 02:00
- 更新日時
- 2012/09/12 14:34
- 管理番号
- 6000007502
- 質問
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解決
明治中ごろに嫁いできた女性の持ち物の中から春画が見つかった。嫁入りする女性に持たせるような習慣があったのか、参考になるような資料はないか。(葉書大やマッチ箱大の錦絵を持参)
- 回答
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林美一『艶本江戸文学史』p47(有光書房)に『好色花すゝき』(1705年)からの引用として、「それ枕繒は、よめいりのとき第一の御道具也、男にてももたでかなはぬ物なり、其いわれをたづぬるに人の心をよろこばしむるゆへなるとかや」を含む奥書の文章を掲げたうえで、「これは此の種の出版物が性生活の手引書として、めでたい婚礼の贈物などに使用されていたことを明らかに語っている。つまり啓蒙的な日常必需品としての性格が強かった」と述べられている。
またアンドリュー・ガーストル『江戸をんなの春画本』(平凡社)は、序章「婚礼道具としての春画」で『川柳春画史』や『江戸の性風俗』を引きながら、春画の嫁入り道具としての側面を論じている。
上記図書とあわせて、春画の多様な側面について述べている以下の資料を紹介して、区切りとした。(おもに江戸期の文化について論じている図書)
*タイモン・スクリーチ『春画』(講談社)は第1章で例をひきつつ、春画≠ポルノグラフィ論への反論を試みている。
- 回答プロセス
- 事前調査事項
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『時代風俗考証事典』(河出書房新社)
「江戸城大奥」(p326)「婚礼」「好色本禁令」等の章で春画、枕絵、性具等に触れられているが、嫁入り道具として用いられたとは書かれていない。
『江戸学事典』(弘文堂)
「吉原と岡場所」の章で「春本」と「枕絵」の項が立てられている。
代表的な作例や禁止の様子、作者と隠号などについて解説あり。春画の嫁入り道具への言及なし
- NDC
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- 社会.家庭生活の習俗 (384 9版)
- 日本画 (721 9版)
- 参考資料
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- 『ひらがな日本美術史』6 橋本 治/著 (新潮社)
- 『恋する春画』 橋本 治/著 (新潮社)
- 『「愛」と「性」の文化史』 佐伯 順子/著 (角川学芸出版)
- 『春画の謎を解く』 白倉 敬彦/著 (洋泉社)
- 『春画』 タイモン・スクリーチ/著 (講談社)
- 『時代風俗考証事典』 林 美一/著 (河出書房新社)
- 『艶本江戸文学史』 林 美一/著
- 『江戸幻想批判』 小谷野 敦/著 (新曜社)
- 『江戸の性愛学』 福田 和彦/著 (河出書房新社)
- 『日本人の歴史』4 樋口 清之/著 (講談社)
- キーワード
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- 春画
- 春本
- 枕絵
- 浮世絵
- 日本画
- 嫁入り
- 嫁入り道具
- 絵画
- 美術
- 風俗
- 照会先
- 寄与者
- 備考
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『日本人の歴史 性と日本人』(講談社)p102 「嫁入道具の春画」
「春画を、俗に嫁入枕といって、性の教科書として嫁入道具の一つにしたともいわれる。しかし、それはあくまでも後の説明である。/本来の意味は、嫁入道具を浄化するために春画をもっていったのである。先に述べた、武器・利器といっしょに性画が箱に入れられたのと同じ意味である。決して、性の教科書としてもっていったわけではない。」
『春画』(講談社)p38
「厖大な数の春画を見ても、別に気持ちいいセックス、安全なセックスの要領を学びとれなどしない。江戸時代には性の技法や衛生のことを教える指南書があったが、これらと浮世絵は全然ちがう。/浮世絵はひたすら空想と欲望を掻き立てようとはしても、何かをごたごた説明などしない。教育的うんぬんという主張は真っ赤なウソだと私は思う。男が絵を持ったり買ったりする時に使う口実が、子供の教育のためということである。家庭の妻は一家の安全を保つためとか何とか言う。戦場の武士は主君のために戦う時の傷の防止のためと言う。/こうした口実は幾世代も繰り返し唱えられていくうちに、何となくそれで通り始めたのである。春画は自慰のためのものというはっきりした事実を何とか糊塗しようとした骨折りとしか思えない。」
『江戸の性風俗』(講談社)p65
「より豊かな性生活を享受するためのテキストとして、あるいは“オナニーの友”として大いに活用されていた江戸時代の春画ですが、このほか春画は(すでにご承知の方もいらっしゃるはず)嫁入り道具としても用いられました。(中略)中国では、春画を嫁入り道具として新婦に与え性生活の手ほどきをする慣習はすでに漢の時代に成立していたとか。中国は性文化においても、まぎれもなく日本の先輩格なのです。」
『江戸をんなの春画本』(平凡社)p25
「実際に春画がどの程度嫁入り道具に入れられたか、具体的な数字を知るのは難しい。『忠臣蔵』の長持の場面のように、位の高い女性が春画を持つことには、少々の恥じらいはあったに違いなかろうが、氏家幹人氏が諸種の文献を引いて実証しておられるように、春画が江戸時代の日本人の日常生活に広く浸透していたことは確かである。三田村鳶魚(一八七〇-一九五二)も、武家の息女の嫁入り道具には春画は必ず含まれる類のものだと『阿武奈絵』に書いている。先述の早川氏宛の高齢の女性からの手紙も含め、明治・大正生まれの人々にはまだ実際の経験や記憶があったようである。」
高橋克彦『浮世絵博覧会』(角川書店)p241
終章「明治のエロス 折帖*十二図 初桜」にて明治の春画、おもに章題の作品について論じている。が、嫁入り道具としての検討は含まない。
『故事類苑 文学部』2 (吉川弘文館)p929
『梅園日記』からの記事として「武家俗説辨、鎧色談附録等に、春畫を具足櫃にいれ置事の論あり、愼言若かりし頃には、衣櫃のうちにもいれ置ものありき、但これはもろこしにもするわざ也」とある。
『春画の謎を解く』(洋泉社)p15
「こうした初期の春画絵巻は、性を題材としているが、それを目的としたものではなく、笑いや遊びのために性を利用したに過ぎない。それが変化して、『勝絵』になったり、『縁起物』になったりしただけで、春画における当初からの遊戯性は、その後も根強く残ったものと思われる。江戸末期において最もポピュラーな春画の呼び名が、『笑絵』にあったことの根拠が、そこいらにあったことは明らかだ。」
『「愛」と「性」の文化史』(角川書店)p11
「春画の表現の背後に、もし、笑いとエロスとの宗教的融合という発想があるとしたら、春画が『笑い絵』と呼ばれ、合戦の勝利を祈るまじないや、衣装がたまると信じられて、具足櫃や女性の長持に入れられたことの理由も読み解ける。」
同書p19
「性器を露わにしたあからさまな交合の描写は、安産や、それにつながる生理的な機能の安定を切実に願う女性たちにとって、性的な欲望の喚起や処理という目的のみならず、呪的な、スピリチュアルな需要動機を確かに満たしていたのである。」
『浮世絵入門 恋する春画』(新潮社)p36
「そもそも春画は嫁入り道具でもあった。今でも旧家の蔵から見事な作品が発見されることがありますよ。お守りとした側面もありました。蔵に置いておくと類焼しないと信じられていた。さらに『勝絵』とも呼ばれ、江戸以前から武士は鎧櫃の中に収めていました。戦士を免れる、と。実際、日露戦争までは戦場に春画を持っていったという記録も残っています。」
『ひらがな日本美術史6』(新潮社)p62
「江戸時代のポルノは、別に男のためだけのものではない。『ワじるし』は嫁入り道具の一つでもあった。それが『嫁入り道具』であっても、別にポルノは性欲を肯定しない。かつては、結婚の多くが『親の決めた結婚』で、『結婚前は相手の男のことなんかろくに知らない』で結婚する女が大勢いた――だから、結婚の前には、どこかでセックスを教えなければならない。それを拒んだら結婚そのものが成り立たない――『結婚後には存在し、結婚前には存在しないものだから、結婚の時に教科書を持たされる』は、結婚前の娘における性の抑圧でもあるだろう。」
『江戸の性愛学』(河出書房新社)p229
「昔の若い娘たちは親から枕絵などを見せられて初夜の戸惑いはなかったし、閨の心得方も熟知していた。現代でも婦人雑誌などがポルノ雑誌なみに、さまざまに性教育しているから、こと性愛術には無知ではない。しかし、いくら親でも閨の心得として睦言までも教えてくれない。」
- 調査種別
- 事実調査
- 内容種別
- その他
- 質問者区分
- 一般
- 登録番号
- 1000107262