レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2019年05月28日
- 登録日時
- 2019/12/22 17:47
- 更新日時
- 2020/01/12 11:29
- 管理番号
- 神戸図–1509
- 質問
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さらし首の台に、センダンの木が使われているのはなぜか。
- 回答
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さらし首の台、とは「獄門台」(さらし首を載せておく台)のことか。
獄門台の規定を見ると材料は栂(ツガ)材となっているので、センダンは使用されていない可能性がある。
しかし、『平家物語』に見られるようにセンダンの木に罪人の首をかけてさらしていた時代もある。
その理由としては、①獄舎や処刑場の横にセンダンが植えられていたこと、②(中世以降)センダンが「不浄の木」「悪木」であると見なされたこと、③インドや中国などで邪気を祓う木とされていたこと、が考えられる。
以上から、センダンに「梟首(きょうしゅ)の木」というイメージがついたのではないかと推測される。
- 回答プロセス
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所蔵資料で「センダン」について調査すると、古くは「アフチ」「オウチ」とも呼ばれていた。
『図説花と樹の事典』p252「センダン 栴檀・楝」
古くから日本でも馴染みのある木で、古名はアフチ。『万葉集』にも楝について詠んだ歌が多くある。
平安時代には5月5日の節句にショウブなどと飾られたことが書かれている。ただし、中世以降は「不浄の木」と見なされるようになるとも。
『平家物語』では源義朝などの首をかけてさらしたとの記述があり、江戸時代には処刑場の周囲に植えられたこともある。「棺桶の木」などと呼ぶ地方もあり、火葬用の薪や棺桶材に使われた。
「栴檀は双葉より馨し」のセンダンは、今でいう白檀(ビャクダン)のこと。
『南方熊楠全集 第6巻 新聞随筆・未発表手稿』p276〜「紀州田辺湾の生物」
p291<(略)上にも述べた通り、只今楝(俗にいうセンダン)の花盛りだ。本邦で古く、この木に罪人を梟首した。『平家物語』に、源義朝、鎌田政家の首を左の獄門の楝の木に懸けた、とあり。西洋で霊木またはインドの誇り(ホリー・トリーまたプライド・オヴ・インジア)と唱えて翫賞さるるに反し、あまり好遇されない。(略)それから工夫して梟首の霊があばれぬよう、この木でしずめたらしい。>
インドや中国では悪いものを遠ざけ、悪霊を静める木であるとされていたことが書かれている。
『日本行刑史』p336~「三 樗と棘」
平安時代、京都の左右獄にはオウチの木があり、重罪人の首をその枝にかけてさらしたことから、梟首(きょうしゅ)を獄門というとの記述あり。
<悪木という意味から、木惡(木偏に惡)とかいてアフチとも訓む。>と書かれているが、なぜオウチが獄門の横に植えられたのかは悪木であると考えられていたからではないか、という推測のみ。
『世界大百科事典』「センダン」
「木惡(木偏に惡・あて)の木」とも呼ばれ、梟首に使用された木である。その理由までは説明がないが、木に悪い意味があること、また一方では邪気を祓う木であると考えられていたことなどが書かれている。
後日調査より
『植物ことわざ事典』p290「センダン…栴檀 オウチ…楝」
<古代の和歌などには、あふちの名で登場するが、江戸時代には「和の栴檀」とよばれるようになり、それ以後はセンダンの名がひろく通用している。>
「獄門の木」の項に、『平家物語』の他、『日本行刑史』にもオウチの木に首をさらしたことが書かれているという記述あり。
建築材料や仏像に使われることもあったとされ、美しい花を歌に詠まれる時代もあった。
『日本行刑史』p140〜
「獄門」についての説明・図あり。
<首を晒す台は、高さ六尺、四寸角の栂材四本にて支え(省略)>とある。
『拷問刑罰史』p137〜 「獄門」について説明・図あり。
<牢屋敷のあうち製の門に梟首した時代を経て、江戸時代中末期になると「獄門」さらし首の場所は、品川鈴ヶ森か、千住小塚原に定められた。>
ここでもセンダン(アフチ)が出てくる。
p139「獄門台」より、獄門台の材料は栂(ツガ)材であることがわかる。
なお、「獄門台」の説明や図については、『徳川幕府刑事図譜本編 完全復刻版』でも見ることができる。
『樹木の名前 山渓名前図鑑』p286「センダン 別名/オウチ」
その語源は、藤に似た花が咲くことから「アオグフジ(仰藤)」「アワフジ(淡藤)」の意味があるという説がある。
また、5月5日頃に必ず咲く花であることから、「アウチ(逢時)」の意味であるという説もある。
<漢名を「楝(レン)」といい、インドや中国では邪気を祓う霊木とされたためか、中世より獄門台の木とされる。>との解説あり。
『広辞苑 第七版 あ〜そ』「せんだん:栴檀」
②に、<古く獄門のさらし首の木に使われた。>との一文あり。
『植物和名の語源』p88「センダン」
センダンとビャクダンの違い、オウチ・アフチと言われていた頃の説明と、なぜ獄門に使われるようになったのかのいくつかの説が書かれている。
その中で著者は、オウチに邪気を祓う力があると信じられており、罪人の汚れを祓い除くために使ったと解釈するのが妥当であると述べている。
- 事前調査事項
- NDC
- 参考資料
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『図説花と樹の事典』木村陽二郎 監修 , 植物文化研究会, 雅麗 編 柏書房, 2005.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000007737222-00 , ISBN 4760126589 (当館ID PV:7100015546 当館請求記号 4703=N5=) - 『日本行刑史』瀧川政次郎著 青蛙房, 1961.5. (当館ID PV:0000203640 当館請求記号 3222=32=)
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『植物ことわざ事典』足田輝一 編 東京堂出版, 1995.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002480014-00 , ISBN 4490103948 (当館ID PV:6000117889 当館請求記号 4704=M5=) -
『拷問刑罰史 改訂新版』名和弓雄 著 雄山閣, 2012.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I023630498-00 , ISBN 9784639022381 (当館ID PV:7200246343 当館請求記号 3221=P2=) -
『樹木の名前」高橋勝雄, 長野伸江, 茂木透, 松見勝弥 著 , 石井誠治 監修 山と溪谷社, 2018
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I028804873-00 , ISBN 9784635070409 (当館ID PV:7200564162 当館請求記号 653=P8=) -
『徳川幕府刑事図譜本編 : 完全復刻版』 書誌研究会, 1972.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I043705402-00 (当館ID PV:0000274466 当館請求記号 3282=57=) - 『広辞苑 第七版 あ〜そ』新村出編 岩波書店, 2018.1. (当館ID PV:7200560444 当館請求記号 813=N8=1)
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『植物和名の語源』深津正 著 八坂書房, 1989.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002006542-00 , ISBN 4896945840 (当館ID PV:0005095960 当館請求記号 4703=L9=) - 『世界大百科事典 2011年改訂新版 16 セム–タイシ』. 平凡社, 2011.6. (当館ID PV:7200218625 当館請求記号 031=P1=16)
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『図説花と樹の事典』木村陽二郎 監修 , 植物文化研究会, 雅麗 編 柏書房, 2005.
- キーワード
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- さらし首・梟首・きょうしゅ
- 獄門
- 栴檀・センダン
- アフチ・オウチ
- 獄門台
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 事実調査 書誌的事項調査
- 内容種別
- 質問者区分
- 登録番号
- 1000271169