レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2010/08/18
- 登録日時
- 2010/08/19 02:00
- 更新日時
- 2022/12/22 15:12
- 提供館
- 京都市図書館 (2210023)
- 管理番号
- 右中-郷土-25
- 質問
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解決
京都の地蔵盆で飾る赤と白の提灯の意味と由来を知りたい。
- 回答
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赤と白の提灯には,地蔵尊と子どもの名を書き入れることによって両者の縁を結ぶという意味があるようです。提灯の色は昔は区別がなかったものが,近年は女子は赤,男子は白にすることが多くなっています。
その提灯に火を灯して飾る行為の由来は,愛宕火の一種という説と,六地蔵信仰に起因しているという説があります。
愛宕火と地蔵盆の関連については【資料8】に詳しく,愛宕信仰と地蔵信仰の習合により,火の神である愛宕大権現に献じる愛宕火を地蔵尊に献じているのではないかと述べています。
六地蔵信仰との関連は【資料5】に示唆されているものの,それを裏付ける資料は見付かりませんでした。
- 回答プロセス
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●年中行事の本に地蔵盆は紹介されているが,提灯の由来までは載っていない。
【資料1】“京の地蔵盆”の項目あり
地蔵盆は子どもの守護仏としての地蔵菩薩に対する信仰に基いている。
●京都の風習から
【資料2】“地蔵盆用提灯”の項目で意味と様式の説明がある。以下引用。
意味…この提灯は“自灯”,“法灯”といって,一つは子供のために,一つはお地蔵様に掲げる。この二つの提灯が子供とお地蔵様との架け橋となり,願い事を叶えてくださると昔より言い伝えられてきた。
様式…一対(二つ)の提灯それぞれに,一人の子どもの姓名を書き入れる。宇治や城陽地方では“南無地蔵大菩薩”と記したものを使用し,京都市内では西陣や上賀茂地域などの一部をのぞいて,“延命地蔵大菩薩”と記したものを使用。ただし“南無地蔵大菩薩”と記したものはどのお地蔵様に掲げてもよい。
提灯の色…色は白(幕)と赤との二種類があり,本来は決まったものではないが,男の子は白(幕),女の子は赤にすることが多くなってきた。町内会によっては一種類の提灯で統一されているところもある。
【資料3】提灯に書かれた仏の名について解説している。
・天道大日如来→大日様に掲げる
・延命地蔵大菩薩→延命地蔵に掲げる
・南無→信仰しているの意
●地蔵から
【資料4】“盆と地蔵盆-京都の民俗宗教”の章で,提灯のことではないが,地蔵盆の地蔵仏と子どもを結びつける役割について述べている。
・京都市中では地蔵が産土神的な機能を果たしており,住民は信仰の共同を通じて共同体的一体感を抱くとともに,この仏(菩薩)との結縁を意識する。
・地蔵信仰の内実はもともと子どもの守護神(仏)としての要素が濃厚であるが,地蔵盆すなわち地蔵祭りにおいてその性質がいっそう鮮明に浮かび上がる。子どもが生まれると涎掛けを奉納するのも結縁にほかならず,また,涎掛けの奉納という行為は産土神の場合の氏子入りに相当し,新生児の地域社会参加の承認という機能をも帯びている。
●google書籍検索より【資料5】がヒット。
【資料5】地蔵盆の行事において男の児が生まれたときには白い提灯,女の児が生まれたときには赤い提灯を飾る習俗が六地蔵めぐりに起因すると述べる。
●六地蔵めぐりとは8月22,23日の両日に京都の大善寺・浄禅寺・桂の地蔵寺・源光寺・上善寺・徳林庵の六ヵ寺の地蔵尊を巡る行事。各寺院及び六地蔵めぐりに関する文献を調査したが,地蔵盆と関連した記述は発見できなかった。
●仏教の本から
【資料6】愛宕火と地蔵盆の提灯が関係しているという説を紹介。
愛宕の本地仏たる地蔵の縁日の7月24日に験競べ等が行われ,それが地蔵盆として残ったのでは。地方には24日の裏盆に愛宕火をともす所が少なくないし,地蔵盆につきものの提灯も愛宕火であるかもしれない。
●愛宕火について調べる
【資料7】“愛宕信仰”の項目あり。
愛宕信仰は京都市右京区の愛宕山に鎮座する愛宕神社の愛宕神に対する信仰。
愛宕神は火神釈迦倶槌(かぐつち)で元来防火神として崇められていたものに,室町後期には本地仏を勝軍地蔵として愛宕大権現と称し,軍神としての性格も加わった。
【資料8】愛宕火とは愛宕山に火を捧げる行事,もしくはその火自体をいう。
近世期において火の神である愛宕大権現の信仰とその本地仏である勝軍地蔵尊の火防せの信仰が表裏一体で流布され,愛宕信仰と地蔵信仰の習合によって,愛宕火を地蔵尊に捧げるようになった。
地蔵菩薩を祀るための「地蔵祭」が,盆行事の中に吸収されたのが「地蔵盆」である。
p139~146“但馬地方の愛宕火・万灯一覧表”には地蔵堂の前で松明を燃やしたり,地蔵盆に松明を燃やす行事が多く紹介されている。
●古い地蔵盆の記録をみる
【資料9】滝沢馬琴の『羇旅漫録』に“地蔵まつり”として紹介されている。以下引用。
「七月廿二日より廿四日にいたり,京の町々地蔵祭あり。一町一組,家主・年寄の家に幕を張り,地蔵菩薩を安置し,いろいろの備へものをかざり,前には灯明挑灯を出し,家の前には手すりをつけ,仏像の前に通夜して酒もりあそべり~」
⇒『羇旅漫録』は1802年5月~8月にかけての旅の記録なので,確かに江戸時代は「地蔵まつり」と呼んでいたらしい。また,ここでの灯明挑灯(提灯)が現在のものと同じかは分からない。
- 事前調査事項
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京都の地蔵盆は毎年8月23日と24日(近年は日時を土日にずらしたり,一日だけに短縮することも多い)に営まれる,お地蔵様を祀る子どもの夏祭りです。
赤と白の提灯とは,地蔵盆会場の天井や出入口に飾られるもので,たいていは地蔵菩薩の名と町内の子どもの姓名が書き込まれています。
- NDC
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- 仏会 (186 8版)
- 日本 (291 8版)
- 通過儀礼.冠婚葬祭 (385 8版)
- 参考資料
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- 【資料1】『京都滋賀子どもの祭り』 (京都新聞社 1984)p170~175
- 【資料2】『京の儀式作法書 改訂版』 (岩上力著 光村推古書院 2006)p281~282“地蔵盆用提灯”
- 【資料3】『京のならわし』 (岩上力著 光村推古書院 2009)p243
- 【資料4】『地蔵の世界』 (石川純一郎著 時事通信社 1995)p186
- 【資料5】『京都ともある記』 (鈴木曽雄著 文芸社 2003)p259
- 【資料6】『仏教行事散策』 (中村元編著 東京書籍 1989)p217,218
- 【資料7】『京都大事典』 (淡交社 1984)p16~17“愛宕信仰”
- 【資料8】『京都愛宕山と火伏せの祈り』 (八木透編 昭和堂 2006)
- 【資料9】『史料京都見聞記 第2巻』 (法蔵館 1991)p426~427“地蔵まつり”
- キーワード
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- 仏教行事
- 年中行事
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 郷土
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000070166