レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2020/10/21
- 登録日時
- 2020/12/12 00:30
- 更新日時
- 2020/12/12 00:30
- 管理番号
- 6001046911
- 質問
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解決
関西弁を話す人物が登場する海外翻訳小説を探している。翻訳者が関西弁を使用した理由などもできれば知りたい。
- 回答
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役割語についての資料や翻訳者のエッセイ、web情報を調査。
関西弁と思しき言葉遣いで描かれた人物が登場する小説として次の資料を紹介。
■登場人物の性格を表すため使用
・『ザ・スタンド 上』(スティーヴン・キング/著 深町真理子/訳 文芸春秋 2000.11)
第二部 p722から登場するギャング<ザ・キッド>のセリフが関西弁で書かれている。
文藝春秋サイト2004年8月20日付、文庫版『ザ・スタンド5』「書評」のコーナーで、翻訳者の深町真理子が「王様(キング)と私」という一文を寄せており、作者のキングの思い入れのある<ザ・キッド>という人物の部分の訳に力を入れたとして、「翻訳の小説としてはきわめて異例のことながら、この人物には関西弁ないし河内弁を使わせることにした。正統の河内弁になっているかどうかはさておき(なにぶん私、根っからの東京人なので)、この人物の持つ雰囲気はある程度出せたのではないかと思っている。」と書いている。(2020/10/21現在)
https://books.bunshun.jp/articles/-/3369
・「ストライキ手当」(『ロレンス短篇集(ちくま文庫)』(D.H.ロレンス/著 井上義夫/編訳 筑摩書房 2010.11)所収)
「ストライキ手当」に登場する炭坑夫たちのセリフを関西弁風に訳出している。訳者解説では特に理由などの言及はなし。
・イアン・ワトスン著 大森望訳「大商い」『SFマガジン』30(8)<380>(早川書房 1989.7)p44-49
上記短篇では、登場するエイリアン商人が関西弁を話している。この件について翻訳者の大森望は自著の中で次のように言及している。
・『特盛!SF翻訳講座 : 翻訳のウラ技、業界のウラ話』(大森望/著 研究社 2006.3)
一の巻翻訳入門 1小説の翻訳「きほんのき」の「演出家としての翻訳者」の項(p9-12)において、会話の訳し方や役割語について書いている中で、上記「大商い」について次のように述べている。「・・・イアン・ワトスンの楽屋オチお笑いSF短篇、「大商い」を訳したとき、宇宙を股にかける商売人エイリアンのセリフを全部関西弁にしたことがある。原文は全然ナマってないんだけど、モノがモノなので、とにかく面白くなればいいだろうという判断。ふつうの翻訳としては明らかにやりすぎで、不真面目のそしりを免れないが、言ってみればこれも「役割語」の積極的な導入例。真面目な小説なら許されないことも、もとが冗談小説なら許される(かもしれない)ってことです。」
■言葉の違いの表現のため使用
・『残念な日々 (CREST BOOKS)』(ディミトリ・フェルフルスト/著 長山さき/訳 新潮社 2012.2)
ベルギーの小説。フランダースの小さな村が舞台となっており、訳者あとがきのp246に「翻訳にあたっては、村の方言として書かれた部分を標準語での会話と訳し分ける必要があったため、訳者にとってもっともなじみ深い関西地方の方言を控えめに用い、標準語と対照する架空の方言として訳出したことをお断りしておく。」とある。翻訳者は神戸出身。
・『さゆり 上』(アーサー・ゴールデン/著 小川高義/訳 文芸春秋 1999.11)
・『さゆり 下』(アーサー・ゴールデン/著 小川高義/訳 文芸春秋 1999.11)
元芸妓だった女性が、晩年、アメリカで知り合った歴史家を聞き役に、祇園で生きた前半生を語るという趣向の小説で、芸妓のセリフ等が京ことばで訳出されている。この作品の翻訳の詳細については次の資料に詳しい。
・『翻訳の秘密 : 翻訳小説を「書く」ために』(小川高義/著 研究社 2009.4)
・『惑郷の人(台湾文学セレクション)』(郭強生/著 西村正男/訳 あるむ 2018.11)
翻訳ミステリー大賞を脇から支援する目的で、書評家、編集者、翻訳者の有志によって起ち上げられた「翻訳ミステリー大賞シンジケート」というサイト内の「訳者自身による新刊紹介」で翻訳者が次のように書いている。「ところで、翻訳中に悩んだのは、どのようにして台湾の言語的複雑さを訳文に反映させるか、ということでした。具体的には、標準中国語(国語、マンダリン)といわゆる台湾語(閩南語、ホーロー語)をいかにして訳し分けるか、ということです。私は台湾語で話されたと考えられる台詞については、(私の母語である)関西弁で訳すことにしました。」(2020/10/21現在)
http://honyakumystery.jp/9888
■その他
・『悪魔の国からこっちに丁稚 上 (電撃文庫)』(L・スプレイグ・ディ・キャンプ/[著] 田中哲弥/訳 メディアワークス 1997.4)
・『悪魔の国からこっちに丁稚 下 (電撃文庫)』(L・スプレイグ・ディ・キャンプ/[著] 田中哲弥/訳 メディアワークス 1997.4)
作家の田中哲弥が「わからないところはばんばんとばすか、あるいは適当に想像して書くという手法に徹し」て、日本のライトノベル文体に合わせて訳した「読者層に合わせた翻訳」の成功例として、前掲の『特盛!SF翻訳講座』一の巻翻訳入門 3名翻訳博覧会―海外SFの名文たちのp23-24で紹介されている。「のっけから田中哲弥文体が炸裂し、とても翻訳には見えない。セリフに関しても同様で、訳者がネイティヴであるところの関西弁が駆使される。」として、セリフの引用あり。翻訳者は神戸出身。
[事例作成日:2020年10月21日]
- 回答プロセス
- 事前調査事項
- NDC
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- 文学 (900 10版)
- 方言.訛語 (818 10版)
- 参考資料
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- ザ・スタンド 上 スティーヴン・キング∥著 文芸春秋 2000.11
- ロレンス短篇集 D.H.ロレンス∥著 筑摩書房 2010.11 (「ストライキ手当」)
- SFマガジン 早川書房 1959- 30(8,10)<380,382> (30(8)<380> p44-49)
- 特盛!SF翻訳講座 大森/望∥著 研究社 2006.3 (p9-12)
- 残念な日々 ディミトリ・フェルフルスト∥著 新潮社 2012.2
- さゆり 上 アーサー・ゴールデン∥著 文芸春秋 1999.11
- さゆり 下 アーサー・ゴールデン∥著 文芸春秋 1999.11
- 翻訳の秘密 小川/高義∥著 研究社 2009.4
- 惑郷の人 郭/強生‖著 あるむ 2018.11
- 悪魔の国からこっちに丁稚 上 L・スプレイグ・ディ・キャンプ∥[著] メディアワークス 1997.4
- 悪魔の国からこっちに丁稚 下 L・スプレイグ・ディ・キャンプ∥[著] メディアワークス 1997.4
- https://books.bunshun.jp/articles/-/3369 (文藝春秋サイト2004年8月20日付』「書評」のコーナー:文庫版『ザ・スタンド5』(2020/10/21現在))
- http://honyakumystery.jp/9888 (翻訳ミステリー大賞シンジケート:訳者自身による新刊紹介『惑郷の人』(2020/10/21現在))
- キーワード
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- 翻訳(ホンヤク)
- 関西弁(カンサイベン)
- 方言(ホウゲン)
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- その他
- 質問者区分
- 個人
- 登録番号
- 1000290577