レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2021年3月10日
- 登録日時
- 2021/06/27 15:29
- 更新日時
- 2021/10/01 16:24
- 管理番号
- 島根郷2021-014
- 質問
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解決
島根県における和紙生産の歴史についての資料があるか。
- 回答
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下記の当館所蔵資料を紹介し、回答とした。
県外の方からの質問だったため、貸出可能な資料を中心にしている。
資料4、資料5:島根県内の製紙の歴史全般をまとめている。特に松江藩で始まった野白紙について詳しい。
資料6、資料7:出雲民藝紙の創始者で、国の重要無形文化財雁皮紙製作技術保持者となった安部栄四郎の伝記・自伝エッセイ。
資料6のp.37によれば、出雲民藝紙の起源は松江藩の野白紙だとのこと。これを始めた藩主松平直政の子近榮が、その封地である旧能義郡広瀬町祖父谷に御紙屋を設けた。江戸時代末、祖父谷から抄紙法を学び、旧八束郡八雲村岩坂の別所部落で紙漉きが始まり、出雲民藝紙となった。
資料8:後半の文章部分は、出雲民藝紙の歴史がまとめられており、国立国会図書館デジタルライブラリー(送信館限定)でも閲覧できる。
資料9には国東治兵衛による「紙漉重宝記」が収録されている。国東治兵衛は、浜田藩でイグサの栽培や製紙業の興隆に貢献した人物である。
「紙漉重宝記」は寛政10年に出版され、当時の紙漉き方法が絵で詳しく解説されている。
資料10:p.165-223 「石州半紙」-出版当時の石州半紙製造状況が、詳しくまとめられている。工程の写真など図版も豊富。
資料11:現在の浜田市金城町における、紙漉き・紙布の歴史や民俗に関する論文集。(『季刊文化財』『山陰民俗』などに掲載されたものの再掲。)
作業工程が詳しい。
資料12:p.1-171-津和野藩時代の抄紙について、製産・販売に関する制度などを詳しくまとめている。
- 回答プロセス
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当館目録を検索したが、島根県全体の和紙生産について網羅的かつ詳細にまとめた資料は見つけられなかった。
このため、まず、島根県における製紙の歴史の概略を調べた。
資料1:p.401「紙すき」には以下の内容がある。地名はすべて出版当時のものである。
藩政時代に津和野藩や浜田藩などで、外貨獲得の財源として紙すきを奨励し、これらは石見半紙として名声を得ていた。明治中ごろの鹿足郡で、ミツマタ栽培が奨励されたが、その後洋紙におされて、昭和10年ごろを境に三隅町・桜江町などが残るのみである。出雲地方においては、松江藩時代に野白に御紙屋があって盛んにすいていたのが、現在は形を変えて、八雲村に残っている。
資料2:p.317-318には、養老年中に定められた租税、中男作物が挙げられている。この中から、各地の風土気候の違いを考慮した結果、出雲国と石見国に紙が課せられている。このことから、当時すでに出雲国、石見国で紙を生産していたと推測される。
資料3には、藩政時代、島根県内の各藩における、製紙について記述があった。下に内容をまとめる。
〈松江藩〉
p.227-松平直政が、越前から中條善左衛門を招聘し、意宇郡野白村に製紙場を設けた。これが野白紙の始まりである。
p.463-松平治郷(不昧)の時代には、上述の中條善左衛門の本系とその弟子である、野津甚七、野津儀右衛門の三家が藩の御用紙漉であった。甚七は延享3年に、儀右衛門は天明2年に、紙漉御用の命を受けている。
また、この時代には、仁多郡馬馳村の馬馳紙や、能義郡広瀬村祖父谷の祖父谷紙などがあった。
〈浜田藩〉
p.741-742-石見は楮や三椏の栽培に適した土地で、徳川時代には、紙は浜田藩、津和野藩の主産物で、京阪地方でも評価を得ていた。石見地方における、製紙の隆盛期は徳川時代後期だと思われる。寛政10年4月には、浜田藩出身の国東治兵衛による『紙漉重宝記』が浪華で出版されている。
しかし、明治維新後は、機械による製紙が発達し、手漉きによるものは漸次衰退していった。
〈津和野藩〉
p.782-783-正長年間(吉見弘信藩主時代)のころは、青原村字柳と、吉賀地方、柿木村字大井谷で、粗悪な紙が作られていた。慶長6年、坂崎出羽守の時代に、肥前・豊後から楮の苗木5万本を購入し、吉賀の庄屋澄川與助に命じて栽培させた。続く亀井家藩主時代には、寛文5年までに、特に製紙が奨励され、吉賀半紙または石見半紙が名を博するようになった。
対外への売り出しには、安芸の坪井三右衛門を採用して、大阪へ盛んに販売し、万治年間においては、領内第一の産物であった。
以上から、島根県内各地の製紙に関する資料を探した。
- 事前調査事項
- NDC
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- パルプ.製紙工業 (585 8版)
- 工芸 (750 8版)
- 参考資料
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【資料1】島根県大百科事典編集委員会/編. 島根県大百科事典 上巻. 山陰中央新報社, 1982.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I010726970-00 (当館請求記号 郷貸出:030/サ82/1) -
【資料2】島根県史編纂掛 編 , 島根県史編纂掛. 島根縣史 第4巻 復刻. 名著出版, 1972.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I069442497-00 (当館請求記号 092/2/4 ※貸出禁止資料) -
【資料3】島根県史編纂掛 編 , 島根県史編纂掛. 島根縣史 第8巻 復刻. 名著出版, 1972.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I069442501-00 (当館請求記号 092/2/8 ※貸出禁止資料) -
【資料4】内田兼四郎 著 , 内田兼四郎. 島根県の和紙 : 由来と現況. 内田兼四郎, 1982.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I069519115-00 (当館請求記号 郷貸出585/50) -
【資料5】内田兼四郎 著 , 内田兼四郎. 島根県の和紙 補遺. 内田兼四郎, 1984.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I069519116-00 (当館請求記号 郷貸出585/50/S) -
【資料6】濱川博 編 , 濱川博. 和紙に生きる安部榮四郎. 八雲書房, 1978.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I069519114-00 (当館請求記号 郷貸出585/36) -
【資料7】安部栄四郎 ; 柳橋真/著 , 安部, 栄四郎 , 柳橋, 真. 紙漉き七十年 : 安部栄四郎の世界. アロー・アート・ワークス, 1980.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I069404676-00 (当館請求記号 郷貸出585/42) -
【資料8】太田柿葉 著 , 太田, 柿葉, 1890-1984. 出雲民藝紙の由來. 島根民藝會岩坂支部, 1945.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002917154-00 (当館請求記号 郷貸出585.6/オ45) -
【資料9】佐藤常雄, 徳永光俊, 江藤彰彦 編 , 佐藤, 常雄, 1948- , 徳永, 光俊, 1952- , 江藤, 彰彦, 1952- , 国東, 治兵衛 , 柳橋, 真, 1934-2015 , 亀井, 協従, 寛政頃 , 竹内, 俊道, 1950- , 佐藤, 武司, 1933- , 山元, 藤助, -1871 , 加藤, 衛拡, 1955- , 館, 三郎, 1825-1906 , 松村, 敏, 1955- , 伊藤, 寿和, 1956-. 日本農書全集 第53巻 農産加工 4. 農山漁村文化協会, 1998.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002747155-00 , ISBN 454098005X (当館請求記号 610.8/ニ/53) -
【資料10】文化庁 編 , 文化庁. 無形文化財記録 工芸技術編3. 文化庁, 1971.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I069345050-00 (当館請求記号 貴重097.5/270 ※貸出禁止資料) -
【資料11】隅田正三 著 , 隅田正三. 石見波佐地方の紙すき習俗 : 紙すき関係小論文集. 隅田正三, 1987.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I069519133-00 (当館請求記号 郷貸出750/ス87) -
【資料12】沖本常吉 , 沖本, 常吉. 津和野 町史 第3巻. 津和野町史刊行会, 1989.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I051693336-00 (当館請求記号:郷貸出217.3/ツ/3)
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【資料1】島根県大百科事典編集委員会/編. 島根県大百科事典 上巻. 山陰中央新報社, 1982.
- キーワード
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- 製紙業--島根県--歴史
- 和紙--島根県--歴史
- 出雲民藝紙
- 石州半紙
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 郷土
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000300870