レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2006/8/15
- 登録日時
- 2011/02/24 02:08
- 更新日時
- 2021/04/10 16:40
- 管理番号
- 愛知県図-02777
- 質問
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解決
昭和戦前期、愛知県内に「東海美術展」という公募展があったようだが、その概要を知りたい。また同展の出品目録、図録はないか。
- 回答
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「東海美術展」は、東海美術協会により明治末から昭和にかけて名古屋市で開催された。明治44年(1911)に第1回展覧会が開催され、少なくとも昭和16年(1941)の第30回展までは開催されたことが確認できる。
東海美術協会は、明治43年(1910)あるいは明治44年(1911)に結成された全国初の民間総合美術団体である。会長は愛知県知事、副会長を商工会議所会頭が務め、名古屋市から補助金が支給されていた。昭和4年(1929)に解散したと書かれている資料もあるが(【資料6】、【資料7】)、典拠は示されておらず、『日本美術年鑑』等の資料から昭和5年(1930)以降も展覧会が開催され、協会の存続が確認できる。
「東海美術展」の出品目録や図録は見つからなかったが、東海美術協会が開催した他の美術展の図録の所蔵がある。
- 回答プロセス
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1.愛知県史から、東海美術展について記述があるか確認。
『愛知県史 資料編35 文化』【資料1】
pp.410-411 資料145「第一〇回東海美術展覧会発会」大正7年(1918)5月12日(『新愛知』)
「東海美術協会主催第十回東海美術展覧会の発会式は十一日午後二時から名古屋市中区新柳町八層閣会場に於て開かれた」とあり、参考として陳列された十六点の作品が紹介されている。「同会は五月十一日から卅日迄八層閣上に於て開会される」とある。
この資料から、東海美術展は東海美術協会が開催する展覧会であることが分かる。
また、pp.436-438 資料163「女性作家の活躍」昭和5年(1930)4月10日(『新愛知』)にも、「けふから鶴舞公園の美術館で東海美術展覧会が開かれるが・・・」とある。
※『新愛知』の記事は、縮刷版またはマイクロフィルム版で閲覧可能。
東海美術協会については、p.403「この協会は民間主体によるものであったが、会長が愛知県知事、副会長を商工会議所会頭が務め、名古屋市から補助金が支給されるなど、一九〇七年(明治四十)に開始された文部省美術展覧会(文展)の官展地方版のような存在であった。同協会は大正期を通じて昭和初期まで当地における絶対的な存在であり、美術活動の普及啓蒙的な役割は大きかった。」とある。
次に通史編(近代~現代)を確認し、東海美術展または東海美術協会についての記述があるか確認。以下の記述があった。
『愛知県史 通史編6 近代1』【資料2】
・p.652「愛知の洋画が画壇として成立するきっかけとなったのは、一九一〇年に開催された「名古屋開府三百年記念新古美術展」である。(中略)翌年には、全国で初めてといえる経済界などの民間によって総合美術団体「東海美術協会」が設立された。」
『愛知県史 通史編7 近代2』【資料3】
・p.506「(大正期の後半に)活性化した愛知の美術状況下にあっても、依然として強い保守的勢力を保ったのは、明治末期に誕生した東海美術協会であった。」
『愛知県史 通史編8 近代3』【資料4】
・p.410「東海美術協会においても以前は地域の有力作家が審査にあたっていたが、一九三一年の公募展では日本画の審査に前田青邨、土田麦僊、洋画審査には青山熊治が、翌年の審査では日本画に福田平八郎、洋画に和田三造、安井曾太郎らが地域の有力作家に加わった。」
2.名古屋市史から、東海美術展または東海美術協会について記述があるか確認。以下の記述があった。
・『新修 名古屋市史 第五巻』【資料5】
pp.834-835「明治末の洋画草創期に飛躍のきっかけと原動力になったひとつが、明治四三年(一九一〇)に開催された名古屋開府三百年記念新古美術展覧会である。(中略)翌年、日本画・洋画をあわせた日本最初の民間総合美術団体である東海美術協会が、政財界の強力な後援を得て結成された。会長に愛知県知事、副会長に商業会議所会頭を擁し、名古屋市から毎年補助金を受ける空前の大組織であった。」
・『新修 名古屋市史 第六巻』【資料6】
p.485「同じ四年(=昭和四年)、明治以来の中部美術界の啓蒙と発展に寄与してきた東海美術協会が、活発な在野の動きのなかで、その役割を終えるように解散する。代わって名古屋市民美術展が鶴舞美術館で毎年開かれるようになる。」
3. 自館OPACのタイトル検索で、「愛知 美術」と検索し、『20世紀愛知の美術』【資料7】を見つける。
【資料7】には、p.8「明治も末の44年(1911)、日本画・洋画を併せ、全国で初めて民間による総合美術団体〈東海美術協会〉が設立され、愛知画壇が成立した。」「その設立の前年明治43年(1910)竣工の愛知県商品陳列館で、毎年大規模な公募展を開催した。(中略)同協会は、会長・副会長を県知事と商工会議所会頭がつとめ、名古屋市から毎年補助金が出るなど官展地方版のような権威を持ち、入選すれば画商がつくともいわれた」とある。p.10には、「昭和4年(1929)、東海美術協会は解散して名古屋市民美術展となり・・・」とある。
4.自館OPACのキーワード検索で、「東海美術協会」で検索する。
『訥言画集』【資料8】、『御大禮奉祝美術展覽會記念画集』【資料9】がヒットした。いずれも東海美術展の出品目録や図録ではない。
【資料8】は、昭和2年5月に田中訥言遺作展覧会を開催し、同10月に発行した画集。
【資料9】は、名古屋市の奉納事業の1つとして御大禮奉祝美術展覽會を開催し、出品作品のうち優秀なものを撮影して発行した画集。
5.国立国会図書館デジタルコレクションを確認。「東海美術協会」「東海美術展」で検索したところ、以下の資料が見つかった。
・『愛知商工』(155) 大正15年(1926)8月「第十六回東海美術展覽會雜感」【資料10】愛知商工館の熊澤生氏による第16回東海美術展覧会の雑感。
・『愛知商工』(169) 昭和5年(1930)5月「東海美術協会記事 第二十回東海美術展覽會」【資料11】第20回東海美術展の開催概要、出品数及び入選数、入場者総数などの記載あり。
・『愛知商工』(170) 昭和5年(1930)7月「東海美術協会記事 臨時総会」【資料12】臨時総会の決議事項が確認できる。
・『愛知商工』(181) 昭和7年(1932)5月「東海美術協会記事 第二十二回東海美術展覽會」【資料13】第22回東海美術展の開催概要、出品数及び入選数などの記載あり。
・『関西医界時報』第31年(355) 昭和13年(1938)4月「東海美術展刀圭画家入選」【資料14】遊書家の山田恒富博士の入選について取り上げられている。
6.日本美術年鑑を確認。
東海美術協会が設立したとされる明治44年(1911)から終戦まで確認。
『日本美術年鑑』明治44年(1911年)【資料15】
「美術界一年史」pp.15-16に、四月十五日(土)「名古屋市舞鶴(※原文ママ)公園紀念館に於て、東海美術協会第一回展覧会発会式を行ふ、会期は本日より1箇月間なり。」とある。「美術団体の一覧」p.487には、「新たに有志者の発起組織する處にして、四十四年四月中同市鶴舞公園に於て第一回絵画展覧会を開催せり。 」とある。
それ以降の開催概要は、以下の年のものが確認できる。
・東海美術協会第二回展覧会 明治45年(1912)4月11日~ 名古屋市中区門前町商品陳列館(大正元年版p.34)【資料16】
・東海美術展第十七回展 大正15年(1926)6月8~17日 名古屋市県立商品陳列所 ※受賞者名の記載あり(昭和2年版p.30)【資料17】
・東海美術展第十八回展 昭和2年(1927)5月12~23日 愛知県商品陳列所(昭和3年版p.36)【資料18】
・東海美術協会第廿五回展 昭和10年(1935)4月1日~14日 於名古屋市美術館(昭和11年版p.69)【資料19】
・第二十六回東海美術協会展覧会 昭和11年(1936)4月1日~12日 名古屋市美術館(昭和12年版p.40)【資料20】
・東海美術協会第二十七回 昭和13年(1938)4月1日~10日 名古屋・鶴舞公園美術館(昭和14年版p.33)【資料21】
・東海美術協会第二十八回展 昭和14年(1939)4月1日~10日 名古屋・鶴前(※原文ママ)公園美術館並びに県商工館(昭和15年版p.37)【資料22】
・東海美術展 昭和15年(1940)4月27日~5月6日 名古屋・鶴舞公園美術館、愛知県商工館(昭和16年版p.36)【資料23】
昭和16年版までは、展覧会の開催情報と団体の情報が双方掲載されていたが、昭和17年版【資料24】以降、展覧会の開催情報は掲載されていない。
団体一覧に協会の名前があったのは、昭和18年版【資料25】までで、昭和19・20・21年版【資料26】には掲載なし。
昭和17年版および昭和18年版には、「昭和十六年四月第三十回を開く」とある。
なお、【資料2】【資料5】【資料7】では協会の設立を明治44年としているが、昭和11年版以降の団体一覧には「明治四十三年創立」とある。
7.美術館図書館横断検索(ALC Search)で、「東海美術協会」と検索する。
雑誌記事「東海美術協会の創立」(『郷土美術』9号)【資料27】がヒットした。当館には所蔵がないが、愛知芸術文化センターアートライブラリーに所蔵あり。東海美術協会が創立された経緯について書かれており、「明治44年4月発行の役員人名表をみると、知事や市長を筆頭に財界の堂々たる顔ぶれがそろい、松坂屋、丸栄の前身、島本画材の本家などがみえる。第1回展を明治44年に開催、毎年恒例の美術展が永く戦前までつづいた。」とある。
- 事前調査事項
- NDC
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- 芸術史.美術史 (702 9版)
- 団体 (706 9版)
- 参考資料
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【資料1】愛知県史編さん委員会 編 , 愛知県. 愛知県史 資料編 35 (近代 12). 愛知県, 2012.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I023624157-00〈当館資料コード:1110403700〉 -
【資料2】愛知県史編さん委員会 編 , 愛知県. 愛知県史 通史編 6 (近代 1). 愛知県, 2017.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I028109396-00〈当館資料コード:1111367223〉 -
【資料3】愛知県史編さん委員会 編 , 愛知県. 愛知県史 通史編 7 (近代 2). 愛知県, 2017.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I028362562-00〈当館資料コード:1111367232〉 -
【資料4】愛知県史編さん委員会 編 , 愛知県. 愛知県史 通史編 8 (近代 3). 愛知県, 2019.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I029657746-00〈当館資料コード:1111633034〉 -
【資料5】新修名古屋市史編集委員会 編 , 名古屋市. 新修名古屋市史 第5巻. 名古屋市, 2000.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002937641-00〈当館資料コード:1109212330〉 -
【資料6】新修名古屋市史編集委員会 編 , 名古屋市. 新修名古屋市史 第6巻. 名古屋市, 2000.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002937642-00〈当館資料コード:1109212349〉 -
【資料7】愛知県美術館 編 , 愛知県美術館. 20世紀愛知の美術 : 愛知県美術館開館記念展第3部. 愛知県美術館, 1993.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002283291-00〈当館資料コード:1106270581〉 -
【資料8】[田中訥言 画] ; 東海美術協會 編輯 , 田中, 訥言 , 東海美術協会. 訥言画集. 中島京榮社, 1927.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I096743252-00〈当館資料コード:1109652730〉 -
【資料9】宮部鈴三郎編 , 宮部, 鈴三郎. 御大禮奉祝美術展覽會記念画集. 東海美術協會, 1916.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000096-I007172567-00〈当館資料コード:1105074979〉 -
【資料10】「第十六回東海美術展覽會雜感」愛知商工 (155). 愛知県商工館, 1926-08.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000039-I000710185-00(国立国会図書館デジタルコレクション) -
【資料11】「東海美術協会記事 第二十回東海美術展覽會」愛知商工 (169). 愛知県商工館, 1930-05.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000039-I000063688-00(国立国会図書館デジタルコレクション) -
【資料12】「東海美術協会記事 臨時総会」愛知商工 (170). 愛知県商工館, 1930-07.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000039-I000442317-00(国立国会図書館デジタルコレクション) -
【資料13】「東海美術協会記事 第二十二回東海美術展覽會」愛知商工 (181). 愛知県商工館, 1932-05.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000039-I000442315-00(国立国会図書館デジタルコレクション) -
【資料14】「東海美術展刀圭画家入選」関西医界時報 第31年(355). 関西医界時報社, 1938-04.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000039-I000511593-00(国立国会図書館デジタルコレクション) -
【資料15】画報社 編 , 画報社. 日本美術年鑑 明治44年. 国書刊行会, 1996.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002546765-00〈当館資料コード:1107137263〉 -
【資料16】画報社 編 , 画報社. 日本美術年鑑 大正元年. 国書刊行会, 1996.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002546766-00〈当館資料コード:1107137272〉 -
【資料17】朝日新聞社 編 , 朝日新聞社. 日本美術年鑑 昭和2年. 国書刊行会, 1996.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002546757-00〈当館資料コード:1107137281〉 -
【資料18】朝日新聞社 編 , 朝日新聞社. 日本美術年鑑 昭和3年. 国書刊行会, 1996.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002546758-00〈当館資料コード:1107137290〉 -
【資料19】美術研究所 編 , 美術研究所. 日本美術年鑑 昭和11年. 国書刊行会, 1996.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002546769-00〈当館資料コード:1107137352〉 -
【資料20】美術研究所 編 , 美術研究所. 日本美術年鑑 昭和12年. 国書刊行会, 1996.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002546770-00〈当館資料コード:1107137361〉 -
【資料21】美術研究所 編 , 美術研究所. 日本美術年鑑 昭和14年. 国書刊行会, 1996.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002546772-00〈当館資料コード:1107137380〉 -
【資料22】美術研究所 編 , 美術研究所. 日本美術年鑑 昭和15年. 国書刊行会, 1996.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002546773-00〈当館資料コード:1107137399〉 -
【資料23】美術研究所 編 , 美術研究所. 日本美術年鑑 昭和16年. 国書刊行会, 1996.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002546774-00〈当館資料コード:1107137405〉 -
【資料24】美術研究所 編 , 美術研究所. 日本美術年鑑 昭和17年. 国書刊行会, 1996.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002546775-00〈当館資料コード:1107137414〉 -
【資料25】美術研究所 編 , 美術研究所. 日本美術年鑑 昭和18年. 国書刊行会, 1996.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002546776-00〈当館資料コード:1107137423〉 -
【資料26】国立博物館 編 , 国立博物館. 日本美術年鑑 昭和19年~21年. 国書刊行会, 1996.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002546768-00〈当館資料コード:1107137432〉 -
【資料27】「東海美術協会の創立」(『郷土美術』9号,1986.5)
郷土美術 第1号-第50号. 郷土美術研究会, 1993.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I096700978-00(愛知芸術文化センターアートライブラリー所蔵)
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【資料1】愛知県史編さん委員会 編 , 愛知県. 愛知県史 資料編 35 (近代 12). 愛知県, 2012.
- キーワード
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- 東海美術展
- 東海美術協会
- 照会先
- 寄与者
- 備考
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【関連事例】
愛知県図-02757「名古屋市(民)美術展覧会について」
https://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000080556
- 調査種別
- 内容種別
- 郷土
- 質問者区分
- 登録番号
- 1000080576