レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2021年4月21日
- 登録日時
- 2021/04/11 13:59
- 更新日時
- 2021/05/26 17:13
- 管理番号
- 県立長野-21-004
- 質問
-
未解決
県立長野図書館の館名について、語順がなぜ「長野県立図書館」ではないのか知りたい。
過去に県立図書館が複数立てられる計画があったのか。
- 回答
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1.県立長野図書館である理由について
「県立長野図書館」の館名の由来について書かれている資料は確認できなかった。
参考に、今回の調査で確認できた、「県立長野図書館」の館名が見える資料を紹介した。
(1)『県立長野図書館三十年史』p.416-417「(資料4)県営図書館設立ニ関スル意見書」大正12年12月13日
(前略)
玆ニ於テカ県立長野図書館ヲ設立シ、以テ県下各地ノ小図書館ヲ指導誘掖シテ真ニ図書館活用ノ源泉タラシメ、
相竢ツテ文化ノ振興産業ノ発展ニ資スルハ目下ノ急務ナリト信ズ。
とある。
ただし、「県会に於ける県営図書館問題」『信濃教育』447号p.48-50で紹介されている同意見書の同箇所、この決議が行われた長野県議会の記録である『第46回通常県会議案』掲載の同意見書の同箇所でも、「県立図書館」となっている。
この会の議事録については、当館に所蔵がないため、長野県の公文書の保存を行っている県立歴史館に照会し、回答を得た。
(2)『官報』第330号 昭和3年2月9日「文部省告示第50号」(1コマ目)【最終確認日:2021/05/05】
文部省による設置認可の際の告示。この告示の時点ですでに館名「県立長野図書館」となっている。
(1)の意見書が県議会で可決された大正12年から(2)の文部省の設置認可が出た昭和3年までの『長野県議会会議録』の目次と議案を参照したが、図書館や御成婚記念事業については予算の決定のみで、「県立長野図書館」の館名に関係する議題や図書館設置に関する議論は確認できなかった。
また、県議会の委員会の会議録を所蔵していないか議会図書室に確認したが、所蔵はないとの回答を得た。
2.過去の県立図書館が他の地域にも設置される計画の有無について
中央図書館となるべく建設する1館についての検討の中で、全県的に図書館を普及するための足掛かりと考えていることが伺える資料も確認できたが、その後の県立図書館の建設計画についてされている資料は確認できなかった。
参考に、図書館の建設を決める過程で全県的な図書館の普及に言及している資料、全県に図書館を普及させる手段についての議論をうかがうことができる資料を紹介した。
(1)図書館の建設を決める過程で全県的な図書館の普及に言及している資料
・『県立長野図書館三十年史』県立長野図書館編 県立長野図書館 1959【N016/5】
p.412-413「社会教育振興ニ関スル答申書」大正10年
県による「社会教育振興上特ニ施設計画スベキ事項如何」という諮問に対する信濃教育会の出した答申。
最後に「上述ノ如キ完備セル図書館ヲ先ズ一箇所建設シ、之ヲ中央図書館トシ、更ニ県下各地ニ於ケル図書館ヲ発達改善セシメ、是等ヲ一大系統ノ下ニ組織経営ヲスルニ至ラバ、本県教育振興ノ実必ズ目睹スベキモノアルベシ」とある。
p.15 「大正13年12月22日、特に臨時県会が開かれ、御成婚記念事業として県立図書館ならびに、県営運動場の設置が可決された。」とある。
また、設置可決後の動きとしては、この2つの教育施設をめぐって、長野、松本、上田の3市で誘致運動があり、「結局、図書館は長野市に、運動場は松本市ということにきまった」とある。
・「長野県臨時県会議事日誌」大正13年12月 『長野県議会会議録 第47回議事日誌』
皇太子のご成婚記念事業について梅谷知事による説明の中に下記のような発言がある。
(前略)此図書館並ニ体育ノ施設ハ出来得ルダケ全県的ニ徹底的ニ之ヲ施設計画スルコトヲ最モ適切ト信ジマス、併セナガラ其普及徹底ヲ図リマスニハ、先ヅ其中枢ニ於テ之ヲ統一指導スル所ノ設備ヲ最モ必要ト存ズルノデある、此の意味ニ於キマシテ県営ノ図書館ヲ一館建設スル(中略)斯ウ云フ所ノ根本方針ヲ探リマシテ之ヲ中心トシ基調ト致シテ更ニ此精神ヲ県下ノ全体ニ及ボシタイト存ジマス(後略)
この時点では中央図書館となるべく立てる1館についての検討になっている。全県的に図書館を普及するための足掛かりと考えていることが伺えるが、始めの1館を建てた後の県立図書館建設については言及されていない。
また、同会の12月2日の教育補助費の検討に関わる質問で、小野秀一議員が県立図書館について、「(前略)一部ノ階級ガ思索ニ便利ニナルヤウニ非常ニ完全ナル図書館ヲ一ヶ所ニ造ッテサウシテヤラウト云フヤウナオ話デアルサウデあるガ、是ハ果シテドウ云フモノデあるカ、私共ハ教育機会均等等……県下東西南北ヲ通ジテサウシテ教育ノ機会均等ト云フヤウナ精神ニ於テヤツテ貰イタイト思フ(後略)」と述べている(p.230-232)。
これに対して、畑山四男美理事官は、教育界の主だった数人から聞いた図書館設立についての意見として、中枢図書館となる一つの図書館を立て、県下の図書館を指導することで、県立図書館から離れた場所にいる人の役にも利点があることや、中枢図書館を建てた後で必要に応じて分館や独立した館を建てるのがいいというのが主な意見だった旨を報告している(p.234-245)。しかし、当局としての、最初の1館を建てた後の事についてどういう見通しを持っているかについては触れられていない。
(2)全県に図書館を普及させるための手段を問う議論を伺うことができる資料
・「よき図書館をつくれ 先ず一ヶ所に完全を求めよ かくて全県に普及せしめるが賢策 沢柳博士談」1924(大正13)年3月29日 「信濃毎日新聞」朝刊 p.5
沢柳政太郎氏へのインタビュー記事のなかで、記者が「長野県では県立図書館の問題が此頃熾烈になって殆んど全県的興論と見ていい位になっているが」との前置きの後に、「(前略)完全なものを一つ立てるよりそれを三つに分けて建てた方がいいなどという論もあるようですが、先生のご意見は如何ですか」と発言している部分があり、当時の県立図書館建設にはいくつかの意見があることがあったことを伺うことができるが、この発言の根拠となる論考などは見つけることができなかった。
・「県営図書館設立問題」大正12年12月8日『信濃教育』446号p.76
県立図書館の設置について、信濃教育会の会誌に掲載された文章。
県立図書館の設立を考慮するに当たって、①各地方の図書館を助成・発達させる助成案と②中枢的な機能を持つ図書館を設立し、組織の根幹を樹立するという集中案の2つの立場があると整理したうえで、信濃教育会が②の集中案をとるのは「実に各地方図書館発達助成に基礎を有する集中案であって、只直接金額交附で助成する策を採らないで、まづ事業助成を為そうとするのである」としている。
・「県下各町村に公立図書館新設 方針大体決定す」 大正13(1924)年10月2日「信濃毎日新聞」夕刊p.1
「明年度予算編成に際し訓令を以て県下各町村に必ず一公立図書館を設置せしむる方針に大体決しこれに関する規定に就いて研究中である」と報道がある。
しかし、大正13年10月-大正14年3月までの『長野県報』を参照しましたが、図書館の設置を義務化する訓令を確認することはできなかった。
なお、この時代の県報は目次がなく、目視で確認をしたため、見落としがある可能性もある。
- 回答プロセス
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1. 当館記念誌を確認する
・『県立長野図書館三十年史』県立長野図書館編 県立長野図書館 1959【N016/5】
回答の箇所を確認。県営の図書館を立てることが具体的に決定した時点での計画としては、県立図書館は1つであったことがうかがわれる。
・『県立長野図書館十年史』県立長野図書館編 県立長野図書館 1939【N016/1】
県立長野図書館最初の記念誌。館名の由来に関することは確認できず。
2.県内の資料で当館について書かれているものを参照する
・『長野県教育史 第3巻』長野県教育史刊行会編 長野県教育史刊行会 1983【N372/52/3】
・『長野県史 通史編 第8巻』長野県編 長野県史刊行会 1989【N209/11-4/8】
・『長野市誌 第6巻』長野市誌編さん委員会編集 2000【N212/318/6】
いずれも館名に関する記述は確認できず。
2. 新聞の報道を確認する
・「信濃教育会の県立図書館案成る」1923(大正12)年7月11日 夕刊 p.2
・「運動場は松本市に図書館は長野市に知事設立地点を声明す」1924(大正13)年12月22日 朝刊 p.2
いずれも館名に関する言及はない。
・「喫煙室から食堂まで全国に誇る大図書館 いよいよ9月1日から開館」1929(昭和4)年8月29日 朝刊 p.3
「信濃毎日新聞データベース」の登録名:「県立長野図書館が開館。信濃教育会付属信濃図書館は廃館」
記事中には「県営図書館」とのみあり、「県立長野図書館」の館名は確認できず。
3. 県の議会録を参照する
記念誌に登場する議会の会議録を参照し、図書館に関する議論の部分を参照。
館名の由来につながる議論は確認できなかったが、県営図書館は1館のみでいいのかなどの議論が交わされていることが確認できた。
4.信濃教育会発行の雑誌『信濃教育』、図書を参照する
信濃教育会は、長野県の教員の職業団体で、県立長野図書館の前身となる「信濃図書館」の運営を担っていた。
また、県営図書館設置に関して県議会に働きかけを行うとともに、県営図書館の設置が決まった後は県からの諮問に基づいて意見書をまとめるなど県営図書館の設置に尽力した。
議会の決議に関するコメントや、同会がまとめた意見書などが掲載されていた。
5. 開館当時の関係者の著作を確認する
初代館長 田澤次郎、発足から当館に関わっていた二代目館長 乙部泉三郎の著作を確認したが、手掛かりはなかった。
・『県立長野図書館三十年史』県立長野図書館編 県立長野図書館 1959【N016/5】
「三十周年によせて」職員や県内図書館の関係者、利用者による文集が掲載されている中に田澤p.368-369、乙部p.370-372がそれぞれ記した文章があったが、館名の由来に関することは確認できなかった。
・『すぐ役に立つ 図書の整理法』乙部 泉三郎著 一二三館書店 1929【N014/5】
・『長野県図書館事業概要 昭和2年度』長野県社会課編 長野県社会課 1928【N010/7】
・『乙部泉三郎・県立長野図書館長 第1巻(図書館学遺産セレクション)』乙部 泉三郎[著] 金沢文圃閣 2019【N015/65/1】
・『乙部泉三郎・県立長野図書館長 第2巻(図書館学遺産セレクション)』乙部 泉三郎[著] 金沢文圃閣 2019【N015/65/2】
・『御巡幸を偲び奉る』乙部 泉三郎著 信濃毎日新聞社 1934【N288/10】
- 事前調査事項
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当館レファレンス事例:「長野県の「県立長野図書館条例」の改正の歴史について調べたい」
- NDC
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- 各種の図書館 (016)
- 参考資料
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長野図書館 (長野県立). 県立長野図書館三十年史. 長野図書館, 1959.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001005412-00 -
長野図書館 (長野県立). 県立長野図書館五十年史. 県立長野図書館, 1981.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001515550-00 -
長野図書館 (長野県立). 県立長野図書館十年史. 県立長野図書館, 1939.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000000636067-00
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長野図書館 (長野県立). 県立長野図書館三十年史. 長野図書館, 1959.
- キーワード
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- 県立長野図書館
- 図書館 条例
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介 事実調査
- 内容種別
- 郷土
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000296908