レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2020/04/18
- 登録日時
- 2020/09/16 00:30
- 更新日時
- 2020/09/16 00:30
- 管理番号
- 6001043609
- 質問
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解決
百人一首の猿丸大夫の歌が古今和歌集では読み人知らずとなっていた。このことについて書かれた本があれば紹介してほしい。
- 回答
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百人一首の選者である藤原定家が猿丸大夫を作者としたことについて言及している資料を紹介します。
・『鑑賞 百人一首』(石田吉貞/著 淡交社 1971)
p.43に「定家も二四代集・近代秀歌等にとっているが、やはり猿丸大夫とは記していない。ただ猿丸大夫集という古い歌集があり、そのなかにこの歌があるので、百人一首には猿丸大夫の歌として入れたものであろう」と記されています。
・『義趣討究 小倉百人一首釈賞』(桑田明/著 風間書房 1979.2)
p.42-43に「定家が問題の歌を猿丸大夫の作としたのも、この歌の主人公の境涯が伝説の猿丸大夫の境涯と深く相通ずるものをもっていることを、認めたからに外ならないのではなかろうか」と記しています。
・『百人一首を楽しくよむ』(井上宗雄/著 笠間書院 2003.1)
p.21に「定家はおそらく、この歌がよみ人知らずであることを知っていたであろう。しかし、どうしても百人一首に入れたかったに違いない。この歌は、平安中期に藤原公任が三十六人撰という書を編んだときに、早くも猿丸大夫の歌として採られており、また『猿丸大夫集』にもはいっているので、定家はあえて猿丸大夫の歌として選び入れたのであろう」と記されています。
・『一冊でわかる百人一首』(吉海直人/監修 成美堂出版 2006.12)
p.29「猿丸大夫とよみ人知らず」と題する一文が掲載されています。そこには「奥山に」の歌は「寛平御時后宮歌合」や『古今集』とも作者は「よみ人知らず」となっており、「家集『猿丸集』もいわゆる古歌集で、はっきり猿丸作とわかっている歌はひとつもないのである。では、それらを承知していたであろう定家がなぜ、この歌を猿丸の作として百人一首に入れたのか。それはこの歌そのものを評価していたからではないだろうか。この歌を猿丸作として取り上げた藤原公任の『三十六人撰』を利用するようなかたちで、猿丸の名を付けてこの秀歌を選んだのである。百人一首の撰歌において、定家は一部、作者の真偽よりも作品を重視したようだ」と記されています。
・『鑑賞小倉百人一首』(水田潤/著 教学研究社 [1987])
p.5に作者に関する項目があります。そこには伝記不明とし「この歌は『三十六人撰』『古来風体抄』、定家の『二四代集』自筆本『近代秀歌』などにもとられているが、いずれも「猿丸大夫」とはしていない」と記されています。
・『百人一首私注』(長谷川哲夫/著 風間書房 2015.3)
p.44に作者に関する記述があり、「定家も『定家八代抄』には作者を「よみ人しらず」としている。しかし、『百人一首』に撰入するにあたり、『猿丸集』にあることや、公任の『三十六人撰』などに「猿丸」の歌とし、そのように伝承されていたことなどにより、猿丸大夫の歌としたものと考えられる」と書かれています。
・『田辺聖子の小倉百人一首 [正]』(田辺聖子/著 角川書店 1986.10)
p.18に「『古今集』の頃から百年も経つと、猿丸大夫は実在の人と信じられはじめた。幻の虚像は次第にひとり歩きをはじめる。藤原公任は、王朝中期の有名な歌人で評論家であるが、その撰んだ三十六歌仙に、猿丸大夫を入れている。定家はそれに拠って、百人一首に「奥山」の歌の作者を、ためらいなく猿丸太夫としたのであろう」との記述があります。
なお、上記資料の記述にでている『二四代集』は、藤原定家編の秀歌撰集で『定家八代抄』や『八代抄』などともいわれる私撰集です。参考までに紹介します。
・『二四代集』(大坪利絹/編 親和女子大学国文学研究室 1990.3)
p.43に掲載されており、作者は「よミ人しらす」となっています。
・『定家八代抄 上』([藤原定家/編] 岩波書店 1996.6)
p.121に掲載されており、作者は「よみ人しらず」となっています。
[事例作成日:2020年7月19日]
- 回答プロセス
- 事前調査事項
- NDC
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- 詩歌 (911 10版)
- 参考資料
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- 鑑賞 百人一首 石田/吉貞∥著 淡交社 1971 (43)
- 義趣討究 小倉百人一首釈賞 桑田/明∥著 風間書房 1979.2 (42-43)
- 百人一首を楽しくよむ 井上/宗雄∥著 笠間書院 2003.1 (21)
- 一冊でわかる百人一首 吉海/直人∥監修 成美堂出版 2006.12 (29)
- 鑑賞小倉百人一首 水田/潤∥著 教学研究社 [1987] (5)
- 百人一首私注 長谷川/哲夫‖著 風間書房 2015.3 (44)
- 田辺聖子の小倉百人一首 [正] 田辺/聖子∥著 角川書店 1986.10 (18)
- 二四代集 大坪/利絹∥編 親和女子大学国文学研究室 1990 (43)
- 定家八代抄 上 [藤原/定家∥編] 岩波書店 1996.6 (121)
- キーワード
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- その他
- 質問者区分
- 個人
- 登録番号
- 1000287189