レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 20170627
- 登録日時
- 2018/01/28 00:30
- 更新日時
- 2021/02/25 11:45
- 管理番号
- 児童-2017-03
- 質問
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解決
イソップ物語「アリとキリギリス」について調べている。
『イソホ物語』(岩波日本古典文学大系90)や、『イソップ物語』(偕成社文庫)などでは、働かなかったためだ・自業自得だ、という教訓めいたものを述べるまでで終わっているが、近年、絵本の「アリとキリギリス」では、困っているキリギリスをアリが助けてあげる、キリギリスが歌を歌って楽しく過ごす、という結末になっているものがあるようだ。
(1)キリギリスが困ったまま終わるものと、キリギリスを助けてあげるものと、違う結末の絵本を見たい。
(2)いつ頃からキリギリスを助けてあげる絵本が出てきたのか。
(3)1990年以降に出版されたものは助けてあげる結末の方が多いのか。
(4)このように結末や作風が違ってくる作品について解説する本があるか。
- 回答
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以下、回答では、「アリとキリギリス」と「アリとセミ」が混在しているが、同型の話は同じものとして扱った。
(1)キリギリスが困ったまま終わるものとも、キリギリスを助けてあげるものとも、違う結末の絵本
都立多摩図書館所蔵のイソップ寓話の図書について調べたところ、1冊の絵本があった。
資料1 p.10-13 アリたちがキリギリスを家へ迎え入れ、「そとは、さむかったでしょう」とお酒を飲ませ、キリギリスはたちまちよっぱらってひっくりかえる。アリたちは顔を見あわせて、ニヤリとわらう、という結末。
以下3冊は、絵本ではないが紹介した。
資料2 p.138-142 セミをかわいそうに思ったアリが食べ物をわけてやるも、冬にやどなしのセミはみちばたで死んでしまう、という結末。
資料3 p.104-109 食べものをもらってよろよろと行ってしまうキリギリス。若いアリはその姿を見てあわれだとも「ああはなりたくない」とも思った、という結末。
資料4 p.10-13 「せみとあり」を朗読する「ぼく」に、突然木の上からセミが夏のあいだにアリからひどい仕打ちを受けた話を聞かせてくれる。「ぼく」はセミに同情する、という結末。
(2)日本ではいつ頃からキリギリスを助けてあげる話・絵本が出てきたのか。
CiNii Articlesを<イソップ><蟻>等のキーワードで検索したところ、以下の論文があった。当館では所蔵していないが、インターネットで本文が閲覧できる。
『仁愛大学研究紀要.人間学部篇』No.4 仁愛大学 2013年3月 p.78-86
「「イソップ寓話」翻訳・翻案の特異性:「蟻と蝉の事」の事例検証から」谷出千代子著
(http://ci.nii.ac.jp/naid/110009575039 最終確認日:2017年11月15日)
※ タイトルの「蝉」の表記は右上の部分が「ツ」ではなく「口」が横に二つ並ぶ。
上記の論文では、明治・大正期に発刊された複数の「アリとキリギリス」の原話の型となっている6種類を比較している。この型のうち、天草版伊曾保物語『イソポのハブラス』のみに「少しの食をとらせて蝉を戻した」という温情の描写があるという。
この『イソポのハブラス』は、天正遣欧使節団がポルトガルから持ち帰った活字印刷機によって1593(文禄2)年に印刷されて世に出たとある。(資料5 p.168-173)
また、資料5では、『イソポのハブラス』について、「温情の施しは原典にあるはずのないもの」「温情あるはからいをしたのは、どうやら『ハブラス』の蟻だけである。」と説明している。さらに、「原作に対するこうした温情主義的改変とでも呼ぶべき加筆が、現代日本の幼児向けの絵本類ではかなり高い比率で生じていることも注意を惹く。」との記述がある。(資料5 p.190-202)
なお、『イソポのハブラス』は、資料6に収録されている。p.56に「蟻、(中略)散々に嘲り、少しの食を取らせて、戻いた」という記述がある。
当館所蔵の絵本に限定すると、内容を確認した絵本のうち、キリギリスを助けてあげるものとしては、1983年刊行の資料7が最も古いものだった。
(3)最近出されたものは助けてあげる結末の方が多いのか。
(1)と同様に所蔵資料について確認をした結果、1990年以降に出版された資料のうちアリがキリギリスを助ける結末は、児童書全体(絵本を含む)では60点中8点、絵本に限定すると11点中4点が該当した。
(4)こうした結末や作風が違ってくる作品について解説する本があるか。
資料5(※再掲)、資料8に、特に「アリとキリギリス」の変容について言及があった。
また、CiNii Articlesを<アリとキリギリス><変容>等のキーワードで検索したところ、以下の2点の論文があった。当館では所蔵していないが、インターネットで本文が閲覧できる。
『明治大学国際日本学研究』6巻1号 明治大学国際日本学部 2013年
「イソップ寓話「アリとキリギリス」の日本的変容 : 『イソポのハブラス』における改変をめぐって (山口仲美教授退任記念号) -- (山口仲美教授退任記念特集)」渡浩一著 p.59-74
(http://ci.nii.ac.jp/naid/120005588537 最終確認日:2017年11月7日)
『東京家政大学生活科学研究所研究報告』12号 東京家政大学 1989年3月
「日本の寓話,童話,民話,伝説,説話等の系譜的綜合的研究 : 諸外国のそれら(すなわち Fabel, Marchen, Volkssage u.s.w.)との比較において」馬場喜敬、中地万理子、川合貞子、加藤優子著 p.27-68
(http://ci.nii.ac.jp/naid/110000227149 最終確認日:2017年11月7日)
- 回答プロセス
- 事前調査事項
- NDC
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- ギリシア文学 (991 9版)
- 参考資料
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- 【資料1】きんのおの / 二俣英五郎/さく・え / こずえ , 1983 <E/フ5/11>
- 【資料2】イソップ物語 2 / アイソポス/原作 / 日本書房 , 1960 <991/ア200/88-2>
- 【資料3】森のうさぎのとっておきのお話 / くもん出版 , 1992.5<908/3007/6>
- 【資料4】イソップ童話集 / イソップ/著 / 講談社 , 1962 <908/140/14>
- 【資料5】イソップ寓話 その伝承と変容 / 小堀桂一郎/[著] / 講談社 , 2001.8<K/991/ア200/607>
- 【資料6】キリシタン版エソポのハブラス私注 / 大塚光信/著 / 臨川書店 , 1983.3 <9917/ア30/6>
- 【資料7】イソップ / イソップ/[原作] / 大日本雄弁会講談社 , c1956 <E/ハ119/317>
- 【資料8】図説子どもの本・翻訳の歩み事典 / 子どもの本・翻訳の歩み研究会/編 / 柏書房 , 2002.4 <RK/909.0/5004/2002>
- キーワード
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 質問者区分
- 登録番号
- 1000229281