レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2020/10/31
- 登録日時
- 2020/12/12 00:30
- 更新日時
- 2020/12/12 00:30
- 管理番号
- 6001046892
- 質問
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解決
明治時代にはドレミでなくヒフミで歌うように教育していたらしいが、歌い方に関する音楽教育の変遷を知りたい。
- 回答
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(1)ヒフミ唱法
・古田庄平「読譜のための音感と唱法の問題について[2] ―<固定ド>と<移動ド>の問題を根底に―」『長崎大学教育学部教科教育学研究報告』第19号(長崎大学 1992.6)(2020/10/20現在)
http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp/dspace/bitstream/10069/30162/1/kyoikuKK00_19_03.pdf
第1章第2節「唱歌教育における「ヒフミ唱法」の開始」で、1881(明治14)年に音楽取調掛で編纂された『小学唱歌集(初編)』が紹介されており、「図1」「図2」で数字で書かれた音階が記されています。古田氏は「図2」について「(多分これは<教師>の範唱を生徒が<模唱>するという意味)の「練習曲」のようなもの」と言っています。また『伊澤修二選集』(信濃教育会/編 信濃教育会 1958:当館未所蔵)を引用して、「ヒー,フー,ミー,ヨー,イー,ムー,ナー」と呼んでいたことから、「ヒフミ唱法」と呼ぶようになったとしています(p.34-37)。
・『国家と音楽:伊澤修二がめざした日本近代』(奥中康人/著 春秋社 2008.3)
「第4章 国語と音楽」(p.127-186)の中で『小学唱歌集』のモデルになったメーソン編集の『Primary of First National Music Reader』に触れており、p.151に2つのテキストを比べた図版が掲載されています。メーソン編集のテキストも数字で音階の練習課題が示されていて、それがそのまま「ヒー,フー,ミー,ヨー,イー,ムー,ナー」となったと思われます。
なお、『小学唱歌集(初編)』と『伊澤修二選集』は国立国会図書館デジタルコレクションで閲覧可能です。前者はご自宅からでも読むことはできますが、後者は図書館間送信となっており、お近くの図書館間送信参加館の端末からしかご覧になれません(2020/10/20現在)。
『小学唱歌集(初編)』(文部省音楽取調掛/編 文部省 1884) 5コマ目 6コマ目
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/992051
『伊澤修二選集』「唱歌法取調書」 143コマ目「唱歌法凡例」
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3032923
(2)ドレミ唱法の採用
・杉山知子「唱法の研究(3)」『美作女子大学・美作女子大学短期大学部紀要 』第33号(美作女子大学〔ほか〕 1988)(2020/10/20現在)
https://mimasaka.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=637&item_no=1&page_id=13&block_id=21
「Ⅲ 日本へのドレミ唱法導入」のp.38に井上武士の次の資料を引用しています。
・「日本における唱法の変遷」『音楽教育研究』No.50(1970)
明治28年ごろ小山作之助の提案により「ドレミ唱法」が採用されたとあります。杉山はその理由として、明治30年代になって西洋化が進み、ドレミの発音や音程に対する抵抗感が減少したことと、「ヒフミ唱法」では「ヒヒヒ」「フフフ」など滑稽に聞こえてしまうことを挙げています。
(3)イロハ音名唱法採用
・古田庄平「我が国の音楽教育における読譜の歴史的な変遷について〔Ⅲ〕―<固定ド>と<移動ド>の音感と唱法の問題を根底に―」『長崎大学教育学部教科教育学研究報告』第12号(長崎大学 1989)(2020/10/20現在)
http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp/dspace/bitstream/10069/30073/1/kyoikuKK00_11_03.pdf
1941(昭和16)年に「イロハ音名唱法」が制定されたと書かれており、その理由に「和音訓練及び音高訓練に都合」がよいとしています。p.67に船や水進機や飛行機の爆音を聞き分ける「国防上必要といはれる雑音判別感覚の養成」とあります。
・昭和21年8月文部省通達「階名唱法について」(昭和21.8.28発教103号)「階名唱法に関する新聞発表」国立公文書館デジタルアーカイブ(2020/10/20現在)
https://www.digital.archives.go.jp/das/image/M0000000000000717216
では、文部省が、上記のような音感教育が「戦時中極度に重要視せられたため」「これを矯正して、音感教育を音楽教育の正しい手段に引き戻す」ためドレミ階名唱法に変更したと述べています(10コマ目)。
なお、戦後においても「唱法」については論争があり、以下の本に詳しく記載されています。
・『よい音楽家とは:読譜指導の理論と実践』(東川清一/編著 音楽之友社 1996.6)
村田千尋「戦後における唱法論争を省みる:唱法再考のために」(p.205-230)
また、唱法をめぐる記述については、次の一連の論文が参考になります。
・古田庄平「我が国の音楽教育における読譜の歴史的な変遷について―<固定ド>と<移動ド>の音感と唱法の問題を根底に―」『長崎大学教育学部教科教育学研究報告』(2020/10/20現在)
https://ci.nii.ac.jp/search?q=%E6%88%91%E3%81%8C%E5%9B%BD%E3%81%AE%E9%9F%B3%E6%A5%BD%E6%95%99%E8%82%B2%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E8%AA%AD%E8%AD%9C%E3%81%AE%E6%AD%B4%E5%8F%B2%E7%9A%84%E3%81%AA%E5%A4%89%E9%81%B7%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6&range=0&count=200&sortorder=1&type=0
に詳しく記載されています。「機関リポジトリ」を開けていただくと論文を読むことが可能です。
[事例作成日:2020年10月31日]
- 回答プロセス
- 事前調査事項
- NDC
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- 音楽 (760 10版)
- 参考資料
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- 国家と音楽 奥中/康人∥著 春秋社 2008.3 (151)
- よい音楽家とは 東川/清一∥編著 音楽之友社 1996.6 (205-230)
- http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp/dspace/bitstream/10069/30162/1/kyoikuKK00_19_03.pdf (古田庄平「読譜のための音感と唱法の問題について[2] ―<固定ド>と<移動ド>の問題を根底に―」『長崎大学教育学部教科教育学研究報告』第19号(長崎大学 1992.6)(2020/10/20現在))
- https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/992051 (『小学唱歌集(初編)』(文部省音楽取調掛/編 文部省 1884)国立国会図書館デジタルコレクショ(2020/10/20現在))
- https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3032923 (『伊澤修二選集』「唱歌法取調書」国立国会図書館デジタルコレクショ(2020/10/20現在))
- https://mimasaka.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=637&item_no=1&page_id=13&block_id=21 (杉山知子「唱法の研究(3)」『美作女子大学・美作女子大学短期大学部紀要 』第33号(美作女子大学〔ほか〕 1988)(2020/10/20現在))
- http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp/dspace/bitstream/10069/30073/1/kyoikuKK00_11_03.pdf (古田庄平「我が国の音楽教育における読譜の歴史的な変遷について〔Ⅲ〕―<固定ド>と<移動ド>の音感と唱法の問題を根底に―」『長崎大学教育学部教科教育学研究報告』第12号(長崎大学 1989)(2020/10/20現在))
- https://www.digital.archives.go.jp/das/image/M0000000000000717216 (「階名唱法に関する新聞発表」国立公文書館デジタルアーカイブ (2020/10/20現在))
- https://ci.nii.ac.jp/search?q=%E6%88%91%E3%81%8C%E5%9B%BD%E3%81%AE%E9%9F%B3%E6%A5%BD%E6%95%99%E8%82%B2%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E8%AA%AD%E8%AD%9C%E3%81%AE%E6%AD%B4%E5%8F%B2%E7%9A%84%E3%81%AA%E5%A4%89%E9%81%B7%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6&range=0&count=200&sortorder=1&type=0 (古田庄平「我が国の音楽教育における読譜の歴史的な変遷について―<固定ド>と<移動ド>の音感と唱法の問題を根底に―」『長崎大学教育学部教科教育学研究報告』(2020/10/20現在))
- キーワード
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- 唱法(ショウホウ)
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 事実調査
- 内容種別
- その他
- 質問者区分
- 個人
- 登録番号
- 1000290603