土鈴の読み方の語源について書かれている資料は見つけることができませんでした。百科辞典や国語辞典をみても「鈴」の項目はあっても鈴の種類の一つである「土鈴」が掲載されているものはほとんどなく、以下「鈴」「風鈴」「呼び鈴」「リン」(擬音語)というキーワードについて調べました。
●鈴の「レイ」「リン」という読み方について
『新大字典』【資料1】の2395P「鈴」によると、鈴の「レイ」は漢音、「リョウ」は呉音、「リン」は唐音とあります。同辞書では漢音は奈良時代から平安時代初期にかけて伝えられた音、呉音は漢音以前に伝えられた音、唐音は室町時代から江戸時代にかけて伝えられた音、慣用音は我が国で慣習的に用いられた音とあります。『日本の漢字1600年の歴史』204p【資料2】によると、「中世における唐音は、禅宗の修行を通して用いられたもので、仏教語のほかには「行灯・暖簾・布団・外郎」など事物名に使われるものがほとんどでした。禅宗は自己の修養のためで、他者に及ぶものではないことから、それらの字音は禅寺という限られた範囲での使用であり、社会全般に体系的に定着するには至りませんでした」とあります。
●「土鈴」の読み方について
『郷土玩具辞典』【資料3】235pによると「玩具としての土鈴が登場するのは江戸時代初期」とあり、「どすず」「つちのすず」ともいわれていたと書かれています。『日本民俗大事典』【資料4】912pの「鈴」の項には「鈴」を「どすずとも呼ぶ」と書かれています。
「すず」という読み方は「倭名抄」に「須須」という言葉がすでに使われていることから、かなり古くから日本にあるものとされており(『世界大百科事典15』【資料5】参照)、『郷土玩具辞典』【資料3】236pによると、「安永六年(1777)刊の『和訓栞』には、鈴はその音がすずしいのでこの名が生じたとある」と書かれているほか、『日本語源大辞典』【資料6】652pには、「すず【鈴】」の語源説として、「①響く音から②音がスズシイところから③スムの義」とあります。
●「風鈴」の由来について
鈴を「りん」と呼ぶ「風鈴」について調べました。
『世界大百科事典24巻』平凡社【資料7】 361pによると、「風鐸(ふうたく)ともいう。(中略)日本の風鈴に関する記述は鎌倉時代から見られ、(中略)室町時代には大衆化していたことがうかがえ(後略)」とあります。
また、「太宰府市文化ふれあい館 学芸だより」【資料8】によると、「もとは古代中国で、竹の枝につり下げて音の鳴り方で物事の吉兆を占う『占風鐸(せんふうたく)』に使われる道具であったと言われています。これが仏教とともに日本に伝わり、寺院の屋根の四隅や塔に下げられる風鐸になりました」とあり、「その後風鐸は浄土宗の開祖・法然(ほうねん)によって『風鈴(ふうれい)』と名付けられ、現在の『ふうりん』という呼び方が一般的になったといわれています」とあります(2022.11.29確認)。
また、『風鈴 NHK美の壺』【資料9】11pにも「法然はそれを『ふうれい』と呼んだようだが、それがのちに『ふうりん』と呼ばれるようになったという」とあります。「ふうれい」が「ふうりん」にいつ、どのように変化していったのか具体的には分かりませんでした。
●「呼び鈴」について
鈴を「リン」と読む「呼び鈴」について調べました。
『日本国語大辞典10』【資料10】676pによると、「人を呼んだり、合図したりするために鳴らすりん。よびすず。ベル」とあります。「呼び鈴」の文例として『花間鶯』(1887-88)末広鉄腸、『明暗』(1916)夏目漱石 などが紹介されていました。
●「レイ」「リン」について
『日本国語大辞典 第13巻』【資料11】1037pによると、鈴(れい)は
「①中国の体鳴楽器の一つ。金属製で形は鐘に似て小さく、柄があり、内側に舌(ぜつ)があって、振って鳴らす。周代では祭祀に用いた。また、一般装飾具などにも広く用いられた。
②仏教の法具の一つとしてのすず。金剛鈴
③合図や音楽のためのすず。りん。」とあります。
『世界大百科事典30』【資料12】78pによると、「〈鈴〉の字をレイと読む場合、日本では有柄有舌の体鳴楽器,すなわち把手をもち内部に舌を吊るして、振ると舌が本体の内側を打って発音するものをいい、一般には密教法具の金剛鈴を指す。しかし中国で〈鈴〉とするものは、スズや日本のレイと異なり、有紐有舌の鐘、すなわち吊り手をもち、内部に舌を吊るすものをいい、日本ではこれを古くから鐸〈たく〉と呼んでいる。さらに中国ではレイにあたる有柄有舌のものに鐸の字を用いており、混乱を招きやすい。」とあります。
『例文仏教語大辞典』小学館【資料13】 1114pによると、
「りん(鈴・輪) 仏具の一つ。読経の時、たたいて鳴らす金属製の小鉢形のすず。」とあります。
以上のことから、鈴は仏教にルーツがあり、「リン」と「レイ」と2種類の仏具が存在すること、「リン」は棒で打ち鳴らす仏具の一つで、「レイ」は金剛鈴のことを指し、中にある舌という錘のようなものが吊るされていて、柄を持って振ると舌が当たって音が出る密教道具という区別がされています。
●土鈴の他に「レイ」と読む鈴について
『世界大百科事典15』【資料5】29pによると、(前略)先史時代以来、粘土をこね焼成してつくった土鈴は、世界各地で知られている。(中略)日本では縄文時代に土鈴ともみられる土製品があるが、青銅のスズが伝わったのは古墳時代で、独立のスズには馬具の一種である馬鈴があり、犬や鷹狩りの鷹にスズを付けたことも埴輪から知られている。付属のスズには鈴鏡(れいきょう)、鈴釧(すずくしろ)、環鈴(かんれい)など、日本独自のものもある」と書かれています。また、『仏教語読み方辞典』【資料14】1090pには「鈴杵 れいしょ」という仏具が掲載されており、「鈴は漢音レイにて読む」とあります。
●擬音語のリンについて
参考として、「鈴」のリンの読み方に似ている擬音語「リン」「リンリン」について調べました。
『日本語オノマトペ辞典擬音語・擬態語4500』【資料15】502pによると、音としての「りん」は「金属などがものに当たって発する澄み切った鋭く響く音。鈴やベルなどの鳴る音」「口三味線で、三の糸をばちですくった音」とあります。一方、「りんりん」は「何度も金属が互いにふれ合う音。鈴やベルなどの鳴る音」「湯が沸騰して釜や鉄瓶などが続けざまに鳴る音」また「スズムシやマツムシなどの鳴く声」とあります。文例として『花月草子』(1796-1803)の「もとはりんりんとなくはまつにて、ちんちろりとなくは鈴なるを」、『日本橋』泉鏡花の「鐸(すず)の音が、りんりんと響いたので」などが掲載されていました。
以上、唐語である「リン」の読み方は少なくとも室町以降からの読み方で、鈴の読み方は「レイ」「スズ」が一般的であることが分かる資料を提供しました。名詞として使用されるケースは「風鈴」「呼び鈴」「鈴」(仏具)以外に今回は見つけることができませんでした。擬音語「リン」「リンリン」は主に金属を鳴らす音として表されることも、今回の質問の参考資料として提供しました。