レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2019年10月01日
- 登録日時
- 2021/11/23 14:57
- 更新日時
- 2021/11/23 18:57
- 管理番号
- 9000029113
- 質問
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解決
正岡子規の「柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺」という俳句の後に「それにつけても金の欲しさよ」と下の句を続けたものを見たが、意味のつながりがわからない。解説してある資料はあるか。
- 回答
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「それにつけても金の欲しさよ」は、金欲し付合(つけあい)と言われるもので、連歌でどんな上の句につけてもそれらしく聞こえるという。江戸中期に流行した。前半の句との関連はない。
古い記録では、藤原行定著『雑々拾遺 二』(1695(元禄8)年)に山崎宗鑑(1465?-1553?)(連歌師・俳諧師)が使ったことが記されている。『雑々拾遺』は早稲田大学古典籍総合データベースで閲覧可能。
このエピソードは、向坂咬雪軒「老士語録」(1731(享保16)年序)にも書かれており、天野政徳(1784-1861)(国学者)が随筆集『天野政徳随筆』(刊年不明)の中で「宗鑑の句」と題して「老士語録」を引いて紹介している。『天野政徳随筆』は『日本随筆大成 第3期 8』(吉川弘文館)に収録されている。
また、平賀源内(1728-1779)(博物学者・戯作者)は『風来六部集』(1780(安永9)年)に収録されている「放屁論後編」(1777(安永6)年)で「「それに付ても金のほしさよ」といへる下の句は、いづれの歌にも連続すると卑劣千万に覚え…」と述べている。当館資料では『日本古典文学大系 55』(岩波書店)に収録されている。また、『日本の名著 22』(中央公論社)で現代語訳を読むことができる。
また、太田南畝(1749-1823)(狂歌師)は、この下の句を利用し、「世の中はいつも月夜に米のめしさてまたまうしかねのほしさよ」という狂歌を詠んでいる。この句は四方赤良(よものあから)(太田南畝の別名)編『万載狂歌集』(1783(天明3)年)に収録。当館所蔵資料では『江戸狂歌本選集 第1巻』(江戸狂歌本選集刊行会/編 東京堂出版)p.235で読むことができる。
- 回答プロセス
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1.正岡子規の句集、俳句の事典などをみる 。
→前半の句は、「寒山落木 巻四」に収録。1895(明治28)年の句稿。下の句が付いたものはなし。
2.Googleで検索すると以下のような情報が得られた。
→室町時代後期に生きていた俳諧の祖、山崎宗鑑が考え出したということになっている
→かつて、有名な俳句のあとに続けて 「それにつけても金の欲しさよ」 を付け加えると愉快である旨の遊びがあった。
(例:子規)【柿食えば 鐘が鳴るなり 法隆寺 それにつけても金の欲しさよ】
→〈世の中は/いつも月夜と米の飯/それにつけても金の欲しさよ〉(大田南畝(なんぽ))
→金欲し付合(つけあい)といい、「それにつけても…」をつけることによってもっともらしい狂歌にしてしまう。江戸中期に流行した(ウィキペディア)
3.上記のうちウィキペディアの参考文献から下記の資料を調べる。
→『図説ことばあそび 遊辞苑』(荻生待也/編著 遊子館 2007)
p.263に「金欲し付合」の項あり。「「それにつけても金の欲しさよ」の短句を付け合うことによって、いかなる長句をも狂歌の体に収斂させてしまう遊びをいう」とある。江戸中期に流行し、作例として、「柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺 それにつけても金の欲しさよ」が挙げられていた。
4.『日本国語大辞典』(小学館)で「金欲し付合」を調査。
→「金欲し付合」の項は無かったが、8巻p.527に「それにつけても金の欲しさよ」の項があった。「連歌でどんな上の句につけてもそれらしく聞こえるという下の句。山崎宗鑑の句といわれる」とある。また、用例として滑稽本・風来六部集(1780)放屁論後編に「『それに付ても金のほしさよ』といへる下の句は、いづれの歌にも連続すると卑劣千万に覚え」が挙げられている。
5.山崎宗鑑(1465年頃~1553年頃)について調べる。
→『犬筑波集 研究と諸本』pp.434-435雑々拾遺における三條西逍遥院とのエピソードを紹介。逍遥院が「何人の歌にても」必ず相合する下の句として 「といへる歌はむかしなりけり」 という句を示したのに対し、宗鑑が「これにつけてもかねのほしさよ」という下の句がどんな歌にも相応すると答えたという。「雑々拾遺」を調べると、早稲田大学古典籍総合データベースで公開されていた。藤原行定著『雑々拾遺 二』(1695)(元禄8)に該当の記述あり。
6. 太田南畝(1749-1823)
→『大田南畝 江戸に狂歌の花咲かす』(小林ふみ子/著 岩波書店)
p.213 世の中はいつも月夜に米のめしさてまたまうしかねのほしさよ
(中略)「さてまた」以下の下の句は「それに付ても金のほしさよいへる下の句は、いづれの歌にも連続する」(平賀源内『放屁論後編』安永六・一七七七年刊)といわれる常套句をうまく使っている とある。この句は四方赤良(よもあから)(太田南畝の別名)編『万載狂歌集』(1783)(天明3)に収録。当館所蔵資料では『江戸狂歌本選集 第1巻』(江戸狂歌本選集刊行会/編 東京堂出版)p.235で読むことができる。
7. 平賀源内『放屁論』を調査
→『日本古典文学大系 55』(岩波書店)
p.241 「放屁論後編」「それに付ても金のほしさよ」といへる下の句は・・・」
p.438 補注 天野政徳の随筆で、向坂咬雪軒の老士語録に山崎宗鑑と逍遥院のエピソードを引いていることが記載されている。
『日本の名著 22』(中央公論社)
p.389 「放屁論続篇」の現代語訳が収録されている。
8. 天野政徳の随筆を調査
→『日本随筆大成 第3期 8 見た京物語』(日本随筆大成編輯部/編 吉川弘文館)
pp.37-38 「天野政徳随筆集」巻之一に「宗鑑の句」という随筆がある。向坂咬雪軒「老士語録」にある山崎宗鑑と逍遥院実隆とのエピソードを紹介している。
- 事前調査事項
- NDC
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- 詩歌 (911 10版)
- 参考資料
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荻生待也 編著 , 荻生, 待也, 1933-. 図説ことばあそび遊辞苑. 遊子館, 2007.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000009146867-00 , ISBN 9784946525841 (p.263) -
日本国語大辞典第二版編集委員会, 小学館国語辞典編集部 編 , 小学館. 日本国語大辞典 第8巻 第2版. 小学館, 2001.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000003023983-00 , ISBN 4095210087 (p.527) -
小林ふみ子 著 , 小林, ふみ子, 1973-. 大田南畝 : 江戸に狂歌の花咲かす. 岩波書店, 2014.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I025379261-00 , ISBN 9784000259712 -
江戸狂歌本選集刊行会 編. 江戸狂歌本選集 第1巻. 東京堂出版, 1998.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002738798-00 , ISBN 4490304501 (p.235) -
福井久蔵 著 , 福井, 久蔵, 1867-1951. 犬筑波集 : 研究と諸本. 国書刊行会, 1981. (福井久蔵著作選集)
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001500370-00 (pp.434-435) -
平賀‖源内 , 中村‖幸彦. 日本古典文学大系 55. 岩波書店, 1977.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I005621266-00 (p.241,438) -
杉田‖玄白 , 芳賀‖徹 , 杉田‖玄白 , 平賀‖源内 , 司馬‖江漢. 日本の名著 22. 中央公論社, 1974.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I011088798-00 (p.389) -
日本随筆大成編輯部 編. 日本随筆大成 第3期 第8巻. 吉川弘文館, 1995.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002438004-00 , ISBN 464209055X (pp.37-38) -
早稲田大学古典籍総合データベース「雑々拾遺 二」
https://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/bunko30/bunko30_e0159/index.html (pp.21-22)
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荻生待也 編著 , 荻生, 待也, 1933-. 図説ことばあそび遊辞苑. 遊子館, 2007.
- キーワード
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- 正岡子規
- 山崎宗鑑
- 俳句
- 俳諧
- 連歌
- 狂歌
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 事実調査
- 内容種別
- 言葉
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000307939