レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2016年06月16日
- 登録日時
- 2016/06/16 19:34
- 更新日時
- 2023/07/31 20:18
- 管理番号
- 2016-024
- 質問
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私が掘り出した根で作られた松根油(しょうこんゆ)で敵艦に突っ込まれた特攻隊の人達がおられるのではないかと忸怩たる思いがしてならない。後年になり、松根油の品質は粗悪で飛行機はそれでは飛べないと聞き及びホッと安堵したこともあったが、本当のところどうなのであろうか。[家正治(2001.9)「国際法(学)と私 」神戸外大論叢52(1),p.158]
- 回答
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『徳山海軍燃料廠史(徳山大学研究叢書, 7号) 脇英夫 [ほか] 共著 徳山大学総合経済研究所, 1989.3(395||1)』のp.325に以下の記述があった。
松根油航空揮発油を燃料として飛んだ飛行機は、一機もなかったと理解するほかない。仮にもしあったとすれば、それはテスト飛行で戦闘には使用されなかったというほかはない。
また、『海軍特殊攻撃機橘花 : 日本初のジェットエンジン・ネ20の技術検証 石沢和彦 三樹書房 2001.7(538=N1=)』のp.153に以下の記述があった。
定常運転では、普通の燃料(揮発油)または、松根原油に松根重油80%を混ぜたものでも全力運転まで安全にできたが、始動や加速の良さを充分に保つことのできる実用的な範囲は50%が限度とされている。松根油は牛乳色をしてどろんとした臭い液体であるが、時間の経過とともに粘っこい重合成分ができて、燃料フィルターを詰まらせたり、燃料噴射状態が悪くなるなどの弊害があった。エンジン始動時には、通常の燃料を供給して行い、加速中に松根重油(ガソリン含有量20~30%)に切り替えるという方法を用いていた。
- 回答プロセス
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【資料1】神戸市立中央図書館所蔵『日本海軍燃料史 上 燃料懇話会/編 原書房 1972.10(397=K2=1)』のp.45、p.373に以下の記述があった。
松根油(p.45)
昭和19年在独武官から、独逸では針葉樹のテルペンが航空揮発油として利用されているとの情報があり、第一海軍燃料廠で廠内の松の木を伐採して、乾溜実験を行った処、生松に対して約8%の乾溜油を得た。これは略石炭の低温乾溜に匹敵する収率であり、水素添加に依り容易に優良な航空揮発油に転化し得ることが確認された。非常時対策として、生松の乾溜に依る航空揮発油の製造計画を立て、農林省と協議したところ、同省では松の伐採に難色を示し代案として松根の利用を提案し協力を約した。かくて農民の全面的協力を得て、全国的規模で松根油を採取することになったが、陸軍も亦これに参加し、両軍の間で区域別の分担が協定せられた。第一海軍燃料廠では更に研究の上、松根乾溜釜の型式及び取扱い基準が定められ、全国を通じ建設せられた松根釜は約5万基に達した。海軍では松根油は各地海軍燃料廠に集積加工する外、簡易処理工場が計画せられ、着々と準備が進められ、一部航空揮発油の生産を見たが、一般に使用せられる段階には至らなかった。終戦迄に全国を通じ生産された松根油は約20万竏に達し、戦後燃料皆無の際唯一の漁船用燃料として活用された。
第三燃料廠(p.373)
中国四国の生産品を搬入し、逸早く運転を開始した。航揮精製には2方式が考えられた。その第1は丸釜の300℃以下の溜分の高圧分解水添法、第2は取込原油をジャイロ式熱分解にて処理し、150℃以下の溜分を低圧水添する方法であって、20年4月約700klを第2方法にて作業開始したが、未だ運転整定しない5月10日空襲に遭遇した。然し熱分解1基と低圧水添及高圧分解水添は被害僅少であったので、鋭意復旧し、4日後に完成し運転を再開し約500klの航揮を生産した。これが松根油より生産した唯一の航揮であった。
同廠が空襲を受けた直後、航揮原料は挙げて第二燃料廠に搬入することに方針を変更されたが、其の後第二燃料廠が爆撃を受けたので、搬入原料油はその儘宙に浮いて終わった。
【資料2】兵庫県立大学図書館政策科学研究所所蔵『徳山海軍燃料廠史(徳山大学研究叢書, 7号) 脇英夫 [ほか] 共著 徳山大学総合経済研究所, 1989.3(395||1)』のp.325に以下の記述があった。
松根油航空揮発油を使用すれば、その情報を当然知る立場にあった当時軍需局第二課員が、実際飛行機に使用したとの情報を得ていないとすれば、ほかにわれわれは知る手段があるのであろうか。
要するに松根油航空揮発油を燃料として飛んだ飛行機は、一機もなかったと理解するほかない。仮にもしあったとすれば、それはテスト飛行で戦闘には使用されなかったというほかはない。
【資料3】国立国会図書館デジタルコレクション(図書館送信資料)収録『原爆機東京へ : 新版・太平洋戦争秘録 木村登 著 鱒書房, 1952( http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1660060 )』のp.199に以下の記述があった。
松根油では一機も飛べず(p.199)
だが終戦時までに航空機用の予定で松根粗油から精製されたガソリンは、わずか三千バレルに過ぎなかった。
これらの松根油ガソリンが、陸海軍の各飛行基地に、数本ずつ、ドラム罐(かん)入りで届いたが、それだけではどうしても飛行機を飛ばすことはできなかった。わずかに血の一滴のような本当の航空ガソリンと混用して、練習機が数回試験飛行を行つただけという実情だつた。試験飛行の結果は「こんな不良燃料では、いつエンジンが止まるかわからない」という。
【資料4】CiNii Articles( http://ci.nii.ac.jp/ )を「松根油」で検索。石田 憲治(2006.1)「日本初のジェット機「橘花」と松根油」Marine engineering : journal of the Japan Institution of Marine Engineering = マリンエンジニアリング : 日本マリンエンジニアリング学会誌 41(1),62-65に以下の記述があった。
松根油が、日本最初のジェット機「橘花」の試験飛行に使われたのは事実である。
【資料5】上記論文の参考文献である、神戸市立中央図書館所蔵『海軍特殊攻撃機橘花 : 日本初のジェットエンジン・ネ20の技術検証 石沢和彦 三樹書房 2001.7(538=N1=)』のp.153に以下の記述があった。
石油不足のため当時でいう航空用揮発油は一切使用しないという方針が出され、松の木の油を成分とした松根油(注)のなるべく重質分(松根重油)を使用することを要求されたのである。定常運転では、普通の燃料(揮発油)または、松根原油に松根重油80%を混ぜたものでも全力運転まで安全にできたが、始動や加速の良さを充分に保つことのできる実用的な範囲は50%が限度とされている。松根油は牛乳色をしてどろんとした臭い液体であるが、時間の経過とともに粘っこい重合成分ができて、燃料フィルターを詰まらせたり、燃料噴射状態が悪くなるなどの弊害があった。エンジン始動時には、通常の燃料を供給して行い、加速中に松根重油(ガソリン含有量20~30%)に切り替えるという方法を用いていた。「橘花」用のネ20では、空中始動は考慮していなかったので、これで問題はなかったが、爆撃機「連山」に懸架される予定の「桜花-33」用のネ20では、母機から離脱するときに高空で始動する必要があるために、当時日本が考えていたほど簡単でないのではないかと米軍は解析している。しかし、別の報告書によると、1式陸攻(米軍呼称:「ベティー」)に試験的に搭載された1台のネ20が3,000m(9,800ft)の上空まで始動に成功したとされている。ただし、そのとき使用された燃料が何であるかの記録はない。
(注)松根油: ジェットエンジン用の燃料の条件として、単位重量当たりの発熱量が大きいこと、着火や燃焼が安定していること、引火し難く、取り扱いが安全なことなどが挙げられるが、松根油はこれらの条件を満足し、戦時下でも容易に入手できるということで注目された。松根油に関しては1944年初頭頃から第1燃料廠で松の木を対象とした木材乾留法によってタール分を採取する方法が研究され、乾留温度440℃でタールの収量は最大となり、60年以上の老樹の松の木で収量が大きいなどという基礎的資料を得ている。海軍では1944年12月に第1燃料廠内に松根油生産本部を新設し、1945年6月には年産360,000klの生産目標をほぼ達成するに至ったという。
渡辺進氏によると、松根油それ自体はコーヒー色をしていたが、アルコールなどに混合すると牛乳色に白濁し、燃焼させると強力な松脂の臭いがしたという。
- 事前調査事項
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家正治(2001.9)「国際法(学)と私 」神戸外大論叢52(1),157-166
http://id.nii.ac.jp/1085/00001189/
- NDC
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- 軍事施設.軍需品 (395 9版)
- 参考資料
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戦争中に石油のかわりに使われたという松根油についての資料はあるか。(香川県立図書館)
https://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000034136 -
太平洋戦争末期に全国規模で行われた、松根油の採油の新潟県での事例について。(新潟県立図書館)
https://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000026311 -
松根油に関する資料はありますか。(栃木県立図書館)
https://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000004210 -
戦時中の松根油の生産について。県内ではどの市町で生産されていたか。宇都宮市でも生産していたのか。(栃木県立図書館)
https://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000233864 -
昭和20年頃、富山県内で採取量がピークを迎えた「松根油」について書かれたものはないか。(富山県立図書館)
https://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000070354 -
松の油が戦争中に燃料として使われていたと聞いた。なんという名前なのか知りたい。(蒲郡市立図書館)
https://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000129730 -
太平洋戦争中、戦闘機の燃料として、兼六園の松の木の脂(松根油)が使われたというが、その事が記された文献はないか。(石川県立図書館)
https://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000089774 -
終戦間際に松の根から航空機の燃料をとっていた場所が郡山にもあったと聞くがどこだったのか?(郡山市中央図書館)
https://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000284631 -
戦時中、豊平村下古田(しもふった)鬼場(おにば)にあった「松脂」(まつやに)工場の場所を知りたい。(茅野市図書館)
https://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000269872
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戦争中に石油のかわりに使われたという松根油についての資料はあるか。(香川県立図書館)
- キーワード
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- 松根油
- 航空揮発油
- テスト飛行
- 橘花
- 照会先
- 寄与者
- 備考
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【資料1,5】神戸市外国語大学の学内者は、神戸市立図書館所蔵の図書を無料で取り寄せることができます。資料到着までの所要日数は2~5日、貸出期間は2~3週間です。ただし、貸出中の図書や予約が多い図書はさらに日数がかかります。
https://www.kobe-cufs.ac.jp/library/guide/ill/ill-guide.html#books
【資料2】神戸研究学園都市大学(UNITY)の所属者は、兵庫県立大学神戸商科学術情報館の利用が可能ですが、政策科学研究所の資料は事前に連絡が必要です。
https://www.unity-kobe.jp/
【資料3】館内の国立国会図書館デジタル化資料送信サービス端末で、国立国会図書館デジタルコレクション(図書館送信資料)を閲覧できます(卒業生、市民利用者の方はご利用いただけません)。
http://www.kobe-cufs.ac.jp/library/riyou/service.html#ndl
【資料4】本学では「機関定額制サービス」を契約しているので、学内PCからアクセスすると本文を表示できるものがあります。
http://www.kobe-cufs.ac.jp/library/odb/
2017.03.02追記
機関定額制の終了及び機関認証の利用手続きのご案内(NII学術コンテンツサービス サポート)
https://support.nii.ac.jp/ja/news/cinii/20170220
2023.07.31追記
国立国会図書館デジタルコレクションは2022年5月19日から「個人向けデジタル化資料送信サービス」を開始しています。
https://www.ndl.go.jp/jp/news/fy2022/220519_01.html
- 調査種別
- 事実調査
- 内容種別
- 質問者区分
- 教員
- 登録番号
- 1000193485