レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 登録日時
- 2008/10/25 02:12
- 更新日時
- 2008/10/25 10:05
- 管理番号
- B2008M1356
- 質問
-
解決
統合失調症について、自宅での療養生活で、統合失調症に効果があるとされる食事療法(食材)に関して詳細に記載のある資料を探しております。
- 回答
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統合失調症に効果があるとされる食事療法(食材)に関する記載がある資料について回答します。【 】内は当館請求記号です。
<和図書>
当館NDL-OPAC( http://opac.ndl.go.jp/index.html )を以下の条件で検索してヒットした資料に対して、ブラウジング調査を行いました。
件名: 統合失調症
出版年: 2005年以降
当館請求記号: S(医学・薬学等)で始まるもの
調査済み資料欄に記載された資料以外では、以下の3点の資料に統合失調症と食事の関係についての記述がありました。
(1)『統合失調症100のQ&A : 苦しみを乗り越えるために』(リン・E.デリシ著 功刀浩,堀弘明訳 星和書店 2008.4 【SC377-J50】)
ニューヨーク大学の精神医学教授であるLynn E. Delisi氏の著作『100 Questions & Answers about Schizophrenia: Painful Minds』
(Jones and Barlett Publishers, 2006 当館所蔵なし・国内所蔵機関確認できず)の全訳本です。統合失調症を100のQ&Aを通して解説しています。統合失調症と食事に関するQ&Aは以下の2点です。
・No.33 「治療に有効な食べ物はあるでしょうか?」(pp.66~67)
糖分、人工甘味料のアスパルテーム、農作物にまかれた殺虫剤などの過剰摂取、または魚油の不足などを統合失調症の原因であると主張している人たちがおり、食事を変えることで体内から毒素を排出できると主張する団体があることが記載されています。それらの団体の厳密な研究や治験に裏付けられていない治療法を否定する記述がなされています。
・No.34 「ビタミン剤や魚油はどうでしょうか?」(pp.67~70)
ビタミンB3(ナイアシン)の大量投与による治療を提唱するエイブラハム・ホッファー博士の治療法と、マツヨイグサ, ルリジシャ, クロフサスグリの種に含まれるオメガ-3(魚油)由来のガンマ-リノレン酸(GLA)の有用性を唱えるデービッド・ホロビン氏の治療法を紹介しています。前者については、主張を裏付ける科学的な研究が存在しないことを、後者については、弱いながら効果があることを示した小規模な研究はあるものの、多くの研究では効果が確認できておらず、否定的な見解を示しています。
(2)『統合失調症を治す : 栄養療法による驚異的回復!』(A.ホッファー著 大沢博訳 第三文明社 2005.10 【SC377-H338】)
(1)の資料のNo.34で否定的に紹介されているエイブラハム・ホッファー博士の著書『Orthomolecular Treatment for Schizophrenia
- Megavitamin supplements and nutritional strategies for healing and recovery V』(Keats, 1999 当館所蔵なし・国内所蔵機関確認できず)の和訳本です。精神安定剤などによる薬物療法とビタミンB3等の栄養素による分子整合療法の併用が効果的との見解を示しています。
(3)『統合失調症がよくわかる本』(E.フラー・トーリー著 南光進一郎,中井和代訳 日本評論社 2007.7 【SC377-H575】)
スタンレー医学研究所のE. Fuller Torrey博士の著書『Surviving Schizophrenia: A Manual for Families, Patients, and Providers』
(第5版 HarperCollins Publishers 2006 当館所蔵なし・国内所蔵機関確認できず)の和訳本です。病理と治療法のみでなく、「患者と家族が、統合失調症と向かい合って生きていくには」、「一般社会における統合失調症」、「権利擁護のために」などにも触れている資料です。食事との関係については、「第8章 薬以外の治療とケア」に「食餌療法」(p.165)の項があり、以下のような記述があります。
“前世紀から統合失調症治療に役立つとして、種々の食餌療法が提案されてきました。最も詳しく調べられているのは、ミルクや肉を含まず、またグルテンのない食餌療法です。残念ながら研究のほとんどは症例数が少なく、統計学的に決定的な結論を導き出すことはできません。”
“いろいろなビタミンやミネラルを多く含む種々の食物養生法も提唱されています。一九九〇年には、葉酸(ビタミンB12)補充を六ヵ月間受けた一七人の統合失調症患者が臨床的に改善したとの報告がありましたが、今までのところこの研究を支持する報告はありません。”
現時点では特別な食餌療法が統合失調症の治療に役立つことを支持するたしかなデータはないとしています。
上記、3点の資料のうち、(2)のno.34で取り上げられているデービッド・ホロビン氏の著作としては、当館東京本館では以下の資料を所蔵しています。
(4)『天才と分裂病の進化論』(デイヴィッド・ホロビン〔著〕 金沢泰子訳 新潮社 2002.7 【SC377-G522】)
イギリス分裂病協会医療顧問のDavid Horrobin氏の『The Madness of Adam and Eve: How Schizophrenia Shaped Humanity』
(Bantam Press, 2001)の和訳本です。
「17 「人は生きんがために食うべきにして・・・・・・」モリエール(1622-1673)」(pp.256-274)に、オメガ3脂肪酸を用いた治験に関する記述があります。
また、貴館調査済みの下記2件の資料にも、統合失調症と食事に関する記述がありましたので、念のためお知らせします。
(5)『統合失調症 : 患者・家族の悩みや不安・疑問にやさしく答える』(春日武彦監修 主婦の友社編 主婦の友社 2007.5 【SC377-H559】)
調査済み資料欄に“『専門医が考えるQ&A 統合失調症』春日武彦/著 (主婦の友社) 平成19年5月31日発行”と記述されている資料です。pp.152-153に「食事や嗜好品のとり方で注意すべきこと」という項があり、“統合失調症の人は「適量」を楽しむことが苦手”であるので、食事においても、食べすぎ、塩分や糖分のとりすぎ、栄養のかたよりに注意する必要がある旨が記述されています。
(6)『統合失調症』(春日武彦監修 主婦の友社編 新版 主婦の友社 2008.7 【SC377-J81】)
調査済み資料欄に“『よくわかる最新医学 統合失調症』春日武彦/著 (主婦の友社) 平成17年2月20日発行”と記述されている資料の新版です。pp.116-119に「食事、酒、タバコと病気とのかかわりは?」の項があり、“統合失調症は、たとえば糖尿病のような、食事療法を必要とする病気ではありません。食習慣によって起こる病気ではないからです。”という記述があります。その上で、(4)と同様、食べすぎ、塩分や糖分のとりすぎ、かたよりに気をつけるようにと記述されています。
以上のように、お尋ねの件に該当する内容について、肯定的に記載された和図書は、(2)および(4)のみです。また、(1)のようにその効果に対して否定的な見解もあります。
<和雑誌>
当館が契約している医中誌Webを以下の条件でAND検索したところ、30件のレコードがヒットしました。(会議録については査読を受けていないこと、詳細な記述が期待できないことから対象からはずしています。)
検索語:「統合失調症」
検索語:「食餌療法」 or 「食事療法」
論文言語: 日本語
論文種類: 会議録を除く
動物の種類: ヒト
大半の文献が統合失調症患者が併発しがちな肥満や糖尿病に対する食事療法に関するものであり、統合失調症そのものに対する食事の影響に関する記述がある文献は、以下の3件でした。
(7) 大沢博:「荒れる社会と栄養療法 なにが,こころと社会を荒廃させているのか~」 (『綜合医学』 29巻7号 pp.2-7 (2006.07) 【Z19-1188】)
岩手大学の大沢博名誉教授の講演記録です。10代の若者の食生活と低血糖についての講演です。低血糖になると血糖を上げるべくアドレナリンが出てくることを述べているところで、このアドレナリンが統合失調症と関係しているとして、上記(2)の文献の著者であるホッファー博士の説を取り上げています。統合失調症を治療するという観点からの記述はありません。
(8) 稲田浩:「精神科領域における栄養療法」(『治療』 85巻11号 pp.2943-2949 (2003.11) 【Z19-385】)
秩父中央病院精神科の稲田浩氏による特集記事です。pp.2946-2948に「統合失調症と栄養」の項目があり、総脂肪および飽和脂肪酸摂取量、カフェインの大量摂取、葉酸・アスコルビン酸等の栄養欠乏などと統合失調症の関係に言及したメルビン・R・ワークバックの説やB群+ナイアシン+B12・葉酸、亜鉛、ビタミンC、月見草脂とペニシリンGとの併用、EPAといった栄養が統合失調症に有効とされていることに触れています。その一方で、栄養療法に過度の期待をする患者には、栄養で症状が劇的に改善する例ばかりではなく、薬物が必要な例が多いことを説明すべきとしており、栄養療法は絶対的なものではないと主張しています。今回紹介している3つの雑誌論文の中では、この文献の記述が一番詳細なものです。
(9) 浜崎智仁:「魚油の最新の知見-行動と精神障害」(『Atherothrombosis』 3巻1号 pp.39-40 (2000.01) 【Z74-B135】)
平成11年5月25日に横浜にて開かれた第3回神奈川県JELIS研究会での富山医科薬科大学和漢薬研究所の浜崎智仁教授の特別講演の内容報告です。統合失調症と直に関係する記述は、“精神分裂病に対してもEPA、DHA、Placeboの3群における比較試験で、EPA3ヶ月投与群のみ改善効果が認められた。”という記述のみです。
調査結果は以上です。統合失調症に対する栄養療法については、肯定的な考え方と否定的な考え方の双方があるため、注意が必要です。
NDL-OPAC、医中誌Webの最終アクセス日は2008年10月3日です。
- 回答プロセス
- 事前調査事項
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『専門医が考えるQ&A 統合失調症』春日武彦/著(主婦の友社)平成19年5月31日発行
『よくわかる最新医学 統合失調症』春日武彦/著(主婦の友社)平成17年2月20日発行
『統合失調症を生きる』NHK制作班(NHK出版)平成17年1月25日発行
『統合失調症の疑問に答える本』福西勇夫/著(法研)平成16年9月25日発行
『統合失調症治療を拒むときに読む本』福西勇夫(法研)平成17年10月17日発行
『統合失調症の臨床心理学』横田正夫/著(東京大学出版会)平成15年9月12日発行
- NDC
-
- 内科学 (493 9版)
- 参考資料
- キーワード
-
- 医学
- 医療
- 統合失調症
- 食事療法
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- NDC副出:498
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 質問者区分
- 公共図書館
- 登録番号
- 1000048405