レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2023/02/01
- 登録日時
- 2023/08/05 00:30
- 更新日時
- 2023/08/05 00:30
- 管理番号
- 小寺池図書館 R1001235
- 質問
-
解決
「やじ、やじる」について書いた本を探してほしい。特に以下の内容がわかるもの。
(A)「やじ、やじる」の意味と語源
(B)他の語句(悪口、罵倒、暴言、嫌がらせ、非難、皮肉)との違い。「やじ」は応援や激励の意味でも使用する。また、「やじ」という言葉は目の前にいる人に面と向かっては使用しないし、不特定多数に向けても使用しないのでは。「やじ」の適切な使用法。
(C)「やじ」の使用はいつ頃からなのか。特に国会や選挙、スポーツなどの事例。
- 回答
-
(A)「やじ、やじる」の意味と語源
質問(B)~(C)への回答も念頭に用例や語源を探し、以下の資料を紹介した。
参考資料(1)『日本国語大辞典』第二版より
◎「やじ【彌次・野次】」(1)やじうまの略。(2)やじること。また、その文句。
◎「やじうま【彌次馬・野次馬】 」(1)父馬。老いた牡馬。老馬。暴れて馴らしにくい馬。悍馬。(2)物見高いこと。また、自分とは無関係なことにむやみと口出しをしたり、他人のしり馬に乗って無責任に騒ぎたてたり、見物に出たりすること。また、その人。語源:「やじ」は「おやじ」の変化した語とも、また「やんちゃ」の変化した語ともいう。もし、そうなら、歴史的かなづかいは「やぢうま」。
◎「やじ・る【彌次・野次】」「やじ」の動詞化。人の言動に非難やからかいのことばを浴びせる。また、味方を応援するために、相手の言動を妨害して、あざけりはやしたてる。
参考資料(2)『大言海』新編版より
◎「やじ【彌次】」(1)やぢ(じ)うまノ略。(2)ヤジルコト。
◎「やじ(ぢ)うま【牡馬】 」(1)おやぢ(じ)(親仁)馬ノ略。老イタル牡馬。又、強悍ニシテ御シ難キ馬。(2)転ジテ、己レノ関係ナキコトニ、付和雷同シテ騒グ者ヲ、嘲リ言フ語。又、彌次馬。しりまひ(尻舞)ノ条ヲモ見ヨ。
◎語源:おやぢうま(老牡馬)ノ上略語、やぢうま、即ち老馬ハ、役ニ立タヌモノニテ、常ニ若キ馬ノ尻ニツキテ歩クヨリ、尻馬トモ呼バレ、ソノ尻馬ガ雷同ノ意ニ転ジタルモノト。又、一説ニ、やぢうまハ、やんちゃうまノ略転ニテ、御シ難キ、ダダヲコネル馬ノ意。
◎「やじ・る【彌次】」人ノ言動ヲ嘲罵シ、又ハ、妨害ス。
◎「やじうま」の類語「しりまひ【尻舞】」について「人ノ後(シリ)ニ附キテ、其真似ヲスルコト。人ノ後ニ附キテ、事ヲスルコト。二ノ舞。ヤヂウマ。シリウマ。」との記載あり。十四世紀後半頃の成立といわれる『源平盛衰記』に用例あり。
◎参考資料(3)『明治のことば辞典』(東京堂出版)に引用された明治44年刊『辞林』と明治45年刊『大辞典』によると「やじうま」は東京の方言とあり。
◎参考資料(4)『江戸ことば・東京ことば辞典』(講談社)によると、「やじを飛ばす」「やじる」は明治以降の言い方とのこと。対して「やじうま」は江戸期以来の語で、参考資料(5)『江戸語の辞典』(講談社)にも用例あり。
◎「やじ(ぢ)うま」用例の上限を調べると、参考資料(6)『岩波古語辞典』補訂版、参考資料(7)『角川古語大辞典』ともに江戸期の用例のみ。参考資料(8)『現代語古語類語辞典』(三省堂)によると「やじうま」は近世に使用され、類語の「ものみだけし【物見猛】」「ものみだかし【物見高】」は中世に使用されたとのこと。参考資料(9)『時代別国語大辞典 室町時代編』(三省堂)にも「ものみだけし」はあったが「やじ(ぢ)うま」はなかった。
(B)類語と適切な使用法。
参考資料(10)『日本語大シソーラス 類語検索大辞典』(大修館書店)より
◎「やじ」に意味の似た語句例は「冷かす」「ちゃかす」「半畳を打つ」「雑(ま)ぜ返す」「囃す」「言い奨(そや)す」。「やじ」に近い語群は「口を挟む」。
◎「やじうま」に意味の似た語句例は「下馬(げば)雀」「パパラッチ「御他聞連」「冷かし」。「やじうま」に近い語群は「うるさ型」「付和雷同」。
◎「やじる」に意味の似た語句例は「やじ」を参照。「やじる」に近い語群は「口を挟む」感嘆詞の「ぶーぶー」。
◎質問者から頂いた以下の語句と「やじ」は類語として分類はされていない。
*「悪口」に近い語群:「低い評価」「言葉遣いが悪い」「嫌がらせ」「貶(けな)す」「誉められない」
*「罵倒」に近い語群:「罵る」
*「暴言」に近い語群:「貶す」
*「嫌がらせ」に近い語群:「妨害する」「意地悪」「あの手この手」
*「非難」に近い語群:「難詰」
*「皮肉」に近い語群:「風刺」「反語」「碗曲」「怨み骨髄に徹す・執念深い」
◎「やじ」は「応援」や「激励」の類語として分類はされていない。参考資料(1)の「やじ・る」によると、「味方を応援するために、相手」に対して使用することもあるとのこと。
◎参考資料(11)『研究社日本語口語表現辞典』の「やじをとばす【野次・弥次を飛ばす】」には「他人の言動に対して、少し離れたところから、大声で非難やひやかしの言葉を浴びせる」と説明されている。
(C)「やじ」の使用はいつ頃か
◎国立国会図書館の〔帝国議会会議録検索システム〕によると、議事録に残る「野次・弥次」の初出は1945年(昭和20年)12月4日の「第89回帝国議会 衆議院 衆議院議員選挙法中改正法律案外一件委員会 第1号」。
◎読売新聞データベース〔ヨミダス歴史館〕で「野次・弥次」を見出し検索すると、政治関係の「やじ」初出は1910年(明治43年)3月23日「佐々木照山の野次り方を、小久保喜七、長谷場純孝が賞賛」。議会関係の「やじ」初出は1915年(大正4年)5月29日「議会野次の元祖 フランス議会の騒擾ぶり」。スポーツ関係の「やじ」初出は1910年(明治43年)10月19日「日米大学野球 試合より見ものだった早稲田の野次ぶり」。「やじうま」の初出は1876年(明治9年)10月6日「投書 火事場手伝いに来て野次馬と化す者も」。
但しキーワード検索した場合、本文で「やじ」という語句は使用していなくても、類似の語句でヒットする模様。その場合、政治関係の「やじ」初出は1882年(明治)7月2日朝刊の「女論客の政談演説会に大聴衆、3日目の演説には中止命令/阿波・徳島」。議会関係の「やじ」初出は1891年(明治24年)12月3日「衆議院雑報 白根次官の演説に傍聴席からヤジ 圧制ノー」。
◎朝日新聞データベース〔朝日新聞クロスサーチ〕でキーワード検索すると、政治関係の「やじ」初出は1915年(大正4年)2月24日「後援会弥次らる」。議会関係の「やじ」初出は1924年(大正13年)2月25日「逓信省のお役人が立派な擬国会(中略)弥次だけは本物らしい」。スポーツ関係の「やじ」初出は1906年(明治39年)11月15日「野球試合中止に就いて 安部磯雄(寄)」。」。「やじうま」の初出は1879年(明治12年)12月20日「今度長崎丸の席貸(中国の娼妓引き連れ松島でひと儲け図る)。
- 回答プロセス
- 事前調査事項
-
国語辞典は利用者自身が確認済み。「やじ・る」(1)〔演説のさいちゅうなどに聴衆の中から〕非難やからかいのことばを出す。(2)味方を応援するために相手方をひやかし、じゃまをする。(『三省堂国語辞典』第七版より)
- NDC
- 参考資料
-
- 日本国語大辞典 第13巻 小学館国語辞典編集部/編集 小学館 2002.1 813.1 , ISBN 4-09-521013-3 (p.95,104)
- 大言海 大槻文彦/著 富山房 1982.2 813.1 , ISBN 4-572-00062-X (p.1055,2098,2099,)
- 明治のことば辞典 惣郷正明/編∥飛田良文/編 東京堂出版 1986.12 813.7 , ISBN 4-490-10220-8 (p.572)
- 江戸ことば・東京ことば辞典 松村明/[著] 講談社 1993.7 818.36 , ISBN 4-06-159084-7 (p.394)
- 江戸語の辞典 前田勇/編 講談社 1979.10 818.36 , ISBN 4-06-158422-7 (p.1005)
- 岩波古語辞典 大野晋/[ほか]編 岩波書店 1990.2 813.6 , ISBN 4-00-080073-6 (p.1345)
- 角川古語大辞典 第5巻 中村幸彦/編∥岡見正雄/編∥阪倉篤義/編 角川書店 1999.3 813.6 , ISBN 4-04-011950-9 (p.676,731)
- 現代語古語類語辞典 芹生公男/編 三省堂 2015.9 813.6 , ISBN 978-4-385-13994-4 (p.2001)
- 時代別国語大辞典 室町時代編5 三省堂 2001.1 813.6 , ISBN 4-385-13606-8 (p.462)
- 日本語大シソーラス 山口翼/編 大修館書店 2003.9 813.5 , ISBN 4-469-02107-5
- 研究社日本語口語表現辞典 山根智恵/監修∥佐藤友子/編集委員∥松岡洋子/編集委員∥奥村圭子/編集委員 研究社 2013.11 813.4 , ISBN 978-4-7674-9112-7 (p.1058)
- 帝国議会 村瀬信一/著 講談社 2015.11 314.12 , ISBN 978-4-06-258615-3 (p.133,142,188,194,198,219)
- 帝国議会 久保田哲/著 中央公論新社 2018.6 314.12 , ISBN 978-4-12-102492-3 (p.234)
- 国立国会図書館 帝国議会会議録検索システム
- 読売新聞データベース ヨミダス歴史館
- 朝日新聞データベース 朝日新聞クロスサーチ
- キーワード
-
- 野次
- 弥次
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 語学
- 内容種別
- 参考資料
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000336948