レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 20200131
- 登録日時
- 2020/03/17 00:30
- 更新日時
- 2021/07/19 18:30
- 管理番号
- 中央-2019-23
- 質問
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解決
right(s)の意味が「権利」として定着した背景がわかる資料があるか。特に、福沢諭吉が提案した新訳についての記述があれば知りたい。
- 回答
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都立図書館蔵書検索や各種データベースを<翻訳語><明治><権利><right>等で検索、調査した。また、それぞれの文献の参考文献のうち、関係がありそうな図書や論文も検索し、所蔵のあるものについて確認した。
翻訳語の定着した背景については、下記の資料に記載があった。また、都立図書館では未所蔵だが、関連のありそうな文献も併記する。
資料1の巻末の「事項索引」で「権利」をひくと「権利と義務」(p.101-102)、「人権・人間の権利」(p.164-165)、「法」(p.249-250)に導かれる。各項目は【原語の意味】と【翻訳語の意味】に分けて解説されている。()内は項目の解説執筆者名である。
「権利と義務」の【翻訳語の意味】(堅田剛)には「(I) 権利.翻訳語としての「権利」を考える場合、これを当然のごとく英語のrightの訳語と考えてはならない。「権利」はなによりもドイツ語のRechtに由来する。」と始まり、それに続けて、西周が二つの意味を持つドイツ語Rechtのいずれの意味にも「権利」の訳語をあてているが、「必ずしも誤訳とはいえない」(p.102)としている。
「人権・人間の権利」の【翻訳語の意味】(柴崎律)には「いずれにしても明治初期にはright(英), droit(仏), Recht(独), regt(オ)の訳語として「権」「権利」等が用いられ、しだいに「権利」に定着していく。」(p.165)と書かれている。また、福沢諭吉の訳語「通義」にも触れられている。この項目の【文献】として、資料6等があげられている。
「法」の【翻訳語の意味】(堅田剛)には「少なくとも西周において、「権利」は英語rightの訳語ではなく、ドイツ語Rechtの訳語である。(中略)ドイツ語の場合Rechtは(中略)「権利」と「法」という異なった意味を併せもっている」「Rechtをrightと訳すかlawと訳すかは、英米人にとっても悩みの種なのである。(改行)Rechtを一律に「権利」と訳した西周訳を未熟とか誤訳とかいう者もあるが、それはまったくの見当ちがいだ。」(p.250)とある。
資料2の「第III章 庶民の造語、知識人の造語 5 権利」(p.183-191)には、福沢諭吉が著作によって「right」の訳語を変えていることが書かれている。西周や法学者の小野梓の用語や自由民権運動を通して「権利」の語が定着し、最後は福沢も使うようになったとしている。
資料3の「第1講 「法」と「権利」 2 法と権利」(p.8-13)にも、資料1と同じくドイツ語Rechtと英語rightの意味の違いについて書かれている。注記5)には「この「right」や「Recht」という語が、明治時代に「権利」という日本語に翻訳されたのです。日本語の「権利」という語については、柳父章『翻訳語成立事情』(岩波新書、1982年)(※資料4)あるいは同『翻訳とはなにか 日本語と翻訳文化』(法政大学出版局、1985年)(※資料5)を参照して下さい。明治以前にも「権利」という語はありましたが、「権力と利益」の意でした(史記に見える古い語です)。(後略)」(p.17)とある。
資料4の「8 権利 -権利の「権」、権力の「権」」(p.149-172)という章に、「一 rightの翻訳はむずかしかった」「二 福沢諭吉の「通義」という訳語」などの節がある。第二節では、福沢が特にrightとlibertyが翻訳困難なことばだと認識していたことを紹介している。『西洋事情二編』から「訳字を以て原意を尽すに足らず。」(p.154)と、翻訳語に対する警戒が引用されている。
資料5の「第二章 翻訳語『権』」(p.64-106)の中の「一、『権』以前のrightの翻訳語 1 rightの翻訳史」(p.64-67)において「rightを、『権』、『権利』、『権理』『権義』など、『権』という字で翻訳するようになったのは、幕末頃からのことであるが、とくに西周と津田真一郎が、これを定着させたのである。」(p.64)とある。この後、資料4よりやや詳しくrightの翻訳史をたどっている。
資料6のp.1-30「権利という言葉について」(野田良之著)を収録。「一 「権利」という語の誕生とその定着」(p4-13)の中で、rightやdroitの訳語の紹介から、「権利」が定着するまでを概観している。「こうして明治初年にはかなり違ったright、Recht、droitの対応語が模索されたが、大勢は明治一〇年頃に、(中略)権利(傍点あり)に落つき、公文書でもこの語を一定して用いるようになって、二〇年代に至ると他の語は姿を消すことになった。」(p.10)
資料7の「2.日本における「権利」の変遷および定着」(p.59-106)の中で、津田真道、西周、加藤弘之の用例、「2.2.1 福沢著作におけるrightの訳語」(p.71-91)等について記述されている。
資料8のp.38-40に、「デジタルで紡ぐ福澤諭吉の法のことば-権利・権理・通義-」(岩谷十郎著著)がある。
福澤諭吉が「権利」という言葉をどのように用いるか、「デジタルで読む福沢諭吉」(慶応大学メディアセンターデジタルコレクション)での検索を通して分析した記事。この論文末尾の「参考文献・注」の3)にも、福沢の翻訳についての文献が紹介されている。
本論文は、下記のURLから全文を読むことができる。
http://www.lib.keio.ac.jp/publication/medianet/article/toc/015.html(最終アクセス日 2020年2月25日)
以下、都立図書館に所蔵がない資料だが、参考として2点、国立国会図書館に所蔵がある資料を紹介する。
○雑誌『函館大学論究』26号 函館大学商学部 1995.3 p.137-151
「RIGHTの訳語<権利>の成立に関する考証-名村五八郎の<理>がルーツ 」(井上能孝著)
○雑誌『函館大学論究』31号 函館大学商学部 2000.3 p.39-55
「箱館英学史(3)Rightの訳語「権」「理」の源流を探求-本論(続)」(井上能孝著)
【調査に利用した主なデータベース】最終検索日:2020年2月25日
○国立国会図書館オンライン(国立国会図書館)(https://ndlonline.ndl.go.jp/ )
○CiNii Articles 日本の論文をさがす(国立情報学研究所)(https://ci.nii.ac.jp/ja )
○日本語・日本語教育文献データベース(国立国語研究所)(https://bibdb.ninjal.ac.jp/bunken/ )
以下、都立図書館で契約している雑誌記事検索データベース
○雑誌記事索引集成データベース ざっさくプラス (皓星社)
○MAGAZINEPLUS(マガジンプラス) (日外アソシエーツ)
資料4~6、8は、都立多摩図書館の所蔵。
- 回答プロセス
- 事前調査事項
- NDC
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- 日本語 (810 9版)
- 参考資料
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- 【資料1】哲学・思想翻訳語事典 / 石塚 正英/監修 / 論創社 / 2013.5 / 増補版 <R/103.3/5004/2013>
- 【資料2】明治生まれの日本語 / 飛田 良文/著 / 淡交社 / 2002.5 <814.7/5008/2002>
- 【資料3】翻訳語としての日本の法律用語 原語の背景と欧州的人間観の探究 / 古田 裕清/著 / 中央大学出版部 / 2004.11 <320.3/5025/2004>
- 【資料4】翻訳語成立事情 / 柳父章/著 / 岩波書店 / 1982.4 <8104/147/82>
- 【資料5】翻訳とはなにか 日本語と翻訳文化 / 柳父章/著 / 法政大学出版局 / 1976 <8104/51/76>
- 【資料6】雑誌:学習院大学法学部研究年報 / 14号 (1979年) / 1975.3
- 【資料7】近代中日における「権利」の概念史 / 王 長汶/著 / クロスカルチャー出版事業部 / 2018.12 <321.1/5212/2018>
- 【資料8】雑誌:Medianet / 15号 (2008年) / 2008.10
- キーワード
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 言葉
- 質問者区分
- 登録番号
- 1000275923