①『拳の文化史』では、「日本一古い拳は虫拳」として、「親指で表した「蛙」が小指の「なめくじ」に勝ち、「なめくじ」が人差し指の「蛇」に勝ち、そして「蛇」が「蛙」に勝つ。現代の日本ではほとんど知られていないが、明治期までは虫拳も日本人の常識の一部であった。そして二十世紀の初め頃からしだいに消えていった虫拳は、一千年の歴史をもつ日本の最も古い拳であったと言っても言い過ぎではない。(中略)虫拳も、奈良・平安時代にほかの中国文化と同様、日本へ渡ってきたと思われる。」とある。また、虫拳の手の形が分かる資料として、『拳会角力図会』「虫拳之図」を引用している。
②『伝承遊び考 4』では、第一章「各種拳の概要」に「虫拳」の項目があり、歴史や遊び方について簡単に説明されている。
また、同章「虫拳の伝承と子どもの拳の確立」に、「虫拳はたびたび、拳に関する書に拳の一種として登場するが、初出は宝暦六(一七五六)年」とある。また、「唐代(六一八年~九〇七年)の書『関尹子』に中国の虫拳ともいうべき「ガマ(親指)>クモ(小指)>サソリ(薬指)>ムカデ(中指)>ヘビ(人差し指)>」があり、また略系として「カエル>ムカデ>ヘビ>」があったこと」などから、日本への伝承時期を奈良時代と考察している。
③『じゃんけん学』では、「平安時代にあった虫拳」として、「「本拳」よりも早い時代に日本へ伝わったと見られている。おそらく日本で一番古い拳あそびであろう。」とあり、①と同様に『拳会角力図会』を引用している。「本拳」(「数拳」ともよばれる)の伝来は「寛永の頃(江戸時代初期)」とある。また、「数拳のほうが虫拳より古いという意見もある」というコラムの中で、「菊池貴一郎(4代目歌川広重)が1905年に著した『絵本江戸風俗往来』のなかにも、日本の三すくみが中国から伝わってきた数拳からできたことが記されている。」と紹介している。
④『遊びの大事典 [本編]』では、Ⅲ-Bの2に「三すくみ拳」として、「「虫拳」の発案もいつ頃からかは定かではないが、手だけを用い、指で行うという単純化された方法からみて、おそらく「虎拳」に続いて考案されたものと推察できる。」とある。また、「今日の「じゃん拳」の元となる「三すくみ拳」は、江戸時代後期に始まった「藤八拳」とされる。(中略)「藤八拳」に続いて考案されたのが「虎拳」であると思われる。」とある。