レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2023年08月10日
- 登録日時
- 2023/11/11 12:57
- 更新日時
- 2023/11/16 09:16
- 管理番号
- 000011074
- 質問
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解決
山口の方言「幸せます」の語源について知りたい。
- 回答
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「幸せます」の語源について、下記資料1に収録の論文、今井正「山口方言雑考―「幸せます」「おいでませ」―」に記載がある。
それによると、「幸せます」は、名詞「幸せ」に「ます」がついたものではなく、「しあわせる」という動詞の連用形に「ます」がついたものとし、もともとは文語の「しあはす」である、として、『日本国語大辞典』の意味、用例を引用している。そのうえで、もともと存在していた「しあはす」の語が共通語からは消え、山口方言として残ったもの、としている。
なお、資料2では、「元来、(幸せ)は幸福の意味を表す言葉とは言えない。語源は(為合わす)で成り行きとか、めぐり会わせなどの意味で、良い意味でも悪い意味でもなかった。昔は(良い幸せ)(悪い幸せ)と言うふうに使われていたが現在では(幸せ)は、幸福の意味として定着している。」とある。同様に資料3p118「しあわせます」の項でも、「「幸せ」の語源は「為合わす」で成り行きとかめぐり合わせの意味で、昔は「良い幸せ」「悪い幸せ」のように良い悪い両方に使っていたが、今は良い方が定着している。」とある。
資料4『日本国語大辞典 第2版 6』p439「しあわす」の項の内容は以下のとおり。
「し-あわ・す【為合・仕合】《他サ下二》(「し」は、サ変動詞「する」の連用形) ①うまくはからって、ふさわしい状態になるようにする。合うようにする。つじつまを合わせる。うまくやりおおせる。間に合わせる。」
なお、②として「二つの物や事柄をぴったり合うようにする」の意が挙げられている。
また、同書では、①の意の用例として以下が挙げられている。末尾のカッコ内は、用例にあった文献の当館所蔵資料。
「古本説話集」(1130年頃成立か)47 「さらば多くの物ども損じて、今日の供養にしあはすべきにあらず、いかにせん」(資料5)
「太平記」(14世紀後半成立)23就直義病悩上皇御願書事「只時節よくし合せられたる願書也」(資料6)
「御伽草紙・猿源氏草紙(室町時代末成立)」「さても宇都宮はよくもしあはせたるものかな。さりながら夕さり蛍火来るべし」(資料7)
「颶風新話(航海夜話)(1857年成立)」初編二「よく差図して下されたので、大きに仕合せたが」(所蔵なし)
『貧乏物語』(1916)「米も沢山出来れば自から米価も下落するが、併し其と同時に他の生活必需品も凡て下落するのであるから、米を買うて居る人々が仕合わすと同時に、米を売る農家の方も更に差支えない訳である。」(資料8)
なお、「颶風新話」(ぐふうしんわ)は、国立公文書館のデジタルアーカイブで公開されている。(ダウンロード、利用可)
“国立公文書館デジタルアーカイブ 颶風新話”(国立公文書館) 2023年11月11日最終確認
https://www.digital.archives.go.jp/img/4355799
※用例部分は53コマ目にあり。
参考までに、国立国会図書館が所蔵する資料を電子化して公開している“国立国会図書館デジタルコレクション”にて、例えば「仕合せます」の語で検索すると、刊行年が古いものでは、明治期の小説類がヒットする。以下の資料は著作権の保護期間が満了しているため、自由に利用できる。
半井桃水 著『海王丸』,今古堂,明24.1. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/885762 (参照 2023-11-11)
21コマ目「若し店の小僧にでも遣って貰ふ事が出来ると私も大きに仕合わせます」 https://dl.ndl.go.jp/pid/885762/1/21 (参照 2023-11-11)
中村春雨 著『密航婦』,金尾文淵堂,明39.1. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/888318 (参照 2023-11-11)
52コマ目「「お蔭さまでね、あの娘も漸く我慢の角を折りまして、今度からは稼ぎに出ると云ふのでございますよ、私共も大変仕合せますし、あの娘の為にもなりますといふもんで、この様な嬉しい事はございませんでございますよ、」 https://dl.ndl.go.jp/pid/888318/1/52
- 回答プロセス
- 事前調査事項
- NDC
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- 方言.訛語 (818 9版)
- 参考資料
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1.岡野信子, 白木進 編 , 岡野, 信子, 1921- , 白木, 進, 1908-. 論集「山口県方言の研究」. 笠間書院, 1981. (笠間選書 ; 135)
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001510075-00 (p161-180) -
2.山本隆志 編著 , 山本, 隆志. 周防大島ことば大全 増補版. サンシックス, 2018.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I029059365-00 , ISBN 9784908834073 (p97) -
3.阿部啓治 編 , 阿部, 啓治. 山口弁 (周南地方) 辞典. 阿部啓治, 2016.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I027235411-00 (p118) -
4.日本国語大辞典第二版編集委員会, 小学館国語辞典編集部 編 , 小学館. 日本国語大辞典 第6巻 第2版. 小学館, 2001.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000003013601-00 , ISBN 4095210060 (p439) -
5.高橋貢 全訳注 , 高橋, 貢, 1932-. 古本説話集 下. 講談社, 2001. (講談社学術文庫)
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000003022195-00 , ISBN 4061594907 (p20) -
6.兵藤裕己 校注 , 兵藤, 裕己, 1950-. 太平記 4. 岩波書店, 2015. (岩波文庫 ; 30-143-4)
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I026756482-00 , ISBN 9784003014349 (p58) -
7.大島, 建彦, 1932- , 渡, 浩一, 1954-. 新編日本古典文学全集 63. 小学館, 2002.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000003676715-00 , ISBN 4096580635 (p138) -
8.河上肇 著 , 河上, 肇, 1879-1946. 貧乏物語. 新日本出版社, 2008.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000009976121-00 , ISBN 9784406052207 (p166)
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1.岡野信子, 白木進 編 , 岡野, 信子, 1921- , 白木, 進, 1908-. 論集「山口県方言の研究」. 笠間書院, 1981. (笠間選書 ; 135)
- キーワード
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- 日本語--方言--山口県
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介 事実調査
- 内容種別
- 郷土 言葉
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000340928