レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2022年4月27日
- 登録日時
- 2023/01/30 16:41
- 更新日時
- 2023/07/06 16:43
- 管理番号
- 2022-009
- 質問
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解決
「雨垂れ石を穿つ」という成語の原文「泰山之霤穿石」(『漢書』枚乘傳)に続く「殫極之〇斷幹」の部分の意味を知りたい
- 回答
-
元の出典は『漢書』ですが、後に編纂された『文選』にも収録されており、『文選』に関する所蔵資料を
提供しました。詳細については回答プロセスをご参照ください。
- 回答プロセス
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質問者は『漢書』の出典を詳しく知っていたが、現代語訳・語釈・解説している資料が見当たらず
相談に来られた。
『漢書』巻五十一 賈鄒枚路傳 第二十一枚乘傳。通称「漢書枚乘傳」
1.「泰山之霤穿石」は成語から「たいざんのあまだれ、いしをうがつ」と読めたが「殫極之〇斷幹」
の読みはわからなかった。そこで「泰山之霤穿石」を調べることにした。
本学OPACで、漢詩を現代語訳・語釈・解説している参考資料を検索し、その中に該当の作品が
掲載されているか確認した。
また詩句索引、作者別索引等を収録している参考資料では、原文通り「泰山之霤穿石」と、著者の
「枚乗」も調査した。
①鎌田正, 米山寅太郎著『漢文名言辞典』(大修館書店, 1995)
②山田勝美著『中国名詩鑑賞辞典』(角川書店, 1978)
③鎌田正, 米山寅太郎著『漢文名句辞典』(大修館書店, 1980)
④鈴木修次編著『漢詩漢文名言辞典』(東京書籍, 1985)
①のみ「縄鋸きて木断ち、水滴いて石穿つ」の項で、「泰山之霤穿石」を[異形]として下記の
ように紹介していた。
「漢の枚乗(ばいじょう)が主君を諫めた上奏文の「泰山(たいざん)の霤(あまだれ)は石を穿つ
(うがつ)」に基づく。」
作者の名前の読みと漢時代に活躍したという事は判明したが、「殫極之〇斷幹」の箇所に触れて
いる資料はなかった。
2.出典の『漢書』から探すことにし、本学OPACで漢書の資料を検索した。
⑤本田済編訳『漢書 ; 後漢書 ; 三国志列伝選 (中国古典文学大系 ; 第13巻)』(平凡社, 1973)
⑥本田済編訳『漢書 ; 後漢書 ; 三国志列伝選』(平凡社, 1968)
⑤⑥は同じ内容であった。
⑦三木克己訳『漢書列伝選 / 班固著 (筑摩叢書 ; 366)』(筑摩書房, 1992)
3冊とも書名に選とつくように、訳者の選定した作品しか掲載されておらず、枚乗の作品は
見当たらなかった。
3. 国立国会図書館リサーチ・ナビを参考に、参考となりそうな所蔵資料がないか本学OPACを検索した。
⑧古典研究会『漢書 / [班固撰] ; 桃林軒玄朴點 (和刻本正史 / 長澤規矩也編)』縮印版,
(汲古書院 (発売), 1972)
⑨顔師古注『漢書 / (漢) 班固撰 ; (唐)』(中華書局, 1962)
⑧⑨とも原文のみで、読み下し文・通釈・語釈や注記はなかった。
ラーネッド記念図書館内で参考となりそうな資料の所蔵を見受けられなかった。
4.本学が契約しているデータベースJapanKnowledge Libで「雨垂れ石を穿つ」を検索することにした。
検索結果のうち『故事俗信ことわざ大辞典』の説明に
枚乗‐諫呉王書「泰山之霤穿レ石、単極之断レ幹、水非二石之鑽一、索非二木之鋸一、漸摩使二之
然一也」との記述があり、枚乗が記した『諫呉王書』という作品の一部であることが判明した。
更に著者の枚乗についても検索したところ、呉王を諫めた「書を上(たてまつ)りて呉王を諫む」
と「書を上(たてまつ)りて重ねて呉王を諫む」の2編は『文選(もんぜん)』に収められている
との記述があった。
5. 本学OPACで『文選』を検索したところ、下記の現代語訳・語釈・解説資料見つかった。
⑩昭明太子蕭統輯 ; 内田泉之助, 網祐次, 中島千秋著『文選 (新釈漢文大系83)』(明治書院, 1998)
殫極之〇…十分に使い込まれた釣瓶縄。殫極は「尽極也」とあって、尽き極める意。〇は絏に同じで
なわ・つな。ここは井戸の水を汲むときに用いる釣瓶の縄。
幹…井戸を囲う枠。井桁。井幹
⑪小尾郊一著『文選 / [蕭統撰] ; [李善等註] (全釈漢文大系 / 宇野精一, 平岡武夫編 ; 30巻)』(集英社,
1975)
殫極之〇斷幹…すり切れるまでになった井戸のつるべなわが、井戸のかきを擦り減らしていること。
従って「殫極之〇斷幹」は「たんきょくのかうはかんをたつ」と読み、意味は「とことん使い込まれた
釣瓶縄は井戸の桁を断ち切ります。」「すり切れるまでになったつるべなわは、井げたを擦り減らして
しまいます。」であることがわかった。
また読みが分かったことから、下記資料にも成語として以下の通りに掲載されていることがわかった。
⑫鎌田正, 米山寅太郎著『故事成語名言大辞典』(大修館書店, 1988)
「単極の〇も幹を断つ」「たんきょくのこうもかんをたつ」
井戸のつるべ縄も、何度も使うと、ろくろの幹を切断してしまうことのたとえである。
小さな力も、積み重なると予想もつかない大き力になることのたとえ。単極は「殫極」とも書き
尽きはてる。〇は「絏」とも書き、つるべの縄。幹は、つるべの縄のかかっている轆轤(ろくろ)の幹。
広島大学 中国文学語学研究室が管理しているウェブサイトにも、『文選』の作者・作品別の主な
参考訳注書の一覧がある。
https://cbn.hiroshima-u.ac.jp/wenxuan/yizhu/zuozhe/yizhu_zz03.htm [参照 2023-02-01]
- 事前調査事項
- NDC
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- 詩歌.韻文.詩文 (921 9版)
- 中国文学 (920 9版)
- 語彙 (824 9版)
- 参考資料
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蕭, 統(501-531) , 内田, 泉之助(1892-1979) , 網, 祐次(1898-1982) , 中島, 千秋(1908-1986) , 高橋, 忠彦(1952-) , 原田, 種成(1911-1995) , 竹田, 晃(1930-) , 蕭, 統(501-531) , 内田, 泉之助(1892-1979) , 網, 祐次(1898-1982) , 中島, 千秋(1908-1986) , 高橋, 忠彦(1952-) , 原田, 種成(1911-1995) , 竹田, 晃(1930-). 文選 (詩篇)上. 明治書院, 1963. (新釈漢文大系)
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I089788699-00 , ISBN 4625673011 (BN00344413) -
[蕭統撰] ; [李善等註] ; 小尾郊一著 , 蕭, 統 , 李, 善 , 小尾, 郊一 , 花房, 英樹. 文選 1 文章編,2 文章編,3 詩騒編,4 詩騒編,5 文章編,6 文章編,7 文章編. 集英社, 1974. (全釈漢文大系 / 宇野精一, 平岡武夫編, 第26-32巻)
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000096-I003756507-00 (BN02479468) -
鎌田正 , 鎌田, 正(1911-) , 米山, 寅太郎(1914-). 故事成語名言大辞典. 大修館書店, 1988-10.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000074-I000065525-00 , ISBN 4469032050 (BN02713984) -
鎌田正, 米山寅太郎著 , 鎌田, 正 , 米山, 寅太郎. 漢文名言辞典. 大修館書店, 1995.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000096-I008314125-00 , ISBN 4469032077 (BN13068603)
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蕭, 統(501-531) , 内田, 泉之助(1892-1979) , 網, 祐次(1898-1982) , 中島, 千秋(1908-1986) , 高橋, 忠彦(1952-) , 原田, 種成(1911-1995) , 竹田, 晃(1930-) , 蕭, 統(501-531) , 内田, 泉之助(1892-1979) , 網, 祐次(1898-1982) , 中島, 千秋(1908-1986) , 高橋, 忠彦(1952-) , 原田, 種成(1911-1995) , 竹田, 晃(1930-). 文選 (詩篇)上. 明治書院, 1963. (新釈漢文大系)
- キーワード
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- 漢書
- 枚乗
- 文選
- 現代語訳
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 故事熟語
- 質問者区分
- 学生
- 登録番号
- 1000328241