レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2022/03/24
- 登録日時
- 2022/05/19 00:30
- 更新日時
- 2022/05/19 00:30
- 提供館
- 宮城県図書館 (2110032)
- 管理番号
- MYG-REF-210243
- 質問
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解決
「切り結ぶ 太刀の下こそ 地獄なれ 踏み込みいれば ここは極楽」の初出が知りたい。
「太刀のもとこそ」「踏み込み見れば」「あとは極楽」など表現が異なっている。
宮本武蔵が初出,柳生宗矩が初出など様々な説があるようだ。
- 回答
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初出が明記されている資料は見当たらなかったが,柳生宗厳(柳生石舟斉)作の兵法秘歌が慶長8年(1603年)のものであり,今回の調査で見つかった類歌の中で一番古いものになる。
資料1 柳生 厳長/著『正伝・新陰流』 島津書房, 1989.2【789.3/ヤト1989.2】
(p.119)に史料の写真が掲載されている。
※写真の史料には「キリムスブカタナノシタジゴクナレ タゞキリコメヨシンメウノケン」と記載されている。
・柳生宗厳(柳生石舟斉)は,嫡孫の柳生兵庫助平利厳が加藤清正の客将として肥後に赴く際に,兵法極意の目録の小冊三巻,及び「極秘口伝」と題した小冊に二首の兵法秘歌を認めて付与している。この歌はそのうちの一首である。
また,初出を宮本武蔵作とする説については,以下の資料で否定されている。
資料2 今村 嘉雄/編『武道歌撰集 上巻』 第一書房, 1989.3【789/イ2/1】
※二刀流兵法問答に収録されている道歌に,「振りかざす太刀の下こそ地獄なれ 一と足すゝめ先は極楽」がある。
(p.107)「二刀流兵法問答(中略)は,村上派二天一流の村上平内正雄の子同姓平内正勝,大右衛門正之兄弟の兵法問答を門人が書きとめたもので,引用されている道歌は武蔵作ではない。」
- 回答プロセス
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1 宮城県図書館の所蔵資料を調査した結果,作者が「宮本武蔵」や「柳生宗厳」とするものに分かれた。
(1)作者が「宮本武蔵」と記載されているもの
資料3 北影/雄幸∥著『決闘者武蔵』光人社, 2002.11【789.3/ミム2002.Y】
(p.215)「(前略)武蔵は,つぎの短歌を作っている。振りかざす太刀の下こそ地獄なれ 一と足進め先は極楽(後略)」
資料4 下川 潮/著『剣道の発達』大日本武徳会本部, 1925【789.3/シ1】
(p.26)「振りかざす(切りむすぶ)太刀の下こそ地獄なれ 一と足進め先は極楽。(宮本武蔵)」
資料5 横山 健堂/著『日本武道史』 島津書房, 1991.4【789.02/ヨケ1991.4】
(pp.181-182)・坐禪(中略)「振りかざす,太刀の下こそ,地獄なれ,一足進め,先は極楽」 武蔵の剣禪一致説は,ここに現はれている。(後略)」
資料6 久保 三千雄/著『宮本武蔵とは何者だったのか』新潮社, 1998.5【289.1/ミム1998.5】
(pp.259-261)「(前略)武蔵ならではの歌が散見されますから,ご容赦願ってここに再録させていただきましょう。(中略)振りかざす太刀の下こそ地獄なれ 一足進め先は極楽 (後略)」
(2)作者が「柳生宗厳(柳生但馬守平宗厳)(柳生石舟斉)」と記載があるもの
資料7 中里 介山/著『中里介山全集 第18巻』 筑摩書房, 1971【918.6/ナ10/18】
(p.19)「柳生但馬守平宗厳は,晩年嫡孫柳生兵庫助平利厳に一国の印可相伝を授け,新陰流兵法正統代三世たらしめたが,これより先き,永禄八年利厳が年二十五歳で肥後領主加藤清正に客将として赴き三千石を喰んだ比か但しはそれより数年前に属することか分からないが,祖父但馬入道は丁度拳中に握り込める位の大きさの紅紙に片仮名を以て左の一首を書き,これを利厳に与えている,利厳はこれを数年授けられた大部の伝書類と共に秘蔵して印可相伝の書中に含め,後世に相伝した。
切り結ぶ太刀のしたこそ地獄なれ たんだ踏み込め神妙の剣 (後略)」
資料8 吉川/英治∥著『随筆宮本武蔵』 講談社, 2002.3【789.3/ミム2002.3】
(p.122)「(前略)同時に,道歌が興った。(中略)武蔵にもある。兵法家はまた,兵法の極意,言外の深意を伝えるに,よく歌をもってしたものである。
斬りむすぶ太刀の先こそ地獄なれ たんだ踏みこめ先は極楽
一例である。これは武蔵の作といわれているが,武蔵の作歌ではあるまい。柳生石舟斉の伝書の歌ともいわれている。(後略)」
その他以下の資料も調べたが,和歌の作者に関する記述は見当たらなかった。
資料9 千葉/周作∥[著] 千葉/栄一郎∥編『千葉周作遺稿』 慧文社, 2007.4【789.3/チシ2007.4】
資料10 加来/耕三∥編『宮本武蔵大事典』新人物往来社, 2003.6【789.3/ミム2003.6/R】
資料11 大倉/隆二著『宮本武蔵』吉川弘文館, 2015.2【789.3/ミム2015.2】
資料12 井沢/元彦∥著『宮本武蔵』日本放送出版協会, 2002.12【789.3/ミム2002.Z】
資料13 童門/冬二∥著『武蔵』日本放送出版協会, 2002.10【789.3/ミム2002.X】
資料14 プレジデント/編『人間 宮本武蔵』プレジデント社, 1984.3【789.3/ミム1984.3】
資料15 森 銑三/著『宮本武蔵言行録』三省堂, 1940【789.3/ミム1940.1】
資料16 戸部 新十郎/ほか著『日本剣豪列伝 1』福武書店, 1995.1【789.3/ニホ1995.1/Bフクタ】
資料17 黒澤/雄太著『真剣』光文社, 2008.4【789.32/クユ2008.4】
資料18 中嶋/繁雄著『日本の剣豪』文藝春秋, 2017.5【789.3/ナシ2017.5】
資料19 佐々木/博嗣∥編著 中村/天信∥監修『武蔵の剣』スキージャーナル, 2003.5【789.3/サヒ2003.5】
資料20 木村 山治郎/編『道歌教訓和歌辞典』東京堂出版, 1998.9【159.9/トウ1998.9/R】
資料21 歴史群像編集部∥編『日本の剣術』学研, 2005.5【789.3/ニホ2005.5/1】
資料22 星 国雄∥監修 仙台柳心会∥編『柳生心眼流兵法入門』仙台柳心会, 2002.3【789.2/ホク2002.3】
資料23 星 国雄∥著『正伝柳生心眼流兵法術』日本武術資料館, 1998.10【789.2/ホク1998.X】
資料24 『日本武道大系 別巻 [1]』同朋舎, 1982【789/ニ3/11-1】
資料25 『日本武道大系 別巻 [2]』同朋舎, 1982.6【789/ニ3/11-2】
資料26 柳生/宗矩∥著 渡辺/一郎∥校注『兵法家伝書』岩波書店, 2004.7【789.3/ヤム2004.7】
資料27 柳生 厳長/著『剣道八講』島津書房, 1998.9【789.3/ヤト1998.9】
資料28 『刀と剣道』雄山閣,1(1),1939【P789.3】
2 国立国会図書館デジタルコレクション(https://dl.ndl.go.jp/ 最終アクセス日:2020/3/19)で公開されている資料を調査した。
・阿部鎮 著『歌伝剣道の極意』土屋書店,1965,p237,pp273-282
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2506386 123コマ目
「(9)地獄と極楽の道」の項に以下の和歌が掲載されている。
「切り結ぶ太刀の下こそ地獄なれ 踏み込み見れば 跡は極楽」
「振りかざす 太刀の下こそ地獄なれ 一足進め 先は極楽」
※141-146コマ目の「剣道和歌出典略号表」で上記和歌の出典を確認したところ,作者について記載のあった資料は下記のとおり。
(1)作者が「宮本武蔵」と記載されているもの
・宮本武蔵遺蹟顕彰会 編『宮本武蔵』金港堂書籍,1909,pp122-123
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/992019 85コマ目
「(前略)武蔵の歌として傳はれるものに云く,(中略)振りかさす太刀の下こそ地獄なれ,一と足進め先は極楽 (後略)」
・大日本雄弁会講談社 編『武道宝鑑』大日本雄弁会講談社,昭和9,p778
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1235869 378コマ目。
「振りかざす太刀の下こそ地獄なれ 一と足すすめ先は極楽(宮本武蔵)」
(2)作者が「柳生石舟齋」と記載されているもの
・田中秀雄 著『武道の心理』東宛書房,昭和17,p76
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1039591 50コマ目
「(前略)兵庫助利厳が,加藤清正の客将として肥後に赴くに際し,祖父柳生石舟齋は 切り結ぶ太刀の下こそ地獄なれ たんだ踏み込め神妙の劍 の一首をはなむけとして贈ったと申します。(後略)」
(3)その他の資料
以下資料は,和歌「切り結ぶ太刀の下こそ地獄なれ踏み込み見ればあと(後)(跡)は極楽」の掲載はあるものの,作者に関する記載はなかった。
・大川義行 編『剣道大観 : 青年教育』文武館,大正7,p160
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/959258 94コマ目
・高野佐三郎 著『日本剣道教範』朝野書店,大正9,p133
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/964519 79コマ目
・縄田忠雄 著『剣道の理論と実際』六盟館,昭13,p225
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1150780 139コマ目
・村上貞次 著『剣道入門』愛隆堂,1956,p166
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2479065 90コマ目
3 追加調査(2022/01/15)
資料1から,柳生宗厳(柳生石舟斉)が嫡孫柳生兵庫助平利厳に送った歌の原文を見つけた。
資料2から,類歌「振りかざす太刀の下こそ(後略)」は宮本武蔵作ではないという記述を見つける。
→今回の調査で,歌の初出を明記している資料は見当たらなかったが,柳生宗厳(柳生石舟斉)作がオリジナルだと推測される。
4 参考 同意の類歌について
以下のように,他流の名歌を所収した資料が複数あるが,表現が様々であることを把握した。
資料9(p.58)「剣法秘訣」,並びに資料2(p.91)「北辰一刀流口授 兵法目録」(山岡鉄舟筆写本)に,「切り結ぶ太刀の下こそ地獄なれ 踏み込見ればあとは極楽(剣術名歌)」とある。
資料2(p.85)「一刀流兵法伝書 忠也波」(鵜殿甚五左衛門長快)に,「きりむすぶ太刀の下こそ地獄なれ(り) 身を捨ててこそ浮かむ瀬もあり(れ)」とある。
資料29 今村 嘉雄/編『武道歌撰集 下巻』 第一書房, 1989.8【789/イ2/2】
(p.76)「真々流極意」(石川蔵人政春)に,「きり結ぶ太刀の下こそ地獄なれ 身を捨ててこそ浮かむ瀬もあれ」とある。※塚原卜伝作と記載されているが,注釈に塚原卜伝作か定かではないとある。
資料29(p.99)「武道教範」(隈元実道)に,「切り結ぶ太刀の下こそ地獄なれ 至極は懸れ先は極楽」とある。
- 事前調査事項
- NDC
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- 武術 (789 9版)
- 参考資料
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- 柳生 厳長/著. 正伝・新陰流. 島津書房, 1989.2【789.3/ヤト1989.2】:
- 今村 嘉雄/編. 武道歌撰集 上巻. 第一書房, 1989.3【789/イ2/1】:
- 今村 嘉雄/編. 武道歌撰集 下巻. 第一書房, 1989.8【789/イ2/2】:
- キーワード
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 事実調査
- 内容種別
- その他
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000316368