レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2018年12月06日
- 登録日時
- 2018/12/06 12:08
- 更新日時
- 2022/05/13 16:02
- 管理番号
- 2018-085
- 質問
-
未解決
本学に寄贈されたThe Oxford English Dictionaryの印刷原版について、寄贈当時に本学で作成した説明が正しいものかどうかを知りたい。(典拠となる資料も必要)
また、現在の価値などを知る方法はないか。
- 回答
-
1.本学作成の説明書について
①「1884年に第一分冊が刊行され~」の部分については、参考資料と照合した結果、相違がございました。
下記に修正案を記載いたします。
(現在)「1933年に補遺が出されたとき、現在のような形の全13巻、別冊4巻に製本され、1986年に完成した」
(修正)「1933年に補遺が出され、全12巻、補遺1巻となり、さらに1972年から1986年の間に補遺4巻が出版され、1986年に完成した」
②「世界的にみて、僅か90枚しか現存していなく、・・・・・・」の部分については、典拠となる資料が見つかりませんでした。
③ 説明書の「(印刷原版が)オックスフォード大学出版局の倉庫に眠っていたのが、最近になって発見された」については、次の資料に記述がありました。
・サイモン・ウィンチェスター著『博士と狂人 : 世界最高の辞書OEDの誕生秘話』(早川書房, 1999)
p.261「著者の覚書」
「私がこの物語の中心である辞典そのものに初めて関心をもったのは、一九八〇年代初めにオックスフォードに住んでいたときだった。ある夏の日に、オックスフォード出版局で働いていた友人から誘われて倉庫に行き、・・・・・・それは放置されていた凸版の印刷版で、『オックスフォード英語大辞典』の印刷に使われたものだった。・・・・・・」
※同様の内容は、著者であるSimon Winchester氏のHPでも公開されています。
・Author Note
http://www.simonwinchester.com/professor-author-note/ [2018-10-29 参照]
上記につきまして参考とした資料は次の通りです。
・サイモン・ウィンチェスター『博士と狂人 : 世界最高の辞書OEDの誕生秘話』(早川書房, 1999)
・サイモン・ウィンチェスター『オックスフォード英語大辞典物語』(研究社, 2004)
・Peter Gilliver. The making of the Oxford English dictionary(Oxford University Press, 2016)
・Simon Winchester. "Author Note". SIMON WINCHESTER.
http://www.simonwinchester.com/professor-author-note/ (参照 2018-10-30).
・Oxford University Press. "History of the OED". Oxford English Dictionary.
https://public.oed.com/history/ (参照 2018-10-30).
・『世界大百科事典』“オックスフォード英語辞典”(本学契約データベースJapanKnowledge Lib)
2.現存枚数と現在の価値について
① The Oxford English Dictionaryの印刷原版を所蔵している創価大学附属図書館に現存枚数や価値などについて参考調査を依頼しましたが、本学と同様に保証書のみで、他に現存枚数や価値などを示す資料はないとのことでした。
② オックスフォード大学出版局株式会社(日本支社)学術専門書・教養書部門に問い合わせをしたところ、先方が英国本局付設ミュージアムのOxford English Dictionary担当のアーキヴィストに調査を依頼してくださり、回答を得ることができました。
アーキヴィストの方によると、「何枚刷ったという具体的な記録が残っていない」そうで、「金銭的な価値」も不明とのことですが、「活字の製作に用いられた鉛等の金属は、戦時に金属が高騰し入手が難しくなると、手元にあるものを何度も溶かして再利用せざるをえなかったため、NED(A New English Dictionary on Historical Principles)やOED(The Oxford English Dictionary)の組版で2度の世界大戦の戦火を免れたものは非常に少ないという点で印刷原版には印刷史上、相応の価値があるものと考えられる」とのことです。さらに、「貴館に所蔵されている印刷原版は、ぜひ、貴重資料の扱いで管理・保存を継続なさるようお薦めしたい」ともおっしゃっていたそうです。
以上のとおり、印刷原版が非常に貴重なものと言える情報は得られましたが、具体的な現存枚数や現在の価値については不明で、推測できる資料も見つかっておりません。
調査の詳細につきましては回答プロセスをご覧ください。
- 回答プロセス
-
1.The Oxford English Dictionaryについて
①辞事典類を調査
本学契約データベースJapanKnowledge Libで“The Oxford English Dictionary”を検索。
結果より
「現在までのところ最高最大の英語辞典。OEDあるいはNED(A New English Dictionary on Historical Principles)とも呼ばれる。……84年に第1巻を刊行,最終巻の第12巻刊行は1928年である。……33年に増補書目1巻が出版され,さらに20世紀の語彙,用例を網羅するためR.W.バーチフィールドを主幹に,増補が計画され,第1巻A~G(1972),第2巻H~N(1976),第3巻O~Scz(1982)が出版された。Seに始まる最終巻は86年に刊行された。」
"オックスフォード英語辞典", 世界大百科事典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2018-12-06)
②資料を検索
本学OPACで検索(件名:オックスフォード英語辞典)
・サイモン・ウィンチェスター著 ; 苅部恒徳訳『オックスフォード英語大辞典物語』(研究社, 2004)
・サイモン・ウィンチェスター著 ; 鈴木主税訳『博士と狂人 : 世界最高の辞書OEDの誕生秘話』(早川書房, 1999)
本学OPACで検索(件名:The Oxford English Dictionary)
・Peter Gilliver. The making of the Oxford English dictionary(Oxford University Press, 2016)
上記3点を確認。①の『世界大百科事典』にあったように、1933年に補遺(増補書目1巻)が出され、1972~1986年の間にさらに増補4巻が出版されて完成となったことが確認できた。
また、『博士と狂人 : 世界最高の辞書OEDの誕生秘話』p.261「著者の覚書」に、
「私がこの物語の中心である辞典そのものに初めて関心をもったのは、一九八〇年代初めにオックスフォードに住んでいたときだった。ある夏の日に、オックスフォード出版局で働いていた友人から誘われて倉庫に行き、・・・・・・それは放置されていた凸版の印刷版で、『オックスフォード英語大辞典』の印刷に使われたものだった。・・・・・・」との記載があった。
③Web情報を調査
・出版元のOxford University PressのHPに“History of the OED”というタイトルでThe Oxford English Dictionaryの歴史を記載したサイトあり。完成までの歴史やその後の補遺発行の日付などについては、上記事典で確認した内容と一致。
https://public.oed.com/history/#making-it-modern(参照 2018-12-06)
・『オックスフォード英語大辞典物語』等の筆者であるサイモン・ウィンチェスター(Simon Winchester)のWebサイトにThe professor and the madman : a tale of murder, insanity, and the making of the Oxford English dictionary(『博士と狂人 : 世界最高の辞書OEDの誕生秘話』原題)の“Author Note”(翻訳版では「著者の覚書」)のテキストが掲載されていた。内容は②の日本語訳図書と同様。
http://www.simonwinchester.com/professor-author-note/(参照 2018-12-06)
2.印刷原版の現存枚数や現在の価値について
①資料を確認
“The Oxford English Dictionary”に関する上記1-②の資料を確認。
Peter Gilliver. The making of the Oxford English dictionary(Oxford University Press, 2016)に印刷原版の写真とその説明はなどはあったが、現在の価値や現存枚数についての記載は見つけられなかった。
②Web情報を調査
Oxford University Pressの“The Oxford English Dictionary”に関するサイトを確認するが、印刷原版の枚数や価値についての記載は見つけられなかった。
・Oxford University Press. “About”. Oxford English Dictionary. https://public.oed.com/about/, (参照 2018-12-07).
③他館に参考調査
創価大学附属図書館のHPで「2014年 お知らせ」の「The Oxford English Dictionary初版の印刷用原版展示中」に「1933年に刊行された初版第12巻の印刷用原版を、本学の元教授である山本千之先生より寄贈していただきました。」とあったため、創価大学附属図書館に参考調査を依頼。
→寄贈された印刷原版には保証書が添付されているのみで他に資料はないとの回答を得た。
④Oxford University Pressに問い合わせ
“The Oxford English Dictionary”版元であるOxford University Pressの日本支社に問い合わせ。
→ご担当者より回答
英国本局付設ミュージアムのOxford English Dictionary担当のアーキヴィストに調査を依頼してくださるとのこと。
→後日、同担当者の方より回答
アーキヴィストの方によると、
「貴館に所蔵されている印刷原版は、ぜひ、貴重資料の扱いで管理・保存を継続なさるようお薦めしたい」とのこと。また、詳細なご説明をいただいた。
(下記、回答より一部抜粋)
「1933年版の印刷時は、新たな追加部分を除き、NEDの分冊の印刷時に使用したオリジナルの原版がそのまま流用され……手元の印刷原版は、第12巻の「W」ではじまる「with」という語のうちの1ページで……これは1928年に出版した見出し語が 「wise」で始まり、「wyzen」で終了する第125分冊目のために組版されたもので、1933年版用に再度利用された際の印刷原版であると考えられる
…(中略)…
こうしたものがどのくらい存在したかについては、何枚刷ったという具体的な記録が残っていないため不明ながら、辞典のページ毎にこうした原版が複数枚刷られたことを考えれば、同じようなものは大量に存在するであろう
…(中略)…
しかし、では価値は無いかというと……活字の製作に用いられた鉛等の金属は、戦時に金属が高騰し入手が難しくなると、手元にあるものを何度も溶かして再利用せざるをえなかったため、NEDやOEDの組版で2度の世界大戦の戦火を免れたものは非常に少ないという点で印刷原版には印刷史上、相応の価値があるものと考えられる
…(中略)…
その後の活版印刷の衰退で、今では歴史的な価値を帯びたであろうものながら、当時そうしたところを充分に考慮せずに処分したことから、OUP内にも40ほどしかOEDがらみの印刷原版は所有していない
…(中略)…
1989年の(外部委託業者印刷所の)閉鎖時に古物市場に出たものの多くは、主にオックスフォード市近辺や英国内の個人蔵となっていると考えられ、(本学に)所蔵されているものは、そういったもののひとつが、どういう経緯か海を渡ったものであろう」
したがって、OUP(Oxford University Press)としては、どこで誰が何をお持ちかは把握しておらず、英国内の図書館で、こうしたものを持っているといった情報も持ち合わせていない。Abe Booksのようなオンラインの古書取引サイトや、Bonham's や Christie's などのオークションハウスでたまたま競売にかかっているものを見つけることはあるだろうが、特にこうしたものをまとめて取り扱っている業者というのは関知していない。とのこと。
アーキヴィストの方からは、「金銭的な価値は不明ながらも、貴館で所蔵しておいでの印刷原版は上記のように歴史的価値が認められるもののため、ぜひ貴重書扱いで大切に保存の上、適宜閲覧に供してくださるよう進言したい」という言葉があったとのことだった。
以上を利用者に回答し、調査終了。
- 事前調査事項
-
寄贈当時の説明書には、
「英語辞典の最高峰、OXFORD英語辞典(OED)は、1884年に第一分冊が刊行され、44年後に完結した。その後、1933年に補遺が出されたとき、現在のような形の全13巻、別巻4巻に製本され、1986年に完成した。まさに100年の歳月を費やした印刷史上に残る世紀の大事業であった。
全収録語彙数は約48万、引用例180万余、全頁数は2万ページにものぼる膨大なものである。しかしながら、その印刷原版は現在世界的にみて、わずか90枚しか現存していなく、オックスフォード大学出版局の倉庫に眠っていたのが、最近になって発見された。
本原版はその1頁に相当するものであり、英国の印刷史上、文化史上極めて価値の高いものである。文字どおり英国文化の「1PAGE」に触れることができる。」
と書かれていた。(典拠などの記載はなし)
印刷原版には保証書がついており、
“This is an electroplate from original 1933 printing of the OXFORD ENGLISH DICTIONARY.”
“This plate comes from Vol.12 and is of page 210
part of signature number 56”
と記載されている。
- NDC
-
- 辞典 (833 9版)
- 参考資料
-
-
サイモン・ウィンチェスター 著 , 鈴木主税 訳 , Winchester, Simon, 1944- , 鈴木, 主税, 1934-2009. 博士と狂人 : 世界最高の辞書OEDの誕生秘話. 早川書房, 1999.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002779717-00 , ISBN 4152082208 (NCID:BA4111716X) -
サイモン・ウィンチェスター 著 , 苅部恒徳 訳 , Winchester, Simon, 1944- , 苅部, 恒徳, 1937-. オックスフォード英語大辞典物語. 研究社, 2004.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000007483968-00 , ISBN 4327451762 (NCID:BA68311684) -
Peter Gilliver , Gilliver, Peter. The making of the Oxford English dictionary First edition. Oxford University Press, 2016.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I028048094-00 , ISBN 0199283621 (NCID:BB21989988) -
Simon Winchester. "Author Note". SIMON WINCHESTER.
http://www.simonwinchester.com/professor-author-note/ (参照:2018-10-30). - 『世界大百科事典』, JapanKnowledge Lib(参照:2018-12-06)
-
Oxford University Press. "History of the OED". Oxford English Dictionary.
https://public.oed.com/history/ (参照:2018-10-30). - Oxford University Press. “About”. Oxford English Dictionary. https://public.oed.com/about/, (参照 2018-12-07).
-
サイモン・ウィンチェスター 著 , 鈴木主税 訳 , Winchester, Simon, 1944- , 鈴木, 主税, 1934-2009. 博士と狂人 : 世界最高の辞書OEDの誕生秘話. 早川書房, 1999.
- キーワード
-
- The Oxford English Dictionary
- オックスフォード英語辞典
- オックスフォード英語大辞典
- A New English Dictionary on Historical Principles
- OED
- NED
- 印刷原版
- 同志社大学図書館
- 同志社
- 照会先
-
- オックスフォード大学出版局株式会社 学術専門書・教養書(日本支社)
- 創価大学附属図書館
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 事実調査
- 内容種別
- 辞典
- 質問者区分
- 職員
- 登録番号
- 1000247281