レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2013/05/31
- 登録日時
- 2014/09/11 11:35
- 更新日時
- 2014/11/27 13:52
- 管理番号
- 埼久-2014-062
- 質問
-
未解決
「漢の武帝の時に蘇武が匈奴に捕えられ、故郷に残った妻子が夫の身の上を思いやり、砧を打って慰めていたが、その衣を打つ音が、万里をへだてた蘇武の夢にとどいたという中国の故事」について知りたい。
『白洲正子全集 7』(白洲正子著 新潮社 2002)p443に紹介されていた。
- 回答
-
該当する中国の故事について、当館所蔵資料では見つけることができなかった。
また、謡曲「砧」(世阿弥作)に質問内容と似た一節があるが、質問の故事と同じ話であるかは不明である。
備考に追記あり。(2014/11/26)
- 回答プロセス
-
自館目録を〈砧〉で検索する。
『新編日本古典文学全集 59 謡曲集』(小学館 1998)
p260-273「砧」(作者 世阿弥)の頭注によると、「蘇武の妻子が胡国の夫を想って高楼で砧を打ったということは、『漢書』にも『平家物語』にも記されていない。ただし、『和漢朗詠集私註』(平安末期成立)の「織錦機中、已弁相思之字 擣衣砧上、俄添怨別之声」(八月十五夜 公乗億)の項に「蘇武胡地久居以不帰、其妻毎秋擣衣、為以待夫」とあり(柿村重松『和漢朗詠集考證』所引)。また、「擣処暁愁閏月冷、裁将秋寄塞雲寒」(擣衣 藤原篤茂)についても蘇武のこととしているので、蘇武の妻と砧とを結びつける説は、平安末期には存した。」とあり。
「和漢朗詠集」について調べる。
『新編日本古典文学全集 19 和漢朗詠集』(小学館 1999)
p135〔241〕「織錦機中 己弁相思之字 擣衣砧上 俄添怨別之声」「己上十五夜賦」の歌あり。
頭注によると、「織錦機中 己弁相思之字」については、「東晋の竇滔(とうとう)の妻の蘇蕙(そけい)が、流沙に左遷された夫のために、錦に回文の詩(中略)を織り込んで贈った故事(晋書・列女伝)」とある。また、「擣衣砧上 俄添怨別之声」については、「楚人が湘南に追放された時、その妻が衣を擣って帰りを待った故事。一説に、蘇武が胡に捕われた時、妻が秋になると毎年衣を擣って夫が戻るのを待ったことともいう(ともに『私註』)。」とある。
『和漢朗詠集私注』(信阿〔著〕 山内潤三〔ほか〕編 新典社 1982)
「室町期古写本〈内閣文庫蔵〉」の「和漢朗詠私注」のp140-141に、「織錦機中己弁相思之字 擣衣砧上 俄添怨別之声」の歌あり。その注釈には、「或本云蘇武胡地久居以不帰」の記述あるが典拠は記述なし。
『和漢朗詠集考証』(柿村重松著 パルトス社 1989)
p210-211「織錦機中 己弁相思之字 擣衣砧上 俄添怨別之声」の歌あり。
「資考」には、「又私註引或本云、蘇武胡地久居以不帰、其妻毎秋擣衣、為以待夫」の記述あるが典拠は記述なし。
《CiNii Articles》(http://ci.nii.ac.jp/ 国立情報学研究所 2013/05/30最終確認)をキーワード〈能 & 砧〉で検索する。
長尾一雄著「世阿弥能鑑賞「砧」」(『国文学 解釈と教材の研究 25巻1号』p106-119 学燈社 1980.1)
p117「蘇武」によると、質問の故事について「この話は創作らしいが、その典拠は「新撰朗詠集」大江匡房の「賓雁繋書飛上林之霜、・・・良人未帰」であるという(日本古典文学大系)。蘇武の、より有名で且つ原典のある雁書の故事には後場で触れている」との記述あり。
その他調査済資料
『中国故事成語大辞典』(和泉新編 東京堂出版 1992)
『中国名言名句の辞典』(小学館 1989)
『中国学芸大事典』(近藤春雄著 大修館書店 1980)
『漢詩名句辞典』(鎌田正著 大修館書店 1980)
『漢詩の事典』(松浦友久編 大修館書店 1999)
『小倉百人一首を学ぶ人のために』(糸井通浩編 世界思想社 1998)
『百人一首の世界』(千葉千鶴子著 和泉書院 1998)
『百人一首』(高橋睦郎著 中央公論新社 2003)
『晋書 130巻 8 傳』(房玄齡等撰 中華書局 1974)
p2523「列伝第六十六 列女」「竇滔妻蘇氏」には質問の故事については特に記述なし。
『日本の古典 16 能・狂言集』(河出書房新社 1972)
『新撰朗詠集全注釈 2』(柳澤良一注釈 新典社 2011)
『和歌文学大系 47 和漢朗詠集/新撰朗詠集』(久保田淳監修 明治書院 2011)
『和漢朗詠集 陽明叢書』(陽明文庫編 思文閣出版 1978)
『大漢和辞典 2』(諸橋轍次著 大修館書店 1984)
稲田 秀雄著「能「砧」の修辞と構想」(『同志社国文学 1984年12月』 p1-14 同志社大学国文学会 1984.12)
外村南都子著「早歌の両曲から能へ-「井筒」「砧」の場合」(『国語と国文学 59巻9号』p44-59 東京大学国語国文学会 1982.9)
佐伯真一著「平家物蘇武談の成立と展開」(『国語と国文学 55巻4号』p14-30 東京大学国語国文学会 1978.4)
黒田彰著「蘇武覚書」(『文学 52巻11号』p70-83 岩波書店 1984.11)
- 事前調査事項
- NDC
-
- 詩歌 (911 9版)
- 伝説.民話[昔話] (388 9版)
- 能楽.狂言 (773 9版)
- 参考資料
- キーワード
-
- 蘇 武(ソ ブ)
- 謡曲
- 照会先
- 寄与者
- 備考
-
レファ協DB事業サポーター様よりコメントをいただく。以下調査内容の本文。(2014/11/26)
下記の学術機関リポジトリで公開されている関連論文がありました。
稲田秀雄著「能「砧」の修辞と構想 : 故事引用の方法及び「女のドラマ」としての視点」(『同志社国文学 25』 p1-14 1984)(https://doors.doshisha.ac.jp/webopac/catdbl.do?pkey=TB00005174&initFlg=_RESULT_SET_NOTBIB 同志社大学 2014/11/27最終確認)
飯塚恵理人著「《砧》試解―法華読誦の力にて―」(『椙山国文学 25』 p65-84 2001)(http://ir.lib.sugiyama-u.ac.jp/dspace/handle/123456789/606 椙山女学園大学学術機関リポジトリ 2014/11/27最終確認)
- 調査種別
- 事実調査
- 内容種別
- 質問者区分
- 個人
- 登録番号
- 1000159630