レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2022年11月22日
- 登録日時
- 2023/02/07 16:20
- 更新日時
- 2023/04/15 12:53
- 管理番号
- 関大総図 22B-18J
- 質問
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解決
トヨタのウーブン・シティについて市と企業、それぞれの取り組みの現状、課題などについてまとめた事業報告を探している。
- 回答
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(1)裾野市のウーブン・シティに関連した取組みについて
ウーブン・シティ関連事業に特化した報告書は見つかりませんでしたが、市民への意識調査はじめ、市が公表している資料等から、ウーブン・シティに関する地域住民の意見や市の重要課題をある程度把握することができますので、以下紹介します。
まず、『日経ビジネス』(2021年9月13日)「トヨタの「ウーブン・シティ」も直面 住民置き去りでは街の変革は進まない」という記事を見ると、トヨタの工場撤退で税収が落ち込んだ裾野市がウーブン・シティで沸き上がったものの、一部住民から「ウーブン・シティが地域住民と隔絶された『天空の城』にならないか不安」などの声があること、また、市はトヨタと連携しながら住民一体の街づくりを進めるとはしているが、関係者には厳重なかん口令が敷かれ、住民が街の将来像をあずかり知れないことも不安を呼ぶ一因と指摘し、地域の声を反映した街づくりの重要性が説かれています。
行政側の対応として、2021年10月5日、トヨタのWPH(ウーブン・プラネット・ホールディングズ)代表取締役カフナー氏をゲストに、はじめて住民説明会が開催されました。ウーブン・シティに関する住民からの事前質問と市、WPH側の回答が公開されています。
https://www.city.susono.shizuoka.jp/soshiki/3/1/8/2/16266.html 【最終アクセス日:2023/02/09】
質疑応答の一部は、広報『すその』(2021年12月号)でも紹介されています。
https://www.city.susono.shizuoka.jp/material/files/group/12/Susono202112P4_7.pdf 【最終アクセス日:2023/02/09】
また、当時の裾野市長は説明会で「ウーブン・シティは間違いなく世界が注目するスマートシティの1つになる。ただ、閉ざされたテーマパークみたいな空間にしてはもったいない。外との行き来ができるような形を模索すると岩波駅周辺の基盤整備が重要になる」(2021年10月7日『日刊自動車新聞』記事)旨述べています。
上記の考え方は、『令和3年度裾野市市民意識調査報告書』(2021年10月)でも窺うことができます。当報告書では、住民の意見が子育て、教育、地域振興などテーマごとに分類、掲載されており、断片的ですが、住民がウーブン・シティをどう捉えているかを垣間見ることができます。こちらでも、特に岩波駅の魅力や充実の必要性が強調されており、市民への質問項目も、ウーブン・シティについて単独で問う形ではなく、岩波駅と関連づけた質問になっていることが注目されます(報告書pp.113-124「未来都市(ウーブン・シティ)との連携について」、問37~39参照)。
http://www.city.susono.shizuoka.jp/material/files/group/11/r3houkokusyo.pdf 【最終アクセス日:2023/04/15】
『第5次裾野市総合計画』(2021年1月)でも、施策の大綱4「将来を見据えた暮らしや活動を支えるまち<都市・交通・社会基盤>」において、ウーブン・シティとの連携が説かれ、最寄り駅である 岩波駅周辺の利便性の向上やアクセス環境の整備、人や企業の受け皿づくり等を進めていく必要がある、と記載されていることなど踏まえると、市としては、ウーブン・シティに関連して岩波駅周辺の整備事業を最重要課題として認識していることが読み取れます。
https://www.city.susono.shizuoka.jp/soshiki/3/1/8/2/15223.html 【最終アクセス日:2023/02/09】
市は上記の市民意識調査の結果を踏まえ、『岩波駅周辺地区まちづくり基本計画』(2022年3月)を策定、ここでは岩波駅周辺地域の公共交通の強化やコミュニティの維持などを課題と捉えており、当該地区の地域資源とウーブン・シティ、そして周辺企業をつなげるまちづくりを実現していくとの方向性が示されています。そして、市民や企業と、岩波駅まちづくりワークショップを定期的に開催している旨報告されています(第4章~第7章参照)。
https://www.city.susono.shizuoka.jp/soshiki/6/5/keikaku/kihon_plan/16815.html 【最終アクセス日:2023/02/09】
(参考)岩波駅周辺地区まちづくり基本計画案 パブリックコメント実施結果
https://www.city.susono.shizuoka.jp/soshiki/6/5/keikaku/kihon_plan/16769.html 【最終アクセス日:2023/02/09】
ウーブン・シティと岩波駅の整備計画につき市民からの意見と行政の回答が掲載されています。
2022年9月、市は2020年に策定したスマートシティ(SDCC)構想につき、市民生活に直接繋げることが難しく、市民の皆様には浸透しにくかったことなどを理由に中止を発表していますが、ここでも、ウーブン・シティの開所を見越した、上記岩波駅周辺の整備事業は計画通りに進めていくことに変わりないことが強調されています。
令和4年9月8日 定例記者会見市長原稿(2~3ページ参照)
https://www.city.susono.shizuoka.jp/material/files/group/12/20220908.pdf 【最終アクセス日:2023/02/09】
以上から、裾野市としては、ウーブン・シティに関する意識調査等の結果を踏まえ、岩波駅周辺の整備を重要課題として取組んでおり、まちづくりワークショップを定期的に開催しながら、市民や企業と協働して進めていることがわかります。
(2)企業側の取組みについて
一方、企業側の取組みについて、現時点では、まとまった報告書の類は確認できませんでした。代わりに、業界紙ほか各種新聞記事や、(1)で挙げた住民説明会におけるWPHの回答などを参考にすると、主に3つの取組みが見て取れます。
①岩波駅の整備事業
(1)に挙げた2021年10月5日住民説明会のWPH側の回答によると、市が重要課題として挙げている当該事業を全面的に支援することや、まちづくりワークショップへの共同参画、ウーブン・シティでの電気自動車e-Paletteをはじめ新しいモビリティの導入など、移動問題の解決に向けた実験的取組みがあります。
参考 Woven City Report vol.2(2021.7)
https://ad-crew.com/woven-report_2.pdf 【最終アクセス日:2023/02/09】
②カーボンニュートラル事業
大きく2つのトピックがあります。ひとつは、ENEOS株式会社と共同でウーブン・シティにおける水素ステーションの建設・運営、CO2フリー水素の製造、燃料電池車への水素供給に向けた取組みで、このうち、水素ステーションは、24〜25年に予定しているウーブン・シティ開所前に、運営をスタートさせる予定。二つ目は、リンナイ株式会社とともに、新たな水素の用途の一つとして水素を燃焼させて行う調理(水素調理)について共同開発を開始、ウーブン・シティで実証を行い、水素調理によるカーボンニュートラルへの貢献と水素による新たな食体験の提供を目指すものです。
(「ENEOSとトヨタ - 水素の利活用事業 裾野市で具体化へ」2022年4月7日『電子デバイス産業新聞』、「リンナイ・トヨタなど3社、水素調理を共同開発へ」2022年10月24日『プロパン・ブタンニュース』を参照)
③食(健康)への取組み
日清食品と共同で、住民の食の選択肢拡充と健康増進の共同実証と、一人一人に最適な「完全栄養食メニュー」の提供に向けた取組みです。メニューは、日清がインスタントラーメンなどで培った技術を生かし、カロリーや塩分、糖質、脂質などが調整され、必要な栄養素をバランスよく取れ、約300のメニューを開発中。とんかつ定食の場合、カロリーを54%、食塩を60%カットできるそう。日清社長曰く「ウーブン・シティで中長期にわたる実証を重ね、食を通じたWell-Beingの向上に取り組んでいく」とのこと。
(「ウーブン・シティに日清食品が参加」2022年4月27日『中日経済新聞』、「日清食品とトヨタ、Woven Cityにおける食を通じたWell-Beingの実現に向けた具体的な検討を開始」2022年4 月 26日『PR TIMES』を参照)
トヨタのウーブン・シティのコンセプトのひとつは「実証実験の街」であり、上記①~③の各種先進的な取組みの実験場として位置づけられていることがわかります。その一方で、こうした実験的取組みに、どの程度地域住民が関わるのか、住民の生活向上やWell-Beingにどれほど寄与できるのか、については、上記の資料を見る限り、さほど明確になっていないようです。言い換えると、当時の市長が懸念していた「テーマパーク」、あるいは冒頭に挙げた『日経ビジネス』にあった「『天空の城』になりはしないか」という市民の声は、完全には払拭されていないように思われます。
(1)で挙げた住民説明会における事前質問には「ウーブン・シティ外」について問うものがあり、WPHの回答によると「ウーブン・シティの内部で実証されたサービスや技術を裾野の地で実装、普及していくことで、地域の課題解決のお手伝いをしたい」との記載があり、裾野市の『岩波駅周辺地区まちづくり基本計画』においても、同様に、ウーブン・シティで実証される最先端技術の活用により、地域の課題解決に取組む旨記載されています(第7章参照)。従って、上記の懸念を払拭できるかどうかは、今後、実験の成果をウーブン・シティの外へ広げていく具体的な取組みにかかっていると考えられます。
- 回答プロセス
- 事前調査事項
- NDC
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- 産業政策.行政.総合開発 (601)
- 地方自治.地方行政 (318)
- 衛生工学.都市工学 (518)
- 参考資料
- キーワード
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- 都市計画
- 官民連携
- 裾野市
- トヨタ自動車株式会社
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 事実調査
- 内容種別
- 質問者区分
- 学部生
- 登録番号
- 1000328683