レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2022年6月27日
- 登録日時
- 2022/07/09 18:02
- 更新日時
- 2022/07/27 21:24
- 管理番号
- 県立長野-22-059
- 質問
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【敖】の下に【力】と書く漢字は「コウ」或いは「ゴウ」と読むようだが、「豪」の基になった漢字か。
- 回答
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根岸政子著「段玉裁『説文解字注』の反切についての一考察」『論集』 第30号(駒澤大学外国語部)【最終確認2022.7.13】p.21-, 1989のp.26に
本義以外の意味が生まれるもう一つの場合に仮釈義がある。他の字の当て字として使われるように
なり本義以外の字義が生じたものである。仮借は同部同韻を原則としているので古音が誤っていたり
失われている場合には仮釈字から音を類推することができる。豪傑の豪の字は本来は "【敖】の下
に【力】"(13下54a)を使っていたが、仮借字の豪が通行し廃れた。だから五牢切(疑母/豪韻)で
はなく豪と同じ乎刀切(匣母/豪韻)であるべきだとしている。
とある。"【敖】の下に【力】"は当該漢字が変換されないためこのように表したが、論文中は当該漢字が書かれている。
『広漢和辞典 上巻』 諸橋轍次ほか著 大修館書店 1981【813.2/モテ/1】 p.412に当該漢字があり、事例を引いて、
[段注]此レ豪傑ノ真字なり。豪ヲ叚リテ之ニ為リテ自り、而[ゴウ]廃ス矣。
とあった。 [段注]は「説文解字注(段注本)」清の段玉裁が著した『説文解字注(中国語版、英語版)』のことと思われる。字解として
形声。力+敖声。敖は、堂々としているの意。力がすぐれてたけ〱つよい、健豪の意。のち、豪の
字を借り用いる。
とある。
【敖】の下に【力】と書く漢字については、事前調査資料の『大漢和辞典 第2巻』 p.1490と、上記の『広漢和辞典 上巻』のほかは、『標註訂正康煕字典』 渡部温訂正 講談社 1978 【823/ヒヨ】p.355にこの文字があったのみ。この資料は国立国会図書館デジタルコレクションでインターネット公開されているもの【最終確認2022.7.13】と同じ記述。当該漢字は86コマ目の第84丁のオモテに記載。「豪」の音をとっている。また、「敖」の音とあり、意味も同じようである。
『大漢和辞典』が引用している「説文」は『説文解字』のことと思われる。当館所蔵の『説文解字』許慎編 1826 【821/23/9】で、巻13 16丁オモテ に当該文字があり、「健也从力敖聲読若豪五牢切」と書かれている。別の本ではあるが、『説文解字』が早稲田大学の古典籍総合データベースに公開されており、同じ記述を見ることができる。音を中心とした解説のため、「豪のごとく読む」といった内容と思われる。【最終確認2022.7.13】
また、『大漢和辞典』が引用している「集韻」は当館では所蔵していないため、同じように早稲田大学の古典籍総合データベースで確認したところ、「第3巻38丁のウラ(41コマ目)に当該漢字があり、「健也、彊也、通作豪」の記述があった。同じ巻の38丁オモテ(40コマ目)には、「豪」があったが、当該漢字との関係については書かれていない。『大漢和辞典 第10巻』p.665の「豪」でも、当該漢字については触れられていなかった。
「敖」については、『字統』白川静著 平凡社 1984【821.2/シシ】 p.318-319に、「敖」を基にした関連の文字を含めて「ゴウ」音の文字の記載がある。しかし、当該漢字の記載は確認できない。また、「コウ」の項目にも記載はなかった。また、『漢字の体系』白川静著 平凡社 2020 【821.2/シン】 p.590-591に、「敖(ゴウ)」と関連する文字について書かれているが、当該文字は取り上げられていない。
言及している度合いがそれぞれ異なるため、問い合わせ内容について図書館では判断できないことを合わせて伝えた。
- 回答プロセス
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1 事前調査事項の『大漢和辞典』で当該漢字と「豪」を確認する。
2 所蔵するNDC分類813(日本語の辞典), 823(中国語の辞典)の書棚で当該漢字を調べる。
3 『大漢和辞典』が引用している「説文解字」等の出典を確認していく。『説文解字五音韻譜』許慎編 1670【821/26】で、当該漢字が『説文解字』 許慎著【821/23】のどの巻にあるか探す。巻の13とわかったので、その巻がある【821/23/9】を見る。また、漢籍は複写に適さないことと、本文を引用する際にレ点、返り点を書きにくいためアーカイブされているものを探す。早稲田大学のサイトがヒット。
4 所蔵していないものについても、アーカイブされている可能性が高いので、公開されているものを探す。
5 学術論文を探す。当該漢字だけを取り出しての論文は考えにくい。しかし、論題に入るキーワードも、著者がつけるであろうキーワード類も思いつかない。『康煕字典』で「集韻」から"乎刀切、夶音豪"と記していたので、この「乎刀切」「集韻」「豪」の&検索でweb上を検索する。「段玉裁『説文解字注』の反切についての一考察」がヒットした。
6 当該漢字と「豪」の関係については判断がつかないため、利用者に判断してもらうこと勧め回答とした。
<調査資料>
・『白川静著作集 別巻(説文新義)』1-8巻 白川静著 平凡社 2002 【222/シシ/ベツ1-1~8】
・『四声字林集韻』 鎌田禎著 1828 【811/126】
・『重刊許氏 説文解字五音韻譜』 許慎編 1670 【821/26】
・『漢字の成立ち辞典』 加納喜光著 東京堂出版 2009 【821.2/カヨ】
・『人名の漢字語源辞典』 加納喜光著 東京堂出版 2009 【821.2/カヨ】
・『角川大字源』 尾崎雄二郎ほか編 角川書店 1992 【813.2/オユ】
・『大漢語林』 鎌田正著 大修館書店 1992 【813.2/カタ】
・『漢字語源辞典』 藤堂明保著 学灯社 1979 【821.2/トア】
・『漢字の起源』 加藤常賢著 角川書店 1977 【821.2/カジ】
・『漢字解説字典』 井上勇著 1973 【811/110】
- 事前調査事項
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『大漢和辞典 第2巻』諸橋轍次編 大修館書店 p.1490
- NDC
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- 辞典 (823 10版)
- 辞典 (813)
- 参考資料
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諸橋轍次 [ほか]著 , 諸橋, 轍次, 1883-1982. 広漢和辞典 上巻. 大修館書店, 1981.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001529549-00 (【813.2/モテ/1】 p.412) -
渡部 温/訂正 , 渡部‖温. 標註訂正康煕字典. 講談社, 1978.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I005717585-00 , ISBN 4061210335 (【823//ヒヨ】p.355) -
許 慎/著 , 徐 鉉/ほか奉勅校定 , 許 慎 , 徐 鉉. 説文解字 9.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I058896917-00 (【821/23/9】巻13 16丁オモテ)
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諸橋轍次 [ほか]著 , 諸橋, 轍次, 1883-1982. 広漢和辞典 上巻. 大修館書店, 1981.
- キーワード
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- 説文解字
- 漢字の成り立ち
- 借字
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 事実調査
- 内容種別
- 言葉
- 質問者区分
- 図書館
- 登録番号
- 1000318605