レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2022/11/02
- 登録日時
- 2022/12/14 00:31
- 更新日時
- 2022/12/14 00:31
- 管理番号
- 6001057852
- 質問
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解決
明和年間に、宮城仁十郎ら三名の旗本が改易される原因となった事件について書かれた資料はないか。また当時、改易された旗本の処遇はどのようなものだったのか知りたい。
- 回答
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次の資料に記載あり。
1)改易の原因となった事件について
明和元年八月、書院番の木造七左衛門、京極伊兵衛、西の丸小姓宮城仁十郎、小姓組杉原七十郎らが水練稽古と称して隅田川で舟遊びをした際、杉原が酔って水中に落ち溺死したことに気づかず、その後の評定で虚偽の報告をしたことが発覚し、杉原以外の三名の旗本が改易された事件。この事件については、士風の退廃の典型的な事例として様々な資料で言及されている。
・『百万都市江戸の生活 (角川選書215)』(北原進/著 角川書店 1991.6)
江戸時代の随筆や記録を渉猟し、江戸時代の様子が分かる事件などをまとめた資料。
「士籍剝奪と謹慎処分」(p.219-220)に本事件についての記載あり。本事件後に、亡くなった杉原七十郎の家来が主人の追腹を切ろうとした顛末についても記されている。
・『国民の日本史 第11篇 江戸時代爛熟期』(早稲田大学出版部/編輯 高須梅渓/著 早稲田大学出版部 1922)
「狂酔した武士の悲喜劇」(p.293-294)で本事件に言及あり。
・『田沼時代 (歴史講座)』(辻善之助/著 日本学術普及会 1915)
■国立国会図書館デジタルコレクション(インターネット公開) (2022/11/2現在)
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/953292/41
「第三 士風の廃頽」の「泥酔溺死」(p.67-68(41-42コマ))に本事件についての記述あり。この事件をもとに次のような落首が作られたことがわかる。
「船に酔い酒がすぎ原七十郎七百石を川へ進物」、「何事もなくすむ時はけいこ船おほれる時は芸妓(げいこ)ぶねかな」宮城仁十郎の事を「川風にふき折られしや宮城野の すゝきはおぼれて浮きつ沈みつ」、木造七左衛門の事を「木造りてたしなむべきに人までをさそふ遊びの面(つら)つくりけり」
[史料]
・『東京市史稿 市街篇第27 復刻版』(東京市役所/編纂 臨川書店 1997.12)
p.136-138に本事件の評定所における仕置の記録が掲載されている。木造七左衛門、宮城仁十郎、京極伊兵衛の三名とも「改易被仰付者也」とある。当時の旗本の不行跡による処分では、改易(士籍剥奪)の上追放などもあるが、この場合、旗本三名については改易(士籍剥奪)のみの処罰で済んだと思われる。それぞれの家来らも処罰対象になっているが、木造と京極の家来については「叱り」であるのに対し、宮城の家来二名については「家来 飯田佐七 申三十一」は「江戸拂」、「中間 久助 申十九」は「三十日手鎖」と、他と比較して重い罰を申し渡されている。また、船宿主人や水主ら町人も処罰されていることがわかる。
・『国史大系 続 第15巻 徳川実紀[7] 』(経済雑誌社 1904)
■国立国会図書館デジタルコレクション(インターネット公開) (2022/11/2現在)
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/991122/86
明和元年十月七日(p.163(86コマ))に本事件の記載あり。
2)旗本の改易後の処遇について
旗本の改易は、その身分に付随した権限や財産(拝領屋敷など)は失うが、私財についてはそのまま持つことが許されていたと思われる。旗本の改易がどういった刑にあたるのかについては、次の論文が詳しい。
・浪江健雄「江戸幕府法における改易について」『国士舘史学』17(国士舘大学日本史学会 2013.3)p. 29-61
本論文はweb上で一般公開されている。(2022/11/2現在)
http://id.nii.ac.jp/1410/00013098/
「改易」は『日本国語大辞典』では「士人の称を除き、領地、家禄、屋敷などを没収し平民とすること。蟄居より重く、切腹より軽い」刑とされている中で、いかなる犯罪を犯すと改易処分になるのかを、『断家譜』の内容を分析することで明らかにしようとした研究。宮城仁十郎が関わった事件については(5)改易(p.53-58)で言及されている。著者の結論としては「改易は単なる身分刑」であり「被刑者は浪人となる」が、「赦免としての武士への復帰」の可能性を有した刑罰であるとしている。
・『日本浪人史』(石川恒太郎/著 西田書店 1980.10)
浪人となった場合、武士がどうやって生計をたてたかなど事例が書かれている。
また、前述の『田沼時代 (歴史講座)』には、当時の旗本の不行跡による処分について、斬首、遠流、士籍剥奪の上追放等具体的な事例が書かれており参考になる。
[事例作成日:2022年11月2日]
- 回答プロセス
- 事前調査事項
- NDC
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- 日本史 (210 10版)
- 参考資料
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- 百万都市江戸の生活 北原/進∥著 角川書店 1991.6 (219-220)
- 国民の日本史 第11篇 大正11年版 早稲田大学出版部∥編輯 早稲田大学出版部 1922 (293-294)
- 田沼時代 辻善之助著 日本学術普及会 1915 (67)
- 東京市史稿 市街篇第27 復刻版 東京市役所∥編纂 臨川書店 1997.12 (136-138)
- 国史大系 続 第15巻 経済雑誌社 1904 (163)
- 日本浪人史 石川/恒太郎∥著 西田書店 1980.10
- https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/953292/41 (国立国会図書館デジタルコレクション(インターネット公開)『田沼時代 (歴史講座)』(2022/11/2現在))
- https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/991122/86 (国立国会図書館デジタルコレクション(インターネット公開)『国史大系 続 第15巻 徳川実紀[7] 』 (2022/11/2現在))
- http://id.nii.ac.jp/1410/00013098/ (浪江健雄「江戸幕府法における改易について」『国士舘史学』17(2022/11/2現在))
- キーワード
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- 旗本(ハタモト)
- 改易(カイエキ)
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 人物・団体
- 質問者区分
- 個人
- 登録番号
- 1000325700