レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2021年02月26日
- 登録日時
- 2021/03/24 09:32
- 更新日時
- 2021/07/21 20:02
- 管理番号
- 県立長野-20-127
- 質問
-
解決
「日本人のおなまえ」という番組で特集されていた、平安時代の八ヶ岳崩壊について書かれた文献を教えてほしい。
- 回答
-
平安時代の八ヶ岳崩壊について、以下の資料に記載あり。
・『小海町志 川東編』 新津享著
小海町志刊行委員会 1967 p.2-5 (13-14コマ目) [デジタル化資料送信参加館内]
仁和三年(或は四年)の地震による災害に関する記述がある。また、『日本記略』『類聚三代格』『日本三代実録』『扶桑略記』等の古記録を引用して当時の様子を紹介している[最終確認2021.7.21]。
・『小海町志2 川西編』 鷹野一弥著
小海町志刊行委員会 1967 p.4-8 (13-15コマ目) [デジタル化資料送信参加館内]
『小海町志 川東編』と重複するところもあるが、「大月川泥流付近図」(雑誌「信濃」17巻11号からの
引用)があり、位置関係がわかりやすい。また、p.8では松原湖の形成について論じたものを挙げている[最終確認2021.7.21]。
・『八千穂村誌 第4巻 歴史編』 八千穂村誌歴史編編纂委員会編 八千穂村誌刊行会 2003 p.142
『日本略記』などの本に、仁和4(888)年に大洪水や山崩れがあり、信濃国に大きな被害が出たと書かれているとあり、また、八千穂の地域にどれくらい被害をもたらしたのかを判断するための十分な材料がないとも述べている。
・『北相木村誌』 菊地清人編 北相木村誌刊行委員会 1977 p.119
古記録を引用しながら、平安時代の八ヶ岳崩壊とその被害について以下のように述べている。
平安時代の今から約千年前に仁和(にんな)四年(八八八年)、五月八日、八ヶ岳の天狗岳が崩れたため
小海に小さな湖が生じた。「日本記略」という本によると「五月八日、信濃国大水ありて山くずれ
川溢(あふ)る」とある。また「類聚三代格」には「重ねて今月八日信濃国山くずれ川あふれて六郡を
唐突し、城ろ(家のこと)地払って流漂し、戸口(人)波に従って没溺す。百姓何の罪ありてか、しきりに
この災にかかる。(中略)その災いをこうむることもっとも甚しきは、今年の租調(税)を輸するなかれ、
所在に倉をひらきて振貸しその生業を給せよ、もし屍(し)がいのいまだおさめざるものあらば官埋葬を
なせ」(下略)とある。これは時の宇多天皇が災書の大きさにおどろいて使者を派遣し、租税を免じ食糧
を与え、死者を埋葬させた詔勅である。
六郡というのは佐久・小県・埴科・更科・水内・高井の六郡である。したがって被害は長野市より
北の千曲川全域にわたり、「牛馬男女の流れ死する者丘をなす」(扶桑略記)というから、その被害の
甚大なことは日本の水害史上最大のものであろう。
また、各市町村誌で引用されている『日本三代実録』『日本記略』『類聚三代格』『扶桑略記』を調査したところ、地震や山崩れの被害についての記載を確認する。なお、前述した4つの資料の原文は「[古代・中世]地震・噴火史料データベース(β版)」でも閲覧できる[最終確認2021.07.21]。
・『国史大系 第4巻 日本三代実録』 黒板勝美編輯 吉川弘文館 2000 p.636-637
巻五十 光孝天皇(仁和三年六月-七月)
卅日辛丑。申時地大震動。
・『国史大系 第10巻 日本紀略』 黒板勝美編輯 吉川弘文館 2000 p.532
前篇二十 宇多(仁和四年正月-九月)
五月八日。信濃國大水。山頽河溢。
・『国史大系 第12巻 扶桑略記』 黒板勝美編輯 吉川弘文館 1999 p.152
扶桑略記第廿一 光孝(仁和三年七月-八月)
卅日辛丑。申時。地大震。(中略)。信乃国大山頽崩。巨河溢流。
・『国史大系 第25巻 類聚三代格』
黒板勝美編輯 吉川弘文館 2000 p.525-526 巻十七 赦除事
今月八日信濃國山頽河溢。
また、市町村誌および国史大系では崩れた山が八ヶ岳であると明記されていないが、崩れた山が八ヶ岳であると推定される理由は、以下の資料に詳述されている。
・『南牧村誌』 南牧村誌編纂委員会編・刊 1986 p.533-540
・『南佐久郡誌 古代・中世編』 佐久郡誌編纂委員会編 南佐久郡誌刊行会 1985
p.394-403 (217-221コマ目) [デジタル化資料送信参加館内][最終確認2021.7.14]
・早川由紀夫「平安時代に起こった八ヶ岳崩壊と千曲川洪水」『歴史地震』 第26号 (2011年)
p.19-23 [最終確認2021.7.21]
・『日本の天然ダムと対応策』水山高久監修 森俊勇・坂口哲夫・井上公夫編著 古今書院 2011
「第2章 2002 年以後に判明した主な天然ダム災害」 p.31-44 [最終確認2021.7.21]
<調査済み資料>
・石橋克彦「文献史料からみた東海・南海巨大地震 -1.14世紀前半までのまとめ-」
『地質学雑誌』108巻 4号 (1999年) p. 399-423 [最終確認2021.7.21]
・『南海トラフ巨大地震』 石橋克彦著 岩波書店 2014 【453/イカ】 p.87-90
- 回答プロセス
-
1 市町村誌を調べる。
「長野県市町村史誌目次情報データベース」で「八ヶ岳」「崩」等をキーワードとして検索を行い、
ヒットした『小海町誌』などを調査する。また、質問者が希望した『八千穂村誌』など近隣地域の
市町村誌もあわせて確認する。
2 論文を調べる。
国内の論文検索が行えるサイト「Cinii Articles」で「八ヶ岳 AND 崩」等をキーワードに検索を行う。
早川由紀夫「平安時代に起こった八ヶ岳崩壊と千曲川洪水」などの論文を確認する。
3 古記録を調べる。
市町村誌で引用されていた『日本記略』『類聚三代格』『日本三代実録』『扶桑略記』を調べ、
八ヶ岳崩壊に関わる記述を確認する。
また、早川由紀夫「平安時代に起こった八ヶ岳崩壊と千曲川洪水」で紹介されている
「[古代・中世]地震・噴火史料データベース(β版)」でも原文の閲覧ができることを確かめる。
4 地震や水害に関する資料を調べる。
453類(地震学)、369類(社会福祉)、517類(河川工学)など、災害や災害対策に関する本をまとめている
棚を調査する。『日本の天然ダムと対応策』で八ヶ岳崩壊に関する記載を確認する。
- 事前調査事項
-
NHKのバラエティー番組「日本人のおなまえっ!」(2021.02.25放送回)で、長野県南佐久郡にある「小海町(こうみまち)」という地名は平安時代に起きた地震で八ヶ岳が崩れて湖ができたことに由来するという内容を放送していた[最終確認2021.7.21]。
- NDC
-
- 日本史 (210 10版)
- 中部地方 (215 10版)
- 地震学 (453 10版)
- 参考資料
-
-
新津 享/著 , 新津 享. 小海町志 1 川東編. 小海町志刊行委員会, 1967-05.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I058971218-00 (【N223/20/1】) -
鷹野 一弥/著 , 鷹野 一弥. 小海町志 2 川西編. 小海町志刊行委員会, 1968-11.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I058971217-00 (【N223/20/1】) -
八千穂村誌歴史編編纂委員会/編. 八千穂村誌 第4巻. 八千穂村誌刊行会, 2003-09.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I059214598-00 (【N223/102/4】) -
菊地 清人/編 , 菊地 清人. 北相木村誌. 北相木村誌刊行委員会, 1977-00.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I058971614-00 (【N223/36】) -
黒板 勝美/編輯 , 黒板‖勝美 , 藤原‖時平. 国史大系 第4巻 新訂増補. 吉川弘文館, 2000.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I020731578-00 , ISBN 4642003053 (【210.08/クカ/4】) -
黒板 勝美/編輯 , 黒板‖勝美. 国史大系 第10巻 新訂増補. 吉川弘文館, 2000.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I020707722-00 , ISBN 4642003118 (【210.08/クカ/10】) -
黒板 勝美/編輯 , 黒板‖勝美. 国史大系 第12巻 新訂増補. 吉川弘文館, 1999.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I021490245-00 , ISBN 4642003134 (【210.08/クカ/12】) -
黒板 勝美/編輯 , 黒板‖勝美. 国史大系 第25巻 新訂増補. 吉川弘文館, 2000.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I020725822-00 , ISBN 4642003274 (【210.08/クカ/25】) -
南牧村誌編纂委員会/編 , 南牧村誌編纂委員会. 南牧村誌. 南牧村誌編纂委員会, 1986-00.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I059269667-00 (【N223/64】) -
佐久郡誌編纂委員会/編 , 南佐久郡誌編纂委員会. 南佐久郡誌 古代・中世編. 南佐久郡誌刊行会, 1985-00.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I059276999-00 (【N223/61/1】) -
森俊勇, 坂口哲夫, 井上公夫 編著 , 水山高久 監修 , 森, 俊勇 , 坂口, 哲夫 , 井上, 公夫, 1948- , 水山, 高久, 1950-. 日本の天然ダムと対応策. 古今書院, 2011.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000011304239-00 , ISBN 9784772261104 (【517.4/モト】)
-
新津 享/著 , 新津 享. 小海町志 1 川東編. 小海町志刊行委員会, 1967-05.
- キーワード
-
- 長野県
- 八ヶ岳
- 仁和地震
- 洪水
- 松原湖
- 小海湖
- 南牧湖
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 郷土
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000295714