レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2020/02/04
- 登録日時
- 2020/12/20 00:30
- 更新日時
- 2022/11/10 10:01
- 管理番号
- 茨城-2019-235
- 質問
-
解決
茨城県内の県市町村史などの民俗や方言の資料の中で、「ほうとう」系の麺食の記録をご教示願いたい。
なお、今回の照会は、文化史的な関心(言語地理・人文地理・民俗・地域おこし)の観点からのものであり、とりわけ文化境界はどこかという点に関心がある。
- 回答
-
ご依頼のありました茨城県西部の伝統食(麺食)について,次のとおり調査しましたのでご確認ください。
市町村史については,目次より「食の習俗」,「年中行事」等の項目を中心に確認しました。
1 現・古河市および隣接市町村史の調査より
(1)『古河市史 民俗編』(古河市史編さん委員会/編集 古河市 1983)
【貸出用図書あり】【国立国会図書館デジタルコレクション(図書館送信対象資料)】
p.140-141「家族の生活と家の制度」の「家例」の項目に,正月三が日の記述に「ヒボカワ(ヒモカワ)」が出てきます。
p.669「正月の行事」の「元旦」の項目に,「ヒモカワ」が出てきます。
p.506-507「ムラの食生活」の「食べ物」の項目に,ウドンが出てきますが,「ヒモカワ」の記述はありません。
(2)『総和町史 民俗編』(総和町史編さん委員会/編集 総和町 2005)
【貸出用図書あり】
p.354-356「元旦の食事」の項に,「ヒモカワ」が出てきます。
(3)『三和町史 民俗編』(三和町史編さん委員会/編集 三和町 2001)
p.371-376「カワリモノの今昔」・「正月」の項に,うどんが出てきます。
p.426-427「正月の食事と供物」の項に,うどんが出てきます。
(4)『下総境の生活史 地誌編地誌』(境町史編さん委員会/編集 境町 2004)
【貸出用図書あり】
p.141「マチの年中行事」の「正月」の項にうどんが出てきます。
p.146「ムラの年中行事」の「冬から春へ」の項にうどんが出てきます。
※その他確認した資料
・『町史 五霞の生活史 水と五霞』(五霞町史編さん委員会/編集 五霞町 2010)
・『ごかの歴史ものがたり』(五霞村教育委員会/編 五霞村教育委員会 1988)
・『猿島町史 民俗編』(猿島町史編さん委員会/編集 猿島町 1998)
・『結城の歴史』(結城の歴史編さん委員会/編 永原 慶二/監修 結城市 1995)
・『結城市史 第6巻 近現代通史編』(結城市史編さん委員会/編 結城市 1982)
・『八千代町史 通史編』(八千代町史編さん委員会/編集 八千代町 1988)
2 茨城県の郷土料理に関する資料の調査より
(5)『茨城の民俗 第48号』(茨城民俗学会/編 茨城民俗学会 2009)
【貸出用図書あり】
「食」を特集した号です。
p.60-61「饂飩・蕎麦」の項で,下妻市の「ヒモカワウドン」について『茨城の民俗 第6号』の論文を引用しています。
(6)「江戸時代末期の年中行事-下妻市横瀬家の「年中家行事」-」(赤城毅彦/著 『茨城の民俗 第6号』p.118-125 1967)
※『茨城の民俗 第6号』【貸出用図書あり】
万延元年(1860)に横瀬耕大夫光表が書留めた「年中家行事」を翻刻した資料です。
正月元旦・2日・3日,12月晦日に「ヒモカワウドン」が出てきます。
(7)『下妻市史 別編 民俗』(下妻市史編さん委員会/編 下妻市役所 1994)
【貸出用図書あり】
p.198-199「三が日」の項に,「紐皮うどん」が出てきます。
p.107-120「食」の節も確認しましたが,「うどん」についてのみで,「紐皮うどん」の記述はありませんでした。
※その他確認した資料
・『いばらきのおかず』(服部 一景/編著 開港舎 2014)
・『食・彩・百・景 いばらきの味-郷土料理献立集』(茨城県衛生部成人病対策課/編集 茨城県衛生部成人病対策課 1995)
・『いばらきの味』(月刊みと/編 ふじ工房 1976)
・『郷土料理とおいしい旅 5 千葉・茨城』(朝日新聞社/編 朝日新聞社 1985)
・『県西の食 伝わる味伝える技創る人』(茨城県県西地方総合事務所 2007)
・『伝えたい奥久慈の味』(茨城県農業総合センター・常陸大宮地域農業改良普及センター/編 奥久慈の味研究会 2006)
・『県南の伝わる味伝えたい味』(茨城県生活改善グループ連絡研究会 1984)
・『ふるさと・笠間の食と暮らし』(笠間市食生活改善推進員協議会/編 笠間市食生活改善推員進協議会 2006)
3 方言からの調査より
(8)『日本の食生活全集 8 聞き書 茨城の食事』(農山漁村文化協会 1985)
p.185「すいとん」の説明の中に「だんご汁、はっとう汁」との表記が出てきます。
ただし,同ページに写真が掲載されていますが,麺ではありません。
(9)『茨城方言民俗語辞典』(赤城 毅彦/編 東京堂出版 1991)
「はっとう」が「ほうとう」と発音が似ていたため,方言の辞典を確認してみました。
p.747「ハットジル」の項目があり「すいとん」と解説されています。
p.685「ニーメン」の項目があり「煮こみうどん」と解説されています。
p.785「ヒボカ」「ヒボカー」「ヒボカーウドン」「ヒボカウドン」の項目があり,いずれも「ひもかわうどん」と解説されています。
なお,「ヒボカー」の参考文献に「東京人類学会学会報告」・「東京人類学会報雑誌」が挙がっていますが,当館に所蔵がなく確認できませんでした。
その他「ほうとう」「煮ぼうとう」「おっきりこみ」「うちいれ」「のしこみ」「のしいれ」等を確認しましたが,掲載がありませんでした。
「ハットジル」「ニーメン」「ヒボカ」「ヒボカー」「ヒボカーウドン」「ヒボカウドン」の項目に挙がっている市町村史を確認しました。
(10)『緒川村史』(緒川村 1982)
【貸出用図書あり】【国立国会図書館デジタルコレクション(図書館送信対象資料)】
p.558「主食」の項に「ハット汁(すいとん)」の語は出てきますが,詳細な解説はありません。
(11)『茨城県久慈郡里美村大字小菅民俗調査報告書 1978~1979』(法政大学史蹟踏歩会/編 文献出版 1980)
【貸出用図書あり】
p.77-79「主食物」の「麺類」の項に,うどんについて記述があります。「その他,ニュウメン(煮麺)も作る」との記述がありますが,解説はありません。
(12)『明野町史』(明野町史編さん委員会/編集 明野町 1985)
【貸出用図書あり】【国立国会図書館デジタルコレクション(図書館送信対象資料)】
p.1309-1318「文化と生活」の項に,「ウドン」「うどん」が出てきますが,詳細な解説はありません。
(13)『明野町史資料 第23集 明野の聞き語り』(茨城県真壁郡明野町史編さん委員会/編 明野町 1995)
【貸出用図書あり】
p.53-58「明野の年中行事」の項に,「手打ち饂飩」が出てきます。
(14)『石下町史』(石下町史編さん委員会/編集 〔石下町〕 1988)
【貸出用図書あり】
p.533-534「盆と正月」の項に,うどんが出てきます。
(15)『岩井市史 民俗編』(岩井市史編さん委員会/編集 岩井市 2001)
【貸出用図書あり】
p.272-273「餅なし正月」の項に,ウドンが出てきます。
(16)『村史千代川村生活史 第2巻 地誌』(千代川村史編さん委員会/編 千代川村 1997)
【貸出用図書あり】
p.612「村の一年」の「正月」の項に,ウドンが出てきます。
(17)『村史千代川村生活史 第6巻 近現代通史』(千代川村史編さん委員会/編 千代川村 2002)
【貸出用図書あり】
p.280「昭和10年代の年中行事」の表の正月にうどんが出ています。
(18)『牛久市史 民俗』(牛久市史編さん委員会/編 牛久市 2002)
【貸出用図書あり】
p.288-289「儀礼食」の「そば・うどん」の項に,「ヒモカワ(ウドン)」が出てきます。
p.311-314「祝言」の「入家儀礼」・「祝言・披露」の項に,婚礼時の食(落ちつきウドン)として「ヒモカワ(ウドン)」が出てきます。
(19)『村の明治 筑東旧小幡村の歳時記』(高橋 臥峰/著 筑波書林 1981)
【貸出用図書あり】
八郷町の年中行事・風俗をまとめた資料です。
p.54-58「婚礼のしきたり」の項に,「オチヅキ吸物」として「ヒボカワウドン」が出てきます。
※その他確認した資料
・『茨城県の方言』(金沢 直人/著 茨城県立図書館(製作) 〔19‐‐〕)
・『会報 第19号』(古河郷土史研究会/編 古河郷土史研究会 1982)
「古河地方の方言集」(田代 房春/著 p.9-14)
・『茨城のことば 上・下』(遠藤 忠男/著 筑波書林 1983-1984)
・『水海道市史 上巻・下巻』(水海道市史編さん委員会/編 水海道市 1983-1985)
・『御前山村郷土誌』(御前山村郷土誌編纂委員会/編集 御前山村 1990)
・『桂村郷土誌』(桂村郷土誌編さん委員会/〔編〕 桂村郷土誌改訂委員会/編集 茨城県東茨城郡桂村教育委員会 1998)
・『瓜連町史』(瓜連町史編さん委員会/編 瓜連町 1986)
・『小川町史 上巻・下巻』(小川町史編さん委員会/編集 小川町 1982-1988)
・『八郷町史』(八郷町史編さん委員会/編 八郷町 2005)
・『図説新治村史』(新治村史編纂委員会/編 新治村教育委員会 1986)
・『谷田部の歴史』(谷田部の歴史編纂委員会/編 谷田部町教育委員会 1975)
・『守谷町史』(守谷町史編さん委員会/編 守谷町 1985)
・『古老に聞いた守谷の昔の話』(守谷市教育委員会生涯学習課 2005)
・『阿見町史』(阿見町史編さん委員会/編 阿見町 1983)
・『図説河内の歴史』(河内町史編さん委員会/編集 河内町 2003)
- 回答プロセス
-
(1) 現・古河市および隣接市町村史の民俗部分を確認
(2) 茨城県の郷土料理の調べ方のパスファインダーの掲載図書
パスファインダー:茨城県の郷土料理を調べるには
https://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=man_view&id=2000026149 【最終確認日:2020/02/04】
→該当するものがあった場合は,その市町村史を確認
(3)『茨城方言民俗語辞典』で該当する語と下記一般書に出てきた語を確認
→該当市町村史を確認
※その他確認済み資料(一般書)
・『未来へ伝えたい日本の伝統料理 〔4〕』(後藤 真樹/著 小泉 武夫/監修 小峰書店 2010)
・『民俗小事典 食』(新谷 尚紀・関沢 まゆみ/編 吉川弘文館 2013)
p.46「水団(すいとん)」,p.46-48「うどん」,p.320-321「ほうとう」→それぞれの方言として挙がっている語を方言辞典で確認
・『日本めん食文化の一三〇〇年』(奥村 彪生/著 農山漁村文化協会 2009)
p.114「はっとう、ばっとう、だっとうはほうとうがなまった言葉」
p.115岩手県の「ひっつみ」について,形状はひも皮状で,「ほうとうやおきりこみ、はっとうとまったく同じ」との記述あり。→茨城のすいとんはひも皮状ではない。
- 事前調査事項
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『山梨県史』民俗編(2003)p508の「ホウトウ呼称のひろがり」図によれば、ほうとう系の麺食文化が、関東では栃木南西部・群馬県・埼玉県(南東部除く)・東京西部・神奈川西部に広がっており、茨城県では、茨城県南西部(古河市周辺)に分布しているとの記載があります。同図によれば、同地方はほうとう文化圏の最東端に位置しています。
名称は、「ほうとう」のほか、「煮ぼうとう・おっきりこみ・にご(こ)み(うどん)・ひぼ(も)かわ・うちいれ・のしこみ・のしいれ」など、地域によって様々ですが、調理の特徴として、小麦粉を、塩を入れずこね、寝かさず、幅広(太め)に切って、ゆでずに、粉付きのまま、野菜とともに煮込むもので、主に冬季に食されたものです。うどんと違い、「塩を入れて寝かさない」「ゆでない」が共通の基本事項のようです。
元々は農家が自宅で採れた小麦・野菜を使って作った家庭料理であり、現在では、「まちおこし」や商業的・観光的なもの以外ではあまり食べられなくなっていますが、商業的な配慮から、コシを出すため塩を入れて・ドロドロにならないようにゆでた結果、現代の「煮込みうどん」と区別がつかなくなっているものもあるようです。
これまで調べる中で、群馬県東部(邑楽地方)や栃木県佐野・足利地方では、それより西の地方より痕跡が薄れぎみですが、太田市から佐野市にかけての渡良瀬川沿岸では「にごみ」または「にこみ」という名称がわずかに確認されます(佐野市の葛生地区では「どじょうむぐり」という名で残っています)。また、埼玉県羽生市では「煮ぼうと(う)」が確認されています。
- NDC
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- 風俗史.民俗誌.民族誌 (382 9版)
- 方言.訛語 (818 9版)
- 参考資料
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-
古河市史編さん委員会 編 , 古河市. 古河市史 民俗編. 古河市, 1983.
- キーワード
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 郷土,言葉
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000291075