レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2014年2月4日
- 登録日時
- 2023/11/15 12:40
- 更新日時
- 2024/01/16 10:46
- 管理番号
- R00-372
- 質問
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解決
ベートーヴェン作曲の連作歌曲集《はるかな恋人に Op.98 An die ferne Geliebte》について、他の作曲家の作品との関連が知りたい。
- 回答
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参考図書、インターネット検索や所蔵資料の記述から、以下の作品が該当することが分かった。
・ファニー・メンデルスゾーン《夢(Traum)》
・シューマン《幻想曲Op.17》、《6つのインテルメッツォOp.4 no.6》《弦楽四重奏曲第2番Op.41 no.2》、《交響曲第2番Op,61》、
《「ヴィルヘルム・マイスター」による歌曲集Op.98a》、《うたびとの呪いOp.139》
・ブラームス《ピアノ三重奏曲第1番ロ長調 第1稿》
・リスト《ベートーヴェン はるかなる恋人にの編曲Op.98, S.469》
- 回答プロセス
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1.ベートーヴェンの《はるかな恋人に》と、他の作曲家の作品との関連について調査
1-1.参考図書
・『ベートーヴェン事典』
「連作歌曲《遥かな恋人に寄せて》」の項目の第6曲解説に、「4節の詩による通作歌曲。第1曲冒頭旋律に基づく前奏に導かれて、「受け取ってください」という表白性の強い言葉がうたわれる。あらゆる歌曲のうちで最も美しく最も感動的なもの。メンデルスゾーンやシューマンはこの旋律に共振したのだった(シューマンOp.17, Op.61, Op.98a, Op.139など)。」とある。
*ちなみに曲のタイトルは《Op.17 幻想曲≫、《Op.61 交響曲第2番》、《Op.98a 「ヴィルヘルム・マイスター」による歌曲集》、≪Op.139 うたびとの呪い》
1-2. Googleで「ベートーヴェン はるかな 恋人」+「メンデルスゾーン、シューマン」を検索
・山下剛『ファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼルと歌曲』東北薬科大学一般教育関係論集. 2002, 第16, p.24-46 (ダウンロード可能)
https://tohoku-mpu.repo.nii.ac.jp/record/711/files/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%8B%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%87%E3%83%AB%E3%82%B9%E3%82%BE%E3%83%BC%E3%83%B3%EF%BC%9D%E3%83%98%E3%83%B3%E3%82%BC%E3%83%AB%E3%81%A8%E6%AD%8C%E6%9B%B2.pdf (2023/11/22確認)
「『夢(Traum)』(1844年10月18日。詩=アイヒェンドルフ)は、おそらくベートーヴェンの『はるかな恋人に』を意識的に引用したと思われる曲である。」との記載がある。p.39
・「アクロス福岡」のサイトで、「ウィーンの貴族社会 歌曲集「遥かなる恋人に寄せる」の記事がヒット。
「シューマンは「幻想曲」作品17の第1楽章に取り入れ、ブラームスも「ピアノ三重奏曲第1番」作品8の初稿版の第4楽章に取り入れており、この歌曲の影響力は大きかった。この歌曲集は、ウィーンの貴族社会の変容と新しい市民社会の台頭を象徴している。」(西原稔)と載っている。
https://acros.or.jp/magazine/music37.html (2023/11/15確認)
1-3. OPACでキーワード「ベートーヴェン はるかな* 恋人 編曲」と検索
リストの《ベートーヴェン はるかなる恋人にの編曲 Op.98, S.469》の作品IDがヒット。所蔵楽譜を確認した結果、全6曲をピアノ独奏に編曲していることが分かった。
*なお、《はるかな恋人に Op.98》の曲に関する解説については、当館作成のレファレンス事例(R00-368)を参照のこと
https://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000339349
2. メンデルスゾーンについて調査
2-1. 参考図書からは手掛かりが得られなかった。
2-2. OPACで図書を検索
・『もう一人のメンデルスゾーン : ファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼルの生涯』(1-2の論文と同一著者)
「第7章 ファニーの歌曲 古典との対話」に「『夢』(1844年10月18日。詩=アイヒェンドルフ)は、おそらくベートーヴェンの『はるかな恋人に』を意識的に引用したと思われる曲である。」との記述がある。
3. シューマンについて調査
3-1. 作品カタログ
「Opus 17 Fantasie C-dur」に「ベートーヴェン遥かな恋人に Opus 98」の第6曲」に関する記述あり。
3-2. 参考図書
・『シューマン』(作曲家別名曲解説ライブラリー)
「幻想曲ハ長調op.17」・・・「やがてアダージョで、ベートーヴェンの≪遥かな恋人≫(op.98)の第6曲からの自由な引用もおく。」p.181
*「Op.41ピアノ四重奏曲」、「Op.61 交響曲第2番」の項目にはベートーヴェンに関する記載なし。
*「Op.41」は3-3.の調査により、関連していることが判明。
*「Op.98a ヴィルヘルム・マイスター」、「Op.139 うたびとの呪い」は項目がなかった。
3-3. OPACで図書の検索
・『シューマン』(作曲家・人と作品シリーズ)
「作品篇」と「人名索引」にあるベートーヴェンのページを照合。
①「幻想曲ハ長調作品17」・・・「第1楽章の最後にはベートーヴェンの≪遥かな恋人に》作品98の第6曲冒頭の旋律「受けたまえこの歌を」が引用されている。p.162
②「交響曲第2番ハ長調作品61」・・・「第4楽章は・・・やがてその旋律はベートーヴェンの《遥かな恋人に》第6曲<受けたまえこの歌を>にもとづくコラール主題となって響き、第1楽章の冒頭主題と統合されて作品全体が綜合にもたらされる。」p.172
③「弦楽四重奏曲 第1番~第3番 作品41の1~3」・・・「それはまた第2番第4楽章に、メンデルスゾーンと演奏したベートーヴェンの《遥かな恋人に》第6曲<受けたまえこの歌を>の旋律を引用していることにも示されている。」p.181
*「『ヴィルヘルム・マイスター』による歌曲集 作品98a」、「歌びとの呪い 作品139」の項目には、記載がなかった。
・『シューマン : 全ピアノ作品の研究』
①「幻想曲 作品17 ハ長調」・・・「3 ベートーヴェンの≪はるかな恋人に寄す≫の引用」の項目に「シューマンがベートーヴェンの≪はるかな恋人に寄す≫と題された6曲の歌曲集の第6曲を引用するのは、この《幻想曲》が最初ではない。シューマンは≪間奏曲集≫(作品4)の第6曲においてこの同じ歌曲の別の部分の旋律を引用している。」と記されている。p.98
②「間奏曲集 作品4」・・・第6曲に「この作品の第12小節以下には「愛情深く」と記され、ベートーヴェンの連作歌曲《遥かなる恋人に寄す》の第6曲<この歌をお別れに>から主題が引用されている。・・・」p.168-169
・『シューマン / アラン・ウォーカー』
「五 クララをめぐる争い 『幻想曲ハ長調』とべートーヴェン」の中に、「ベートーヴェンの歌曲集「遥かな恋人に寄す」からの引用を曲中に織り込んでいる点である」と記されている。p.84
3-4. OPACで楽譜の検索
・『シューマンピアノ曲集』(新編世界大音楽全集. 器楽編, 16)
解説に「・・・ここにベートーヴェンの引用を認める論者は多いのだが(歌曲集≪はるかな恋人に≫より)、作品成立の事情からしても(記念碑へのオボルス)、引用されたフレーズの歌詞(「受けたまえ、この歌を」)からしても、関連は自然だ。」とある。p.230
・『Symphony no. 2 C major op. 61 / Robert Schumann』 (オイレンブルク・スコア)
序文に「この主題はリズム的には先行楽章で予示されているものの、つまりベートーヴェンの連作歌曲《はるかなる恋人に》作品98の第6曲<お別れにこの歌を>に由来している。この歌曲はシューマンにとって、感情的にも象徴的にも非常に大きな意味を持っており、シューマンはすでにこの旋律を、≪幻想曲≫作品17や弦楽四重奏曲 作品41-2でも用いている。」とある。
*また、関連論文も載っている。雑誌を所蔵している。
『Schumann, Liszt and the C Major Fantasie, Op. 17: A Declining Relationship / Alan Walker』Music & Lettters, 1979. v.60, no.2, p.156-165
JSTOR(学内データベース)でもダウンロードが可能。
*Op.98a、Op.139については、楽譜には関連した記述は見いだせなかった。
4. ブラームスについて調査
4-1. 参考図書
・『ブラームス』(作曲家別名曲解説ライブラリー, 7)
「ピアノ三重奏曲第1番 ロ長調 op.8 第4楽章」・・・「クレッチマールがその著「ブラームス」でこの旋律はベートーヴェンの歌曲集《遥かな恋人に》のなかの第6曲<それでは、この歌に別れを告げよう>を変えたものと指摘して以来、この第2主題とベートーヴェンのものとの類似性がとりあげられるようになった。」p.250
4-2.OPACで図書を検索
・『ブラームス/室内楽』(BBC・ミュージック・ガイド・シリーズ, 16)
ピアノ三重奏曲第1番ロ長調OP.8(第1版、1854年)・・・「ベートーヴェンの歌曲集≪遥かなる恋人に≫の中の最後の歌曲、≪この歌に別れを告げよう≫と、きわめて明白な関連を持っている。しかしこの場合には、引用の引用と呼ぶことができる。というのは、シューマンの偉大なピアノのための≪幻想曲≫、ハ長調Op.17の第1楽章のなかに出没するのは、まさにこの旋律だからである。」p.75
- 事前調査事項
- NDC
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- 楽器.器楽 (763 9版)
- 器楽合奏 (764 9版)
- 参考資料
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- ベートーヴェン事典. 平野昭ほか編著. 東京書籍, 1999, (全作品解説事典). (WR03-376) [参 Beethoven]
- もう一人のメンデルスゾーン : ファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼルの生涯. 山下剛. 未知谷, 2006. (WR04-847)
- Robert Schumann : thematisch-bibliographisches Werkverzeichnis. McCorkle, Margit L. Robert-Schumann-Gesellschaft, Dusseldorf, hrsg. G. Henle, c2003. (S12-517) [参 Schumann||作品カタログ]
- シューマン / 音楽之友社編. 音楽之友社, 1995, (作曲家別名曲解説ライブラリー, 23). (WR04-065)
- シューマン. 藤本一子. 音楽之友社, 2008, (作曲家・人と作品シリーズ). (W18-914)
- シューマン : 全ピアノ作品の研究. 西原稔. 音楽之友社, 2013, 下.(WR06-377)
- シューマン. ウォーカー, アラン. 横溝亮一訳. ショパン, 1996, (大作曲家シリーズ, 1). (WR90-290)
- シューマンピアノ曲集. 音楽之友社, 1990-1993, II, (新編世界大音楽全集. 器楽編, 16). (B07-663)
- Symphony no. 2 C major op. 61. Schumann, Robert. Roesner, Linda Correll, ed. Zen-On, c2006, (オイレンブルク・スコア). (A08-634)
- "Schumann, Liszt and the C Major fantasie, Op. 17: a declining relationship". Walker, Alan. Music & Lettters. 1979, v. 60, no. 2, p.156-165. (ZA00-376 雑誌)
- ブラームス. 音楽之友社編. 音楽之友社, 1993, (作曲家別名曲解説ライブラリー, 7). (WR07-077)
- ブラームス/室内楽. Keys, I. 原田宏司訳. 東芝EMI音楽出版, 1981, (BBC・ミュージック・ガイド・シリーズ, 16). (U02-665)
- キーワード
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- ベートーヴェン Beethoven
- 遥かな はるかな
- 恋人
- ファニー メンデルスゾーン Fanny Mendelssohn
- シューマン Schumann
- ブラームス Brahms
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 質問者区分
- 登録番号
- 1000341041