*調べるときにも役に立つ[参考図書室内]日本語資料として、以下を推薦
①『シューベルト / 音楽之友社編 』(資料1参照)
②『最新名曲解説全集. 第22巻 / 音楽之友社編』(資料2参照)
・①は②を加筆訂正したもの
・①②より、この作品を調べるに当たっての以下の基本情報を得る。
エレンの歌III(アヴェ・マリア) D.839(OP.52-6)
Ellens GesangIII(Ave Maria) D.839(op.52-6)
*又、定評のある以下の書庫内資料も推薦
③『シューベルトのリート ; 創作と受容の諸相 / 村田千尋著』(資料3参照)
④『シューベルトの歌曲をたどって / フィッシャー=ディースカウ〔著〕 ; 原田茂生訳 』(資料4参照)
・特に、この作品の受容史についての「…多くの女性歌手のレパートリーに含まれているだけでなく、
あらゆる種類の楽器のための無数の編曲の対象になっている。」(p.337)という指摘は検索・調査上も
重要である。
*①②情報を基に、[参考図書室内]シューベルト最重要基本資料⑤を紹介
⑤『Franz Schubert, thematisches Verzeichnis seiner Werke in chronologischer Folge /
von Otto Erich Deutsch.』(資料5参照)
・[D.]839 (p.529) から得られる情報は、正式タイトル情報、リート.テクスト情報、
旧新全集情報、インチピット、自筆譜情報(本件の場合 verschollen)、Abschrift,
Erstausgabe,Anmerkung等である。
中でも、音楽大学の学生にとっては、旧新全集情報が重要で、特に、新全集楽譜は必見なので、
こうした資料から情報を得ておくと効率良く正確な検索・調査できると思われる。
⑥『Schubert Liedlexikon / herausgegeban von Walther Dürr ... [et al.] ; unter Mitarbeit
von Michael Kohlhäufl』(資料6参照)
・Ellens Gesang III:Hymne an die Jungfrau(p.686-687)から得られる情報は、
正式タイトル、原作者・ドイツ語訳詞者[人名は⑤リート.テクスト情報と一致]、インチピット、
[ドイツ語]歌詞全文、Zum Text, Zur Musik, Stimmumfang, Ausgaben NGA IV,3(←新全集情報)等、
Entsehung und Textvorlage、Literatur等
・なお、この資料⑥は、シューベルトのリートの解説等を調べる際、他の文献で見つからない場合等に
大変重宝するが、他の文献があったとしても、今後はこの資料を重要視する必要があると思われる。
⑤⑥で、共通する検索・調査上の注目ポイントは、索引やLiteraturの中には“Ave Maria”が記載されることは
あっても、作品の正式タイトルとして、“Ave Maria”は記載されない点である。
*楽譜を調査する場合
⑤⑥を手がかりに、新全集楽譜を探す必要がある。(参考に旧全集も確認することが望ましい。)
当館OPACでは、以下のような方法で探す。(場合によっては全て行い補いあう必要がある。)
楽譜に限定しておき
・作曲者に Schubert タイトルに Ave Maria と入力し、フレーズ検索 63件ヒット(2014.10.4現在)
・作曲者に Schubert タイトルに Ellens と入力し、フレーズ検索 42件ヒット(2014.10.4現在)
・作品番号に D 839 と入力し、フレーズ検索 29件ヒット(2014.10.4現在)
・タイトルに Schubert Ave Maria と入力し、キーワード検索 109件ヒット(2014.10.4現在)
↑この検索はノイズが出る確率が高い
↓ ラテン語〔歌詞〕の楽譜を探すときによく利用するが、やはり現資料で確認する必要がある。
・タイトルに Schubert Ave Maria(キーワード) 注記に Latin(フレーズ)と入力し、検索 7件ヒット
(2014.10.4現在)〔ラテン語歌詞の譜割り等各楽譜は一致していない。〕
*CDを探す場合
・楽譜を探すときに用いた入力方法を用い、限定を録音資料に変える。
・特に、ラテン語〔歌詞〕で歌っているCDを探す場合は、楽譜同様注記に Latin(フレーズ)と入力し、検索する。
(最終的には、CDを聴く必要がある。又、CDは歌手により差異があり、下記のウキぺディアの指摘は、
全体として大変重要な指摘ではあるが、「シューベルトの旋律にラテン語典礼文を載せて歌う」と
いう部分は、少し厳密ではなく、単に歌手の差異だけではなく、拍節数や言葉と音符の数から
アヴェ・マリアの祈祷文のラテン語歌詞をそのままシューベルトの旋律に載せるのは無理である。
よって、「シューベルトの旋律にアヴェ・マリアの祈祷文のラテン語詞を基にしたものを載せて
歌う」等とした方が実態に近いように思われる。)
*“エレンの歌第3番‐Wikipedia”にある重要な指摘
「この歌曲の開始の文句で反復句である「アヴェ・マリア」(ラテン語で「めでたしマリア様」)は、
シューベルトの旋律に、ローマ・カトリックに伝統的なラテン語の典礼文を載せるという発想に行き着いた。
こうしてシューベルトの旋律にラテン語典礼文を載せて歌うことは、現在しばしば行われており、
そのためシューベルトが素より典礼文に曲付けして、《アヴェ・マリア》という宗教曲を作曲したのだと
誤解される原因となった。」という重要な指摘がある。
英語叙事詩〔歌詞〕等
⑦『湖上の美人 / ウォルター・スコット著 ; 佐藤猛郎訳』(資料7参照)
⑧『Sir Walter Scott, The lady of the lake / by Norman T. Carrington』(資料8参照)
⑨『 Ave Maria and other great sacred solos : 41 songs for voice and keyboard
/ edited by Rollin Smith』(資料9参照)
・"Ave Maria"(p.138-143)の楽譜は、英語、ドイツ語、ラテン語の歌詞を3段にして付けている。
ちなみに、英語歌詞は、⑧の詩と完全には一致しない。
⑩『Arie sacre : sacred arias for high voice = arie sacre per voce acut』(資料10参照)
・"Ave Maria"(p.18-20)の楽譜は、ラテン語のみの歌詞で、グレゴリオ聖歌にほぼ則っているものの、
"benedicata tu in mulieribus"の歌詞を欠いている。
*CiNiiでの検索情報は?
検索語 シューベルト Ave Maria の 検索では、
CiNii Articles では、(1件)(資料11参照)〔本レファレンス事例にとって最重要文献です。〕
CiNii Books では、(255件) の ヒットが見られた。(2014.10.4現在)
◆有名なシューベルトのAve Maria! 当館では、 Ellens Gesang, D. 839 を典拠標目として採用しています。
これは、エレンを中心とした恋と武勇の物語、Walter Scottの『湖上の美人』の独訳を元に、シューベルトが
Ellens Gesang Ⅲ, D. 839として構想したことが原作や原曲の背景にあるためです。
そのため、ドイツ語歌詞の場合は、物語やエレンとの密着度が濃く女性歌手が歌うにはふさわしいのですが、
男性歌手が歌うと、どうしても違和感が生じてしまいます。そのこともあってか、主に欧米系男声歌手を中心
にシューベルトの音楽にラテン語典礼文?(下記◇参照)を基にした歌詞をのせて歌うようになり、そうした
レコードやCDも出るようになりました。(ラテン語歌詞の場合は、女性歌手が歌っても違和感はありません
ので、歌唱例はあります。)こうした事情から、CDでラテン語の歌唱例を探す場合は、欧米系の男性歌手名:
ジーリ、パヴァロッティ、フローレス等とタイトル:Ave Mariaを掛け合わせ検索する というのも当館OPAC
の場合、有効な方法の一つとなっています。〔最終的にはCDで確認する必要があります。〕
なお、インターネットで“Ave Maria””ラテン語”等と検索すると、候補となる歌手名が挙がってくるので、
当館OPACを検索する前の事前調査としてお勧めします。
最近の傾向としては、男性歌手でも、日本人を中心にドイツ語歌詞で歌う例が増えつつあると、当館所蔵CDから
観察しています。確たる理由は分かりませんが、当館所蔵の楽譜、CD等でラテン語歌詞のものを調べると歌詞の
付け方が一致することがないので、どの楽譜を根拠とし、どのCDを参考にすべきか?等、疑問をもったり、調べ
たりすると迷うため、それでも歌いたい男性歌手はドイツ語歌詞で歌うのではないか?と推測しています。
(2014.10.29現在)
◇ラテン語典礼文? (アヴェ・マリアの祈祷文のラテン語詞: Ave Maria, gratia plena,
Dominus tecum, benedicta tu in mulieribus, et benedictus fructus ventris tui Jesus.
Sancta Maria mater Dei, ora pro nobis peccatoribus, nunc, et in hora mortis nostrae.
Amen. に基づく。ただし、完全に一致させるのは難しいので、多くの楽譜、CDはAmenを省き、拍節を合わす
ため、一部の言葉を繰り返す等の方法をとっています。又、ドイツ語歌詞が3番まで歌うのに対し、ラテン語の
場合、多くは2番までの歌詞となっています。)
◆Ave Mariaの日本語訳は、色々ありますが、シューベルトのAve Mariaを訳す場合は、独和辞典も調べ、
ドイツ語からみたAve Mariaのニュアンスもおさえておく必要があります。(ex:"lat., Gegrüßet seist
du, Maria! " 『独和辞典』第二版 郁文堂、1993)(2014.10.29現在)
◆インターネットで検索できる、“エレンの歌第3番‐Wikipedia”“アヴェ・マリア‐Wikipedia”を参考の
一つとして注意深く読んでおくことをお勧めします。(2014.10.29現在)
◆ネット情報から、文献にいたるまで、「シューベルトのアヴェ・マリア?」については、厳密ではない
書き方が積み重なっているように思われる部分があります。
この作品の受容史にしても、最も適切なのは、 フィッシャー=ディースカウの書き方でした。(④、資料4参照)
(2014.10.29現在)
◆シューベルトのAve Mariaは、器楽への編曲が多いのも特徴の一つと言えます。
◆国立音楽大学附属図書館では、2014年10月1日~11月6日 「Ave Mariaの世界」 と題する展示を行いました。
シューベルトのアヴェ・マリア(Ave Maria)についての記述も含む、広大な「Ave Mariaの世界」を音楽や
美術、キリスト教史から垣間見、資料群の一端を展示しました。
http://www.lib.kunitachi.ac.jp/tenji/2014/tenji1410.pdf