レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2022年06月12日
- 登録日時
- 2023/01/18 14:16
- 更新日時
- 2023/02/28 11:00
- 管理番号
- 中央-1-0021608
- 質問
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未解決
一般的に小説においては、セリフの話者は前後文章から推定できるように書かれており、
図書太郎「○○○○、○○○○○○」
図書花子「○○○○○○」
図書太郎「○○○○」
のような記述は行われない。しかし劇の台本やTRPGリプレイ本のように、小説以外では話者名を書く作品も存在する。なぜ小説では話者名を記さない作法が一般的であるのか、あるいは話者名を記す小説も実際には多数存在しているのか知りたい。
- 回答
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求められた内容に沿う資料は残念ながら見つからなかった。
考えのヒントになりそうなものとして、以下の資料を紹介した。
・『ドラマ脚本の書き方 映像ドラマとオーディオドラマ』森治美/著 新水社 2008年
p17-18「小説との違い」
小説は【地の文】と【台詞】で構成され書かれているが、脚本の場合は【ト書き】【台詞】(芝居脚本)/【柱】【ト書き】【台詞】(映画、テレビ等映像ドラマ脚本)/【音楽】【効果音】【台詞】(ラジオ、CD等オーディオドラマ脚本)で構成されている。
【台詞】は小説・脚本共通の要素だが、小説の台詞はあくまで「文章」であり、「文字」「活字」でしかなく、脚本の場合は人が演じるもののため、「音」「声」となってはじめて台詞が台詞となる、という違いがある。
【ト書き】【柱】【音楽】【効果音】は小説の【地の文】に当たるが、【地の文】ではできる心理や感情や人間関係や時間経過などを「文章」「文字」という形では表現できない、してはいけない、という決まりごとがある。
p49「台詞の書き方」
「台詞は、原稿用紙の行頭にまず誰が話すのかが分かるように名前を書きます(ツノ書き)。そして、その下に台詞を「 」に括ります。」
・『今日からシナリオを書くという生き方 団塊世代プロジェクト 日記代わりに日常をドラマ化してみませんか』小林幸恵/著 彩流社 2008年
p21-28「実人生に近いシナリオ」
シナリオは実人生に非常に近く、小説と違って「地の文」がない、という特徴がある。シナリオは三人称でしか書けない、客観の世界であり、立体的、俯瞰で見る「神の視点」で書くもの、と述べている。
・『エンタメ小説を書きたい人のための正しい日本語』榎本秋/著 榎本事務所/著 DBジャパン 2021年
p10-13「原稿執筆の基本ルール」「主語」
「日常会話」と「小説」の違いとして、特に主語の取り扱いについて取り上げ、紙の上で文章としての意味を読み取れるように、台詞+地の文で、主語を入れた表現をどのようにすべきか述べている。
・『売れる作家の全技術』大沢在昌/著 角川書店 2012年
p85「第四回 会話文の秘密」
「キャラクターにふさわしい会話」の項で、誰がどのセリフを言ったのか読者にうまく伝わるように、キャラクター造形と併せて、その人物にふさわしい話し方、口調を考えるようにアドバイスしている。(話者を示すのではなく、口調等でセリフの区別をつけさせる)
・『プロを目指す文章術』三田誠広/著 PHP研究所 2008年
p60「7 セリフには二重の意味がある」
「おなか、すいたね」「おれはすいてないよ」 話者が誰であるか示さなくとも、口調だけで男女の会話であることが分かり、また会話の男女間に決定的なすれ違いがあることが表現できる。会話の表層を見ただけでは見えてこない、奥深い心理を、ちょっとした言葉のニュアンスや、声の調子や、表情の描写などで見せていくのが小説のプロの技術であるとのこと。
・『21世紀文学の創造 別巻 日本語を生きる』岩波書店 2003年
言葉のトライアスロンという試みとして、3人の著者が、小説、戯曲(※)、詩の三形式で作品を書き下ろしている。3人とも、戯曲形式の作品では、台詞の前に話者の名前を記す形式になっていることが確認できる。
(※)戯曲とは、『日本大百科全書』の定義によると、次のものを指す。
「舞台で観客を前にして俳優が演じる劇的内容(筋の展開)を、登場人物の対話・独白(台詞)を主とし、演出・演技・舞台の指定(ト書)を補助的に加えて記したものをいう。俳優、観客、舞台とともに演劇の基本的構成要素の一つである。一般には脚本、台本とほぼ同じ意味で使われるが、それが直接上演を目ざした、舞台に直結した作品をいうのに対し、戯曲は作者(劇作家)の書いた作品の思想性を重視し、文学作品としても鑑賞できるような芸術性を保った作品をさしていう場合が多い。」
また、地の文がなく、台詞だけで構成されている小説もあるが、そのような形式の小説でも、台詞の頭に話者の名前は付されていなかった。
一例として下記を紹介。
・『蜜のあわれ』室生犀星/著 なかやまあきこ/写真 小学館 2007年
- 回答プロセス
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●脚本と小説の違いを調べる方向性で以下の資料を確認
×『小説作法ABC』島田雅彦/著 新潮社 2009年
×『柴田さんと高橋さんの「小説の読み方、書き方、訳し方」』柴田元幸/著 高橋源一郎/著 河出書房新社 2009年
△『今日からシナリオを書くという生き方 団塊世代プロジェクト 日記代わりに日常をドラマ化してみませんか』小林幸恵/著 彩流社 2008年
p21-28「実人生に近いシナリオ」
×『小説を書きたい人の本 コツさえつかめば小説は誰でも書ける!』誉田龍一/著 校條剛/監修 成美堂出版 2013年
△『ドラマ脚本の書き方 映像ドラマとオーディオドラマ』森治美/著 新水社 2008年
p17-18「小説との違い」
×『実戦小説の作法』佐藤洋二郎/著 日本放送出版協会 2002年
×『ミステリーの書き方』柏田道夫/著 言視舎 2021年
●脚本形式の小説で思い浮かぶもの
×『ハリー・ポッターと呪いの子 第一部・第二部 スペシャルリハーサルエディションスクリプト』J.K.ローリング/著 ジョン・ティファニー/著 ジャック・ソーン/著 ジャック・ソーン/舞台脚本 松岡佑子/訳 静山社 2016年
→ 元々が脚本として出版されたもの
×『すいか』木皿泉/著 河出書房新社 2013年
→ 脚本として出版されたもの
●文法や小説の書き方の本を見てみる
×『マナーはいらない-小説の書きかた講座-』三浦しをん/著 集英社 2020年
→p88から「セリフについて」の解説があるが、話者名をセリフ頭に記載しない事の解説までは記述なし。
×『私家版日本語文法 改版』井上ひさし/著 新潮社 2015年
△『エンタメ小説を書きたい人のための正しい日本語』榎本秋/著 榎本事務所/著DBジャパン 2021年
p8-13「原稿執筆の基本ルール」「主語」
×『作文技術のルール・ブック 理解しやすいように書くだけでなく、誤解できないように書くために』浅野和彦/著 近代文芸社 1995年
×『戯曲の窓・小説の扉』黒井千次/著 白水社 1996年
△『21世紀文学の創造 別巻 日本語を生きる』岩波書店 2003年
△『売れる作家の全技術』大沢在昌/著 角川書店 2012年
p85「第四回 会話文の秘密」
△『プロを目指す文章術』三田誠広/著 PHP研究所 2008年
p60「7 セリフには二重の意味がある」
×『<実践>小説教室』根本昌夫/著 河出書房新社 2018年
×『小説の読み書き』佐藤正午/著 岩波書店 2006年
×『小説技術論』渡部直己/著 河出書房新社 2015年
- 事前調査事項
- NDC
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- 文学理論.作法 (901 10版)
- 参考資料
- キーワード
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- 小説
- 戯曲
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000327548