レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2020年07月17日
- 登録日時
- 2022/12/06 10:56
- 更新日時
- 2022/12/21 14:12
- 管理番号
- 岩手-395
- 質問
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解決
旧仙台領の習俗「釜男」について知りたい。
インターネット検索をした限りでは「釜男」とは竈近くの柱にかける面のことを指すと思われるが、岩手県江刺郡の昔話の中に"釜男という柱"という一文があった。岩手県江刺郡では「釜男」という名前の柱が存在するのか?
- 回答
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佐々木喜善著『東奥異聞』に同様の記述があったが、他の資料では柱を「釜男」と呼ぶ事例は確認できなかった。一般的には面を指して「釜男」と呼ぶと思われる。柱の名前としては「釜柱」「丑持柱」「大黒柱」「嫁隠し柱」「脇柱」などを確認。なお「面を祀っていなくとも竈や柱の中に神が隠れている」といったような記述もあり、調査済資料とあわせ参考までに紹介した。
下記は釜男に関する記載が確認できた資料。” ”内は資料からの引用。
・『東奥異聞』佐々木 喜善∥著 坂本書店出版部 1926.3
p.67~83「ひよつとこの話」
>p.74
”其れは陸前の登米、本吉、気仙の諸郡から、陸中の東磐井、江刺(以上旧仙台領)其他是等の地方に近接した地方に渉つて行はれて居る竈神とて粘土や木刻の円眼船口形の怪奇な面を家々の柱に懸けて置く風習があることである。其の懸ける柱を此の地方では竈男と言ひ、其の面をばヒヨウトク、或ひはシヨウトクなど呼んで居る。”
・『岩手民間信仰辞典』岩手県立博物館∥編集 岩手県文化振興事業団 1991
>p.98-99「カマドガミ」
”宮城県北地方から岩手県南地方、主に旧仙台・一関領では、カマガミ・カマドガミ…〔中略〕などと呼ばれる土製や木製の忿怒相の面をカマド近くの柱にかけて祀るのが特徴。”
”東磐井郡大東町では、〔中略〕ニワ(内庭・土間)のカマドに近い柱(ウシモチ柱・大黒柱・カマ柱などという)や梁などに…”
・『民俗の四季』森口 多里∥著 熊谷印刷出版部 1963.9
>p.236-239「かまがみ」
”カマガミ、カマボトケ、カマオヤジ、またはカマオトコとよばれる呪法的仮面が民家の台所の柱にかかって…”
”写真は〔中略〕のカマ柱にかかっているカマガミだが…”
・『東北の民間信仰』三浦 貞栄治∥[ほか]著 明玄書房 1991.7
>p.114-115「カマガミ」
"土製または木製の恐ろしい面相をし、カマガミサマあるいはカマオトコと呼ばれ、旧家の土間の竈の上に当たる柱に、戸口を睨んだ位置に掲げられる…"
・『遠野物語と神々 家の神・里の神・山の神 遠野市立博物館令和元年度夏季特別展』 遠野市立博物館 2019.7
>p.22「カマ神」
”宮城県から岩手県南部にまたがる旧仙台領地域では、土間のかまどの上やかまど近くのや壁に土製や木製の面を祀る風習がある。これらの面は一般にカマガミサマと呼ばれる。地域によってはカマオトコ、カマズンツァン、カマノカミサマ、カマダイコク、カマベットウなどとも称される。”
・『東北民間信仰の研究 上巻』岩崎 敏夫∥著 名著出版 1982.8
>p.23-24「その他の神々」
"カマ神、あるいはカマド神、カマ男などと呼ばれる神像が、宮城県北部から岩手県南地方に多く見られる。竈の側の柱などに入口を向いて掛けられてある忿怒相の面で…"
・『東北民間信仰の研究 下巻』岩崎 敏夫∥著 名著出版 1983.5
>p.281~288「竈神と火の信仰」
"宮城県から岩手県にかけてカマガミ、カマジン、カマオトコなどと称して土製や木製の忿怒の形相をした面がかまどの上や大黒柱(ウシモチ柱)に、入り口をにらんで飾ってある習俗が見られる。"
"カマ神をまつる場所は、家の中心でもある大切な柱とくに大黒柱(ウシモチ柱、ヨメカクシ柱)にまつわるのは、柱そのものが神の座としてふさわしいからである。"
・『水沢市史 6 民俗』水沢市史編纂委員会∥編 水沢市史刊行会 1978
>p.175~176「(11)かまど神」
”旧仙台領内ではかまどの近くの丑持柱や奥の壁にかま神・かまど神をまつっている。”
”かまど神の面がない家でもかまどの中や丑持柱にかまど神がかくれていると信じられている。”
・『研究紀要 創立五十周年記念号 第32集(平成14年度)』〔岩手県南史談会∥編〕 岩手県南史談会 2003.7
>p.128~141「東磐井郡地方のかま神様」
>p.136「(五)、祀り方 ①、祀る場所」
→祀る場所として丑持柱、かま柱(かま神柱)、嫁柱(脇柱)などが挙げられている。
・『かま神信仰とその背景2 東磐井地方を中心に』畠山 喜一∥著 畠山喜一 [1979]
>p.29~30 六、祭祀の場所
→祀る場所として丑持柱、かまど柱(嫁柱又は脇柱)などが挙げられている。
・『室根村文化財調査報告書第9集 室根のかま神』室根村文化財調査委員会∥編 室根村教育委員会 1995.3
>p.10「火を守るかま神」
”壁土や木で面として偶像化したものをかまどの側の柱に祀り信仰してきました。”
・『大東町のかま神火を守る神々の表情』大東町文化財調査委員会∥編 大東町教育委員会 1989.11
>p.1
”奥の方の薄暗い所にウシモチ柱、(大黒柱という家も)が石の上に建てられてあり、更に奥の方にカマ柱と呼ぶ柱のある家もあり、このどちらかの柱にかま神様又はかま別当と呼ばれる神様が祀られ…”
- 回答プロセス
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・旧江刺郡を中心とした岩手県南地方の民俗に関する資料を調査
・佐々木喜善の他の著作を調査
- 事前調査事項
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利用者の事前調査資料は以下の通り。
・『江刺郡昔話』佐々木 喜善∥著 郷土研究社 1926.6
p.13~15「ひよつとこの始まり」
”其れ故に此の土地の村々では今日迄、醜いヒヨウトクの面を木や土で造つて、竈前の釜男(カマヲトコ)と云ふ柱に懸けて置く。”
・『こぶとり爺さん・かちかち山』関 敬吾∥編 岩波書店 2002.5
p.119~120「火男の話 ―岩手県江刺郡―」
”それで、この土地の村々では、いまでも醜いひようとく(火男)の面を、木や土でつくって、竈前の釜男という柱にかけておくそうである。”
※当館所蔵資料を確認したところ出典の記載はないが、内容から上記資料『江刺郡昔話』を元にしていると思われる。
- NDC
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- 民間信仰.迷信[俗信] (387)
- 東北地方 (212)
- 参考資料
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遠野市立博物館 編 , 佐々木, 喜善, 1886-1933. 佐々木喜善全集 1. 遠野市立博物館, 1986.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001820037-00 (当館請求記号:K388/サ1/1) -
岩手県立博物館 編集 , 岩手県立博物館. 岩手民間信仰事典. 岩手県文化振興事業団, 1993.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I036211656-00 (当館請求記号:K387/イ1/4) -
森口多里 著 , 森口, 多里, 1892-1984. 民俗の四季. 熊谷印刷出版部, 1963.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001047799-00 (当館請求記号:K380/モ1/2) -
三浦貞栄治 [ほか]共著 , 三浦, 貞栄治, 1933-. 東北の民間信仰. 明玄書房, 1991.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002124900-00 (当館請求記号:K387/ト4/1) -
遠野物語研究所 編 , 遠野物語研究所. 『遠野物語』と神々の世界 : 『遠野物語』ゼミナール2004講義記録. 遠野物語研究所, 2005.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000007776070-00 (当館請求記号:K382.122/トオ) -
岩崎 敏夫 著 , 岩崎‖敏夫. 東北民間信仰の研究 上巻. 名著出版, 1982. (岩崎敏夫著作集)
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I036211658-00 (当館請求記号:K387/イ2/1-1) -
岩崎 敏夫 著 , 岩崎‖敏夫. 東北民間信仰の研究 下巻. 名著出版, 1983. (岩崎敏夫著作集)
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I036611696-00 (当館請求記号:K387/イ2/1-2) -
水沢市史編纂委員会 編 , 水沢市. 水沢市史 6. 水沢市史刊行会, 1978.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I036532171-00 (当館請求記号:K231.1/ミ4/6) -
〔岩手県南史談会 編〕 , 岩手県南史談会. 研究紀要 : 創立五十周年記念号 第32集(平成14年度). 岩手県南史談会, 2003.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I036199249-00 (当館請求記号:K200.4/イ1/1-32) -
畠山 喜一 著 , 畠山‖喜一. かま神信仰とその背景 2. 畠山喜一, 1979.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I036211706-00 (当館請求記号:K387/ハ4/1) -
室根村文化財調査委員会 編 , 室根村文化財調査委員会. 室根のかま神. 室根村教育委員会, 1995. (室根村文化財調査報告書 ; 第9集)
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002992914-00 (当館請求記号:K387/ムロ) -
大東町文化財調査委員会 編 , 大東町文化財調査委員会. 大東町のかま神 : 火を守る神々の表情. 大東町教育委員会, 1989. (大東町文化財調査報告書 : 第12集)
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I036211693-00 (当館請求記号:K387/ダ1/1) -
佐々木 喜善 著 , 佐々木‖喜善. 江刺郡昔話. 郷土研究社, 1926.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I036233036-00 (当館請求記号:K388.1/ノム2) -
関敬吾 編 , 関, 敬吾, 1899-1990. こぶとり爺さん・かちかち山. 岩波書店, 2002. (ワイド版岩波文庫. 日本の昔ばなし ; 1)
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000003654770-00 , ISBN 4000072080
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遠野市立博物館 編 , 佐々木, 喜善, 1886-1933. 佐々木喜善全集 1. 遠野市立博物館, 1986.
- キーワード
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- 釜男
- 竈
- 柱
- 佐々木喜善
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 郷土
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000325148