レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2023/7/22
- 登録日時
- 2023/10/10 13:43
- 更新日時
- 2023/10/31 17:01
- 管理番号
- 川図23-02
- 質問
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未解決
「幕末の蒸気船物語」(元綱数道)p.51にペリー艦隊の黒船について全艦木造で外板にタール系塗料を塗っていたため黒く見えたとの記述がある。また、日本海事新聞(2006年10月27日第8面のコラム「船舶の塗料」)には15世紀から19世紀までの帆船時代の塗料の主役はタールやピッチであり黒船が黒かったのはこのためであるという記述がある。以上を背景に、以下のことを記述していると思われる図書、論考等を探している。
1. タールやピッチが木造船(帆船、帆走可の蒸気船等)の塗料に使われていたこと。
2. 木造船の塗料にタールやピッチが使われなくなったのはいつ頃か。
3. 木造船の塗料としてタールやピッチに代わって使われたのはどういう塗料か。
- 回答
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1. タールやピッチが木造船(帆船、帆走可の蒸気船等)の塗料に使われていたこと。
○当館の書架より「船舶」や「塗装」関連の資料を探したところ、以下の資料が見つかった。
(1)『和船』 2 ものと人間の文化史 76-2 (石井謙治/著, 法政大学出版局, 1995.07)
p.96-97 勝海舟編『海軍歴史』からの引用があり、外銅板にテールを浸した紙を貼っていること、松根を蒸焼してテールを製したとある。
○OPACでキーワード「木造船」と検索したところ、以下の資料がヒットした。
(2)『木造船と其の艤装』第3版(橋本徳寿/著, 漁船協会, 1943.3)
p.54「防腐、防蟲、防火。」に、コールタールクレオソートについての記載がある。
p.264「水密工事と塗装」の章に、ピッチについての記載がある。
p.273「防錆塗料。」にピッチ類塗料が挙げられている。
○J-Stageでキーワード「木造船 タール」「木造 船舶 塗料」で検索したところ、以下の資料がヒットした。
(3)植田彰裕,「4.船舶用塗料の遍歴と最新の塗料(<特集>コーティング)」らん:纜, 第46号 1999年, p.19-p.25, 関西造船協会
p.20 コールタール含有塗料は、防腐食の目的で使用されたことが書かれている。また、表2「船底防汚塗料の技術内容」には、船底防汚塗料の歴史的な流れが書かれている。
以下のURLから閲覧できる。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ran/46/0/46_KJ00001929644/_pdf/-char/ja
(4)宝田 直之助,「16世紀17世紀の帆船--慶長遣欧使節船の復元に因んで(その14)」, Techno marine 日本造船学会誌, 第808号 1996年, p.745-p.752, 日本造船学会
p.37-38「水線下の船体塗装」で、16世紀までタールとピッチが塗られていたことが書かれている。
以下URLから閲覧できる。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/technom/808/0/808_KJ00002099275/_pdf
(5)居谷滋郎,「塗料の歴史」, 色材協会誌, 第56巻11号 1983年, p.729-p.736, 色材協会
p.733 「4.1 船舶塗装」の項目に、大航海時代の塗料はピッチやタールが主で、防腐剤として塗装されていたことが書かれている。
以下のURLから閲覧できる。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/shikizai1937/56/11/56_729/_pdf/-char/ja
○渋沢社史データベースでキーワード「黒船」を検索したところ、以下の資料がヒットした。
(6)『日本ペイント百年史』(日本ペイント株式会社/編, 日本ペイント, 1982.12)
p.313「(2)わが国の船舶塗料の進歩」の項目に、安政元年にロシア船が伊豆の戸田村で地震にあい、自力で船を現地建造したが、その時の塗装材料は松根タールであったこと、銅板とタールに浸した厚紙を貼ったことなどが書かれている。
2. 木造船の塗料にタールやピッチが使われなくなったのはいつ頃か。
タールやピッチが使われなくなった時期が明示されている資料をみつけることはできなかったが、近しい記述のある資料は見つかった。以下のとおり。
○CiNii Researchで「木船 船底」と検索し、以下がヒットした。
(7)木船船底銅板被覆、海事資料館年報 7 p.6-8, 1979
p.7 に銅板被覆は船底外板にピッチなどを塗り、タールを泌み込ませたハトロン紙を置き、その上に銅板を重ねておおったもの、といった記述がある。
p.8 最終行付近に「木船船底の銅板被覆は、木船が姿を消したつい最近まで採用されていた」とある。
以下の神戸大学の機関リポジトリで閲覧できる。
https://da.lib.kobe-u.ac.jp/da/kernel/81005878/
○国立国会図書館デジタルコレクションで「木船 船底」と検索し、以下がヒットした。
(8)大島重義 著『木造船と漁網の防蝕』,産業図書,昭和24.
26-27コマ目「第3章木材防蝕方法 第3節塗料による方法」に船底を熱してからコールタールを塗る方法を紹介した後、節の最後で「木造船の型が大きくなり、一層有効な塗料を必要とするやうになるに従つて亜酸化銅を主要毒物とする所謂コッパーペイントが発達して、現今では一般に実用されて居る」としている。
国立国会図書館デジタルコレクションを見られる近隣の図書館にて、次のURLで閲覧できる。https://dl.ndl.go.jp/pid/1059986
(9)武田甲子太郎 著『造船学講義』木船篇,建築書院,明41.4.
135コマ目に「ピッチを塗り」とある。
自宅などから次のURLで閲覧できる。https://dl.ndl.go.jp/pid/847146/
(10)青柳喜平 著『造船学』木船漁船構造編,船匠研究会,昭和4.
23コマ目「船底包板」の項に「外板の表面に「コールター」を充分に塗布し」、「銅板を張るには外板の填隙後「ピツチ」を塗り後全面に「ター」を塗布し」とある。
国立国会図書館デジタルコレクションを見られる近隣の図書館にて、次のURLで閲覧できる。https://dl.ndl.go.jp/pid/1175266
3. 木造船の塗料としてタールやピッチに代わって使われたのはどういう塗料か。
○NDLONLINEでキーワード「船舶 塗装」を検索したところ、以下の資料がヒットした。「タールやピッチに代わって」というような記載はなかったが、木船、木造船の塗装に関する記述を確認した。
(11)『塗装技術便覧』 (塗装技術便覧編集委員会/編, 日刊工業新聞社, 1967.11)
p.440「4・7・2 防御方法」に木造船の防御方法として、コールタールを塗る等5つの方法がまとめられている。
p.441「4・7・3 木船船底塗料」には防汚塗料の成分とビヒクルとして油性系(ロジン)、ビニル系があることが記載されている。
p.441「4・7・4 木船外部塗装その他」に、戦前は調合ペイントを使用、その後は合成樹脂系(フタル酸樹脂系またはビニル樹脂系が多い)塗料が使われていることが書かれている。
(12)『塗装技術便覧』 (日刊工業新聞社, 1959)
p.276「4・8 木造船の塗装」に、木材防護材として、A型=ナフテン酸銅を溶剤に溶かしたもの、B型=塩化フェノールを溶剤に溶かしたもの、C型=オレイン酸フェニル水銀を溶剤に溶かしたものが主に用いられることが書かれている。
- 回答プロセス
- 事前調査事項
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レファレンス協同データベースでは見つからなかった。
- NDC
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- 海洋工学.船舶工学 (550)
- 油脂類 (576)
- 参考資料
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石井謙治 著 , 石井, 謙治, 1917-. 和船 2. 法政大学出版局, 1995. (ものと人間の文化史 ; 76-Ⅱ)
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002425357-00 , ISBN 4588207628 -
橋本/徳寿 著 , 橋本/徳寿. 木造船と其の艤装. 漁船協会, 1943.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I057267251-00 -
植田 彰裕. 4.船舶用塗料の遍歴と最新の塗料(<特集>コーティング). 1999. らん:纜 46(0) p. 19-25
https://iss.ndl.go.jp/books/R000000016-I004698845-00 -
寳田 直之助. 16世紀17世紀の帆船 : 慶長遣欧使節船の復元に因んで (その14). 1996. Techno marine 日本造船学会誌 808(0) p. 745-752
https://iss.ndl.go.jp/books/R000000016-I004545223-00 -
居谷 滋郎. 塗料の歴史. 1983. 色材協会誌 56(11) p. 729-736
https://iss.ndl.go.jp/books/R000000016-I003401877-00 -
日本ペイント株式会社. 日本ペイント百年史. 日本ペイント, 1982.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001616857-00 -
杉浦, 昭典 , 杉浦, 昭典. 木船船底銅板被覆. 神戸商船大学海事資料館, 1979. 海事資料館年報 7 p. 6-8
https://iss.ndl.go.jp/books/R000000025-I005732992-00 -
大島重義 著 , 大島, 重義. 木造船と漁網の防蝕. 産業図書, 1949.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000039-I001782967-00 -
武田甲子太郎 著 , 武田, 甲子太郎, 1870-1934. 造船学講義 木船篇. 建築書院, 1908.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000039-I001685141-00 -
青柳喜平 著 , 青柳, 喜平. 造船学 木船漁船構造編. 船匠研究会, 1929.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000039-I001506180-00 -
塗装技術便覧編集委員会 編. 塗装技術便覧. 日刊工業新聞社, 1967.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001100488-00 -
塗装技術便覧. 日刊工業新聞社, 1959.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I106181791-00
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石井謙治 著 , 石井, 謙治, 1917-. 和船 2. 法政大学出版局, 1995. (ものと人間の文化史 ; 76-Ⅱ)
- キーワード
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- 木造船
- 塗料
- タール
- 船舶
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 事後調査で、The History of the Prevention of Fouling (United States Naval Institute Proceedings, Vol. 78/7/593) (https://www.usni.org/magazines/proceedings/1952/july/history-prevention-fouling) が見つかった。船底の汚れ防止の歴史についての研究。塗料のことだけでなく、木造船から鉄の船になっていく過程のことにも触れている。
- 調査種別
- 事実調査
- 内容種別
- 質問者区分
- 登録番号
- 1000339582