レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2009年12月04日
- 登録日時
- 2023/07/27 16:50
- 更新日時
- 2023/08/18 10:50
- 管理番号
- 遠野-2009-01
- 質問
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解決
昭和9年の東北大凶作について、遠野市周辺の被害状況と取り組みについて詳しく知りたい。
- 回答
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≪被害状況≫
「遠野市史」、「宮守村誌」、「上郷村誌」によると、昭和9年の稲の収穫量が附馬牛村では97%の減収、鱒沢村では明治44年から昭和30年までの平均の収穫量が1,772合に対して、昭和9年の収穫量は186合で、その平均の収穫量の10.5%しか収穫がなかった。上郷村では、稲の収穫が皆無であったことが書かれている。学童については、昼食はヒエとアワの混食で上流家庭の子でも米三分にヒエ七分飯、中流以下の子は殆どヒエ飯か、ソバ団子・シダミ団子を持参したりした。服装も冬物を買えないで肌を露出している子や夏服を重ね着する子が続出した。とある。
≪取り組み・対応≫
「遠野市史 第4巻」、「上郷村史」によると、政府は凶作対策を急ぎ、地方自治体を指導し、この結果昭和9年に上閉伊経済ブロック組合が設立し大工町に工場を建設して農産物の加工をした。翌10年には松崎村新張に遠野試験地が設けられ耐冷水稲品種の作出にあたった。恩賜郷倉や作業舎も各地に建てられた。上郷村では、村道の改修工事や護岸工事、橋梁工事を行い、凶作救済委員会を設置し救済戸口の調査などを行い、義捐金品の配給などを行ったことがわかる。
学校では、各村の被害状況を調査し遠野小学校で凶作展覧会を開催し広く国に訴えた。凶作対策として授業の能率化や匡救事業などへの就労斡旋、不撓不屈・質実剛健の精神の養成などを行った.とある。
「沢田小誌」に青笹村沢田の取り組みの内容が記されている。
- 回答プロセス
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<所蔵資料からの調査>
≪被害状況≫
「遠野市史 第4巻」(遠野市史編纂委員会 遠野市 1977)p280~p281より
『昭和九年は、冷害による記録的な凶作の年であった。・・・(中略)・・・したがって、昔から高冷地とされている遠野地方の被害は激甚で、主食物としての米はほとんどなく、マツの実を粉にして少量のヒエ、アワを加え粥をつくって食う者、ふすま団子を食う者もあった。野菜や山菜、大豆を収穫しても食塩を買えないので、味噌や漬け物をつくることができなかった。学童の昼食を調べたら全部ヒエ、アワの混食で、上流家庭の者でも米三分にヒエ七分、中流以下はほとんどヒエ飯を持ってきたり、ソバ団子やシダミ団子を持参したりした。栄養不充分で意気が衰え、衣服を見ると冬物を買えないで肌を露出する者、夏衣を重ね着するものが続出した。と惨状を記録している。附馬牛村で調査した各作物の減収率は、イネ九十七パーセント、ダイズ九十パーセント、アズキ八十五パーセント、大ムギ三十パーセント、小ムギ四十七パーセント、ソバ七十二パーセント、ヒエ七十三パーセント、アワ七十五パーセント、バレイショ五十パーセント、野菜六十パーセントとなっている。』
「宮守村誌」(森 嘉兵衛、宮守村教育委員会 1977)p822より
『(前略)一例を鱒沢村の水稲生産力の変化についてみるに、反収は明治四十四年から昭和三十年までの平均反収を一七七二合に対して、一八六合、一〇・五%しかとれていない。(後略)』
「定本附馬牛村誌」(附馬牛村誌編集委員会、附馬牛村役場 1954)p205より
『此の年(注:昭和9年)も春の頃雷鳴があって北に治まり、前例にもれずその後の気候は不順となり、北風が吹き、薬師岳、石上山頂等に濃霧を以って覆われ、梅雨の頃から九月末まで霖雨の状況であったため、作物は殆ど結実せず、当時の作柄一割七分作であったと言う。病害の発生も甚だしく稲は刈り取られたが、たばねて田の面に立てて置き、或は刈り取らずにそのまま田の中に踏み込んだ者もあった。』
「上郷村誌」(上郷村教育会 1935)p155~p157より
『第十六章 天災 一、概説・・・(中略)・・・本年(昭和九年)の凶作は冷湿害にして赤羽根方面の山頂常に濃霧に被はるること多く、八月九日霖雨の状を呈し、冷稲熱病・豆疽等発生し稲は刈り取られたれども束ねて田の面に立てられ奇観を呈せり。中には刈り取らずして早くも九月中に泥中に踏み込める者さへありたり。昭和九年の作況次のごとし。稲作 収穫皆無 免租(最高結実二割作に達せるもの全反別の五百分の一) 麦作 収穫六割(降雨のため発芽せるものあり) 豆類 収穫皆無 稗 収穫三割 粟 収穫二割 蕎麦 収穫四割 馬鈴薯 小さく薯数少し 甘藷 小さくして数少なし 胡桃 豊作但し植栽数少し 栗 全く結実せず しだみ 結実至って少し ところ 小さし 蕨の根 小さし 山葡萄 粒小さく実少し 橡 結実少し 』
≪取り組み・対応≫
「遠野市史 第4巻」p281より
『学校でも、十月二十四日に第二支会の臨時総会を綾織小学校で開いて凶作対策を協議、また各町村でも学校に協力して給食することにした。そして十一月三十日は実業教育五十周年に当たるので、十一月二十八日から十二月一日まで遠野小学校で、各村の実態調査を基礎にした前代未聞の凶作展覧会を、教育会上閉伊郡部会主催で開いて実情を広く国に訴えた。(中略)そしてこの展覧会の内容は、広く新聞やラジオで報道された。』
同じく「遠野市史 第4巻」p281より
『政府も、これが対策を急ぎ地方自治体を指導した。この結果昭和九年に上閉伊経済ブロック組合が設立され、大工町に工場を建設して農畜産物の加工をした。また翌十年には松崎村新張に遠野試験地が設けられ、耐冷水稲品種の作出にあたった。そのほか各地の恩賜郷倉や作業舎が建てられ、昭和十一年には、秩父宮両殿下が凶作冷害地視察ならびに慰問のため御来町になられた。』
「遠野市史 第4巻」p281~p282より
『学校としての凶作対策は、1.なるべく授業時間を短縮し、かつ能率的効果をあげること、2.学用品等の節約を奨励し、その使用法を最も有効的に指導すること、3.衣服の自給自足主義の徹底を図り、足袋・草履・藁靴は自作させ、衣類はなるべく修繕着用すること、4.昼食は家庭における常食を持参すること、5.児童身体の状況を留意し給食等の方法を講ずること、6.身体各部の清潔ならびに服装の洗濯を奨励すること、7.不撓不屈の精神を養成し依頼心を除去させること、8.欠食児童に対して国費、県費、村費ならびに寄付金などをもって学校で炊事し給食させること、ただし給食開始は匡救事業、収穫期などを考慮し十一月から向こう六か月間給食するものとする、9.薬草採取を奨励し、これが販売斡旋を図ること、10.野生食用植物の採集を奨励し、その栄養的調理を指導すること、11.小家畜の飼育奨励をなし、その販売斡旋に努めること、12.児童の就学奨励をするとともに授業時間の繰り上げ、あるいは短縮により、匡救事業(砂運び)への就労奨励、または家庭労役(炭俵編み、縄ない)への就労奨励をなすこと、13.その他一般家業への手伝いを奨励すること、14.質実剛健の思想を養成すること、15.協同精神を涵養し、勤倹貯蓄心を養成すること、16.職員の家庭訪問などにより、発憤心を起こし、有効適切な指導をすること、17.凶作と天候との科学的な研究をさせること、などである。』
「上郷村誌」(上郷村教員会 上郷村教育会 1935)p157より
『三、本年(昭和九年)の救済事業
1.村道改修工事、2.護岸工事、3.橋梁工事
四、救済方法
1、凶作救済委員会=委員、全村会議員、全区長、小学校長、上臺佐吉、細川郷助、堀切政吉委員として救済戸口の調査、其他必要ある事項を協議し村長の諮問に応じたり。2、政府米払下並濡米払下及甘藷の県内連合購入 3、義捐金品の配給』
「沢田小誌」(菊池 豊治 1981)p55より
『昭和9年凶作の後には、銘記すべき“恩賜備荒倉庫”の建設がありました。通称“郷倉”といいました。これの建設費用一切は宮内省から出されたので、恩賜と感銘したものです。(中略)次は、共同作業場であります。これも昭和9年の凶作救済事業で建設してもらいました。作業を共同で利用すべきものでしたが、実際には農産加工場として利用したものです。おもに、漬物、醤油、味噌などでしたが、共同で技術員を雇い、原料を各戸持ち寄りとし、製品は原料の量に応じて正確に分けました。』
- 事前調査事項
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岩手県の取り組みについては調査済み
- NDC
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- 農業経済・行政・経営 (611 8版)
- 東北地方 (212 8版)
- 参考資料
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遠野市史編修委員会 編修 , 遠野市. 遠野市史 第4巻. 万葉堂書店, 1977.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001493976-00 -
宮守村教育委員会 (岩手県). 宮守村誌. 宮守村教育委員会, 1977.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000039-I002609333-00 -
附馬牛村誌編集委員会 編 , 附馬牛村 (岩手県). 定本附馬牛村誌. 附馬牛村, 1954.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001222150-00 -
岩手県上閉伊郡上郷村教員会 編 , 岩手県上閉伊郡上郷村教員会. 上郷村誌. 上郷村教育会, 1935.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000000740973-00 -
菊池豊治 執筆 , 菊池, 豊治. 沢田小誌. 菊池豊治, 1981.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001567537-00
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遠野市史編修委員会 編修 , 遠野市. 遠野市史 第4巻. 万葉堂書店, 1977.
- キーワード
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- 凶作
- 遠野市 -- 歴史
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 事実調査
- 内容種別
- 郷土
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000336363