レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2019年11月09日
- 登録日時
- 2019/11/09 11:18
- 更新日時
- 2024/04/18 13:11
- 管理番号
- 2394
- 質問
-
解決
妖怪「灯台鬼」の絵を見たい。
『今昔百鬼拾遺』(鳥山石燕/画)や『皇国二十四功』(月岡芳年/画)に描かれているらしい。
- 回答
-
・『今昔百鬼拾遺』(鳥山石燕/画)の「燈臺鬼(とうだいき)」
国立国会図書館デジタルコレクション収録の
『百鬼夜行拾遺 3巻[1]』(鳥山石燕/画 長野屋勘吉 文化2[1805]年)10コマ
(https://dl.ndl.go.jp/pid/2551539 )
他市図書館蔵書の
『鳥山石燕画図百鬼夜行全画集』(鳥山石燕/著 角川書店 2005年)
・「皇国二十四功 弼宰相春衡」(月岡芳年/画)
国立国会図書館デジタルコレクション収録の
「皇国二十四功 弼宰相春衡(皇国二十四功)」(柳亭種彦/記 芳年/[画] 松木平吉 明治28年 『錦絵帖』収載)
(https://dl.ndl.go.jp/pid/1310108 )
「皇国二十四功 弼宰相春衡(皇国二十四功)」(大蘇芳年/著 津田源七 明治20年 『あづまにしきゑ』収載)
(https://dl.ndl.go.jp/pid/1312926 )
上記をそれぞれ案内。
「灯台鬼」は頭に灯台をのせた鬼である。
遣唐使の軽(かる)の大臣が、唐帝により灯台鬼の姿に変えられたという説話が『源平盛衰記』や『宝物集』などに見られる。
- 回答プロセス
-
灯台鬼の概要および鳥山石燕、月岡芳年以外の作者も含めた灯台鬼の絵を調べるため
『鬼』(高平鳴海/[ほか]共著 新紀元社 1999年)
『中国の鬼』(徐華竜/著、鈴木博/訳 青土社 1995年)
『日本怪異妖怪大事典』(小松和彦/監修、小松和彦/編集委員、常光徹/編集委員、山田奨治/編集委員、飯倉義之/編集委員 東京堂出版 2013年)
『日本昔話ハンドブック』(稲田浩二/編、稲田和子/編 三省堂 2001年)
『妖怪絵巻』(小松和彦/監修 平凡社 2010年)
『図説妖怪画の系譜』(兵庫県立歴史博物館/編、京都国際マンガミュージアム/編 河出書房新社 2009年)
など伝説、昔話、妖怪、日本画関連(分類:388、721)十数冊の内容を確認するも見当たらず。
そのうち『妖怪萬画 vol.2』(青幻舎 2012年)、『百鬼夜行と魑魅魍魎』(洋泉社 2012年)をはじめとした数冊で鳥山石燕や『今昔百鬼拾遺』、月岡芳年に関する記述があったものの、灯台鬼の絵や『皇国二十四功』には触れられていない。
『世界大百科事典 20 改訂新版 トウケ-トン』(平凡社 2007年)、『日本大百科全書 16 て-とく』(小学館 1987年)などの百科事典にも項目「灯台鬼」は見当たらず。
国語辞典を確認。
『日本国語大辞典 第9巻 第2版 ちゆうひ-とん』(小学館国語辞典編集部/編集 小学館 2001年)p.1001の項目「灯台鬼」(とうだい-き)に
「1.頭に灯台をのせた鬼。遣唐使として唐に渡った軽の大臣が、唐帝によって姿を鬼に変えられたという説話の主人公(略)2.『てんとうき(天灯鬼)』に同じ」
とある。
本書p.832の項目「天灯鬼」(てんとう-き)で
「彫刻。木造。建保三年(一二一五)、康弁(こうべん)作。肩と左手で灯籠(とうろう)を支えている鬼の立像」
と記されていることから、1の語義(頭に灯台をのせた鬼)のほうが適切と思われる。
1の出典は下記のとおり。
・『宝物集』(1179年頃)…「かしらに燈台という物打、身にはゑをかきて燈台鬼と云名を付て侍けるを」
・『長門本平家(物語)』(13世紀前)六・燈台鬼事…「昔推古天皇の御宇、迦留大臣といひし人、遣唐使に渡りて、おんやう道をならひ〈略〉帰朝せんとせし時、おんやうの淵源、日域へわたさん事ををしみて、かるの大臣の帰朝を留め、〈略〉ひたひにとうかいをうち、とうだいきと作りなせり」
・『源平盛衰記』(14世紀前)一〇・有王渡硫黄嶋事…「昔軽大臣の遣唐使に渡されて、形を他州にやつされ、燈台鬼(トウダイキ)となされつつ、帰事を得ざりけり」
・俳諧『山の井』(1648年)年中日々之発句・五月…「鬼ゆりやほたる火とぼすとうだいき」
下記の国語辞典にも項目「灯台鬼」があった。
・『広辞苑 第7版』(新村出/編 岩波書店 2018年)p.2061…「渡唐した軽(かる)の大臣が、額に灯台を打ちつけられて姿を鬼に変えられたというもの。その子吉備大臣が父を慕って渡唐し、灯台鬼にめぐりあったが、鬼と気づかず、鬼の示した詩によってようやくそれと分かったという。(源平盛衰記)」
・『大辞林 第4版』(松村明/編、三省堂編修所/編 三省堂 2019年)p.1927…「額に灯火を支える道具を打ちつけられ、生きたまま灯台とされた人。『源平盛衰記』巻一〇に、遣唐使軽(かる)の大臣が灯台鬼とされ、息子弼(すけ)の宰相が渡唐して対面したが、父と気づかず、物言わぬ薬を飲まされた父が、指端を食い切り血でもって書いた一文で我が父とわかったという説話が載る」
・『日本語大辞典 第2版 講談社カラー版』(梅棹忠夫/ほか監修 講談社 1995年)p.1523…「灯台を頭に載せた鬼。軽大臣(かるのおとど)が唐に渡り、皇帝により額に灯台を打ちつけられ、鬼に姿を変えられてしまったという伝説に基づく」
ここまでの調査で、伝説、昔話、妖怪、日本画関連書や百科事典に全く情報がなく、国語辞典での語義も説話が中心で絵画への言及がないことから、灯台鬼の絵は多く存在しないと推測。
調査対象を利用者が挙げた『今昔百鬼拾遺』(鳥山石燕/画)や『皇国二十四功』(月岡芳年/画)に絞る。
まず『今昔百鬼拾遺』(鳥山石燕/画)の灯台鬼の絵を調査。
『妖怪萬画 vol.2』p.30と『図説妖怪画の系譜』p.60によれば、『今昔百鬼拾遺』(1780または1781年)は中国の妖怪、創作と思しき妖怪が描かれた、鳥山石燕3作目の「妖怪図鑑」とのこと。
図書館システムでキーワード「鳥山石燕」や「今昔百鬼拾遺」を検索。
『妖怪図巻 続』(湯本豪一/編著 国書刊行会 2006年)、『鳥山石燕画図百鬼夜行全画集』(鳥山石燕/著 角川書店 2005年)が見つかった。
『妖怪図巻 続』は市内の他図書館の蔵書で、書誌情報を見るかぎり『今昔百鬼拾遺』は収録されていない。
『鳥山石燕画図百鬼夜行全画集』は出版社HPの書籍紹介より『今昔百鬼拾遺』が収録されていると判明。兵庫県内図書館横断検索で調べると、他市の図書館で所蔵していた。
*「KADOKAWA」HP内『鳥山石燕 画図百鬼夜行全画集』
(https://www.kadokawa.co.jp/product/200504000126/ )
*「兵庫県内図書館横断検索」HP
(https://www.library.pref.hyogo.lg.jp/oudan/index.html )
他市の図書館から蔵書を取り寄せるまで数週間を要するため、インターネット上で閲覧可能な資料も調査。
国立国会図書館デジタルコレクションでキーワード「今昔百鬼拾遺」を検索。
『百鬼夜行拾遺 3巻【全号まとめ】』(鳥山石燕/画 長野屋勘吉 文化2[1805]年)等、数十件が見つかった。
その中の『百鬼夜行拾遺 3巻[1]』(鳥山石燕/画 長野屋勘吉 文化2[1805]年)10コマに、灯台を頭にのせた「燈臺鬼(とうだいき)」の絵と文が掲載されている。
「軽大臣遣唐使たりし時唐人大臣に啞になる薬をのませ身を彩り頭に灯台をいたゞかしめて燈臺鬼と名づくその子弼宰相入唐して父をたづぬ燈臺鬼涙をながし指をかみ切り血を以て詩を書して曰(略)」という文は『源平盛衰記』、『宝物集』の説話とほぼ一致。
本資料名は『百鬼夜行拾遺』だが、書誌情報の並列タイトルや表紙画像には『今昔百鬼拾遺』とある。
*国立国会図書館デジタルコレクション『百鬼夜行拾遺 3巻[1]』
(https://dl.ndl.go.jp/pid/2551539 )
次に『皇国二十四功』(月岡芳年/画)の灯台鬼の絵を調査。
図書館システムでキーワード「月岡芳年」や「皇国二十四功」を検索。
『月岡芳年伝』(菅原真弓/著 中央公論美術出版 2018年)、『浮世絵大家集成 続 第1巻 大蘇芳年』(大蘇芳年/[画] 大鳳閣書房 1933年)等、数冊が見つかった。
『浮世絵大家集成 続 第1巻 大蘇芳年』は書誌の著者情報の一部に「月岡芳年」と入っている。
大蘇芳年は月岡芳年の別名と思われたが、念のため当館契約のデータベース「WhoPlus」でキーワード「大蘇芳年」を検索。
項目「月岡芳年」(出典:WhoPlus)の詳細情報に「別名:大蘇 芳年(タイソ・ヨシトシ)」とあった。
*データベース「WhoPlus」項目「月岡芳年」
(https://web.nichigai.jp/nos/static_link/who/116454/?lang=0&user_id=ITM )
見つかった数冊の内容を確認するが、灯台鬼の絵は掲載されていない。
『月岡芳年伝』p.216によれば、『皇国二十四功』(明治14年)は徳目に秀でる歴史上の人物を描いた、二十四図から成るシリーズとのこと。
p.218の図版7-3の「皇国二十四功 日野阿稚丸」は「千葉市美術館蔵」とある。
千葉市美術館に『皇国二十四功』の灯台鬼の絵も所蔵していると推測。
同美術館HP内「所蔵作品」よりキーワード「月岡芳年」で検索するも、『皇国二十四功』シリーズは見当たらず。
*「千葉市美術館」HP
(https://www.ccma-net.jp/ )
『月岡芳年伝』を再度確認。
p.218の図版7-4の「芳年武者无類 日野隈若丸」は「国立国会図書館蔵」とある。
『皇国二十四功』シリーズも同図書館で所蔵していると推測。
国立国会図書館デジタルコレクションでキーワード「皇国二十四功」を検索すると、『錦絵帖』や『あづまにしきゑ』収載の錦絵「皇国二十四功」数十点が見つかった。
その中の
・「皇国二十四功 弼宰相春衡(皇国二十四功)」(柳亭種彦/記 芳年/〔画〕 松木平吉 明治28年 『錦絵帖』収載)
・「皇国二十四功 弼宰相春衡(皇国二十四功)」(大蘇芳年/著 津田源七 明治20年 『あづまにしきゑ』収載)
に灯台を頭にのせている人(妖怪)、人間の若者の絵と文が掲載されていた。
収載元が『錦絵帖』、『あづまにしきゑ』と異なるが、同一の絵である。
柳亭種彦の「燈臺本暗しの諺の如く。父ハ遙けき唐邦へ遣唐使の命を奉じて(略)燈臺の鬼と成て泣居る体を父と察し。(略)」という文は『源平盛衰記』の説話とほぼ一致。
「灯台鬼」という題は付いていないが、絵や文より当該資料と思われる。
*国立国会図書館デジタルコレクション「皇国二十四功 弼宰相春衡(皇国二十四功)」(『錦絵帖』収載)
(https://dl.ndl.go.jp/pid/1310108 )
*国立国会図書館デジタルコレクション「皇国二十四功 弼宰相春衡(皇国二十四功)」(『あづまにしきゑ』収載)
(https://dl.ndl.go.jp/pid/1312926 )
質問者に国立国会図書館デジタルコレクション収録の
『百鬼夜行拾遺 3巻[1]』
「皇国二十四功 弼宰相春衡(皇国二十四功)」2種
および他市図書館蔵書の
『鳥山石燕画図百鬼夜行全画集』
を案内。
2024.1.9追記
・『日本美術作品レファレンス事典 絵画篇 近世以前』(日外アソシエーツ株式会社/編集 日外アソシエーツ 1998年)、『日本美術作品レファレンス事典 第2期絵画篇 近世以前・浮世絵・近現代』(日外アソシエーツ株式会社/編集 日外アソシエーツ 2006年)、『日本美術作品レファレンス事典 第3期絵画篇 近世以前・浮世絵・近現代』(日外アソシエーツ株式会社/編集 日外アソシエーツ 2020年)や、調査後に出版された『月岡芳年』(月岡芳年/[画] 河出書房新社 2020年)にも、『今昔百鬼拾遺』や「皇国二十四功 弼宰相春衡」の情報、絵は載っていない。
・兵庫県立図書館から取り寄せた『日本妖怪大事典』(村上健司/編著、水木しげる/画 角川書店 2005年)p.228~229に項目「灯台鬼」(とうだいき)あり。
「『平家物語』『源平盛衰記』『和漢三才図会』にあるもの。鳥山石燕の『今昔百鬼拾遺』には、唐人風の男が頭上に燭台を立てた姿で描かれ(略)」と記されている。
2024.2.10追記
他市の図書館から取り寄せた『鳥山石燕画図百鬼夜行全画集』の内容を確認。
p.145に『今昔百鬼拾遺』の「燈臺鬼」が掲載されていた。
インターネットのリンク確認日:2024年4月18日
- 事前調査事項
- NDC
-
- 伝説.民話[昔話] (388 10版)
- 日本画 (721 10版)
- 辞典 (813 10版)
- 参考資料
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- 日本国語大辞典 第9巻 第2版 ちゆうひ-とん
- 広辞苑 第7版
- 大辞林 第4版
- 日本語大辞典 第2版 講談社カラー版
- 妖怪萬画 vol.2
- 図説妖怪画の系譜
- 月岡芳年伝
- 鳥山石燕画図百鬼夜行全画集
- 日本妖怪大事典
- キーワード
-
- 灯台鬼
- 燈臺鬼
- 鳥山 石燕
- 今昔百鬼拾遺
- 月岡 芳年
- 皇国二十四功 弼宰相春衡
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000264929