レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2023年07月07日
- 登録日時
- 2023/07/15 15:01
- 更新日時
- 2023/09/21 16:16
- 管理番号
- 関大総図 23B-07J
- 質問
-
解決
明治時代頃に大阪市で作られた特産品が、地域にどのような影響を及ぼし、
繁栄したかがわかる資料がほしい。
- 回答
-
大阪市の特産品として、現在「なにわ伝統野菜」に認証されている「天王寺蕪」を例にとります。
資料を大まかに通読しましたが、この特産品が地域にどう影響を及ぼし、また繫栄を支えたかについて、まとまった記述を見つけることはできませんでした。ただ、断片的ですが手がかりとなる記述がありましたので、参考までに以下に紹介します。
『天王寺村誌』によれば、元々、天王寺蕪の種は寺外不出とされていたようですが、
大坂夏の陣において種蔵が焼けないよう農民が蔵を守ったことから、栽培が許可され、
四天王寺僧坊の食料に充てられたほか、年々増産して市場にも出回るようになり、
「天王寺蕪」という名前になったようです(『大阪食文化大全』p.197)。
従って、当初はあくまで自家消費用として栽培され、そのうち余剰分を市場に出して、
世に広まっていったと考えられます。
江戸時代の地誌『摂津名所図会』の「天満青物市場」の紹介にも「天王寺蕪」の名が見えます
(『なにわ大阪の伝統野菜』pp.191-192)ので、当時の物産として有名であったことがうかがえ、
天満市場を起点として全国へ出荷されていたようです。
『天王寺村誌』によると、天王寺、阿倍野を中心として耕作される蕪の産額や販路は広く、
村人は漬物や干し蕪として諸国へ出していた旨、記載があります(『大阪食文化大全』p.245)。
このうち、漬物に関しては、江戸時代中頃、天王寺の「六萬堂」で天王寺蕪の漬物(粕漬)が売り出され、
諸国にその名が知られるようになったとの記述もあります(『なにわ大阪の伝統野菜』p.52)。
「六萬堂」は江戸当時の大阪の漬物商の一つで、創業家は村上家ですが、
ご子孫(第27代当主 村上蕪芳氏)の書かれた記事が、雑誌『大阪人』59巻4号pp.40-43にあります。
これによると明治天皇へも献上されていたようで、江戸から明治時代にかけての店の盛況ぶりが窺えます。
明治21年の『農事調査』によれば、天王寺蕪の大阪府下の生産量は約48万貫で、
うち西成郡(天王寺を含む地域)だけで約32万貫と、大阪市の名産として盛んに栽培されていたようです
(『なにわ大阪の伝統野菜』pp.48-50)。ただ、明治35年頃、害虫の発生で深刻な打撃を受け、
生産が激減、品質も悪化(『天王寺村誌』p.517)し、明治末から大正にかけて栽培されなくなりました
(雑誌『大阪人』59巻4号p.41)。
雑誌『四天王寺』5巻4号(昭和17年)p.16には、村が区となり、コンクリート塀ができ、
四天王寺界隈に蕪の畑を見る由もないとの記載があります。
蕪の復活は平成に入ってから(『大阪春秋』111号 pp.21-22)で、2000年代には復興栽培され、
再び市場に出始めた旨の記述があります(『大阪春秋』111号 pp.56-57)。
伝統野菜の復活や地域振興については、以下記事も参考になります(発行元でフリー公開)
「なにわの伝統野菜」の復活と地域・産業振興の取り組み, 内藤重之, 森下正博
大阪府立食とみどりの総合技術センター研究報告(43) pp.5-12, 2007
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2030912556 【最終アクセス日:2023/07/15】
- 回答プロセス
- 事前調査事項
-
大阪市史
- NDC
-
- 日本 (291)
- 産業史.事情.物産誌 (602)
- 蔬菜園芸 (626)
- 参考資料
-
- 渡邊忠司. 近世「食い倒れ」考. 東方出版, 2003. , ISBN 4885918197 (当館請求記号 K*216.3*ワ, 当館資料番号 102724628)
- 三善貞司. 大阪伝承地誌集成. 清文堂出版, 2008. , ISBN 9784792406479 (当館請求記号 N8*291.63*16, 当館資料番号 210624582)
- なにわ特産物食文化研究会. なにわ大阪の伝統野菜. 農山漁村文化協会, 2002. , ISBN 4540012452 (当館請求記号 N8*626*668, 当館資料番号 230002935)
- 武部善人. 大阪産業史 : 復権への道. 有斐閣, 1982. , ISBN 4641022429 (当館請求記号 E*602.163*T1*1, 当館資料番号 302106863)
- 天王寺村公同会. 天王寺村誌. 1925. (当館請求記号 *291.631V*T1*1, 当館資料番号 001240773)
- 笹井良隆. 大阪食文化大全. 西日本出版社, 2010. , ISBN 9784901908542 (当館請求記号 N8*383.8*148, 当館資料番号 211084085)
- 大阪人. 大阪都市協会, 2005. 59(4), ISSN 09182950 (当館請求記号 M*291.63*O2, 当館資料番号 410372021)
- 大阪春秋. 大阪春秋社, 2003. 111 (当館請求記号 M*291.63*O3, 当館資料番号 410182281)
- キーワード
-
- 特産
- 名産
- 産業
- 伝統
- 照会先
- 寄与者
- 備考
-
比較的資料が豊富であったため、天王寺蕪を例にとった。
地域に与えた影響という観点から調査した限り、商人や実業家の話はたくさんある(例えば五代友厚など)ものの、明治時代の名産・特産品を作った特定の人や藩による、その地域に与えた影響についてまとまった話は見つけられなかった。
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 質問者区分
- 学生
- 登録番号
- 1000335980