レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2019年01月26日
- 登録日時
- 2019/08/29 17:00
- 更新日時
- 2022/07/22 10:52
- 管理番号
- 吹-70-2019-005
- 質問
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解決
中国語の発音表記について。中国で使用されているのは拼音(ピンイン)だが、台湾では注音符号とよばれるものが使用されているようだ。中国と台湾で異なる発音表記を使用するようになった経緯を知りたい。
- 回答
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【拼音と注音符号について】
拼音:中国語のローマ字表記法。1958年に公布された。漢語拼音法案に基づき、アルファベットと声調符号(音の高低を示す記号)とにより、現代中国語(共通語)の読み方を表す。(『日本国語大辞典 第11巻』小学館 2001.11)
注音符号:中国で漢字の発音を示すために用いられる記号。漢字の古い形に基づいて作られ、1918年に制定。(『日本国語大辞典 第8巻』小学館 2001.8)
回答資料(1)(5)によると、現在中国・台湾で使用されている文字・発音表記は下記のとおり。
中国:文字は「簡体字」、発音表記は「漢語拼音」。
台湾:文字は「繁体字」、発音表記は教育現場においては「注音符号」、地名や駅名ではローマ字表記。
(1)『はじめての台湾語』(趙怡華/著 明日香出版社 2014.6)
p19に「注音符号とピンインの対照表」がある。また、台湾ではパソコンのキーボードの配列は注音符号の順になっていること、若者が携帯でメールを打つ時は、ほぼ全員が注音符号を使用した入力法を使っているようだ、と記されている。
【中国の文字改革について】
(2)『中国語発音字典』(中山時子・戸村静子/編 東方書店 2001.7)
p4~p5から抜粋
中国では解放の前後を問わずその近代化を阻むものの一つに、漢字の学び難さと方言群の複雑さとがあった。(中略)漢字の簡略化、共通語の制定、簡体字にローマ字による発音記号を綴り合わせて注音し、共通語の普及を計る(中略)「漢語拼音法案」の公布となり輝やかしく結実する。大衆にとって漢字は学びやすくなり、共通語は拼音を媒体として普及し、方言群による近代化への停滞は昔話となった。
(3)『中国漢字を読み解く 簡体字・ピンインもらくらく』(前田晃/著 日本僑報社 2013.5)
p160~p168「簡体字の誕生~新中国の文字改革」
1956年 漢字簡化法案(簡体字)公布
1958年 漢語拼音法案(中国語ローマ字表音方式)公布
(4)『近代中国のことばと文字』(大原信一/著 東方書店 1994.11)
p189~p307「文字改革の歴史」
(5)『台湾を考えるむずかしさ』(松永正義/著 研文出版 2008.7)
【台湾の国語教育について】
p56~p57「台湾における表記システム・国語」から抜粋
台湾の国語教育は基本的には中華民国の大陸時代の国語政策を引き継ぐものである(中略)こうした大陸での動きを受けて台湾では逆に「民族伝統」としての正字体(繁体字)を守ろうとする方向に変わっていく(中略)真の「中国」は台湾にのみ存在する、という国民党の正統中国論の具体例のひとつに漢字問題が組み込まれたわけだ(中略)こうして国語教育における書記システムは、繁体字および注音符号のセットによることが規定され、今日に至っている。
【台湾の地名の発音表記】
p57~p64「台湾における表記システム・訳音系統」要約
教育現場において発音表記は注音符号で統一されていたのに対し、道路・駅名等の地名表示に用いる発音表記は国語羅馬字、注音符号第二式、通用拼音(いずれもローマ字表記)と次々に指定され、また同時に漢語拼音も使用されており、統一されていなかった。1996年注音符号第二式で道路標識を統一するという通達が出されたのを機に、地名の発音表記に通用拼音と漢語拼音のどちらを採用するかで各県・市の意向、政権が絡んだ論争がおこり、2002年通用拼音の採用で一応の決着をみた。
レファレンス協同データベース事業サポーターより追加情報をいただきました。(2021/5/7)
中国語のローマ字「ピンイン」の考案者である周有光氏に関する記事です。
「「ピンインの父」と呼ばれる著名な言語学者・周有光氏が死去」『人民網日本語版』2017年1月18日(2022.6.23最終確認)
- 回答プロセス
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最初に、注音符号・拼音がどういうものかを知るために辞典にあたった。
次に当館の検索機で「ピンイン」「注音」「中国語」「台湾語」というキーワードを組み合わせて検索し、関連のありそうな資料にあたった。
調査するうち、台湾の国語は複雑な政治情勢や国民感情に影響されていることがわかり、台湾の歴史(NDC222)、文化事情(NDC302)の資料にもあたった。後日の調査で拼音論争について書かれた下記の論文を見つけ、質問者に情報を提供した。
論文タイトル:台湾の「拼音論争」とアイデンティティ問題-国際化と主体性の狭間で-
著者:菅野敦志
掲載雑誌:アジア太平洋討究 No.20(2013.2)p227~242
発行:早稲田大学アジア太平洋研究センター出版
- 事前調査事項
- NDC
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- 音声.音韻.文字 (821 10版)
- 方言.訛語 (828 10版)
- 中国 (222 10版)
- 参考資料
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趙怡華 著. はじめての台湾語 新版. 明日香出版社, 2014. (CD BOOK)
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I025500135-00 , ISBN 9784756917072 -
中山時子, 戸村静子 編 , 中山, 時子, 1922-2016 , 戸村, 静子. 中国語発音字典 新装版. 中山時子, 2001.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000003024499-00 , ISBN 4497201074 -
前田晃 著. 中国漢字を読み解く : 簡体字・ピンインもらくらく : 中国語学習ハンドブック. 日本僑報社, 2013.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I024387790-00 , ISBN 9784861851469 -
大原信一著 , 大原, 信一. 近代中国のことばと文字. 東方書店, 1994.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000096-I011124130-00 , ISBN 4497944336 -
松永正義 著 , 松永, 正義, 1949-. 台湾を考えるむずかしさ. 研文出版, 2008. (研文選書 ; 99)
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000009428240-00 , ISBN 9784876362813 -
菅野 敦志 , 菅野 敦志. 台湾の「拼音論争」とアイデンティティ問題 : 国際化と主体性の狭間で. 2013-02. (後藤乾一教授退職記念号 : アジアのなかの日本 日本のなかのアジア) アジア太平洋討究 / 早稲田大学アジア太平洋研究センター出版・編集委員会 編(20) p. 227-242
https://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I024701988-00
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趙怡華 著. はじめての台湾語 新版. 明日香出版社, 2014. (CD BOOK)
- キーワード
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- 中国語
- 発音表記
- 台湾語
- 拼音(ピンイン)
- 注音符号
- ボポモフォ
- 台湾
- 文字改革
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000260610