レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2023/11/04
- 登録日時
- 2023/12/13 00:30
- 更新日時
- 2023/12/13 00:30
- 提供館
- 宮城県図書館 (2110032)
- 管理番号
- MYG-REF-230057
- 質問
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解決
『奥の細道』の諸本には、芭蕉自身の句が50句、他13句の63句が本文に登場します。元禄2年の旅を終え、元禄4年頃から書き、そのうち・芭蕉句50句中、初案は22句で、他28句は推敲されて元禄7年の夏に本文に遺されていることを知りました。どの箇所が推敲され、何の理由で改まったかを解り易く解説した書籍を探しています。特に、以下の句について知りたいです。
(1)「閑さや岩にしみ入蝉の声」の推敲について
(2)平泉の「五月雨の降り残してや光堂」の推敲について
(3)仙台の「あやめ草足に結ん草鞋の緒」の初案は「紐に結ん」とありますが、後に「足に」と改作した理由について
- 回答
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下記のとおり御案内しました。※【 】内は当館の請求記号です。
1 「奥の細道」の推敲箇所が示されている資料について
資料1 松尾芭蕉 著 ; 上野洋三 編『芭蕉自筆奥の細道』岩波書店, 1997年【915.5/マハ1997.1】
pp.73-109「本文篇」の項
底本における加筆箇所が脚注に記されています。
また、pp.120-122 櫻井武次郎「芭蕉自筆「奥の細道」について」-「曾良本との関係」の項に、底本と定稿本について解説が掲載されています。
資料2 岩田九郎 著『諸注評釈 芭蕉俳句大成』明治書院, 1967年【911.32/イ2】
芭蕉の俳句の評釈事典になります。各俳句の推敲過程について掲載がありました。
2 推敲の意図を解説した資料について
以下の資料に掲載がありました。一部引用して御紹介します。
(1) 「閑さや岩にしみ入蝉の声」の推敲について
資料3 赤羽学 著『芭蕉俳諧の精神』清水弘文堂書房, 1970年【911.32/マハ1970.0】
pp.641-642「第二章 芭蕉俳諧の手法」-「第六節 発句の象徴性」-「三 行脚時代の叙景的な象徴句」の項
「(前略)「閑さや」の句は、次のように三回の推敲を経たものと考えられる。(中略)初五文字が初め「山寺や」とあり、次に「淋しさの」となり、更に「さびしさや」となった。「山寺や」は、単に場所を提示しただけで、見方が外面的であったが、「淋しさの」「さびしさや」となると、山寺に対する芭蕉の主観的な心情の投影が見られる。(後略)」
資料4 加藤楸邨 著『芭蕉の山河 : おくのほそ道私記』(講談社学術文庫), 講談社, 1993年【080/カ1/1070】
p.217「第三章 芭蕉の山河」-「立石寺」の項
「(前略)全山岩の山寺を仰ぐと、「山寺や」と発想したくなるのは今でも恐らくかわりないことかもしれない。まず最初の五音で全景をとらえたり、第一印象を把握したりするのが、最も容易な、そして自然なゆき方だからである。しかし、後に『初蝉』にあらわれてくる形は、 さびしさや岩にしみ込蝉のこゑ となっている。これで見ると、「立石寺」も「山寺」も姿をひそめて、初めの五文字は「さびしさや」という印象の把握に転じている。(後略)」
(2) 「五月雨の降のこしてや光堂」の推敲について
資料4, pp.199-204「第三章 芭蕉の山河」-「平泉のこと」の項
五月雨の句の推敲過程について、三千風の『日本行脚文集』と比較しながら分析しています。
資料5 『奥の細道』25, (マンガ日本の古典), 中央公論社, 1995年【726.1/マン1994.Y/25】
p.50「PART1 夏草や・・・」の項
「芭蕉は、実はこの「五月雨の・・・」の句をはじめは「五月雨や年々降りて五百たび」と詠んでいる。(中略)これではあまりに発想が単純過ぎて「芸がない」と思ったのだろう。結果「五月雨の降りのこしてや光堂」と改作した。おそらく平泉よりの帰路の道すがらに、あれやこれやと推敲を加えているうちに思いついた句だったのかも知れない。(後略)」
(3) 「あやめ草足に結ん草鞋の緒」の推敲について
資料2, p.75「本篇」-「(あ)の部」-「あやめ草足に結ばんわらぢの緒」-「〔形〕」の項
「(前略)『泊船集』は中七が「紐にむすばん」となっている。これにつき潁原氏は、「紐は緒と重なる弊があり、かつ健脚を祝ふ意を強くする為にも足に従ひたい」といっている、首肯すべき説である。」
(4) その他の俳句の推敲について
(1)-(3)以外の俳句について解説が掲載されている資料を御紹介します。
資料3, pp.482-574「第二章 芭蕉俳諧の手法」-「第四節 紀行文の推敲」-「四『奥の細道』の推敲」の項
資料6 上野洋三 著『芭蕉自筆「奥の細道」の謎』二見書房, 1997年【915.5/マハ1997.7】
pp.188-197「第四章 『奥の細道』における芭蕉の構想と配置」-「なおも止まらぬ「自筆本」の推敲」の項
pp.198-224「第四章 『奥の細道』における芭蕉の構想と配置」-「「恋」のテーマ追求のための技巧」の項
pp.225-246「第四章 『奥の細道』における芭蕉の構想と配置」-「執筆の動機にもつながる「哀傷」のテーマ」の項
- 回答プロセス
- 事前調査事項
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利用者から参照されたのは以下の5冊です。
1 佐藤勝明 著『芭蕉はいつから芭蕉になったか』NHK出版, 2012年
2 佐藤勝明 著『松尾芭蕉と奥の細道』吉川弘文館, 2014年
3 佐藤勝明 著『俳諧の歴史と芭蕉』公益財団法人芭蕉翁顕彰会, 2015年
4 佐藤勝明 著『全文を読み切る『奥の細道』の豊かな世界』大垣市・大垣市教育委員会, 2018年
5 佐藤勝明 編『松尾芭蕉』(21世紀日本文学ガイドブック ; 5), ひつじ書房, 2011年
- NDC
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- 詩歌 (911 9版)
- 参考資料
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- [松尾 芭蕉/著] 上野 洋三/編. 芭蕉自筆奥の細道. 岩波書店, 1997.1【915.5/マハ1997.1】:
- 岩田 九郎/著. 諸注評釈 芭蕉俳句大成. 明治書院, 1967【911.32/イ2】:
- 赤羽/学∥著. 芭蕉俳諧の精神. 清水弘文堂書房, 1970【911.32/マハ1970.0】:
- 加藤楸邨/[著]. 芭蕉の山河. 講談社, 1993.4【080/カ1/1070】:
- . マンガ日本の古典 25. 中央公論社, 1995.10【726.1/マン1994.Y/25】:
- 上野 洋三/著. 芭蕉自筆「奥の細道」の謎. 二見書房, 1997.7【915.5/マハ1997.7】:
- キーワード
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- 松尾, 芭蕉(マツオ, バショウ)
- 俳諧 -- 評釈
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- その他
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000343371