レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 19980430
- 登録日時
- 2005/02/02 02:13
- 更新日時
- 2005/11/09 18:19
- 管理番号
- D1998F2284
- 質問
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未解決
馬の鏡にうつした文字(ひだりうま?)について、その由来などを知りたい(縁起がよいとのことだが)。
- 回答
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いわゆる逆文字の「ひだり馬」については、『隠語辞典』(楳垣実編 東京堂 1956 <813.9-U517i>)に簡単な記述があります。その他の、国語辞典、江戸語辞典、民俗語辞典、風俗語辞典等には、ひだり馬に関する記述は見当たりませんでした。
なお、類似のお問い合わせについて、以前に『図書館雑誌』(日本図書館協会)の89巻3号(1995.3)の175頁にレファレンス事例として紹介した記事があります。この記事中にある大杉緑郎氏の著作3点の書誌事項は以下のとおりです。(< >内は当館請求記号)
(1)『美濃国東濃地方に伝わる「左り馬」の故事に想う』 土岐 大杉緑郎 1991 <GD33-F292>
(2)『美濃国東濃地方に伝わる「左り馬」の故事に想う 続編』 土岐 大杉緑郎 1992 <GD33-F292>
(3)『美濃国東濃地方に伝わる「左馬」の故事』 土岐 大杉緑郎 1993 <GC122-E39>
<参考>
図書館雑誌(89巻3号)掲載記事
「ひだり馬」の語源またはルーツについての文献。
上記のような文書レファレンスを,ある大学図書館から受けた。「焼き物などの祝い事の印でおめでたい時に使われているようです」という注記があったが,まず頭に浮かんだのは,芸者が三味線に描く裏返しの「馬」の字である。今もこんな風習があるのかどうかは知らないが,花柳界や寄席芸人などの間で行われていたことは何度か読んでいたし,てっきりこれに違いないと決め込んでしまった。少し前に『森銑三著作集 続編』第8巻で「岡鬼太郎のひだり馬」なる文章を読んだばかりなので,ますます固定観念が強まった。国語辞典や俗語辞典,江戸語辞典を調査したが,意外に見つからない。楳垣実編『隠語辞典』(東京堂 1956)に花柳界用語として,「案内人は馬の口輪を採って馬の左側に立ったから,左馬の字は『客を連れ込む』とて縁起がよいとされたという」云々という記述を見いだし一安心する。「焼き物のおめでたい印」のほうは一応調べてみたものの判明せぬまま回答をした。ところが,ふと思いついてヒダリウマというのを和図書データベースの書名で検索してみると3件あるではないか。大杉緑郎『美濃国東濃地方に伝わる「左り馬」の故事に想う』(土岐 大杉緑郎 1991)ほか,いずれも大杉氏の著作で,読んでみるとまさしく質問にあった焼き物に描くひだり馬である。最初の回答からかなり時間が経ってしまったが,電話で追加の回答をした。
これらによると,岐阜県東濃地方の陶磁器業界で,窯の新築や修理の後,初めて焼く初窯に際して行われるという。馬の字ではなく,頭を左方に振り向け右に進む馬の絵を茶碗・湯呑などに描き,縁起物として配るのである。地元ではよく知られていることであろうし,各地の観光地でも近頃土産物に使われているらしいが,私には全く初耳であった。この由来についてはいろいろの説が紹介されていたが,結局ははっきりしないようで,逆文字の「馬」を書く風習との関係も不明である。追求していくと絵馬などとも関係がありそうで,なかなか興味深いが,こうしてみると前記『隠語辞典』の説も当たっているかどうか。
待ち合わせの知識(=思い込み)だけに頼り,出てきたからといって安心してしまわないこと,ありそうになくてもJ-BISC等データベースを検索してみること――初歩的な注意をおろそかにしてはならぬという教訓を改めて得たわけである。
- 回答プロセス
- 事前調査事項
- NDC
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- 語彙 (814 9版)
- 参考資料
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- 隠語辞典 楳垣実編 東京堂 1956 <813.9-U517i>
- キーワード
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- ひだり馬
- 隠語
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 事実調査
- 内容種別
- 言葉
- 質問者区分
- 専門図書館
- 登録番号
- 1000014086