①『すぐわかる日本の伝統文様』には「第四章 江戸時代」「文学と文様」の「物語」に記述がある。「人物を出さず、モティーフや記号などで物語世界を表現したものを留守文様という。」とあり、「物語の場面をそのままに再現した文様もあるが、場面を暗示させるモティーフを用いて物語世界を表現する、留守文様といわれるものもある。たとえば、『源氏物語』では、御所車と夕顔で「夕顔」の帖を、紅葉と太鼓で「紅葉賀」の帖を(中略)暗示させる。」と説明されている。
②『源氏文化の時空』第3章の「3 『源氏物語』の意匠」に「蓋表に牛車と秋草、蓋裏には黒木の鳥居と小柴垣、紅葉、秋草を表わした「野宮蒔絵硯箱」(サントリー美術館)、室町時代の作品であるが、蓋表に檜垣に夕顔を描いた「夕顔蒔絵硯箱」(北村美術館)などには、人物を描かず、景物モチーフのみで物語の一場面を表わす留守文様という手法が使われている。」と記載されている。
③『源氏の意匠』には「第二部 『源氏物語』を楽しむ工芸品」の「硯箱の形と意匠」の中に「留守模様が暗示する物語」があり、「留守模様」を特徴とする「夕顔蒔絵硯箱」と「野宮蒔絵硯箱」がカラー写真で紹介されている。「工芸の世界では、主人公である人物をあえて描かず、周りの風景や事物などによってその存在を暗示する、という手法が多用されるが、それを留守文様とよぶ。(中略)『源氏物語』の印象的な場面が、夕顔、御所車、鳥居といったモチーフによって象徴的に表現される。」との説明もある。
④『漆工辞典』には「留守模様」の項目があり、「主に物語等の文学作品を元にした意匠のなかで、物語中の登場人物を表さず、人物にちなむ事物により、その人物の存在を暗示する表現手法。」と説明されている。『源氏物語』についても書かれている。
⑤『日本の美術』543号には「光吉系屏風絵作品―源氏絵を中心に」の中で留守模様で物語を表す「源氏物語 帚木図屏風」が紹介され、「第92図 源氏物語屏風(「帚木」)」として屏風のモノクロ写真が掲載されている。
⑥『ニッポンを解剖する!名古屋東海図鑑』には「第1章 尾張徳川家」に徳川美術館の収蔵品である「初音の調度」について紹介されている。「『初音の調度』は、そのすべてに『源氏物語』の初音の帖をモチーフにした意匠が施されている。」とあり、硯箱の蓋のカラー写真を使って図柄や技法が説明されている。その中に「留守模様」があり、「蒔絵の中に人物を描かず、邸宅や景観で物語の情景を表すこと」と書かれている。
⑦『図像学入門』には「第8章 山水画と花鳥画―神仏でも人でもないもの」の中に「主人公はどこ? 絵画と工芸―留守模様」の項目がある。「『源氏物語』の「若紫」なら裏返った籠と雀、「夕顔」なら御所車に夕顔に扇、着物の文様にも用いられている。」、「どうして主人公抜きの留守模様ができたのか、お能の舞台装置の象徴的な小道具が始まりではないか、とも言われる。」などの説明もある。