レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2020年10月17日
- 登録日時
- 2020/10/17 11:59
- 更新日時
- 2022/04/26 14:42
- 管理番号
- 2793
- 質問
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解決
井上靖が楼蘭を訪れた時のことが新聞記事になったものを読みたい。
- 回答
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井上靖氏は楼蘭には行かなかったようです。
逝去された翌日の新聞に平山郁夫氏による追悼文が掲載されており
そのなかで「井上先生は遂に楼蘭の旅が実現されなかった」とありました。
- 回答プロセス
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1.利用者が複写資料を持参していた。
あとがきの頁(頁付は188)を複写したもので「楼蘭」について書かれている。
文末に「昭和六十年七月十八日 井上靖」と記されている。
1985年7月以降に発行された井上靖の著作を調査し
『楼蘭』(井上 靖/著 講談社 1985年)だとわかる。
このあとがきに
「中国の招きによって、今年の九月、ヘディン、スタイン、わが大谷探検隊以来の
最初の外国人として、楼蘭の故地に立たせて貰うことになっている」
という文があり、これを根拠に1985年9月に楼蘭を訪問しているはずであるという。
2.井上靖の著作を調査
『井上靖全集』(新潮社 1997年)
各巻末に解題。執筆時期・掲載誌の情報もある。
・第26巻 外国紀行(中国への旅についてのエッセイも含む)
・第27巻 西域エッセイ 西域紀行1
p.161-「遺跡の旅・シルクロード」
p.278-
「謎の国楼蘭」(1980年8月、『シルクロード』第3巻初出)を収録。
p.283に以下の記述がある。
「古代の遺跡の中で、どの遺跡に一番立ちたいか。(中略)
今もし同じ質問を受けたら、やはり楼蘭と答えるだろうと思う」
p.541-「講演 最近の西域の旅から」(1980年5月)
p.543
「楼蘭付近を除いて、小説で取り扱った地帯は大体、行かせてもらいました」
・第28巻 西域紀行2
「私の西域紀行」 1978年1月から1981年12月まで雑誌「文藝春秋」に連載したもの
『シルクロード』(井上 靖/[ほか著] NHK取材班/著 日本放送出版協会 1980年)
NHKと中国中央電視台が1979年からおこなっているシルクロードの日中共同取材によって
番組を制作し書籍化したもの。
・第3巻 楼蘭・黒水域
p.24
楼蘭について、中国の最高機密であり、外国人や一般人の立ち入りが難しいこと、
今回のプロジェクトのために楼蘭への立ち入りが許可されたこと、楼蘭と黒水域の撮影は
当初許可されなかったが、交渉のすえ一部を中国側だけで撮影するということを条件に
許可が得られたこと、等の記述がある。
(「重要な軍事基地、おそらく核実験場ではないかと想像していた」、
撮影が許可されない理由について、中国側のスタッフが「みなさんが想像される
通りです」と答えている、とある)
1980年3月29日からNHKにより取材が始まる。
敦煌を出発し4月16日楼蘭の首都クロライナに到着。
井上氏は同年5月ウルムチからホータン飛行機で移動しNHK隊に合流した。
NHK隊は5月には西域南道(タクラマカン砂漠南辺のオアシス都市を廻る道)の都市を
取材しており、井上氏がそこに合流する形になる。
3.「WhoPlus」で関連記事を調査
1980年以降の記事に絞って検索した。
井上氏はたびたび中国を訪問しており中国に関する記事は複数見つかったが
楼蘭を訪問したという内容のものは見当たらなかった。
4.井上氏の作家論・作品論を調査
『新潮日本文学アルバム』48(新潮社 1993年)
年譜などを調査
楼蘭を訪問したという内容は見当たらない。
5.西域をテーマにした著作の中に画家の平山郁夫氏との対談が見つかった。
『東方の夢遙か』(平山 郁夫/著 美術年鑑社 1987年)
「遙か西域へそそぐ情熱」(「月刊美術」1982年2月号初出)
井上氏と平山氏は以前から共に東方への関心が高く親交があったことがわかる。
6.『朝日新聞縮刷版』を調査
井上氏は1991年1月29日逝去。追悼記事を調査した。
1月30日夕刊に平山氏による追悼記事が掲載されている。
「残念なことに、井上先生は遂に楼蘭の旅が実現されなかった。
一度は、ご一緒に旅を決意されたが、大事をとって、断念された。
私は、旅の後、写生をお見せした。
「平山さん、たくさんの写真を見せて貰い、もう楼蘭は行かなくても、
良いですよ」と淋しそうにいわれた」
という文がある。
7.上記追悼文にはパリで開催される平山氏のシルクロード展に言及している。
「本年三月二十七日から、パリのギメ国立美術館で、
平山郁夫シルクロード展が開かれる。
展覧会図録に、井上先生のエッセイを戴いた」
平山氏のシルクロード展図録を調査。
国立国会図書館のWEBOPACで調べるが、特定が難しい。
8.『井上靖全集』を再度調査
第25巻に平山氏の著作や展覧会図録の序文が収録されている。
「平山郁夫シルクロード展」の図録のために書かれたと思われる
「平山郁夫シルクロード展によせて」(p.538)には
楼蘭訪問についての言及はない。
p.537「平山郁夫全集2 歴訪大和路」序には楼蘭に言及はしているが
平山氏の楼蘭訪問に関するものである。
- 事前調査事項
- NDC
- 参考資料
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『井上靖全集』第25巻・26巻・27巻・28巻
(新潮社 1997年)918.6 -
『シルクロード』第3巻
(井上 靖/[ほか著] NHK取材班/著 日本放送出版協会 1980年)915.6 -
『新潮日本文学アルバム』48 井上 靖
(新潮社 1993年)910.2 -
『朝日新聞縮刷版』1991年1月
(朝日新聞社 1991年)071
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『井上靖全集』第25巻・26巻・27巻・28巻
- キーワード
-
- 楼蘭
- シルクロード
- 西域
- 井上 靖
- 平山 郁夫
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介 書誌的事項調査
- 内容種別
- 人物
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000288358