レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2010年8月13日
- 登録日時
- 2010/10/14 02:00
- 更新日時
- 2010/12/01 17:22
- 管理番号
- OSPR10080014
- 質問
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湯川秀樹の原爆研究について
湯川秀樹が京都大学教授時代に、原爆の技術をアメリカに流したそうですが、その経緯が分かる資料はありますか。
- 回答
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湯川秀樹氏が京都大教授時代に、原爆の技術をアメリカに流した経緯についての資料ということですが、当時の関係者の資料からは見つかりませんでした。
当時陸軍は「ニ号研究」、海軍は「F研究」と称し、原爆開発を行っていました。技術をアメリカに渡した旨の記述はありませんが、「F研究」との関わりについて記されている資料はありますので、日本の原爆開発に関する資料と併せて紹介します。
『AERA』臨時増刊号Vol.8No.36(1995/08/10)p.58-59「心に潜む悪魔が目覚める:原爆、七三一、そしてオウム」(常石敬一/著)には、「日本の敗戦直後、アメリカ軍は日本の原爆開発の実態について京都で湯川秀樹を尋問している。」とあり、また同号には「日本にもあった原爆計画」(保坂正康/著)p.28に湯川氏が京大の荒勝研究室のメンバーとして参加していた旨の記述があります。
『“戦争と科学”の諸相 原爆と科学者をめぐる2つのシンポジウム』第4章「日本の戦時核開発と広島の衝撃」p.48-58に原爆開発に関する記述があり、p.75-77に湯川氏に触れている箇所があります。
『湯川秀樹とアインシュタイン』p.118-123ならびにp.217-228に原爆開発との係わりについての記述があります。
『湯川秀樹の世界』は1919年から1949年にかけての評伝のような内容。「戦時下での研究」という項目はあるが、原爆との関連にはほとんどふれられていません。
『原爆の秘密 国内編』は、第4章に「湯川秀樹ノーベル賞と原子爆弾との関係」p.149-162という一項目を設けている。その中で著者は数種の文献から技術の流出の可能性について推測しています。その中の引用文献の一つ『ユダヤは日本に何をしたか』(渡部悌治/著)という著作の中で米国に技術を売り渡したという記述の部分を引用(p.152)しながらも疑義をお持ちの箇所があるようです(p.155)。この渡部氏の著作は当館では所蔵しておりませんので当該部分の前後関係や参考文献などの確認ができません。
このほか湯川氏の名前は出てこないが海軍の原爆研究内容に関する資料があります。
・『機密兵器の全貌』(559/4)にはp.160-172、p.304-306の2か所に海軍の原爆研究についての記述があります。
・『科学史研究No.207』:「物理懇談会と旧海軍における核および強力マグネトロン開発」p.163-171河村豊、山崎正勝著
・『技術文化論叢No.2』:「旧海軍委託「F研究」における臨界計算法の開発」p.27-44深井佑造著
なお、「日米の原爆製造計画の概要」福井崇時著という論文がインターネット上でごらんいただけます。この論文には、文字通り当時の日米の原爆開発に関する内容で、上記以外の資料も紹介されています。
また当時「ニ号研究」係わっていた仁科氏との書簡が収録されている資料があります。参考まで紹介します。
『仁科芳雄往復書簡集Ⅱ1936-1939』(289.1/4678N)
『仁科芳雄往復書簡集Ⅲ1940-1951』(289.1/4678N)
以上がおおよその調査結果ですが、最初に記しましたように事実関係がわかるような資
料はみつけられませんでした。参考までに「マンハッタン計画」などアメリカ側の原爆開発に関する資料を一部紹介しておきます。
・『資料マンハッタン計画』559.7/3N
・『マンハッタン計画 原爆開発グループの記録』257/4175
・『私が原爆計画を指揮した マンハッタン計画の内幕』585/177
・『原子爆弾開発ものがたり』559.7/20N
- 回答プロセス
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20100831
- 事前調査事項
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「原爆をつくった科学者たち」ウィルソン編 岩波書店
「湯川秀樹が考えたこと」佐藤文隆著 岩波書店
「原爆はこうして開発された」山崎正勝 日野川静枝編著 青木書店
「原子爆弾の誕生」上、下 リチャード・ローズ 紀ノ国屋書店
「湯川秀樹と朝永振一郎」中村誠太郎著 読売新聞社
「湯川秀樹」沢田謙 偕成社
- NDC
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- 兵器.軍事工学 (559 8版)
- 参考資料
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- 『湯川秀樹とアインシュタイン:戦争と科学の世紀を生きた科学者の平和思想』(田中正/著 岩波書店 2008.7)(ページ:217-228)
- 『原爆の秘密 国内篇:昭和天皇は知っていた』(鬼塚英昭/著 成甲書房 2008.8)(ページ:149-162)
- 『“戦争と科学”の諸相:原爆と科学者をめぐる2つのシンポジウムの記録』(市川浩/責任編集 丸善 2006.2)(ページ:75-77)
- 『AERA 8(36)』(朝日新聞社/編 朝日新聞社 1995.08.10)(ページ:58-59,28)
- 『湯川秀樹の世界:中間子論はなぜ生まれたか (PHP新書 229)』(中野不二男/著 PHP研究所 2002.12)
- 日米の原爆製造計画の概要(2010/9/28現在) (ホームページ:http://viva-ars.com/bunko/fukui/fukui-6a.pdf)
- 『機密兵器の全貌』(千藤三千造/著者代表 原書房 1976) (備考:)
- 『科学史研究. 第II期 37<207> 1998秋』(日本科学史学会/編集 日本科学史学会 1998/9) (備考:)
- 『技術文化論叢 2』(技術文化論叢編集委員会/[編] 東京工業大学大学院社会理工学研究科経営工) (備考:)
- 『仁科芳雄往復書簡集:現代物理学の開拓 2 宇宙線・小サイクロトロン・中間子1936-1939』(仁科芳雄/[著] みすず書房 2006.12) (備考:)
- 『仁科芳雄往復書簡集:現代物理学の開拓 3 大サイクロトロン・ニ号研究・戦後の再出発1940-1951』(仁科芳雄/[著] みすず書房 2007.2) (備考:)
- 『資料マンハッタン計画』(山極晃/編 大月書店 1993.9) (備考:)
- 『マンハッタン計画:原爆開発グループの記録 (ハヤカワ・ノンフィクション)』(S・グルーエフ/著 早川書房 1967) (備考:)
- 『私が原爆計画を指揮した:マンハッタン計画の内幕』(レスリー・R・グローブス/著 恒文社 1964) (備考:)
- 『原子爆弾開発ものがたり:軍国日本もナチス・ドイツも開発しようとして、果たせなかった原子爆弾を、どんな人々が、どんなところで、どのように開発したかの記録』(ロバート・W.サイデル/著 近代文芸社 2001.2) (備考:)
- キーワード
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- 原子爆弾 ニ号研究 F研究 湯川秀樹
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 書誌事項調査
- 内容種別
- 質問者区分
- 登録番号
- 1000072267