レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2021/09/06
- 登録日時
- 2021/10/02 00:30
- 更新日時
- 2021/10/21 11:10
- 管理番号
- 10321574
- 質問
-
未解決
地平社から発行された「手帖文庫」の異装本について
(1)一般の手帖文庫とは表紙のデザインが異なり、地色が赤で、花と蝶のイラストが白抜きで描かれ、題名の下には筆記体で斜めに「Journey set series」と印刷されているものがある(例:手帖文庫『一人二役』(江戸川乱歩著))。この異装本について記載されている書物がないか調査をお願いします。
なお、「手帖文庫」は戦後間もなく50点が地平社から刊行されているようです。
(2)手帖文庫は奥付に「配給元:財団法人鉄道弘済会」と記載されています。
鉄道弘済会と手帖文庫の関係について『鉄道弘済會三十年史』を調べたところ、252ページに「昭和23年4月10日 東京、上野両駅でジャーニィセット「旅の玉手箱」の販売を開始(1セット50円)」との記載を見つけました。
・ジャーニィセット「旅の玉手箱」とは何なのか。
・資料の表紙に記載されている「Journey set series」と関連があるのか。
・地平社と鉄道弘済会の関係はどういったものなのか。
上記に言及している資料がないか調査をお願いします。
- 回答
-
【 】内は国立図書館請求記号です。末尾に◎を付した資料は国立国会図書館デジタルコレクション(国立国会図書館/図書館送信参加館内公開)の資料です。
回答(1)「手帖文庫」の異装本について
以下の新聞記事にて、ご照会の異装本の表紙画像が確認できます。
「乱歩、幻の文庫本 京都の旧家の蔵で発見、市に寄贈 あすから展示 名張 /三重県」(『朝日新聞』2021年2月8日朝刊 三重全県・1地方)※当館契約データベース:聞蔵IIビジュアル(朝日新聞)にて確認。
[主な調査済み資料およびウェブサイト]
内田市五郎「Books on Books 叢書物の中のメダマ(3) 手帖文庫・文壇新人叢書・村の本・山本文庫」(『日本古書通信』53(3)(704) 1988.3 p.23【Z21-160】)
※手帖文庫について「発行所は地平社、配給元は鉄道弘済会、駅の売店でも売られたらしい。」等とありますが、異装本への言及はありません。
紅野敏郎「本のさんぽ(107)プラトン社版と手帖文庫の『心つくし』宇野浩二の場合」(『國文學 : 解釈と教材の研究』26(8)(375) 1981.6 pp.156-157【Z13-334】)
※手帖文庫について「地平社刊行、鉄道弘済会を配給元とする」等とありますが、異装本への言及はありません。
八木福次郎 著『古本蘊蓄』平凡社 2007.10【UE111-H116】
※「手帖文庫」の項があり(p.188)、「配給元が鉄道弘済会となっているから、駅の売店、今のキヨスクで売られたことが多かったらしい」等とありますが、異装本への言及はありません。
・山本善行 著『古本泣き笑い日記』青弓社 2002.9【UM51-G32】
・日外アソシエーツ編集部 編『日本出版文化史事典 : トピックス1868-2010』日外アソシエーツ 2010.12【UE57-J61】
・日本書籍出版協会 編『日本出版百年史年表』日本書籍出版協会 1968【023.1-N6883】◎
※デジタル版があります。( http://www.shuppan-nenpyo.jp/ )
・国文学論文目録データベース( http://base1.nijl.ac.jp/infolib/meta_pub/G0038835RBN )
・Web OYA-bunko(当館契約データベース)
・ジャパンナレッジLib(当館契約データベース)
・リサーチ・ナビ( https://rnavi.ndl.go.jp/rnavi/ )
そのほか、国立国会図書館所蔵の手帖文庫(井伏鱒二 著『仲秋明月 (手帖文庫 ; 第2部)』【911.56-I12-2ウ】◎等)を確認しましたが、異装本についての情報は見当たりませんでした。
回答(2)「ジャーニィセット『旅の玉手箱』とは何なのか」について
以下の資料に、「ジャーニーセット」についての記述がありました。
ただし、資料4~6については、鉄道弘済会が販売したとされる「ジャーニィセット『旅の玉手箱』」と同一のものであるかは判明しませんでした。
資料1:鉄道弘済会会長室五十年史編纂事務局 編『五十年史』鉄道弘済会 1983.2【E4-190】
※p.103の「ジャーニーセット(旅の玉手箱)の発売」と題したコラムに、「商品内容は(略)雑誌、時刻表から車中で楽しめる娯楽品、洗面具類等をセットしたもの」等の記述があります。手帖文庫への言及はありません。
(「年表」p.451には『鉄道弘済會三十年史』p.252で調査済みの内容と同じ記述があります。)
資料2:加藤源蔵 著『駅長室 : 随筆』新小説社, 1950【049.1-Ka614e】◎
※pp.218-222に「ジヤーニーセツト」と題した文章が収録されています。文中の「ジヤーニーセツト」は、東京駅の五番ホームで販売されていたこと、弘済会の名前に言及があること、昭和24年12月時点の記述であること等から、ご照会の「ジャーニィセット「旅の玉手箱」」である可能性が考えられます。文中で「ジヤーニーセツト」について、東京駅の「駅長である私」は「この経営者である谷口さん」に、売娘たちの服を「眼の覚めるような色合のもの」にすることを進言したとあります。そして、実際に衣更えをした後で「ジヤーニーセツト」の売上金額が増したことを受けて、「私は、弘済会あたりでも、参考にされてよいことではないかと思うのである。」と記されています。また、価格については「一個六〇円」とされています。
その他、「ジヤーニーセツト」が「戰爭中、陸軍の報導部長をして居られた馬淵さん」の発案に基づくとの記載があり(p.220)、『興亜講演集 第1輯』【特245-593】◎等から「馬淵さん」は馬淵逸雄と推測されます。「經營者である谷口さん」(p.218)との記載もありますが詳細は不明です。
なお、手帖文庫や装丁等への言及はありません。
資料3:南博, 社会心理研究所 著『昭和文化 続(1945~1989)』勁草書房, 1990.10【GB581-10】
※「三 旅と行楽の復活(一九五〇-一九五九年)」(p.310)において、以下のとおり述べられています。資料2の5番ホームで販売していたとの記述とも合致します。
「昭和二五年九月一五日には特急列車「平和号」が運転開始され、」(中略)「また、東京駅の五番ホームに一箇六〇円のジャーニーセットを売るジャーニー娘が出たのもこの頃であった。」
資料4:世相風俗観察会 編『現代風俗史年表 : 昭和20年(1945)→昭和60年(1985)』河出書房新社, 1986.9【GB561-95】
※p.34(1948年の出来事等が記載されている)において、以下のとおり述べられています。
「ジャーニーセット
日本交通公社が春から売り出した旅行用の娯楽用品セット。一箱五〇円の箱の中には、時刻表、読物、碁、将棋、地図、筆記具などが入っていた。いわば旅の友といったところ。」
資料5:鳥越信 著『戦後児童文学への証言 (児童文学セミナー) 第1部』理論社, 1978.4【KG411-50】
※「児童文学を顧みる」のpp.222-223において、以下の記述があります。
「昭和二十三年といえば、はじめて長距離の急行列車が復活した年である。始発駅の東京や門司では、荒廃した旅の心をいくらかでもなぐさめようと、「ジャーニー・セット」なるものを売り出した。時間表やチリ紙、お菓子やパズルにまじって、箱に入っていたのがこの本(?)である。その多くは、おそらく読みすてられたままチリ紙といっしょにすすけた窓拭きにされてしまったことだろう。今では当時の風俗をしのぶ貴重な資料となっている。」
◎
資料6:澤壽次「東海道驛賣スケッチ」(『旅』23(11) 1949.11. pp.68-69【Z8-24】)
※「東京駅で発車を待つている間にも、いろいろなものを売りに来る。子供の玉手箱式に雑誌やお菓子などを組み合せた「ジャーニイ・セット」を売つているのは、東京土産のつもりなのか、もつと東京土産らしい性格のある土産品を作り出してもいい頃だろう」(後略)という記述があります。
[参考]
「ざっさくプラス」(当館契約データベース)をキーワード「旅の玉手箱」「ジャーニーセット」で検索すると、下記情報(記事名等)がヒットしますが、これは「20世紀メディア情報データベース」(当館未契約)の収録情報であり、掲載誌や巻号等の詳細は確認できませんでした。
…「旅の玉手箱」で検索した結果‥‥
新案特許ジャーニー・セット:旅の玉手箱に就いて
谷口三郎
(左)ハリウツドの新案衣装:(右)旅の玉手箱売り出さる
無記名
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
…「ジャーニーセット」で検索した結果‥‥‥
ジャーニーセットと二十の扉
旅行文化社中京支社
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[主な調査済み資料およびウェブサイト]
・鉄道弘済会三十年史編纂委員会 編『鉄道弘済会三十年史』鉄道弘済会, 1962【369.06-Te211t3】◎
・鉄道弘済会二十年史編纂委員会 編『鉄道弘済会二十年史』鉄道弘済会二十年史編纂委員会, 1952 【369.06-Te211t2】◎
・『五十年史 : 1912-1962』日本交通公社, 1962【680.67-N685g】◎
・JTB100周年事業推進委員会 編纂『JTBグループ100年史』1912-2012. ジェイティービー, 2012.9【DH22-J1107】
・[日本国有鉄道] [編]『日本国有鉄道百年史 索引・便覧 復刻版』成山堂書店, 1997.12【DH57-G5】
・[日本国有鉄道] [編]『日本国有鉄道百年史 年表 復刻版』成山堂書店, 1997.12【DH57-G5】
・野口武悟 編『日本の鉄道 : 鉄道趣味初心者からマニア・コレクターまで (「知」のナビ事典)』日外アソシエーツ, 2018.7【D1-L76】
・鉄道弘済会労働組合教宣部 編『鉄弘労40年史』鉄道弘済会労働組合, 1986.9【EL217-L57】
・井伏鱒二 著『仲秋明月 (手帖文庫 ; 第2部)』地平社, 昭和21【911.56-I12-2ウ】◎
・エドガア・アラン・ポー 著, 堀木克三 訳『黒猫 : 小説 (手帖文庫 ; 第4部 第10)』地平社, 1947【933-cP74k4-H】◎
・有島生馬 著『蝙蝠の如く 日本篇 (手帖文庫)』地平社, 1948【Y81-2354】
・大下宇陀児 著『決闘介添人 : 怪奇小説 (手帖文庫)』地平社, 1948【Y81-2383】
・青木茂 著『大万化狐 : ユーモア小説 (手帖文庫)』地平社, 1948【Y81-2382】
・江戸川乱歩 著『黒手組 : 探偵小説 (手帖文庫)』地平社, 1948【Y81-2381】
・田村泰次郎 著『女しゃべる (手帖文庫)』地平社, 1948【Y81-2379】
・角田喜久雄 著『飛妖 : 探偵小説 (手帖文庫)』地平社, 1948【Y81-2378】
・徳田一穂 著『白い姉妹 (手帖文庫 ; 第2部 第13)』地平社, 1947【913.6-To419s】◎
・北川冬彦 著『悪夢 : 小説 (手帖文庫 ; 第2部 第36)』地平社, 1947【913.6-Ki284a】◎
・R.スティヴンスン 著, 下島連 訳『夜の宿 : 小説 (手帖文庫)』地平社, 1947【933-cS84y2】◎
・有島生馬 著『蝙蝠の如く 伊太利篇 (手帖文庫)』地平社, 1947【913.6-A7842k】
・石綿敏雄 編『基本外来語辞典』東京堂出版, 1990.9【KF7-E29】
・世相風俗観察会 編『現代世相風俗史年表 昭和20年(1945)→平成20年(2008)』河出書房新社, 2009.3【GB9-J13】
・神田文人, 小林英夫 編著『戦後史年表 : 1945~2005』小学館, 2005.12【GB9-H54】
・佐々木毅, 鶴見俊輔, 富永健一, 中村政則, 正村公宏, 村上陽一郎 編『戦後史大事典 : 1945-2004 増補新版』三省堂, 2005.7【GB8-H40】
・平凡社 編『昭和・平成史年表 : 1926-2019 完全版』平凡社, 2019.7【GB9-M16】
・Media View 編著『1946-1999売れたものアルバム』東京書籍, 2000.1【GB561-G71】
・鷹橋信夫 著『昭和世相流行語辞典 : ことば昭和史 word & words』旺文社, 1986.11【GB511-209】
・毎日新聞社 編『最新昭和史事典』毎日新聞社, 1986.4【GB8-151】
・国立国会図書館参考書誌部 編『国立国会図書館所蔵社史・経済団体史目録』国立国会図書館, 1986.3【D1-450】
・東洋経済新報社 編『日本会社史総覧. 東洋経済新報社』1995.11【D4-G62】
・聞蔵Ⅱビジュアル(朝日新聞)(当館契約データベース)
・毎索(毎日新聞)(当館契約データベース)
・ヨミダス歴史館(読売新聞)(当館契約データベース)
・大宅壮一文庫雑誌記事索引検索 Web版(Web OYA-bunko)(当館契約データベース)
・国立国会図書館オンライン( https://ndlonline.ndl.go.jp/ )
・国立国会図書館サーチ( https://iss.ndl.go.jp/ )
・国立国会図書館デジタルコレクション( https://dl.ndl.go.jp/ )
・レファレンス協同データベース( https://crd.ndl.go.jp/reference/ )
・CiNii Books( https://ci.nii.ac.jp/books/ )
・ディープ・ライブラリー( https://dlib.jp/ )
・Googleブックス( https://books.google.co.jp/ )
・日本近代文学館( https://www.bungakukan.or.jp/ )
・日本交通公社 旅の図書館( https://jtbf-opac01.limedio.ricoh.co.jp/drupal/ )
・JTB 100年の歩み( https://www.jtbcorp.jp/jp/100th/history/ )
・鉄道博物館( https://www.railway-museum.jp/ )
・国立公文書館デジタルアーカイブ( https://www.digital.archives.go.jp/ )
ウェブサイトの最終アクセスは2021年8月30日です。
- 回答プロセス
- 事前調査事項
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「Journey set series」と記載された赤い異装本は、江戸川乱歩『一人二役』、井伏鱒二『仲秋名月』(ふくやま文学館蔵)、北條誠『ゆく雲』、岡本かの子『金魚撩乱』、福村久『隣人』、浅見淵『アルバム』、岡田三郎「虚無」(Web上で確認)の7点を確認済。他に、八木福治郎『古本便利帳』や奥村敏明『文庫パノラマ館』p.128を調査しましたが、異装本の存在に言及したものはありませんでした。
- NDC
-
- 写本.刊本.造本 (022 10版)
- 参考資料
- キーワード
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 人文(レファレンス)
- 調査種別
- 文献紹介 事実調査
- 内容種別
- 質問者区分
- 登録番号
- 1000305440