レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2019年02月07日
- 登録日時
- 2020/09/16 16:34
- 更新日時
- 2020/09/24 10:05
- 管理番号
- 企-200001
- 質問
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解決
シーア派のブワイフ朝がスンナ派のアッパース朝カリフをなぜ容認したのか。
- 回答
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以下の資料を紹介した。
・『岩波講座世界歴史 8 中世2 西アジア世界』護雅夫[ほか]著 岩波書店 1969
「2 イスラム国家の展開」(森本公誠著)の「二 王朝としてのアッバース朝」に、「ブワイフ朝がアリー家のシーア派カリフを擁立せず、アッバース家の正統派カリフを温存したのは、彼らが宗教より政治を優先させたからである。なんといってもシーア教徒は少数者であり、カリフ制の廃絶は正統派教徒による政治的・社会的な抵抗を引き起こす危険を予想させた。(略)」等の記述がある。(p.92-93)
・『思想の歴史 3 キリスト教会とイスラム』服部英次郎編 平凡社 1965
「『コーラン』に生きた思想家たち」の章の「3 イスラム思想の黄金時代」の「ブワイフ朝からセルジューク朝へ」の項に、「ここに正統派のアッバース朝とシーア派のブワイフ朝との、一種奇妙な相互依存関係が生じたが、前者は後者の政治的実力を承認せざるをえず、後者はシーア派がイスラム世界全体では少数派である現実をよく認識し、したがって両者はそれぞれの信仰に抵触しない範囲で、相互依存関係をつづけていたにすぎない。」等の記述がある。(p.230-231)
・『軍事奴隷・官僚・民衆 アッバース朝解体期のイラク社会(山川歴史モノグラフ 9)』清水和裕著 山川出版社 2005
「はじめに」の「(2)政治的変容」にブワイフ朝の成立について説明があり、「ムイッズ・アッダウラは、バグダードに入城した際、アッバース朝カリフを廃して、アリー家の人物をシーア派イマームとしてカリフ位に就けようと考えた。しかし、民衆の暴動を恐れて、その考えを放棄したといわれる。(略)ただ、民衆による支配権認知のための装置として、その存在を容認していた。」等の記述がある。(p.10)
・『カリフ制再興 未完のプロジェクト、その歴史・理念・未来』中田考著 書肆心水 2015
「3 カリフ制の歴史的変遷 王権とカリフ制の並存」の「5 バグダード・アッバース朝の実情」に、「(略)一〇世紀になると政治的実権はカリフから大将軍(アミール・ウマラ―ゥ)に移っていた。」とあり、「九四五年にはシーア派のブワイフ族がバグダードに入り大将軍の地位を得ると、カリフの地位は地に落ちた。」と述べた上で、「政治的実権の有無にかかわらず、対外的にはカリフこそが権威を有したのであり、政治的実権を欠くカリフが権威を有したのは、(略)カリフ位のイスラーム法的合法性を有したからである。」等の記述がある。(p.104-105)
・『公家と武家 その比較文明史的研究(国際シンポジウム第22集)』笠谷和比古編 (京都)国際日本文化研究センター 2004
「[Session 2]王権と儀礼」の「『王政・カリフ制・スルターン制』へのコメント」(佐藤次高著)の「3.カリフ・スルターン体制の成立」には、「946年、バグダードに入城したブワイフ家のアフマドも、同じくカリフによって大アミールに任じられ(略)、ここに軍事力をもつシーア派の君主がスンナ派のアッバース朝カリフを保護するという、奇妙な協力関係が成立することになった。」等の記述がある。(p.133)
また、続く「4.カリフ制・スルターン制とイスラーム法」には、「このようにカリフ政治の本質はイスラーム法の施行による交易(マスラハ)の実現にあり、(略)言い換えれば、イスラーム法を執行する主体であるカリフからその権限を譲渡されることによって、大アミールやスルターンの地位は正当化されたことになる。」等の記述があった。(p.134)
・『アジア歴史研究入門 第4巻 内陸アジア・西アジア』島田虔次[ほか]編 同朋舎出版 1984
「<西アジア>」の章の「Ⅴ アラブ(後期)」(佐藤次高著)の「まえがき」に、「(略)バグダードに入城したブワイフ朝(932-1062)のムイッズ・アッダウラはカリフから軍事・行政上の実権を持つ大アミールの職に任ぜられ、ここにイスラム史における軍事政権の時代が始まった。(略)ただこれらの軍事的支配者は、自らの政権をカリフによって正当化する必要があった(略)」等の記述がある。(p.555)
・『世界大百科事典 25 』平凡社 2007
「ブワイフ朝」の項目より「ブワイフ朝はシーア派の十二イマーム派に属していたが、スンナ派のカリフを保護することによってその支配の正当化を図ったので、宗教的権威としてのアッバース朝カリフと、世俗権力としてのブワイフ朝アミールの共存する二重構造が生じた。このような関係は。次のセルジューク朝にも受け継がれ、スルタンはカリフからシャリーア施行の権限を授与されて政治を行った。」という記述がある。(p.312~313)
なお、当館所蔵資料の他にインターネットで検索したところ、以下の資料がヒットしました。
京都大学学術情報リポジトリより
・「<紹介>ヒラール・サービー著 谷口淳一、清水和裕監訳 『カリフ宮廷のしきたり』」後藤敦子 2004年
https://repository.kulib.kyoto-.ac.jp/dspace/bitstream/2433/239787/1/shirin_087_1_132.pdf
「(略)11世紀頃、アッバース朝カリフ権力は衰退し、イスラーム世界には諸々の独立王朝が成立していた。その中でシーア派のブワイフ家三兄弟の末弟アフマドがバグダードに入城し、カリフより大アミールに任じられ、(略)スンナ派のカリフを擁護する代わりに支配の正当性を獲得し、軍事支配が始まった。」等の記述がある。(p.132)
慶應義塾大学学術情報リポジトリより
・「ブワイフ朝後期におけるイラクの政治変動:al-Basasiri反乱の前史によせて」森川孝典 1983年
http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=AN00100104-19830100-0069
「(略)ブワイフ朝は十二イマーム派のシーア派政権であったが、自らのイマームはこの世から姿を隠していると教義的に考えていたので、アッバース朝のカリフの存在を政治的に認め、彼を頂点とするスンニー派集団と共存していかなければならなかった。」等の記述がある。(p.72)
- 回答プロセス
- 事前調査事項
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調査済み資料
【図書】
・『ブワイフ朝の政権構造』(慶應義塾大学出版会)
【論文】
・橋爪烈.批評と紹介 ジョン・J・ドノヒュー著『イラクのブワイフ朝334H./945年から403H./1012年--未来に向けた制度の形成』 .東洋学報.2004,85(4),p565-572.
・橋爪烈.初期ブワイフ朝君主の主導権争いとアッバース朝カリフ : イマーラ、リヤーサ、ムルクの検討を中心に.史学雑誌.2003,112(2),p212-235.
- NDC
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- 世界史.文化史 (209)
- 西南アジア.中東[中近東] (227)
- 政治史.事情 (312)
- 参考資料
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[佐藤次高ほか執筆] , 佐藤, 次高(1942-) , 樺山, 紘一(1941-). イスラーム世界の発展. 岩波書店, 1999-10. (岩波講座世界歴史)
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000074-I000216824-00 , ISBN 4000108301 -
服部英次郎編 , 服部, 英次郎(1905-1986) , 北森, 嘉蔵(1916-1998) , 日下, 昭夫(1931-1994) , 嶋田, 襄平(1924-1990) , 阿南, 成一(1924-) , 山田, 晶(1922-2008). キリスト教会とイスラム. 平凡社, 1965-06. (思想の歴史)
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000074-I000354002-00 -
清水和裕 著 , 清水, 和裕. 軍事奴隷・官僚・民衆 : アッバース朝解体期のイラク社会. 山川出版社, 2005. (山川歴史モノグラフ ; 9)
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000007996408-00 , ISBN 4634674319 -
中田考 著 , 中田, 考, 1962-. カリフ制再興 = Re-establishment of the Caliphate : 未完のプロジェクト、その歴史・理念・未来. 書肆心水, 2015.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I026107103-00 , ISBN 9784906917389 -
国際シンポジウム. 公家と武家 : その比較文明史的研究. [国際日本文化研究センター], 2003. (国際シンポジウム, 第22集)
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000096-I002085783-00 -
島田虔次 [ほか]編集 , 島田, 虔次, 1917-2000. アジア歴史研究入門 第4巻 (内陸アジア・西アジア). 同朋舎出版, 1984.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001704951-00 , ISBN 4810403696
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[佐藤次高ほか執筆] , 佐藤, 次高(1942-) , 樺山, 紘一(1941-). イスラーム世界の発展. 岩波書店, 1999-10. (岩波講座世界歴史)
- キーワード
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- シーア派
- ブワイフ朝
- スンナ派
- アッパース朝
- カリフ
- イラン
- イラク
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000287242