レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2023年05月15日
- 登録日時
- 2023/10/24 18:29
- 更新日時
- 2023/11/27 14:03
- 管理番号
- 中央-1-0021679
- 質問
-
解決
犯罪被害には、被害者にも落ち度があるケースがあるように思われる(たとえば、家の鍵やドアを開けっぱなしにしていて空き巣被害にあうなど)。
理解を深めるために、こういった被害者の道徳的責任に焦点をあてた哲学や法律の本を紹介してほしい。
- 回答
-
求める内容に必ずしも沿うものではないかもしれないが、参考になりそうな資料を、インターネットで閲覧できるものも含めて、いくつかご紹介した。
●被害者学の観点から
犯罪被害者については、「被害者学」という学問領域があり、被害者の有責性について考察されている。
・『犯罪学ハンドブック』アンソニー・ウォルシュ/著 松浦直己/訳 明石書店 2017年
p77-104「被害者学」
p93-97「被害者理論」
p98-99「被害者学は“被害者を非難している”のか?」
被害者が犯罪を誘発しているのか否かということについて論じている。
・『被害者学』諸澤英道/著 成文堂 2016年
p160-184「7.被害者の役割と有責性」
p185-208「8.被害者に対する偏見」
被害者にも被害を受けた責任の一端があるかどうかという問題について、詳しく述べている。
・『被害者学入門 新版』諸沢英道/著 成文堂 1998年
第2編 被害の原因論
p170-172「同情されない被害者」
p224-225「意識・価値観・道徳観・倫理観・人生観」
●法律の観点から
刑法上での責任の考え方、量刑の考え方等が分かる資料。
・『犯罪論と法哲学』宗岡嗣郎/著 成文堂 2007年
p182-251 第4章「刑事責任の法哲学的再考察」
被害者については言及されていないが、法哲学上での責任の考え方について詳しく述べられている。
・『法哲学』小林公/著 木鐸社 2009年
第7章「行為と責任」
p369-374「3 責任の根拠と言語」
(1)agency
p370「腕が動く」「窓が開く」「部屋の気温が下がる」「他人が風邪をひく」という行動についての因果関係などについて述べられている。以下抜粋。
「上記の例において行為者の目的が気温を下げることにあったとしよう。この場合、他人が風邪をひくことは気温を下げる行為の単なる結果であり行為の目的ではないが、それにもかかわらず行為者が惹き起した出来事であることに変りはない。」
・『シリーズ刑事司法を考える 第5巻 裁判所は何を判断するか』指宿信/編集委員 木谷明/編集委員 後藤昭/編集委員 佐藤博史/編集委員 浜井浩一/編集委員 浜田寿美男/編集委員 岩波書店 2017年
p67-85 量刑の基本的考え方 原田國男
被害者の道徳的責任については記述なしだが、量刑がどのように決定されるかについての考え方が分かる。
・『量刑に関する国民と裁判官の意識についての研究 殺人罪の事案を素材として』司法研修所/編 法曹会 2007年
殺人罪の事案を素材として、一般国民と裁判官を対象に行った量刑に関するアンケートの結果をまとめたもの。
p22、p135 被害者に落ち度があった場合について、一般国民・裁判官ともに、刑を軽くする方向に影響するという意識であることが分かる。
p187「それに次いで被害者の落ち度も重視されている。「民事との差」として刑事裁判では行為者の事情のみを重視する傾向が強いと考えられてきたが、少なくとも量刑においては、被害者側の事情も重要なファクターとなっていることが示された。ただ、正当防衛、自救行為、権利行使などの違法性阻却判断においては、もともと被害者側の事情を考慮してきており、当然のことともいえよう。」
●インターネットで閲覧できる論文資料
インターネットで閲覧できる、考えのヒントになりそうな論文資料。
・白岩祐子、宮本聡介、唐沢かおり「犯罪被害者に対するネガティブな帰属ラベルの検討:被害者は「責任」を付与されるのか」『社会心理学研究』27(2)、2012年、p109-117
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssp/27/2/27_KJ00007905891/_pdf(2023.11.7最終確認)
・岡村逸郎「被害者の有責性の概念からみる犯罪被害者支援の思想基盤:被害者学における2つの議論に注目して」『社会学ジャーナル』42、2017年、p103-119
https://tsukuba.repo.nii.ac.jp/records/41045(2023.11.7最終確認)
・曹 陽, 高木 修「女性の服装は痴漢被害の原因になるか―「痴漢神話」に関する被服社会心理学的研究―」『繊維製品消費科学』46(11)、2005年、p743-747
https://www.jstage.jst.go.jp/article/senshoshi1960/46/11/46_11_743/_pdf/-char/ja(2023.11.7最終確認)
・大髙 実奈,喜入 暁,越智 啓太「制服のスカート丈は痴漢被害を予測するか」『日本心理学会大会発表論文集』79 (0), p486, 2015年
https://www.jstage.jst.go.jp/article/pacjpa/79/0/79_1EV-061/_pdf(2023.11.7最終確認)
・小山 聡子,福井 義一「いじめられる側にも責任があるって本当ですか? その20」『日本教育心理学会第64回総会発表論文集』64 (0), p331, 2022年
https://www.jstage.jst.go.jp/article/pamjaep/64/0/64_331/_pdf/-char/ja(2023.11.7最終確認)
- 回答プロセス
-
●インターネット検索「被害者 道徳的責任」
以下の論文がヒット。
・白岩祐子、宮本聡介、唐沢かおり「犯罪被害者に対するネガティブな帰属ラベルの検討:被害者は「責任」を付与されるのか」『社会心理学研究』27(2)、2012年、p109-117
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssp/27/2/27_KJ00007905891/_pdf(2023.11.7最終確認)
・岡村逸郎「被害者の有責性の概念からみる犯罪被害者支援の思想基盤:被害者学における2つの議論に注目して」『社会学ジャーナル』42、2017年、p103-119
https://tsukuba.repo.nii.ac.jp/records/41045(2023.11.7最終確認)
キーワード「被害者学」をもとに以下を取り寄せ
○『犯罪学ハンドブック』アンソニー・ウォルシュ/著 松浦直己/訳 明石書店 2017年
p77-104「被害者学」
p93-97「被害者理論」
p98-99「被害者は“被害者を批難している”のか?」
被害者が犯罪を誘発しているのか否かということについて論じられている。
△『被害者学』宮沢浩一/[著] 紀伊国屋書店 1967年
全体を通して被害者の有責論についてかなり踏み込まれて書かれている。
例えば
p78「強姦犯では加害者がもっぱら牙をといでいて、まったく責任のない被害者を襲うこともあるだろう。しかし、多くの事例においては、被害者の油断が、場合によっては被害者のあまりの無警戒さ、あるいは挑発が加害者を刺激する」
p81(強姦事件において)「被害者がさそわれるままについてゆくという一連のプロセス自体のなかに、被害者の重大な落ち度を認めざるをえないであろう。だから、最初に会った時から犯行の時までの時間的経過が長ければ長いほど、被害者の責任は大きい」
などと、かなり過激な論が展開されている。
p209「補論 被害者の特性をどのようにして調査するか」
「被害者になった人は、被害をうける以前に被害を受ける何らかの要因をすでにもっており、それにつけ込まれることによって、犯罪の遂行が容易になされたといえるのではないか」
という文章から始まっている。
出版が古い(1967年)本で、考え方がかなり今と異なり、偏りもあるようなので、紹介するのは検討を要する。
○『被害者学』諸澤英道/著 成文堂 2016年
p160-184「7.被害者の役割と有責性」
p185-208「8.被害者に対する偏見」
被害者にも被害を受けた責任の一端があるかどうかという問題について、詳しく述べている。
△『被害者学入門 新版』諸沢英道/著 成文堂 1998年
第2編 被害の原因論
p170~172「同情されない被害者」
p224~225「意識・価値観・道徳観・倫理観・人生観」
●326あたりの本を見てみる
△『犯罪論と法哲学』宗岡嗣郎/著 成文堂 2007年
p182-251 第4章「刑事責任の法哲学的再考察」
被害者については言及されていないが、法哲学上での責任の考え方について分かる
×『<市民>と刑事法 わたしとあなたのための生きた刑事法入門 第3版』内田博文/編 佐々木光明/編 日本評論社 2012年
×『刑法の道しるべ』塩見淳/著 有斐閣 2015年
×『はじめての刑法学』佐久間修/編著 小野晃正/[ほか]執筆 三省堂 2020年
×『刑法総論の考え方・楽しみ方』佐伯仁志/著 有斐閣 2013年
×『刑法理論の基礎 第3版』吉田敏雄/著 成文堂 2013年
×『その行為、本当に処罰しますか 憲法的刑事立法論序説』上田正基/著 弘文堂 2016年
×『刑事政策概論 第4版』木村裕三/共著 平田紳/共著 成文堂 2008年
×『犯罪学 7訂版』菊田幸一/著 成文堂 2009年
×『刑法がわかった 改訂第6版』船山泰範/著 法学書院 2017年
刑法の本で出てくる正当防衛や緊急避難はちょっと意味合いが違うか。
321.1(法哲学)も何冊かあたってみたが、法哲学ともちょっと違いそう。
×『法の哲学-『法の哲学』第四回講義録 1821/22年冬学期,ベルリン キール手稿-』G.W.F.ヘーゲル/著 尼寺義弘/訳 晃洋書房 2009年
×『法と世の事実とのずれ』尾高朝雄/著 書肆心水 2019年
△『法哲学』小林公/著 木鐸社 2009年
第7章「行為と責任」
p369-374「3 責任の根拠と言語」
(1)agency
p370「腕が動く」「窓が開く」「部屋の気温が下がる」「他人が風邪をひく」という行動についての因果関係などについて述べられている。以下抜粋。
「上記の例において行為者の目的が気温を下げることにあったとしよう。この場合、他人が風をひくことは気温を下げる行為の単なる結果であり行為の目的ではないが、それにもかかわらず行為者が惹き起した出来事であることに変りはない。」
●「量刑」の観点から調べてみる(被害者の落ち度が量刑に影響するのか?)
×『シリーズ刑事司法を考える 第4巻 犯罪被害者と刑事司法』指宿信/編集委員 木谷明/編集委員 後藤昭/編集委員 佐藤博史/編集委員 浜井浩一/編集委員 浜田寿美男/編集委員 岩波書店 2017年
△『シリーズ刑事司法を考える 第5巻 裁判所は何を判断するか』指宿信/編集委員 木谷明/編集委員 後藤昭/編集委員 佐藤博史/編集委員 浜井浩一/編集委員 浜田寿美男/編集委員 岩波書店 2017年
p67-85 量刑の基本的な考え方
被害者の道徳的責任については記述なしだが、量刑がどのように決定されるかについての考え方が分かる。
△『量刑に関する国民と裁判官の意識についての研究 殺人罪の事案を素材として』司法研修所/編 法曹会 2007年
殺人罪の事案を素材として、一般国民と裁判官を対象に行った量刑に関するアンケートの結果をまとめたもの。
p22、p135 被害者に落ち度があった場合について、一般国民・裁判官ともに、刑を軽くする方向に影響するという意識であることが分かる。
p187「それに次いで被害者の落ち度も重視されている。「民事との差」として刑事裁判では行為者の事情のみを重視する傾向が強いと考えられてきたが、少なくとも量刑においては、被害者側の事情も重要なファクターとなっていることが示された。ただ、正当防衛、自救行為、権利行使などの違法性阻却判断においては、もともと被害者側の事情を考慮してきており、当然のことともいえよう。」
●論文を検索
・曹 陽, 高木 修「女性の服装は痴漢被害の原因になるか―「痴漢神話」に関する被服社会心理学的研究―」『繊維製品消費科学』46(11)、2005年、p743-747
https://www.jstage.jst.go.jp/article/senshoshi1960/46/11/46_11_743/_pdf/-char/ja(2023.11.7最終確認)
痴漢被害経験のない女性はミニスカート含め女性の服装が痴漢被害の原因とはならないと認知しているが、痴漢被害経験のない男性は女性の服装が痴漢被害の原因になると認知していた。
・大髙 実奈,喜入 暁,越智 啓太「制服のスカート丈は痴漢被害を予測するか」『日本心理学会大会発表論文集』79 (0), p486, 2015年
https://www.jstage.jst.go.jp/article/pacjpa/79/0/79_1EV-061/_pdf(2023.11.7最終確認)
露出度の高い女性の服装が痴漢の原因になるという「痴漢神話」を男性が支持しているのであれば、被害を誘発するのではないかという仮説を検証した論文。
・小山 聡子,福井 義一「いじめられる側にも責任があるって本当ですか? その20」『日本教育心理学会第64回総会発表論文集』64 (0), 331, 2022年
https://www.jstage.jst.go.jp/article/pamjaep/64/0/64_331/_pdf/-char/ja(2023.11.7最終確認)
いじめ被害者側の責任割合の高低による判断理由の質的な違いについて検討したもの。先行研究として「問題と目的」欄にいくつかいじめ被害者への有責認知についての研究があげられている。
- 事前調査事項
- NDC
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- 刑法.刑事法 (326 10版)
- 参考資料
- キーワード
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- 被害者学
- 道徳的責任
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000340118