レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2022/11/6
- 登録日時
- 2023/10/08 00:30
- 更新日時
- 2023/10/08 10:23
- 管理番号
- 1550
- 質問
-
未解決
本膳料理の懸盤膳(掛盤膳)や茶懐石の懐石膳、雛人形の道具の御膳などの食器の並べ方について調べています。
それぞれの膳に食器を載せるにあたり、飯椀・汁椀・平椀・壷椀(坪椀)の四つ椀と高坏(腰高)を一つの膳に並べる場合(一汁三
菜。本膳料理では二の膳以降が付かない場合)、平碗と壷椀を置く場所はどちらが右でどちらが左になるのか、その決まりについて
参考にできるような文献はないか。
- 回答
-
1.本膳料理での平碗と壺椀の置く位置について
・『図説江戸料理事典』p379-380では、三汁七菜の場合の並べ方ではありますが、本膳は壺が左(飯と同じ側)、膾が右(汁と同じ側)としている図があり、この出典を『料理早指南』としています。
・『日本の食文化 新版』p94には、本膳料理の特徴として、「本膳と二の膳が用意され、本膳には左に飯椀、右に本汁があり、汁はみそ仕立てである。汁の向こうになます、その左に坪を配する。(中略)現代の日常食における一汁三菜のかたちは、この本膳料理が原形となり」とあります。
・『日本大百科全書 21』p762「本膳料理」の項に、「本膳は右前方にみそ汁、左前方に飯、右向こうに膾、左向こうは坪といって野菜の煮物などで、中央には香の物を置く。」とあります。
・以上のことから、本膳料理では右前方にみそ汁、左前方に飯、右向こうに膾、左向こうは坪が配置される例が多いようです。
2.茶懐石での平碗と壺椀の置く場所について
・『図説江戸料理事典』p360-361では、「会席料理」の説明ではありますが、附合が左(飯と同じ側)、膾が右(汁と同じ側)としている図があり、この出典を『料理早指南』としています。
・『日本食の文化』p48には、『料理早指南』にみる懐石料理の配置例があり、そこには「折敷に飯と汁が置かれ、汁の向こうに、膾が置かれている。後に出されることも多いもう一つの菜や香の物がすでに飯の後ろに置かれているが、順に出されるのかもしれない。」とあります。
この配置例では、左に飯椀、その後ろに附合(菜)、右に汁椀、その後ろに膾という配置となっていることが確認できます。
・『すぐわかる茶の湯の懐石道具』p10に、「まず亭主は、膳(折敷)に飯椀・汁碗といわれる四つ椀と、その向こうに皿や鉢を置く。この器を向付と呼ぶ」とあります。写真が掲載されており、左側に飯椀、右側に汁椀があり、後ろ中央に向付があります。また、後ろの右端につぼつぼが置かれています。
・『茶懐石事典』p58には、「茶懐石の順序は、まず、折敷に向付と飯、汁を正しく据えて持ち出し、飯と汁が終ったら、以下、椀盛→焼物→預鉢→箸洗→八寸→湯斗・香物の順で持ち出す」とあります。
また、p10~56にかけて茶懐石の折敷に椀の乗った写真が掲載されていますが、すべて向付と飯、汁の組み合わせでした(ただし、右後ろに汁椀の蓋または盃が載っている写真が数点あります)
・以上のことから、茶懐石での器置く場所について、懸盤に置かれたもので四つの器が並んだものは、『料理早指南』でしか見つからず、他の説明・写真からは、折敷に向付と飯と汁の三つの器が乗っている例が多いです。
3.雛人形の道具の御膳の平碗と壺椀の置く位置について
・『山内家のひな人形とひな道具』p18に、ひな人形の饗膳の道具の写真があります。この写真では、懸盤の左に飯椀と平椀、右に汁椀と壺椀という写真です。
・また、『和宮ゆかりの雛かざり』p20、『おひなさま』p15、『名家秘蔵 雛と雛道具』57図に懸盤の写真がありますが、どれがどの椀なのか、写真のみのためはっきりと判断がつきません。
・雛人形の道具の御膳の平碗と壺椀の置く位置の決まりについて書かれた資料は見つけられず、事前調査事項で調べられた通り、統一されていないという以上のことは分かりませんでした。
- 回答プロセス
- 事前調査事項
-
調査した資料
(これまでに膳椀の並べ方の例として参考にした、写真や画像の掲載されているもの)
図録・書籍
石川県輪島漆芸美術館『大名の婚礼調度』1995
石川県輪島漆芸美術館『石川県輪島漆芸美術館所蔵品図録』2005
石川県輪島漆芸美術館『漆椀の世界』2016
・『石川県輪島漆芸美術館所蔵品図録』と『漆椀の世界』の両方に掲載されている資料が複数ありますが、図録によって平碗・壷椀の配置が逆になっているものがあります。
成巽閣『御雛 ニ』1992
八代市立博物館未来の森ミュージアム『武家の婚礼』2004
彦根城博物館『ほんもの"との出会い 井伊家伝来の名宝4 茶道具と調度』2007
『日本の美術 No.277 婚礼道具』至文堂 1989
『新版 茶道大辞典』淡交社 2010
・現在の懐石では四つ椀を一つの膳に並べることはなく、飯椀・汁椀・向付を一つの膳に載せる構成となっています。
四つ椀の平椀に相当する煮物椀と、盛り付ける料理は違いますが壷椀と似た形の小吸物椀があります。
Webサイト
四つ椀
http://verdure.tyanoyu.net/kaisekikagu101.html
利休形
http://verdure.tyanoyu.net/kaisekikagu11.html
・四つ椀を備えた形の懐石道具。
第6章 和式作法 ◆第14節 本膳料理の体系
http://hac45.net/manner/6shou/14setu.html
(「作法心得」http://hac45.net/manner/ 内)
・本膳料理の膳立や食器ごとに盛り付ける料理の解説があります。
膳と四つ椀、高坏のみを並べる場合、二の膳以降のつかない一汁三菜の場合の型に最も近いと思われますが、博物館・美術館の図録等で確認できる膳椀の並べ方はこのルールと異なるものも見られました。
江戸時代の料理本
『料理献立集』https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100249888/
『料理早指南』http://codh.rois.ac.jp/pmjt/book/100249500/
・どちらも本膳料理の膳立の挿絵が入っている本です。二の膳以降が付いた構成で描かれています。両方の挿絵を比較すると本膳に載っている食器の構成はほぼ同一ですが、配置が異なっています。
Web上の資料写真
ColBase https://colbase.nich.go.jp/
・浪蒔絵膳椀具(京都国立博物館)
・吉野絵膳椀具(京都国立博物館)
・網絵懐石道具(東京国立博物館)
・竹蒔絵掛盤及椀(東京国立博物館)
・三つ葉葵紋蒔絵雛道具(東京国立博物館)
・有職雛飾り(東京国立博物館)
・吉野絵膳椀具はほぼ同一の資料写真が2枚掲載されており、膳の上に並べられた壷椀・平碗の左右の配置のみが逆になっています。
・網絵懐石道具は四つ椀が膳に載った構成です。
文化遺産オンライン https://bunka.nii.ac.jp/
・雛人形・雛道具(愛媛県歴史文化博物館)
・雛段飾り(鍋島栄子所用)(徴古館)
雛道具の掛盤膳について参考にしたwebサイト
真多呂人形 「雛人形に飾られている懸盤膳(かけばんぜん)とは?」
https://www.mataro.co.jp/column/%E9%9B%9B%E4%BA%BA%E5%BD%A2%E3%81%AB%E9%A3%BE%E3%82%89%E3%82%8C
%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E6%87%B8%E7%9B%A4%E8%86%B3%E3%81%8B
%E3%81%91%E3%81%B0%E3%82%93%E3%81%9C%E3%82%93%E3%81%A8%E3%81%AF%EF%BC%9F
人形の東玉 「こんなにたくさん!?雛人形と一緒に飾る御道具は何種類?」
https://www.tougyoku.com/hina-ningyou/column/hina-kazari/hina-ningyou-doods/
人形の森佐
「雛人形は飾り方でかわいらしさが、全然ちがいます。お客様に見せても「わ、きれい」と言われるような飾り方のポイントを解説いたします。」
https://morisa88.com/kazarikata
一般社団法人 日本人形協会
人形辞典「掛盤膳」
https://www.ningyo-kyokai.or.jp/jiten/
・現代の雛道具の飾り方を調べると、懸盤膳の向かって左奥が壷椀、右奥が平椀という配置の画像が目に付きます。しかし成巽閣『御雛 ニ』掲載の写真やColBase・文化遺産オンライン掲載の資料写真を確認すると、左右逆に並べている例があります。
懸盤膳などと同じく、四つ椀を備えている霊具膳・お食い初め膳に関するwebサイト
霊具膳
典座ネット 「お盆の準備と精進料理のお供え作法」
http://osonae.tenzo.net/H22obon.htm
セレモニー 知っておきたい葬儀の知識
「霊供膳は何を用意すればいいの?霊供膳の料理や盛り付け、宗派ごとの並べ方」
https://www.sougi.info/column/column_148
イキカタ 「霊供膳(りょうぐぜん)とは?供えるタイミングや宗派ごとの並べ方について解説」
https://ikikata.nishinippon.co.jp/term/1612/
・霊具膳については各サイトとも、椀の配置は宗派によって異なるとの解説があり、宗派ごとの並べ方の例も紹介されていました。
お食い初め膳
やさしい漆 「【保存版】初めてでも安心! お食い初めのやり方|準備や順番をご紹介」
https://www.yamada-heiando.jp/media/100th-day/
白木屋結納店&白木屋商店 「お食い初めの行ない方」
https://e-shirokiya.com/ot_mame_kui.html
Okuizome.jp 「お食い初めの食器」
https://okuizome.jp/dish/
・先の二つのサイトでは膳に向かって左奥に平椀、右奥に壷椀という配置が紹介されていました。「やさしい漆」では「宗派によって配置が異なる」旨の付記があります。
「Okuizome.jp」は解説がなく写真のみで、平椀と壷椀の配置は左右逆でした。
- NDC
-
- 衣食住の習俗 (383 9版)
- 参考資料
-
- 1 図説江戸料理事典 松下/幸子?著 柏書房 1996.4 383.81/マツ ス p380
- 2 日本の食文化 新版 江原/絢子?編著 石川/尚子?編著 アイ・ケイコーポレーション 2016.9 383.81/エハ ニ
- 3 日本大百科全書 21 小学館 1988.5 031/ニホ/21
- 4 日本食の文化 江原/絢子?編著 荒尾/美代?[ほか]著 アイ・ケイコーポレーション 2021.7 383.81/エハ ニ
- 5 すぐわかる茶の湯の懐石道具 矢部/良明?著 東京美術 2009.2 791.5/ヤヘ ス
- 6 茶懐石事典 辻/嘉一?著 柴田書店 1981 791.8/ツシ チ
- 7 山内家のひな人形とひな道具 高知県立高知城歴史博物館?編集 高知県立高知城歴史博物館 2017.2 759.087/コウ ヤ
- 8 和宮ゆかりの雛かざり 人間文化研究機構国立歴史民俗博物館?編集 人間文化研究機構国立歴史民俗博物館 2011.2 759.087/コク カ
- 9 おひなさま 愛媛県歴史文化博物館?編集 愛媛県歴史文化博物館 2008.2 759.087/エヒ オ
- 10 名家秘蔵 雛と雛道具 毎日新聞社 1979.2 386.1/メイ
- キーワード
-
- 本膳料理
- 茶懐石
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- その他
- 質問者区分
- 登録番号
- 1000339523