レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2023年01月12日
- 登録日時
- 2023/03/01 12:25
- 更新日時
- 2024/01/18 16:25
- 管理番号
- 横浜市中央2689
- 質問
-
解決
高い山では平地よりお湯の沸く温度が低くなるという。
富士山では何度で沸騰するのか。
- 回答
-
1 富士山頂の水の沸騰点
富士山頂の水の沸騰点については、児童書から一般書まで様々な書籍で言及されており、
書籍によって若干の違いはありますが、およそ86℃~88℃の範囲で記されています。
沸騰は、水を熱して生じる水蒸気の圧力が周囲の気圧と等しくなったときに起こります。
このときの気圧が「飽和水蒸気圧」ですが、これは周囲の温度(気温)によって決まりま
す。
以下、水の沸騰や飽和水蒸気圧について説明する書籍の中で、富士山頂の水の沸騰点につ
いて記述のあるものについて、いくつかご紹介します。
(1)『図解気象の大百科』二宮洸三/〔ほか〕共編 オーム社 1997.7
p.197-198「大気中の湿り気の表し方」
湿度の解説の中で、飽和水蒸気圧について言及があり、温度と飽和水蒸気圧を対照した
「水と氷の飽和水蒸気圧」表を掲載しています。沸騰についても言及しており、
「富士山頂の気圧に近い600hPaではおおよそ86℃で沸騰する。」としています。
(2)『生きて動いている「化学」がわかる』齋藤勝裕/著 ベレ出版 2013.12
p.127-131「状態図の読み方をマスターする」
ある物質がある温度・圧力の条件下でどのような状態をとるかを表したグラフ、状態図を
用いて水の沸騰についても解説しています。富士山頂の気圧を0.64気圧(640hPa)とした場合、
水の状態図から沸騰点を88℃と読み取ることができるとしています。
(3)『身近な科学のはてな』はてな委員会/編 講談社ビーシー 2009.11
p.10-13「圧力鍋で料理が早くできるわけ」
水にかかる圧力(周囲の気圧)と沸騰の関係について解説しています。富士山頂では87℃で
水が沸騰するとし、空気の薄い(気圧の低い)高地では、高温で調理するために圧力鍋を
用いることを紹介しています。
2 富士山頂の沸騰点を測る
富士山頂の気象観測が行われ始めた明治期以来、山頂に登り沸騰点を実測する試みがなされ
てきました。
(1)『気象百年史』気象庁/編集 気象庁 1975.3
p.121-122「富士山頂における気象観測」
富士山の気象観測は、シーボルト、アールコック(オールコック)、クニッピングらに始まり、
富士山の高さを求めるため、沸騰点の測定や気圧計を用いたとしています。
また、明治13(1880)年8月には東京帝国大学講師のメンデンホールが学生らとともに
富士山頂の重力測定を行い、この際沸点測定や気温の観測が行われたということですが、
測定の結果については記載されていません。
(2)『大君の都 中(岩波文庫)』オールコック/著 岩波書店 1962.9
p.146-191「転地―富士山への巡礼と熱海温泉の訪問」
上掲オールコックの来日記録です。万延元(1860)年の富士登山について記した中で、
山頂での調査の結果として「水は華氏一八四度(摂氏換算で84.44℃)で沸騰した」
としています(p.189)。
国立国会図書館デジタルコレクション(https://dl.ndl.go.jp/pid/2987885)
こちらは国立国会図書館内限定での公開資料です。
(3)『富士の研究 5 富士の地理と地質』浅間神社社務所/編 古今書院 1928.9
p.263「山頂の沸騰点」
富士山頂の水の沸騰点を実測した結果として、「藤沢博士が明治十三年八月、山頂で、
三日と五日とに十回ばかり観測した結果に依れば、沸騰点は平均華氏一六二・四四度
で、摂氏では七二・四度である。」と紹介しています。
国立国会図書館デジタルコレクション(https://dl.ndl.go.jp/pid/1178186)
こちらは国立国会図書館/図書館送信参加館・個人送信限定での公開資料です。
(4)『富士山大観』小島烏水/補修 如山堂書店 1907.8
p.289-292「科学上より見たる富士の諸現象」
「医科大学衛生学教室医学博士佐々木秀一氏」が「明治三十九年八月(1906年8月)」に
富士登山を行った結果から、水の沸騰点について、「氏が実験に依れば三合目及び
馬返しにては鉄瓶中に煮沸せるもの温度九六・〇を示し六合目にては人工的に酒精灯を
以て煮沸せしめしもの同九一・〇、八合目にては釜中に盛に煮沸せしもの
其最高温度八九・五を表はせり」と記しています。
3 富士山頂の水の沸騰点を求める
ある温度下での飽和水蒸気圧(水の沸騰点)を求める計算式について紹介します。
(1)『図表で学ぶ化学』大城芳樹/著 化学同人 1999.9
p.28-31「熱的性質」
コラム「クラペイロン-クラウジウスの式」で、クラペイロン・クラウジウスの式を紹介
しています。富士山頂で水が沸騰する温度について、山頂の気圧を660hPaとし、ほか必要な
値を同式に代入、沸騰点361.2K=88.2℃を導き出しています。
(2)「JIS Z8806-2001 湿度-測定方法」日本工業標準調査会/審議 日本規格協会
JIS(日本工業規格)では湿度の測定法を定めていますが、Sonntagの式を採用し、必要な
飽和水蒸気圧表を掲載しています。
p.21-26「水の飽和蒸気圧」
0.0℃~150.9℃まで0.1℃、150℃~臨界点373.946℃まで1℃刻みで飽和水蒸気圧の値を
まとめた表です。
(3)『日本機械学会蒸気表 1999』日本機械学会 1999.11
p.29「水および水蒸気の熱物性:飽和表(温度基準)・飽和表(圧力基準)」
水蒸気圧を実用国際状態式(IF97:国際水・蒸気性質協会(IAPWS)が1997年に定めた状態式)を
用い計算し、温度別(1℃単位)・圧力別に表(P.29-38)を掲載しています。
(4)『気象学ハンドブック』気象学ハンドブック編集委員会/編 技報堂 1959
p.1152-1156「気象常用表:水上の飽和水蒸気圧を求める表」
-50℃~102℃の飽和水蒸気圧を0.1℃単位で対照しています(出典:Smithsonian(1951))。
(5)『気象常用表 9版』大日本気象学会/編 大日本気象学会 1927
p.B.21-23「第十表 水蒸気最大張力表」
H.V.Regnaultの実測に基づくBrochの式による温度-飽和水蒸気圧対照表です。
-29.0℃~100.9℃まで0.1℃刻みで対応する飽和水蒸気圧の値(単位:mmHg)を掲載しています。
国立国会図書館デジタルコレクション(https://dl.ndl.go.jp/pid/1118591)
その他、下記の資料にも記載があります。
(6)『化学便覧 基礎編 改訂6版』日本化学会/編 丸善出版 2021.1
p.715-719「単体と無機化合物の蒸気圧」
(7)『理科年表 第96冊(令和5年)』国立天文台/編 丸善出版 2022.11
p.396「飽和状態における水および水蒸気の密度」
URL最終確認:2023/12/25
- 回答プロセス
- 事前調査事項
- NDC
-
- 熱学 (426 8版)
- 気象学 (451 8版)
- 地形学 (454 8版)
- 参考資料
- キーワード
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 事実調査
- 内容種別
- 質問者区分
- 登録番号
- 1000329477