レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2012年10月12日
- 登録日時
- 2012/10/12 14:39
- 更新日時
- 2024/03/19 11:40
- 管理番号
- 福井県図-20121012
- 質問
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未解決
「憂きことのなほこの上に積もれかし限りある身の力ためさん」という歌がある。この歌を詠んだのは誰か、またその意味を知りたい。
- 回答
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【歌を詠んだ人について】
『蕃山全集』第七冊に該当の歌が掲載されているため、熊沢蕃山説には根拠がある、と言えそうです。山中鹿介説を裏付ける資料は発見できませんでした。
該当歌が掲載されていた本
『増訂 蕃山全集』第七冊 谷口澄夫・宮崎道生/編 1980.5 名著出版 (請求記号:121/K5/1-7 資料コード:1011372412)
井上赳「国定読本教材となった幸盛公」(『山中鹿介』谷口廻瀾/編著 1937.5 モナス 所収)には、山中鹿介の生き方を評して、熊沢蕃山の歌の体現だとする文章がありました。
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(前略)其の血みどろな一生に遺憾なく発揮し得た公に至っては、殆ど古今独歩、他に比肩する者がないのである。これこそ、
熊沢蕃山の歌
うきことの尚この上に積れかし限ある身の力ためさん
の実践的体現でなく何であらう。
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【歌の意味について】
解説している資料を見つけることはできなかったため、それぞれの単語から意味をつないでみるしか方法はなさそうです。
- 回答プロセス
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1.「熊沢蕃山」をキーワードに当館所蔵資料を検索→『蕃山全集』を所蔵。
『増訂 蕃山全集』第七冊 谷口澄夫・宮崎道生/編 1980.5 名著出版 (請求記号:121/K5/1-7 資料コード:1011372412)
p.161 補遺(五)山田貞芳「蕃山の歌」所載
(引用)
うきことのなほ此上につもれかし かぎりある身の力ためさん(註-『朝顔日記』には「かぎりある身の心ためさん」と見えている)
(引用終わり)
凡例によると、山田貞芳「蕃山の歌」は、高見章夫『山田貞芳集』(吉備文庫 七、山陽新報社 昭和7)所収。
2.「朝顔日記 熊沢蕃山」をキーワードにNDLサーチで検索→7件ヒット。うち1件は近代デジタルライブラリーで一般公開されている。(『朝顔日記』講談倶楽部/編 日吉堂 明治44.8 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/889385 )→熊沢蕃山の生涯を講談にしたもの。歌が載っているかどうかは確認できなかった。
3.新渡戸稲造の『武士道』に情報があるとのことなので、『武士道』をあたる。
(ア)原文『新渡戸稲造全集』第12巻 1969.9 教文館 (請求記号:081/N8/1-12 資料コード:1010455929)p.98に該当の箇所があるが、山中鹿之助、熊沢蕃山ともに名前が挙がっているわけではない。
(イ)矢内原忠雄・訳『武士道』岩波文庫 ISBN:4-00-331181-7(請求記号:156/ニトヘ 資料コード:1015020389)→p.115に該当の歌あり。山中鹿之助、熊沢蕃山ともに名前は出てこない。
(ウ)斎藤孝・訳責任編集『武士道』2010.5 イースト・プレス ISBN:978-4-7816-0393-3(請求記号:156/ニトヘ 資料コード:1015598541)p.167
(引用)
この武士〔熊沢蕃山〕は、死ぬのは腰抜けのすることだと考える。そして、キリスト教の殉教者に近い気骨で、次のような歌を詠み、自らを励ました。
(引用終わり)の次に該当歌が書かれている。しかし、歌の注p.255には、「この歌は、山中鹿之助幸盛作とされる」と書かれている。
(エ)山本博文=訳・解説『現代語訳武士道』2010.8 筑摩書房 ISBN:978-4-480-06565-0(請求記号:156/ニトヘ 資料コード:1015626904)p.136 「ある典型的な武士〔山中鹿之助〕」
(オ)岬龍一郎/訳『武士道』2003.9 PHP研究所 ISBN:4-569-63041-3(請求記号:156/ニトヘ 資料コード:1014257263)p.122「一人の典型的な武士(山中鹿之助)」
4.山中鹿之助の方からアプローチ。
(ア)自館OPACで「やまなかしかのすけ」を検索→小説・講談以外の本は2冊のみ。
・海音寺潮五郎「山中鹿之介」(『日本史探訪』第十集 p.57- 1974.5 角川書店 請求記号:210/N8/10 資料コード:1010873766)→該当歌についての記載なし。
・児童書『山中鹿之助』筑波常治・作 (堂々日本人物史) 1999.3 国土社 ISBN:4-337-21002-4→該当歌は出てこない。
(イ)小説も読んでみた
・池波正太郎『英雄にっぽん』初版1975.2 改版初版 2007.5 ISBN:978-4-04-132336-6(請求記号:913.6/イケナ 資料コード:1015007816)
→ 本文に該当歌は出てこない。解説に該当歌あり。(解説:尾崎秀樹)
(ウ)NDLサーチで著者「山中鹿之助」「山中幸盛」を検索→著作はなさそう。
(エ)NDLサーチで件名「山中鹿之助」分類「289」を検索→16件ヒット。県内には『山中鹿介のすべて』米原正義・編 1989 新人物往来社(福井市立・敦賀市立所蔵)のみあり。
(オ)NDLサーチで「山中鹿之助」を検索した結果、講談本が多いということはわかった。
5.4.で確認した『日本史探訪』に、昭和12年版「小学国語読本」巻九 第十六 三日月の影 からの引用があったため、『日本教科書大系』で本文を確認→該当歌は出てこない。
6.石川県立図書館所蔵『山中鹿介』谷口廻瀾/編著 1937.5 モナス
(ア)井上赳「国定読本教材となった幸盛公」に、熊沢蕃山の歌として該当歌が出てくる。
(イ)飯田胡春「阿井渡(琵琶歌)」の中に「憂きことのなほこの上に積れかし限りある身のちからためさん かくなん祈れる英雄も 力あまりて運淡く・・・」と出てくる。
7.福井市立図書館所蔵『山中鹿介のすべて』 米原正義/編 1989.10 新人物往来社 ISBN:4-404-01648-4
p.149に、板垣退助が、山中鹿之介の述懐に「憂きことの~」の歌があると明治26(1893)年12月に言ったことが紹介され、そのあとに次のような文章がある。
------引用------
文中の「憂きことの・・・」の一首(飯田胡春の琵琶歌「阿井渡」<谷口『山中鹿介』>にもみえる)は、鹿介の気持をあらわした和歌として真実味があるが、やはり誤りで、陽明学者・熊沢蕃山(元禄四年<1691>没)の作と考えられている。いや蕃山でなくては詠めないといわれる(『増訂蕃山全集』の監修者で前国学院大学教授・宮崎道生氏談)。下句「限りある身の力ためさん」の「力」を「心」とする人もあるようだが、やはり「力」であろう。
------引用終わり-------
(2024/3/19追記)
国立国会図書館デジタルコレクションで歌全文を入力して検索してヒットしたうち、当館で内容を確認できたのは下記のとおり。
『井上博士新編中学修身書備考』p77(41コマ目)https://dl.ndl.go.jp/pid/942739/1/41に熊沢蕃山の歌として掲載
『人づくりと教養』高木義雄/著 圭文社出版部 1963年 p228 山崎闇斎の歌として掲載(送信サービス登録者限定)
『風雲の月山城:尼子経久』米原正義/著 人物往来社 1967年 p278 山中鹿介の歌として掲載(送信サービス登録者限定)
- 事前調査事項
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1.「三省堂名歌名句辞典」などでこの句を調べるが該当なし
2.ネットでこの句を調べたら熊沢蕃山または山中鹿之助がこの句を詠じたとの情報あり。
3.「レファレンス協同データベース」で「熊沢蕃山」で検索をかけたらこの句が高瀬武次郎 『熊沢蕃山先生和歌』 皇教会 1943年に掲載があるとの情報有り(岡山県立図書館回答 https://crd.ndl.go.jp/GENERAL/servlet/detail.reference?id=1000021026 )この資料は県内に所蔵なし。
4.「名言名句の辞典」三省堂編修所∥編 新装版で熊沢蕃山の句を調べたが掲載なし。
5.熊沢蕃山の資料
・「熊沢蕃山言行録」本田/無外∥編著 内外出版協会 1908
・「日本の名著 11」中央公論社 1976
・「日本思想大系 30」岩波書店 1971
などを調べるが見当たらなかった。
6.ネットで「武士道」新渡戸 稲造∥著 筑摩書房 2010.8にこの句が出てくるとの情報有り。
・p137 1行目にこの句が掲載されていたが書かれている内容を読むと、山中鹿之助の歌であることが記載されていた。
- NDC
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- 個人伝記 (289 8版)
- 詩歌 (911 8版)
- 参考資料
- キーワード
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- 熊沢蕃山
- 山中鹿之助
- 山中鹿介幸盛
- 照会先
- 寄与者
- 備考
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関連事例:熊沢蕃山の歌「うきことの なおこの上に つもれかし 限りある身の 力をためさん」の意味か説明がのっている資料がみたい。(岡山県立図書館)
https://crd.ndl.go.jp/GENERAL/servlet/detail.reference?id=1000021026
- 調査種別
- 事実調査
- 内容種別
- 質問者区分
- 図書館
- 登録番号
- 1000112366