レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2023年05月02日
- 登録日時
- 2023/12/10 13:04
- 更新日時
- 2024/03/12 16:13
- 管理番号
- 中2023-010
- 質問
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解決
『源氏物語』第二十四帖の「胡蝶」に「恋の山には孔子の倒れ」とあり、この場合「孔子」は「クジ」と呉音で読む。「孔子」が「クジ」(呉音)から「コウシ」(漢音)へと読み方を変えたのはいつか。明治時代か。
- 回答
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「漢音」が奨励され使われ始めたのは平安前期。資料①②
明治時代になると、漢音と呉音がどちらか一方に統合される傾向が見られ、呉音から漢音へ交替する現象が多かった。資料③④⑤
「孔子の倒れ」については、漢音に切り替わったわけではなく、呉音「クジ」読みも辞典類に記載がある。資料⑥⑦
用例にあげられていたもののフリガナを書籍で確認すると、資料によって違っており、あいまいであった。資料⑪⑫
- 回答プロセス
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(以下、紙媒体資料については丸数字、その他の情報については丸括弧付き数字を表記する。)
1 自館資料調査
書架をブラウジング。
《呉音・漢音について》
①『漢字百科大事典』佐藤喜代治/[ほか]編 明治書院 1996
p.50「呉音」「漢音」の項
「奈良平安時代交代の候」
p.51「正音」(漢音)
「奈良・平安時代交代の候に、政令によって漢音の学習が奨励されるが~」
②『講座近代日本と漢学 第7巻 漢学と日本語』戒光祥出版 2020
p.135「延暦11年(792)には朝廷から大学寮に対して「漢音奨励」の勅が出され~」
③『国語学大辞典』国語学会/編 東京堂出版 1980
p.863(三段目)「しかし、明治五年(1872)学制が敷かれ~」
④『国語学研究事典』佐藤喜代治/編 明治書院 1982
p.231(一段目)「しかし明治五年、学制が布かれ~」
途中まで資料③と全く同じ記述だが、例が少し載っている。
⑤『漢字と日本人』高島俊男/著 文藝春秋 2001
p.62「平安時代はじめに呉音が排斥されて漢音がとってかわったと言ったが、それとおなじことが明治のはじめごろにあった。」
《「孔子倒れ」について》
⑥『故事俗信ことわざ大事典 第二版』北村孝一/監修 小学館 2012
どちらの読みも掲載あり
p.427 くじ「孔子(くじ)の倒(たお)れ」
→ 源氏(1001~14頃)胡蝶
今昔(1120頃か)一〇・一五
「此を、世の人、孔子倒(たふ)れし給ふと云う也となむ語り伝へたるとや」
名語記(1275)一〇
p.501 こうし「孔子(こうし)倒(だお)れ」
→ 宇治拾遺(1221頃)一五・一二
「~これを世の人『こうじだうれす』といふなり」
※「宇治拾遺」について→資料⑦⑩で「孔子」は漢字表記であり、仮名で書かれているのは資料⑥しか見つけられなかった。底本の違いかと思われたが、資料⑥は、採集した書名として資料⑦『諺語大辞典』(1910)を挙げている。
※「今昔」と「宇治拾遺」は同内容の説話と思われるが、用例として異なる項目に掲載されている。
⑦『諺語大辞典』藤井乙男/編 日本図書センター 1979(明治43年刊の復刻)
p.329「孔子(クジ)ノ倒れ」
義経記五(南北朝時代~室町時代) 漢字表記
源氏「胡蝶」 かな表記
莵玖波集 十九(1356) かな表記
p.386「孔子(こうし)倒(たふ)れ」
宇治拾遺 漢字表記
《原文調査》
源氏物語は「仮名文字」なので、読みは「クジ」と確認できる
⑧『続群書類従 第18輯 下 物語部・日記部・紀行部』塙保己一/編纂 1980
→ 千五十六 源氏和秘抄 こてう
くしのたふれまねびつべき
今昔物語・宇治拾遺物語はどちらも漢字表記
⑨『国史大系 新訂増補 第16巻 今昔物語集』黒坂勝美/編纂 吉川弘文館 1998
p.461「此レヲ世ノ人孔子倒レシ給フト云フ也~」
⑩『国史大系 第18巻 宇治拾遺物語』黒坂勝美/編纂 吉川弘文館 2000
p.290「これを世の人孔子たうれずといふなり」
「こうし」(漢音)の用例に出てくる「宇治拾遺」について
事典類では、「コウシダオレ」の用例に記載されていたが、資料によってどちらのフリガナもあり。
⑪『日本古典文学全集 28 宇治拾遺物語』小学館 1977
p.509「孔子(こうし)倒(だふ)れす」といふなり フリガナは「コウシ」
⑫『宇治拾遺物語 下 日本古典選』野村八良/校註 朝日新聞社 1977
p.202「孔子(くじ)倒(だふ)れす。」と云ふなり フリガナは「クジ」
- 事前調査事項
- NDC
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- 音声.音韻.文字 (811)
- 参考資料
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佐藤喜代治 [ほか]編著. 漢字百科大事典. 明治書院, 1996.
https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002480013 , ISBN 4-625-40064-3 -
佐藤進, 小方伴子 編. 漢学と日本語. 戎光祥出版, 2020. (講座近代日本と漢学 ; 第7巻)
https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I030336410 , ISBN 978-4-86403-347-3 -
国語学会 編. 国語学大辞典. 東京堂出版, 1980.
https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001476565 -
佐藤喜代治 編. 国語学研究事典. 明治書院, 1982.
https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000001-I30111100130885 -
高島俊男 著. 漢字と日本人. 文藝春秋, 2001. (文春新書)
https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000003034273 , ISBN 4-16-660198-9 -
佐竹秀雄, 武田勝昭, 伊藤高雄 編 , 北村孝一 監修. 故事俗信ことわざ大辞典 第2版. 小学館, 2012.
https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I023386278 , ISBN 978-4-09-501102-8 -
藤井乙男 編. 諺語大辞典. 日本図書センター, 1979.
https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001437205 -
黒板勝美 編. 今昔物語集 本朝 新装版. 吉川弘文館, 1999. (國史大系 : 新訂増補 ; 第17巻)
https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002807999 , ISBN 4-642-00318-5 -
黒板勝美 編輯 , [源顕兼] [撰] , 黒板勝美 編輯 , 黒板勝美 編. 宇治拾遺物語 新装版. 吉川弘文館, 2000. (國史大系 : 新訂増補 ; 第18巻)
https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000003656508 , ISBN 4-642-00319-3 -
日本古典文学全集 28. 小学館, 1977.
https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000001-I16111008912008633 -
野村八良校注. 宇治拾遺物語. 朝日新聞社, 1977.
https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000136-I1130000794319250304
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佐藤喜代治 [ほか]編著. 漢字百科大事典. 明治書院, 1996.
- キーワード
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 事実調査
- 内容種別
- 言葉
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000343247